兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 循環器科
院長ブログ

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フィラリア予防失敗例 予防薬は決められた量を決められた回数と間隔で

先日来院された日本犬雑の女の子のことですが。

フィラリア予防開始の案内ハガキを送りましたので。フィラリアの感染の有無の検査を希望されました。
予防薬は、投与間隔が2ヶ月までは空いてはいないけれども。1ヶ月丁度にはやれていないので。残っていって。
結局ワンシーズン分残っているので。今回は処方を希望されませんでした。

それで、血液を少量採取して感染検出キットで検査してみたところ。

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画像上のパネルは、検査結果の解釈を図示した飼い主様説明用のものでして。本犬の検査キットは下の小さな日付を記載したものです。

キットの中央付近に2本縦に線が見えますが。Cの位置のはっきりした線は、この検査が正常に行われていることを示す線でして。Tの位置に見えているぼんやりとした線が、フィラリア感染していることを証明するエビデンスであります。

この子は、残念ながら昨年にフィラリアに感染していて。

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心臓の右心室から肺動脈にかけて、上の画像のボトルの中に見えるようなフィラリアの成虫が寄生しているのです。

幸い、まだ無症状ではありますが。今までと同じような中途半端な予防法を続けていると、徐々に寄生数が増えて行って慢性フィラリア症を発症して苦しむようになるでしょうし。何らかの原因で肺動脈や右心室に居たフィラリア虫が右心房や大静脈洞という部分に移動すると、急性フィラリア症を発症して1週間から2週間くらいでひどく苦しみながら死んでしまうこともあります。

飼い主様には、その旨説明を致しまして。今後はフィラリア予防については私の指示の通りにしていただくようお願いしました。

なお、いったん感染したフィラリアについては、それを駆除するのは。砒素剤を使用したり。ある種の抗生物質を併用すれば出来ますが。砒素剤は非常に危険を伴いますし。抗生物質の併用も現在犬がフィラリア症で苦しんでいるのでなければ、費用対効果の点でどうなんだろう?という感もありますし。。

この子の場合、今現在はフィラリア寄生による症状は全くありませんから。心臓の中の成虫については、そおっとしておいて。新しい虫が増えないように予防を徹底することで対応するようにします。

なお。心臓にフィラリアが寄生している状態で、漫然と予防薬を投与しますと、ショックを起こしたりして危険ですから。ショックを予防するお薬と組み合わせて与えることになります。

フィラリア予防薬については、当地方では5月末から12月末まで月に1回予防薬を投与するということは大体の皆さんには周知出来ていると思いますが。きちんと実施していないとこの子のように辛い結果に終わってしまう可能性がありますので。薬は指示の通りにきちんと与えていただきたいと思います。

 

僧帽弁閉鎖不全症(あるいは僧帽弁逆流症)の治療のさじ加減

12才2ケ月になる、まるで日本スピッツかと錯覚するような美しいポメラニアンの男の子の話しですが。

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約1年前に、咳をするようになって、近医で「心臓の音が良くないね。」と言われて。 心臓のお薬を処方されたのですが。 服用開始から3日目で妙に元気が無くなったので、服用を中止したそうです。

その後、微妙に咳が続いていたらしいですが。 3週間前から急に咳がひどくなって来たので。 再度同じ近医を受診して。 お薬を2種類処方されたのですが。 全然改善しないので。 当院にかかっておられる犬友さんの紹介により、 グリーンピース動物病院を受診して来たとのことであります。

処方されたお薬を見せてもらうと、 ひとつはACE阻害剤という種類のお薬で。 もうひとつは多分ステロイドホルモンらしいです。

胸部聴診を行なってみると、全収縮期心雑音が、 ニューヨーク心臓病協会の基準で言うと6段階中3段階くらいの強度で聴取されます。 不整脈までは発生してはいません。

詳しく訊いてみると。 今までの診察では胸部エックス線検査も心エコー図検査もしていないということです。

若い頃に心雑音が無かった子で。 ある程度年齢が来て、 心雑音が聴こえるようになった場合。 80%から90%の確率で僧帽弁閉鎖不全症ですから。 その先生の診察方法もあながち間違いというわけではありませんが。

やはり、残る10%から20%の他の心臓病の可能性を探ることも大切かと思いますし。 エックス線検査や心エコー図検査を実施すれば、 他の病気との鑑別や重症度の判定も出来ますので。 それなりに意味あることと思ってやっています。

まず、胸部エックス線検査を行なってみます。

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画像のオレンジの矢印の先は左心房領域なのですが。 かなり膨れていて、専門用語で言う後方心ウェストの消失という状態です。
黒い矢印の先周辺は、 肺の後葉でして。 これくらい白っぽいということは、 肺炎か、肺水腫のどちらかという印象ですね。

一応体温測定もしましたが。 直腸温で38.8℃で、平熱でしたので。 肺炎は除外して考えることにします。

次に心エコー図検査を実施しました。

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犬の身体の左下からエコーのプローブを当てて撮影してみると。本来は薄く見えるはずの僧帽弁(赤の矢印の先)が妙に膨らんで見えます。 これは弁の粘液変性と言う病的な変化で、心臓弁膜症に特有の病変です。
この図でも僧帽弁の下に見える左心房が拡張している感がありますが。

次に大動脈と左心房の大きさの比率を測定してみます。

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点々の線が2本見えますが。 上の短い破線の部分が大動脈の断面で。 下の長い破線も部分が左心房です。
この二つの大きさの比率は、正常な犬では1対1もしくは1対1.5くらいなのですが。 この子は1対1.8という状態で。 左心房が大きくなっているということが判りました。

次に、心臓の収縮率を測定してみます。

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心臓の輪切りの画像ですが。 左が拡張した時。 右が収縮した時の画像です。
これを計測してみると、下の表のFSというのが心収縮率ですが。 31.3%というのは心臓の収縮率としては問題ない数字です。
これで、心臓の筋肉には問題は無いと判断しました。

最後に、胸壁の左下からプローブを当てて、心臓の4腔断面を書いてみます。

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4つ見える黒い空間が、左心房左心室(右側に見えます。)と右心房右心室(左側にみえます)で。矢印の部分が僧帽弁で。 やはり先が膨れていて粘液変性を生じているのが判ります。

ここで、カラードップラーを当ててみます。

カラードップラーとは、物理のドップラー効果(どんな現象かは検索して調べてみて下さい)を応用した撮影方法です。

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台形の下の色が付いている部分で、赤や黄色や緑の色がモザイク状に混ざって見えるところでは血流が乱れて渦状になっているということでして。 青一色との境界が僧帽弁ですから。 心室が収縮した時に弁が閉じ切れなくて、血液が逆流していることを現わしているのです。
この逆流は、あってはならない現象であります。

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右心房と右心室を隔てている三尖弁にもドップラーを当ててみましましたが。 逆流はあるものの、ごくわずかです。

以上で検査は総て終了です。 心電図は聴診で不整脈とかは無かったので、今回は省略しました。

以上の結果を総合的に判断すると。 近医さんの診断は当たっていたあものの、重症度の判定に関しては今ひとつだったようです。

この症例に対して私が行なった処方は、 近医さんで処方されたACE阻害剤は継続して使用すること。 心筋の収縮力増大と全身の血圧を低下させるという一見相反する作用のあるお薬に、肺胞に溜まった水を抜く利尿剤、 更に一応細菌の2次感染を防ぐ抗生物質を組み合わせるということでした。

これを2日間試してみて。 症状改善があるかどうか?2日後に判定します。

2日後に来院したポメちゃんは、呼吸状態非常に良くなってまして。 飼い主様もびっくりされてました。

一応肺水腫の状態がどうなっているのか?胸部エックス線検査は実施しました。

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黒い矢印の先の後葉の白さはかなり黒っぽく変化してまして。 水が抜けていることが判ります。
オレンジの矢印の先の左心房の拡張も幾分改善していると見て取れます。

緊急状態は一応脱したと判断しましたので。 利尿剤の投与回数を1日2回から1回に減らして。 次の1週間分を処方しました。

来週調子が良ければ、利尿剤と抗生物質はいったん休薬して。 ACE阻害剤と、心筋収縮アップと全身血圧低下を狙ったお薬の2種類は当分継続するという形で治療を続けて行く予定です。

今後、治療を続けて行く間に、病気はそれなりに進行はして行きますが。 治療をするのとしないのとでは、進行速度には大きな差があると思います。

飼い主様には、100数十万円以上はかかるけれども。 弁の再建手術を行なえば根本治療となるので。 希望されるならば手術の出来る動物病院を紹介させてもらうとお伝えしましたが。 年齢から考えてもコスパには相当無理があることもあって。 手術の道は選択されませんでしたので。
これからは、 私が内科的にこの子の心臓弁膜症を管理して行くことになると思います。

心臓弁膜症の内科的療法は、その犬が老衰とかの他の原因で亡くなった時に、結果として心臓で苦しまなかったということが、 治療の成功ということになると考えています。 これから永いお付き合いになることと思いますが。 頑張って治療して行くつもりであります。

幸せに長生き出来ますように祈っています。

ではまた。

 

犬の急性フィラリア症の心エコー図動画

先日フィラリア吊り出し術を行なった、犬の急性フィラリア症の、術前と術後の心エコー図動画をアップしてみます。

YouTube Preview Image

画面左下側に白い点々のような塊りがゾロゾロ動いているのが、右心房に居るフィラリア虫です。

それで。手術を行なってフィラリアを除去した後の動画を次にアップしてみます。

YouTube Preview Image

画面左下付近の汚いゾロゾロが消失しているのが判るでしょうか?体重3.8キロの小さな犬でしたが。採取されたフィラリア虫は19匹いました。

 

 

 

 

 

急性フィラリア症の手術

昨日夕方に電話がありまして。

「大阪からですが。今かかっている動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。そちらで手術が出来ますか?」

という内容でした。

手術は出来ることと一応の予算とかお伝えしますと。そこの動物病院では手術は出来ないのだが。紹介先の手術料金が私のと比較すると4倍近くになるということで。「明日行かせていただきます。」ということでした。

飼い主様のお仕事の都合で、本日昼前に来院でしたが。

まず、心音を聴取してみますと。ガリガリガリッという急性フィラリア症特有の心雑音が聴こえます。
次に急性フィラリア症という診断が正しいのかどうか?を判定すべく、決め手になる心エコー図検査で確認します。


図の左下に→で示しているのが、右心房に存在しているフィラリア虫体です。慢性フィラリア症ではこの部分ではなくて、肺動脈にフィラリアが見えるはずなのですが。右心房に虫が見えることから、急性フィラリア症という診断で間違いないです。


わんちゃんは、診断からまだ日が浅いこともあってか。まだ元気です。しかし、大切にされている感じなのに。一体どうしてフィラリアのような、ある意味レベルの低い感染症に罹ってしまったのでしょうか?

お尋ねしてみると。予防はやっていたのだが。予防薬の服用期間が6月初めから10月初めまでと。ひどく短くて不適当であったということ。それも、今回急性フィラリア症であると診断された動物病院とは別の動物病院の指示による服用期間だったということでした。

フィラリア予防薬は、一般的な内服薬の場合、5月末から12月末まで、月に1回ずつ、合計8回の内服が必要なのです。

それと、私の動物病院に受診する気になられたのは、必ずしも料金だけの問題だけではなくって、グリーンピース動物病院のHPや私のブログをお読みになって、きちんと治してくれそうだという感触を強く感じられたからだということでした。

手術についてひと通り説明させていただき。同意を得たので。血液検査を実施して。待ち時間の間に昼食を摂らせてもらって。午後1時20分くらいから手術にかかりました。

血液検査の結果では。血管内溶血のためでしょう。軽い貧血と高ビリルビン血症、軽い肝障害が生じています。

後3日か4日放置されると、もっとすごいことになって行くと思われます。

麻酔導入を基本通りやって、午後1時50分くらいから切皮を始めました。

今日は助手無しでやります。基本的にフィラリアの吊り出し術は、アリゲーター鉗子の操作を丁寧にやれば、そんなに難しい手術ではありません。
ただ、ちょっとしたコツがありますけれども。それを身に付ければ1人で十分に遂行可能です。

左頸静脈を露出して、周囲組織と丁寧に分離します。

アリゲーター鉗子を頸静脈に開けた穴から心臓にまで挿入して、手探りでフィラリア虫体をつまみ出します。

画像ではごっそり引き出されているのがお判りになると思います。

最初の頃は鉗子を入れる度に虫が何匹もつまみ出されて来まして。そのうちに摘出される虫の数が減っていって。
最後の頃は、4回、5回と探ってみて虫が取れなくなったので。心音を確認し、心雑音が消失しているので、虫は取り切ったと判断して血管、皮下織、皮膚の順に縫合して、手術を終了しました。

取れたフィラリア虫は19匹でした。体重3.8キロの小さな犬なのに。19匹とは大変な数だと思います。

覆い布を取り除いて、傷に創傷保護フィルムを貼って。覚醒を待ちます。

覚醒間近になったところで、飼い主様に撫でながら声をかけてもらいます。

無事に覚醒して。入院室に入ってもらいますが。不安そうに鳴いたりしますので。落ち着くまで飼い主様に抱っこしてもらいました。

落ち着いた頃に。心エコー図検査を実施して。フィラリア虫が完全に取り切れているのか?確認します。

完璧に取り除かれています。執刀した獣医師としては、ホッとすると同時に嬉しく感じる瞬間です。

わんちゃんは数日お預かりして、術後の急変が無いかどうか確認して。金曜日くらいに退院の予定であることをお伝えしました。

先日ははるばる千葉から同じ病気で来院されましたのに。診断から日が経ち過ぎていて手術前に亡くなってしまいましたが。今日の子は無事に手術を乗り切ることが出来ました。

とても嬉しいです。後は入院期間を回復順調に過ぎて無事に退院出来るよう、もうひと頑張りです。

 

 

 

急性フィラリア症(大静脈洞症候群)

昨日、電話がありまして。

「1週間前に近くの動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。状態が悪くて手術が出来ないと言われまして。お薬をやっているんですが。手術をしてもらえるんですか?」

という内容でした。

急性フィラリア症は、大静脈洞症候群といいまして。通常は右心室から肺動脈に寄生している犬フィラリア虫が、右心房から大静脈洞に移動することにより、急速に心不全状態が進行して。呼吸困難、運動不耐症、血色素尿などの厳しい症状が生じ、手術でフィラリア虫体を摘出しないと、多くは1週間から2週間で死亡してしまうという怖ろしい病気です。

私が思うには、急性フィラリア症にかかった犬の状態が悪いのは当たり前のことでして。
如何に状態が悪くとも診断がついた時点で急いで手術を行なわなければ。今悪い状態が、明日はもっと悪くなり、明後日はさらに悪くなり。手をこまねいている間に手術の成功率はどんどん悪くなってしまうのです。

ですから、どんなに状態が悪くても、急性フィラリア症と診断がついた時点で、最悪術中に死亡する確率は30%くらいはあることを飼い主様に了承してもらった上で、勇気をもって手術を行なうというのが、私の方針であります。

電話の向こうの飼い主様に、大体以上のような内容のことを説明した後、「こちらに受診していただければ、頑張ってみますよ。」とお伝えしたところ。

「実は、こちらは千葉県なのです。」というお返事でした。

「それでは、近くの動物病院をいろいろ当たってみて、手術をしてもらえるところを探してみられた方が良いと思います。」とお伝えして。いったん話しは終わりました。

後刻、再度電話が入って。数件当たった動物病院ではいずれも手術は出来ないと言われたということでして。
「兵庫県のグリーンピース動物病院まで走ります。のでよろしくお願いします。」ということでした。

それで。今朝、9時前にはるばる千葉県からワンちゃんと飼い主様が来院されました。

ワンちゃんは、11才の雑種犬で体重は10キロちょっとの男の子です。

今までの血液検査のデータとか見せてもらって経過をお聴きして。
胸部聴診をしてみると。急性フィラリア症特有のゴロゴロというような収縮期性雑音が聴取されました。

エックス線検査では、普通に右心室が大きくなったフィラリア症特有の心臓が観察されます。

心エコー図検査を行なってみると、拡張した右心房に糸状のフィラリア虫体が多数見られます。これで急性フィラリア症は間違いないということになります。

血液検査を実施したところ、白血球数の著しい増加とGPT、GOT、ALP、BUN、IP(無機リン)、リパーゼ、犬CRPがいずれもひどく上昇しています。その数値は7日前や4日前と比較してみると、日を追う毎にひどくなって来ているのが見て取れます。

この飼い主様は、これだけ行動力があるのに、何でフィラリアに罹ってしまったのだろうか?と、予防をしなかった理由を尋ねてみたところ。いろいろと忙しかったのと、油断していたというお返事でした。

飼い主様には、手術は頑張ってチャレンジしてみること。最悪死亡してしまう可能性はあること。を説明し了解を得て。

前腕の静脈にカテーテルを装着し、静脈輸液を開始しました。
輸液には、血液電解質も相当狂っていて、低ナトリウム低クロール血症になっていましたので、生理食塩液を使用しました。
このような状態の子は、血液凝固系が暴走する播種性血管内凝固(DIC)という末期的な異常が生じることが多いですから。低分子ヘパリンも静脈に添加します。

しかし、手術準備を整えつつある午前10時半過ぎに、急に嘔吐した後、舌の色がチアノーゼに陥ってしまい。
急いで手術室に運んでみると、既に心停止が来ています。心マッサージと酸素吸入をしながらアドレナリンの静脈内投与を行ない。心室細動状態の心臓に対してカウンターショックまで駆使して蘇生術を行ないましたが。

元気な子が何かのきっかけで心停止が来たのと違って、弱って弱って、いよいよの状態で止まった心臓が戻って来ることはありませんでした。

ワンちゃんの生命力が手術前に尽きてしまった原因としては。長距離の移動とかの要因よりも何よりも、急性フィラリア症と診断した後、通り一遍の内科的療法をするだけで、外科手術をせずに放置していたということが最大の要因だと思います。

獣医師は、いろいろな要因で必要な手術や治療を動物にしてやることが出来ないこともあるかとは思いますが。そんな時には、二次診療施設に紹介するとかの手立てを取ることも必要なのではないでしょうか?

せっかく遠くから私を頼って来院されたのを、何とか助けてやりたかったのですが。残念な結果になってしまいました。

本当に、本当に、残念なことであります。記事を書いていて涙が出て来ます。

 

キャバリア・キング・チャールス・スパニエルの僧房弁逆流症

読者の皆様の多くはご存知でしょうが。表記の犬種、略してキャバリアは、心臓の僧房弁という左心房と左心室を仕切る弁の病気が遺伝的に多発することで知られています。それも、早い子だったら4才くらいでも心雑音が聴こえるようになり、そんな子は病気の進行も非常に速くて数年で亡くなってしまいます。

今日の子は、今年13才になるキャバリアですが。この犬種には珍しく?昨年までは胸部聴診をしても心雑音は聴こえませんでした。

しかし、今年に入って春のフィラリア予防の際に、夜間に咳をするようになったという稟告がありましたので、聴診をしてみたところ、かなりはっきりと大きく全収縮期雑音が聴取されました。

飼い主様に、一度時間を取って胸部エックス線検査と心電図、心エコー図検査を実施して確定診断をしてから、お薬の内服による治療をした方が良いとお伝えして。先日お昼の休診時間に1時間ほど時間を取って検査を実施しました。

検査をしてみると、エックス線検査では胸の容積に対して心臓の体積が幾分大きくなっている感じです。

心電図検査では、そんなに大きな変化はありませんでした。

心エコー図検査では、僧房弁からの逆流がはっきり観察されます。

この図は、カラードップラーという検査の画像ですが。血液が扇形の頂点のプローブに近付くように流れると赤く映り、遠ざかるように流れると青く映るという現象を利用して、心臓の中の血液が一定方向に流れているのか?逆流により乱流が生じているのか?を見るものです。

線で囲まれている部分の上の方は左心室で。青一色になっているのは、一定方向に流れているという事ですが。下の方が赤青黄緑の賑やかなモザイク模様になっているのは、この部分で乱流が生じていることを現わしていて、ここは左心房なのです。青の部分とモザイクの部分の接合部は僧房弁であります。

つまり、この図からは、僧房弁がきちんと閉まらなくなっていて、心室が収縮する時に逆流が生じているということです。

反対側、右心室と右心房を区切っている三尖弁の評価は。

逆流はほんの少し生じているものの、そんなに気にしなければならないほどのものではないという結果でした。

次に、大動脈径と左心房径の比率を計測します。健康な犬の場合。その比は大体1対1くらいに収まるのですが。この子の場合は、画面下側のLA/Ao   1.58  という数字にあるように、大動脈径1に対して左心房径1.58と左心房が大きくなっていることが判ります。
これは、左心室収縮時に左心房に向かって逆流が生じるために左心房の圧が上昇して、結果として左心房が拡張して来ているということであります。

病気は、それなりに進行しているということですね。

以上の検査結果と、全収縮期性心雑音、夜間にする咳の症状から、初期からやや進みつつある僧房弁閉鎖不全症と診断しました。

さて、せっかくエコー検査をしていることですし。時間もありますし。飼い主様が腹部の毛を刈っても良いとの許可を下さいましたので。腹部エコー検査もサービスでさせていただくことにしまして。

肝臓をまず最初に探査してみたところ。

画面左側に黒く映っている胆嚢の右側に大きく見えているのが、ここには本来あるはずの無い腫瘤(マス)です。

嫌な物を発見してしまいました。

肝臓以外の、左右腎臓、膀胱、脾臓、副腎、腸管は異常無しでした。

飼い主様には、僧房弁閉鎖不全症であること。多分ですが、お薬でコントロール可能であり。お薬を使用すれば進行も幾分遅くすることが出来るであろうこと。
この病気の内科的治療のゴールは、動物が死んだ時であり。治療成功は、その動物が僧坊弁閉鎖不全症で死ななかったこと、及び僧房弁閉鎖不全症で苦しまなかったことをもって成功と評価するということなどを説明させてもらいました。

飼い主様は、とりあえず心臓のお薬の処方を希望されて。肝臓のマスの治療については、家族でしっかり話し合いをした上で考えるということでした。

僧房弁閉鎖不全症の治療には、外科的に僧房弁の再建をするという方法もありますし。人間だったらこの病気を発見したらさっさと手術をやってしまうことがほとんどのようですが。

手術については、相当な金額がかかるということ。心臓を開く手術ですので、それなりに危険が伴うことがあります。また、弁膜症を患う犬はキャバリア以外では大抵が高齢の場合がほとんどですから。術後にどれくらいの寿命が残されているのか?というコスパの問題も、それなりに重要かと思います。

過去に当院から、僧房弁閉鎖不全症の手術を標榜するさる高度医療センターに患者様を紹介させていただいたことがありますが。
大変残念なことに、その患者様は手術の後急変して亡くなってしまったという、大変苦い経験があります。

それからは、この病気の手術については、私も随分慎重に考えるようにしております。

多くの飼い主様は、愛犬、愛猫が永遠に生きることは不可能であるということをきちんと理解されております。そして、大切な我が子が、せめて生きている間は、苦痛無く気分良く生活出来ること。その期間がそれなりに長く続くことが最も大切な事であるというお考えをお持ちだと思います。

私は犬猫の臨床に携わる者として、飼い主様の想いを大切にして、愛犬愛猫たちが苦痛の無い快適な生活を送れるように頑張って仕事をして行きたいと考えております。

ではまた。

 

 

急性フィラリア症の手術

ここで急性フィラリア症と称している病気は、犬のフィラリア症のひとつの型でして。正式には大静脈症候群と呼ばれているらしいです。

普通に慢性フィラリア症の場合、蚊に刺されることで感染したフィラリアという線虫は、肺動脈に寄生しています。これはこれで感染数が増加すると、肺動脈が炎症や変形を起こしたりして、慢性の咳や削痩、腹水、運動不耐症などの症状が生じて、真綿で首を締め上げられるように苦しみながら徐々に死んで行くのですが。

慢性だったフィラリア症が、虫が肺動脈から右心房、更に大静脈洞に移動することにより急性フィラリア症となると。
犬は急激に苦しみ始めて、1週間から2週間くらいの経過で死んでしまいます。

具体的な症状は。典型例では突然の食欲不振、虚脱衰弱、呼吸困難、濃黄色~赤色からコーヒー色までのいろいろな程度の血色素尿、舌のいろが蒼白になる、などです。
獣医師が聴診器で胸の音を聴いてみると、ガガガガガとかザリザリザリとかゴロゴロゴロというような特徴のある心雑音が聴こえます。

それで、この急性フィラリア症は、早急な手術を実施して、大静脈洞に居るフィラリア虫を釣り出してやらないと、ほとんどの犬が死亡してしまうのです。

手術の危険性は非常に高く。私が10数年前に聴いた話しでは、平均して30%の死亡率だそうです。
ただし、手術を乗り越えて、フィラリア虫がきちんと除去されると。劇的に回復することが多い病気でして。
この急性フィラリア症と子宮蓄膿症は、獣医師が「神の手」となれる疾病の典型なのです。

今回の症例は、8才7ヶ月の柴犬の男の子でした。2日前に少し離れたところにある動物病院に救急で受診して。「急性フィラリア症なので手術が必要である。手術出来る先生が限られているので、その先生を確保する都合上早く手術を決断して欲しい。」と言われたそうなのですが。手術を受けないこととして、副腎皮質ステロイドの注射をしてもらっただけで帰られたとのことです。

その後、飼い主様の息子さんが当院のことを調べて、こちらに行くように勧められたということで、当院に来られたということです。

聴診して、特徴的な心雑音が聴こえることと、発症の状況、他院でのお話しなどなどから、急性フィラリア症は間違いないだろうとお伝えし。手術の危険性などをお伝えしたところ。

飼い主様はいろいろな理由があるみたいですが。手術を相当ためらっておいででした。

その後、飼い主様の息子さんが来られて、いろいろ相談されたようで。結局手術を受けることになりました。

動物看護師には残業をお願いしまして。午後5時前から麻酔導入を始めます。

気管挿管、静脈輸液、各種モニターの装着を済ませてから。術野の毛刈り、消毒、術者、助手の手洗い消毒、術衣手袋の装着と、手術の準備を手早く進めて。
いよいよ執刀準備が整いました。


この手術の術式は非常に簡単です。頸静脈を露出して、小さな穴を開けて。そこからアリゲーター鉗子という先端に鰐口が付いた鉗子を大静脈から出来れば心臓まで差し込んで。フィラリア虫をつまみ出すだけです。

しかし、鉗子の操作が総て手探りで。指先の微妙な感覚だけが頼りですし。強引な操作をすると、静脈壁を突き破ったり、心臓の弁の腱索を引きちぎったりして、わんこは突然に死亡してしまいます。
また、心不全状態の犬に麻酔をかけるわけですから。麻酔導入を試みたらすぐに死んでしまうという事態もあり。
なかなかにストレスフルな手術ではあります。

アリhゲーター鉗子を挿入してすぐにフィラリア虫を掴むことに成功です。

虫を拡大してみます。

1回に5匹か6匹を掴んでいます。

こんな感じで虫を快調に摘出して。そのうちに取れなくなりますので、3回、4回と探ってみて、それでも虫が取れない時には、心音を聴いてみます。

特徴的な心雑音が消えていたら、その時点で虫の釣り出しは終了として、縫合にかかります。

この子も、とりあえずのガリガリ音は聴こえなくなりましたので、縫合して終了としました。

後で勘定したら、摘出した虫の数は、35匹でした。

今回は麻酔導入開始から縫合終了まで約1時間半くらいかかりました。もっと熟練した神の手先生だったらもっと短いかも知れませんが。アベレージ獣医の私ですから、こんなものですね。

麻酔からの覚醒はまあまあでした。術前に相当弱っていましたから、良い方だったかも知れません。

麻酔から醒めた時点でかなり気分はましになっているようだったし。蒼白だった舌の色もきれいなピンク色になってましたが。
さすがにその夜は何回か起きて容態観察をやってました。

明けて翌日。わんこの気分は随分良さそうです。飼い主様が持参された食べ物にもかなり興味を示してましたが。まだ食べるまでには至りませんでした。

もう少し回復して食欲が出て来たら退院です。

今回も手術が上手く行って良かったです。この手術は、症例がかなり減っていて、回数は少ないですが。私の場合今のところ成功率70%は軽くクリヤーして90%くらいは行っていると、自分では思っています。

ではまた。

 

10/22 主従共に快癒

シーズのかん太君は、もう12才になりますが。生後1才の頃に肝障害を患って、その管理をして来たというのはありますが。それ以外はこれまで特段の疾患は無くて過ごして来ました。

この家族は、もう20年近くも通って来ていただいてまして。先代のワンコは、牡犬がカンチ君、牝犬がリカちゃんと言って、東京ラブストーリーがネタかな?と思いつつ、診療して来た記憶があります。

このお家の二人のお嬢様も、いつしか成人、ご結婚されて、お孫さんにも恵まれ幸せにお過ごしだということでした。

しかし、先日、もう2週間ちょっと前の10月6日のことですが。
かん太君が、前日にトリミングに行った直後から、急に呼吸が苦しくなって、食欲が無くなってしまったという稟告で来院されました。

聴診してみると、心雑音がニューヨーク心臓病協会だったか?の基準だと思いますが。6分の2の強度の全収縮期性心雑音が聴取されます。

飼い主様に呼吸器症状とか何か無かったのか?と訊いてみれば、1年以上前から咳をしていたという話しです。

一応、呼吸循環器系の問題に限って、胸部エックス線検査と心エコーを実施してみました。

エックス線検査では、心臓の外形が明らかにおかしい形状で、右側に突出したような形になっています。肺野には肺水腫のような像は、はっきりとは確認出来ません。

心エコー図検査では、左心室と左心房を区切っている僧房弁というバルブの部分で逆流が生じていました。心臓腫瘍についてははっきりとは確認出来ませんでした。

飼い主様には、心臓の右側の形状がおかしく見えるについては、心臓腫瘍か?その部分の肺炎か?肺の腫瘍か?あたりの可能性があることをお伝えして、投薬はACE阻害剤、ピモベンダン、利尿剤、抗生物質などを処方しました。

飼い主様のご意向は、仮に心臓腫瘍とか肺の腫瘍とかの場合、開胸手術をやってどうこうということまではするおつもりは無いということでした。

3日後の10月9日再来院の時には、咳の症状は少し改善しているということでしたが、食欲がかなり低下してしまっていて、元気が無い。飲水はそれなりにあるということでした。

血液検査を行なってみたところ、著しい高コレステロール血症、軽度の肝障害、尿素窒素の上昇が気になるところでした。

高コレステロール血症については、甲状腺機能の検査を外注で実施すると共に、見切りで甲状腺ホルモンを処方しました。
食べないについては、焼け石に水かも知れませんが、皮下輸液を実施し、その他は前の継続で処方します。

甲状腺の検査結果は数日後に帰って来ましたが。FT4という項目が正常値よりも低下しているという結果でした。

しかし、10月15日に再来院した時には、それまでは少しずつでも何とか食べていたが、いよいよ食べることが出来なくなったということです。

今までの処方に追加で、ぺリアクチンという食欲増進効果の副作用のある抗ヒスタミン剤を処方してみました。

飼い主様には、もしかすると、いよいよ駄目かも知れませんとお伝えしました。

ところで、この飼い主様は、話しをしていると、以前からひどい頸部痛に悩まされているということでした。
余りにも痛みが辛いので、近所の整形外科にて局所麻酔薬のブロック注射をしてもらうそなのですが、最初はよく利いていた注射が、最近はそう利かなくなってしまっているという、非常に気の毒なお話しであります。

私は人間の痛みとかについては素人ですが。お話しを聴いていると、もしかして、私が月に一度お世話になっている広島県は尾道市の前岡治療院の前岡院長先生だったらこの飼い主様の苦しみを軽減出来るかも知れないと思いました。

前岡先生のことをお話ししてみると、是非とも紹介して欲しいということですから、治療院の住所と電話番号をお伝えした次第であります。

さて本日、久し振りにかん太君の来院がありまして。

先週金曜日辺りから急に元気が回復して来て、食欲も増進し。散歩をせがむまでになったということでした。

正直もう駄目か?と思っておりましたので。非常に嬉しかったです。

そして、頸部痛のひどかった飼い主様も、先週木曜日に前岡治療院にかかると、施術の後、それまでひどかった痛みが嘘のように消失したと、嬉しそうに報告をいただきました。

飼い主様の頸部痛が治癒した翌日にかん太君が劇的に回復したのも、不思議なタイミングです。

飼い主様の喜びがこちらにも伝染して参りまして。思わず涙がこぼれそうになるくらい嬉しかったことでした。

かん太君の症状については、もう少し同じ内容で投薬を続けてから、胸部エックス線検査とかを試みてみようかとお伝えしました。

そんなことで、今日は嬉しい報告でありました。

かん太君と飼い主様についてはいつまでも元気で長生き出来ますように。

ではまた。