兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2015 8月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2015年8月

犬の気管虚脱

犬、特に小型犬の気管虚脱は、比較的診ることの多い疾患です。

今回の子は10才になるヨークシャーテリアの女の子ですが。 昨日から来客に吠えたりした後ひどく咳き込むという稟告で来院しました。

20150819tcollapse0011

胸部聴診では心雑音は無く。 呼吸音も特に異常は感じられません。 一応胸部エックス線検査を行ないました。

20150819tcollapse0051

すると、肺に空気を送る管状の構造である気管が赤い矢印の付近でつぶれているのが判りました。

この状態を気管虚脱といいまして。 呼吸するたびに空気が狭いところを通過しなければなりませんので。 まあ、例えて言えばストローで息を吸ったり吐いたりするような気分で苦しいのだと思います。

気管がつぶれる原因は、気管輪という軟骨のリングの弾力性が失われて腰が抜けたようになってしまうということですが。 やはり遺伝が関与するのではないか?と私は疑っています。

20150819tcollapse0031

この画像は別のわんちゃんのものですが。 気管虚脱がひどくて呼吸がひどく苦しくなったので、外科の専門の先生に気管を拡げるステンレスメッシュのステントを挿入してもらったものであります。

しかし、 このように外科的対応をしなければならない気管虚脱はむしろ少ない方でして。 ほとんどの気管虚脱は気管支拡張剤というお薬を内服することにより普段の生活に支障がない程度には呼吸が楽になることが多いです。 その場合、投薬は一生続くと考えなければなりません。

今回のヨークシャーテリアの子も、気管支拡張剤を処方して様子を見ることにしました。

投薬で症状が改善して元気になることを期待しているところであります。

ではまた。

未避妊の女の子の乳腺腫瘍

9才と8ヶ月令になるトイプードルの女の子の話しですが。

先日、左第3乳頭の際に小さな腫瘤があるということで来院されました。

20150804mgt001

腫瘤は小さな物で、これ1個だけです。

しかし、未避妊であることとか考慮すると、乳腺腫瘍の可能性が高いと思います。

そもそも、犬の乳腺腫瘍は、統計的に良性と悪性の割り合いが半々で、更に悪性のうち約半数が転移や再発の起こりやすい悪性度の高い物であるとされています。そして、犬の乳腺腫瘍は、初めての発情の前に避妊手術を行なった牝犬に比べて避妊手術を行なっていない牝犬は約200倍の発生率であるということです。
更に、一般の腫瘤に対して実施する針吸引と細胞診という侵襲性の低い診断法は、乳腺腫瘍に限っては当てにならないと、腫瘍学の教科書には記載されております。

故に、乳腺の腫瘤が発見されたら、リンパの流れを考慮してなるべく広い範囲で乳腺を切除し、併せて卵巣子宮全摘出を実施して、切り取った乳腺については病理検査を行なって今後の対応を考えなければりません。

飼い主様にはその旨を説明して、左側乳腺を第3から第5まで3個切除することと、卵巣子宮全摘出をすることについて了解を得ました。

手術前の検査としては、採血して全血球計数、血液生化学検査15項目、血液凝固系検査を行なうと共に。胸部腹部のエックス線検査。コンピュータ解析装置付き心電図検査を行ないました。
いずれの検査でも特段の異常は見当たりませんでした。

4日後に、朝からお預かりして術前の静脈輸液を行ないますが。この子は少し激しいところがありまして。ケージ内でかなり暴れますので、静脈輸液が困難でした。

仕方なく、早い時間に静脈輸液を諦めまして。皮下輸液で水和状態を調節して。飼い主様に迎えに来てもらい。 午前は飼い主様と過ごしていただきました。

午後の1時過ぎに再度連れて来ていただき。 飼い主様にワンちゃんを安心させてもらいながら麻酔導入をします。

鎮静剤、鎮痛剤、抗生物質等の麻酔前の投薬も普通に実施出来て。 麻酔導入は昨年から使われるようになった、呼吸抑制心抑制が生じ難く安心感の強いアルファキサロンというお薬で行ないました。

 

20150804mgt002

画像は麻酔導入後術野の毛刈りを済ませた段階のものです。 少し暗いですがワンちゃんの口の前に突き出ているのが気管チューブで、その先に緑色の物体が見えるのが人口鼻といって、麻酔ガスの湿度とか調整する器具です。両腋と右足に付いているクリップは心電図モニターの端子です。

20150804mgt003

今から切皮するところです。

具体的に術中の画像は撮影してますが。見られて気分を悪くされる方も居られるかも知れませんので、途中省略します。

20150804mgt0091

で、これが縫合終了時の画像です。左第3から第5乳腺を切除しました。第5乳腺の最後部は性器の横まで伸びていますので、そこまで丁寧に分離して完全切除を目指しています。

20150804mgt009

 

切除した子宮は、正常の状態ではなくて、内部に薄く白濁した液体が貯留してました。液体は一応細菌培養と薬剤感受性試験に供しましたが、細菌は生えませんでした。

20150804mgt007

切除した乳腺です。これをホルマリンに漬けて病理検査に外注しました。

20150804mgt00921

麻酔覚醒後、朝のように騒ぎましたので、待機していただいていた飼い主様にしばらく抱っこしてもらい、落ち着いてからケージ内で休ませました。

20150804mgt00931

そうは言っても、麻酔から醒めて間無しはまだ鎮静剤が利いてますので、最初のパニック状態が落ち着けば、静かにまどろんでいます。
夕方6時には安定した状態でかなりはっきりして来ましたので、退院させました。

手術の後の動物は相当不安な気持ちになっているでしょうから、危険な状態でない限りなるべく自宅に帰って慣れた環境で夜を過ごしてもらった方が経過が良いように感じております。

病理検査に出した乳腺は、後日の報告で最初に見ていた腫瘤以外にも腫瘍成分が見つかったようですが。いずれも良性のものであるという結果でした。

今回の腫瘍は良性でしたが。犬の乳腺腫瘍は良性悪性の割合が半々で。悪性のうちの半数が悪性度高いという統計がありますので。 繁殖予定の無い伴侶犬の場合、なるべく早期に、最初の発情前に避妊手術を受けておくことをお勧めする次第であります。

とにかく、今回の件は無事に済んで良かったと思います。

ではまた。