兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 犬のワクチン接種(効果確認には抗体検査が有効)
診療方針

犬のワクチン接種(効果確認には抗体検査が有効)

子犬を入手した時に、まずやらねばならないのが、検便とワクチン接種である。

最近はフィラリア予防がかなり普及して、フィラリア予防薬の副次的効果で腸内寄生虫が駆除できてしまったり、ブリーダーさんの意識もけっこう高まっていたりして、腸内寄生虫のいる子犬が珍しくなってきている。

子犬にワクチンを接種する際に、まず考慮しなければならないことは、ワクチンの安全性、そして、有効性であろう。

安全性については、犬の健康を守るために接種するワクチンで健康被害が起きてしまってはしゃれにならない。 安全性を追求しなければならないのは当然のことである。

で、私が子犬にワクチン接種をする際に、安全性の面から考慮している事項は

1、2回目以降のワクチン接種の場合には、前回のワクチン接種の際に異常な反応が起きなかったのかということ。

2、初回のワクチン接種については、その子犬の日齢が60日未満なのか、それ以上なのかということ。

の2点である。

前回のワクチン接種の際に、たとえ軽微であっても何らかの異常な反応が生じた場合には、以後のワクチン接種の際には、かならず少量のステロイドホルモンを事前に皮下注射してからワクチンを接種している。 いわゆるアレルギー反応を押さえ込んでしまうためである。

ワクチン接種の際に生じる有害な副作用は、アレルギー反応によるものと考えられているが、このアレルギー反応は、アレルギーの原因となるアレルゲンに接触 するたびに強くなっていく傾向があるので、前回のワクチン接種でたとえ軽い反応が生じた場合でも、その次には重篤かつ致命的なアナフィラキシーショックが 生じてしまう恐れがあるのである。

そして、ステロイドホルモンは、事前に投与しておくと、このワクチンに対するアレルギー反応を生じさせない素晴らしい効果が期待されるのである。

ステロイドホルモンは、大量に長期間投与すると免疫反応を阻害したり、肝機能障害を引き起こしたり、その他いろいろな副作用を生じさせてしまうのである が、私がワクチン接種の前に投与するくらいの量では、そのような悪い副作用は起きない。ワクチンに対する正常な免疫反応も阻害されず。 結果としてちゃんとした抗体価の上昇も生じるのである。

また、生後60日以前の子犬にワクチンを接種する際には、かならずレプトスピラワクチンの含まれていない製品を使用している。

レプトスピラという病気は、犬も人も共に感染する、いわゆる人獣共通感染症であり、人間に死亡例もある怖い病気なのであるが、そのワクチンは何故か、あまりに若齢の子犬に接種するとアレルギー反応を引き起こしやすいように感じられるのである。

次に、ワクチンの有効性を追求するために私が気をつけている事項であるが、まず、ワクチンの接種時期である。

一般に、幼若な動物の免疫は、まず最初に母親の初乳から受け継ぐもの(受動免疫)と、そのあとでワクチン接種や実際に病気に感染しての免疫反応によって造 られるものとがあるが、子犬の場合母犬から受け継いだ免疫抗体は、 対象とする病気によって早いものでは生後50日くらいで消失するし、遅いものでは生後90日になっても残存しているのである。

そして、この母親から受け継いだ受動免疫の存在が、ワクチンの効力を不確かなものにしているのである。 すなわち、受動免疫が存在すると、生ワクチンの効果を阻害してしまうのである。 それだけではなく、生ワクチンの接種によって受動免疫が消費されてしまい、かえって子犬が病気に対して無防備な状態に陥ってしまうのである。

今までワクチン接種は一回のみでは効果が不確かであり、最低でも2回、出来れば3回の接種が必要であり、 パルボウィルス感染症については生後4ヶ月以降に駄目押しの一本が必要であるということが言われてきたのは、この受動免疫との関係においてワクチンの効果 発現が不確かであったためである。

ここ数年の間に、ハイタイター・ローパッセージという新型ワクチンが開発されて、受動免疫をたくさん保有している幼い子犬に対してもかなり有効なワクチン が入手されるようになってはきているが、実際に接種した子犬の抗体価を測定してみても、生後35日に5種混合ワクチンを接種して、3週間後にジステンパー に罹患した子犬がおり、その抗体価もほとんど上昇が見られなかった例もあったり、必ずしもメーカーのカタログデータどおりではないように思われるのであ る。

また、心身共に健康でストレスのない状態の子犬でないと、ワクチンに対して正常に免疫反応が起こらなくなってしまうという問題もある。

子犬を母犬から強引に引き離して新しいオーナーの許に連れ帰って、すぐにワクチンを打ってもつきは悪いし、寄生虫のいるような子犬もまた然りである。

子犬を連れ帰ったら、まず新鮮便を持参して獣医師に診せ、検便で寄生虫が見られればそれを落とし、特に最初の3日から5日にはあまり子犬をおもちゃにしな いように、ひどいストレスを与えないようにして育てたうえで、7日経過した時点でワクチンを接種するべきであろうし、ワクチン接種の間隔は3週間は開けて やらねばならないであろう。

私の推奨するワクチンプログラムは、うまれて最初の年には、ハイタイター・ローパッセージのワクチンを使用し、生後42日目に5種混合を、次いで63日目 に7種あるいは8種混合を接種し、81日目にジステンパーウィルスとパルボウィルスに対する血中抗体価を測定するというものである。 ついで、2年目以降は、年に1回の追加接種を行なうのであるが、この追加接種に使用するワクチンはあまり銘柄にこだわらなくても良いように考えている。 2年目以降にはすでに病気に対する免疫の記憶が体内に存在しているので、少しの抗原刺激で抗体価の上昇が生じると思われるからである。

私の場合、特に猟犬などの野外で活動する機会の多い犬には、2年目以降の追加接種に使用するワクチンは、特にレプトスピラの血清型がたくさん入っているワ クチンを使用することにしている。 今現在最もたくさんのレプトスピラの血清型の入っているワクチンは、この記事を最初に書いた時には京都微研の9種混合ワクチンであったが。2013年9月 現在では同じ京都微研からレプトスピラ血清型5種類を混合した11種ワクチンが発売されている。

特に最初の年に血液検査によって血中抗体価を測定するのは、如何に優秀なワクチンを接種しても、実際の診療現場では必ずしもメーカーのカタログデータどおりに抗体価が上昇しない場合があるという事実に基づいているのである。

また、子犬を伝染病から守ることと相反することなのであるが、伝染病から守ることばかり考えて、あまりにも長い間子犬を外の世界から隔離して育てると、い わゆる社会化が不十分になって、見知らぬ事物や他人に対して、異常に攻撃的だったり臆病だったりする性格的にいびつな犬に育ってしまう恐れがあるのであ る。

円満な性格の犬に育てるためには、最短のワクチン接種プログラムで早く抗体価を上げてやることが必要であるし、ワクチンに対する生体反応が終了するとされ る三週間が過ぎた時点で抗体価測定によって少しでも早くに外に出しても安全であることを判定してやることは、ある意味子犬の一生をかなり左右するのである と考えられるのである。

もう7年前であるが、ドイツ輸入犬を訓練所に預けてジステンパーに罹患させてしまったことがある。 その犬は、ドイツから発送する時も含めて都合3回もワクチンを、しかもその当時最新最良のワクチンを接種しての結果であった。

それからの私は、グリーンピース動物病院に来院する子犬について、片端からワクチン接種後の抗体検査を実施してきたが、その当時で、使用したワクチンで、 3回打ちして抗体価が十分に上昇したのは全体の約6割もいたであろうか。 かなりの子犬たちはそれからさらに1回から2回の追加接種が必要だったのである。

現在は、ワクチンの性能もかなり上昇して、2回接種後に十分な抗体価の上昇の見られる個体は、全体の約9割は見られるようになった。 それでも残る約1割は更なる追加接種が必要なのである。

 

たかがワクチン接種と言うなかれ、けっこう奥の深いものなのである。