兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2017 8月
院長ブログ

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犬と猫のワクチン接種の見直しについて(WASAVAワクチネーションプログラムとワクチン抗体価検査)

ワクチンという疾病予防法は、怖い伝染病を予防するのに非常に有効です。それはどんな物かというと。病気を引き起こす細菌やウィルスなどの死んだ物(不活化ワクチン)、あるいは人間が飼い慣らして病気を引き起こさなくなったウィルスの生きた物(生ワクチン)を注射あるいはスプレーもしくは内服薬の形で生体に接種するという物です。

ワクチンは動物の感染症対策には非常に有用な手段ですが。同時に副作用の危険性を伴なうということも忘れてはいけません。

ワクチン副作用による健康被害の例としては。

1、ワクチン接種によりアナフィラキシーショックのようなアレルギー反応が生じる。
2、免疫抑制剤の投与によって生体の防御力が著しく低下している子などは、本来病原性が消失しているはずの生ワクチン接種で発病してしまう。
3、昨年だか数年前だかに発表されたという論文によると、猫ワクチン接種を頑張って毎年実施している飼い猫ちゃんの方が、ワクチン接種で頑張ってない飼い猫ちゃんよりも慢性腎臓病発病の発症が早くなってしまう。
4、狂犬病予防注射により痙攣や麻痺のような神経障害が生じる。

ということがあるらしいです。

1,2,4については従来から認知していましたが。3、は先日のセミナーで聴くまでは知りませんでした。そして正直意外でした。しかし、そのメカニズムについて知るとなるほどと納得出来るものがあります。

猫の3種混合ワクチンは、ほとんどのワクチンメーカーがその培養基材として猫から採取した腎芽細胞を使用しているそうです。
そうであれば、ワクチン製造過程において頑張って精製してもどうしても腎臓由来の成分が製品中に残存してしまうでしょう。
そのワクチンを接種された動物には、ワクチン本来の病気を防ぐ抗体も上昇しますが。不純物として残ってしまった腎臓由来の成分に対する抗体も作られてしまう可能性があります。
そうして、期せずして作られてしまった腎臓に対する抗体は、多分自分自身の腎臓も攻撃するようになると思われます。

ワクチンという物は、そんなわけで思わぬ副作用を生じてしまう可能性を秘めているわけです。必要最小限の接種に止めておくこともまた大切だと思います。

知っている人は知っているかと思いますが。WASAVA(世界動物病院協会)という団体がありまして。その中で犬猫のワクチン接種ついてこうした方が望ましいという推奨プログラムが制定されています。

グリーンピース動物病院でも、このWASAVAワクチネーションプログラムに準じたやり方で、当院に来院されるワンちゃんネコちゃんに必要なワクチン接種を行なって行こうと、遅ればせながら決定しました。

基本的な考え方としては、ワンちゃんネコちゃんには必要なワクチンを必要な回数接種して、決して接種し過ぎないようにすることでして。それ以上でもそれ以下でもありません。

 

それで、当院が今後犬と猫に接種するワクチンのプログラムを具体的に述べます。

まず、犬ですが。

ワクチンの中で最も大切なものをコアワクチンと言いますが。WASAVAは犬のコアワクチンを、ジステンパー、パルボ、伝染性肝炎の3種類としています。我が国で大切なワクチンは、このコアワクチンと、ノンコアワクチンの中でのレプトスピラが挙げられると思います。

レプトスピラ感染症は、レプトスピラ属の細菌が病原体です。犬だけでなく人間にも感染する人獣共通感染症であること、ネズミなどのげっ歯類の尿を介して感染すること、高温多湿の環境を好み、冷涼乾燥の環境では感染しにくい、などの特徴があります。
その特徴から日本を始めとする東アジアのモンスーン気候の国では重要な感染症と思われます。
当院ではここ数年はレプトスピラ対策として、京都の微生物学研究所(京都微研)のレプトスピラ5種ワクチンを使用していました。この5種ワクチンで日本で発生するレプトスピラの90%に対応出来るとされてました。
ただ、今年に入って京都微研の事情によりレプトスピラ5種ワクチンは入手不可能になってしまいまして。現在利用可能なレプトスピラワクチンは、レプトスピラ・カニコーラとレプトスピラ・イクテロヘモラギー(コペンハーゲニー)に対応した2種ワクチンのみであります。2種でも接種しないよりははるかにましです。

具体的にワクチン接種を希望される犬が来院したならば。子犬の場合は生後1ヶ月令くらいならばまず5種混合ワクチンを接種します。その後3週間おきに7種混合ワクチンを2回接種します。3回目の時に、あるいは3回接種後3週間の時点で血液中の抗体検査を実施して、少なくとも抗体が上昇し難いジステンパーとパルボに対する抗体価を測定した方が良いです。

子犬のワクチンが3回終了して抗体価がしっかり上昇したならば。2年目に再度7種混合ワクチンを接種して。

それ以降は3年に1回のペースで7種混合ワクチンを。間の年にはレプトスピラワクチンを接種することになります。

このやり方で、コアワクチンは3年に1回、レプトスピラワクチンは毎年接種されるわけです。

ワクチン希望の成犬の場合。それまでの接種歴がはっきりしていない場合には、7種混合ワクチンを1回接種して3週間後に抗体検査を実施して、免疫が付いていることが確認されたら翌年からは7種を3年に1回と間にレプトワクチンを毎年接種して行きます。

 

猫のコアワクチンは、猫伝染性鼻気管炎、猫カリシウィルス感染症、猫汎白血球減少症の3つの病気に対するワクチンです。これは当院で従来から使用している猫3種生ワクチンです。

子猫だったら上記の3種を1ヶ月くらいおいて2回接種して。1年後にもう1回接種したら後は3年に1回接種して行くことになります。

成猫の場合は3種を1回接種して、出来れば抗体検査を実施して、その後は3年に1回継続接種することになります。

猫のワクチンの場合、基本的には3種生ワクチン以外は接種しません。猫エイズや猫白血病ウィルスワクチンは接種の根拠が無いと、WASAVAは言い切ってますし。いろいろなメーカーが発売しているアジュバントを使用している不活化ワクチンは過去の経験で接種部位に繊維肉腫を発症した辛い経験がありますので、自分としては絶対に使用することはありません。

この接種のやり方は、今月から早速始めております。

なお、トリミングサロン、ドッグラン、犬猫同伴可能宿泊施設等がワクチン接種証明書の提示を求めて来る場合がありますが。その場合は、動物から採血してワクチン抗体検査を外注検査で実施して。ワクチン抗体検査証明書を発行しますので、それを提示することでワクチン接種証明書に換えることが可能と思います。必要ならばその施設に私が説明するようにいたします。

 

2018年4月 追記です。

その後、生後2年目以降のワクチン追加接種時期の到来した動物に。犬にも猫にもワクチン抗体価検査を何例か実施したところ。
4頭に1頭くらいの割合いで、コアワクチン関連のウィルスに対する抗体が不足しているという事実が判明しました。

そういうわけで。2018年3月からは、犬でも猫でも2年目以降にワクチン追加接種の時期が来た動物に対しては。ワクチン抗体価検査をルーチンで実施して、接種の可否や接種内容の検討を行なうことにしています。

要らないワクチンは打たないが。必要なワクチンはきちんと打つ。そして、その根拠にはワクチン抗体価検査結果というエビデンスを活用するというやり方が、ワンちゃんネコちゃんと飼い主様の安心と安全に必要不可欠であると思います。

ではまた。

 

 

子宮蓄膿症と胃内異物の合併症例

もうすぐ9才7ヶ月令になるシェトランドシープドッグの女の子の話しですが。

昨日から気分悪そうにしていて、食事も摂らないという稟告で来院されました。

連れて来られた方がその家のお嬢さんで、症状とか詳しく把握していないみたいですから。最初どの分野の問題なのか?私も正直迷いました。

身体検査を行なってみると。体温39.5℃、脈拍毎分124回、呼吸毎分56回。両眼の瞬膜突出、膿性眼脂あり。両眼共対光反射は正常。

ちょっと気分悪そうな感じです。

仕方がないので、血液検査と腹部エックス線検査を行なうことにしました。

血液検査で目立ったのは、白血球のうち細菌と闘う好中球が増加していることと、炎症マーカーのCRPが7.0mg/dlオーバーと振り切っていることくらいです。

腹部エックス線検査ではお腹の中にとぐろを巻くように太いソーセージのような構造が白っぽく見えます。

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画像の向かって右側の2本の矢印の先に見えるのがその構造です。

同時に、この画像ではもうひとつはっきり見えないかも知れませんが。胃の中に異物が見えています。

とぐろを巻いている太い構造は、多分ですが、子宮に膿が溜まったものだと思います。

胃の中の異物は何なのか?不明ですが。このまま放置して置くと腸閉塞の原因になるかも知れません。

ワンコを連れて来たお嬢様に状態を説明して。腹部エコー検査を追加で実施しました。

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赤い矢印の先に見えるのが、膿を充満している子宮です。子宮蓄膿症と胃内異物合併症例という診断が確定です。

そのまま左手に静脈カテーテルを留置して、乳酸リンゲルの点滴を開始しまして。午後から麻酔をかけて手術を行いました。

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最初に子宮を取り出しました。正常だったらもっともっと細く短い子宮がボコボコに膨れていまして。突いてみると膿が噴出して来ました。

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出て来た膿で細菌培養と感受性試験を行ないます。

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次に胃を開けてみると、プラスチックの吸盤みたいな構造が出て来ました。

胃を2重に縫い合わせ。お腹を閉じて手術は終了です。

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麻酔を切ってしばらくすると覚醒しましたので、気管チューブを抜いて、回復室に入ってもらいます。

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多分ですが。明日の夕方には食欲も回復しますので、最短では明日の夕方に退院ということになると思います。

今回の症例のような例は、今まで何回もアップして来ていますので。目新しさも無いかも知れませんが。

繁殖予定の無い犬猫の、早期の避妊去勢手術は、その動物のいろいろな病気を予防し、性的なフラストレーションを防ぐことが証明されていて。動物愛護の観点からも強く推奨されているのが、現代獣医学の常識になっています。

この記事を読まれた飼い主様で、単に現在病気でないというだけの理由でご愛犬の避妊去勢手術をためらっている方が居られましたら。是非とも主治医に相談するようになさって下さい。

ではまた。