兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 皮膚炎の診断と治療(私のやり方、特にアレルギー性皮膚炎の診断に到達するまで)
診療方針

皮膚炎の診断と治療(私のやり方、特にアレルギー性皮膚炎の診断に到達するまで)

皮膚炎で来院してくる犬猫は非常に多いのだが、その原因から、細菌性、真菌性、アレルギー性(蚤、アトピー性、食事性)、ホルモン性、自己免疫性などに分類される。 そして、皮膚に出て来る病変の形状、発生部位などから簡単に区別出来るものはむしろ少なく、多くの皮膚病変はどれも同じように見えてしまうので、臨床の現場ではその原因究明はなかなか難しいのが実情である。

といっても、実際に皮膚炎で苦しんでいる患者さんを前に診断治療を進めていかなければ仕事が前を向いていかないので、自分なりにやっている診断手順について整理して書いていってみよう。

体表の皮膚に丘疹、紅斑、膿庖、膿痂疹、脱毛などの病変が出来て来院して来た患者には、まず身体検査で蚤の寄生を入念に調べる。 蚤が大量に寄生していて、病変が背中の中部から腰、さらに尾根部にかけて集中しているような場合は、蚤アレルギー性皮膚炎の可能性が高くなる。 しかし、仮に蚤が発見されなくても怪しいと思えば蚤の駆除剤を皮膚に滴下する。

蚤の寄生がある子でもない子でも、皮膚の状態から細菌感染を疑う場合には、次に抗生物質を投与してみる。 それも、セファロスポリン系の皮膚に住むブドウ球菌に対して強い殺菌力を発揮するような抗生物質を選ぶ。

ただ、その患者が既に他院でいろいろな治療を試みてきた転院の子である場合には、抗生物質の投与の前にまず細菌培養と抗生物質感受性試験、及び真菌培養検査を行なわなければならない。

自分の感触では、これで7割以上の患者さんが治ってしまって、細菌性皮膚炎という診断になるのであるが、治っていく患者さんの場合、治療を中途半端に終わらせないで、ちゃんと治ったのを見届けてから投薬を終了しなければならない。

また、脱毛が主な病変で、それも左右対称性であったり、痒みとか感染とかの他の症状が軽度かほとんどないような場合、ホルモン性皮膚炎を疑って、副腎皮質機能亢進症であるとか、甲状腺機能低下症の検査をしてみる。

しかし、抗生物質を1週間服用しても全然改善しない症例、あるいはある程度改善したものの途中から治癒がストップしてしまった症例の場合、次にやってみるのが皮膚の掻き取り試験である。 また、被毛の顕微鏡検査をすると真菌の菌糸が観察されることがあると本には解説してあるが、残念なことに私自身は真菌の菌糸を顕微鏡で見分けるほどの知識を持ち合わせておらない。

どうも痒みも少なめだし真菌臭いなと感じる時には、真菌培養検査をやるか抗真菌剤の内服を1週間か2週間試してみる。 これで病原性真菌が検出されたり、抗真菌剤にしっかり反応して症状が改善するようならば、真菌性皮膚炎ということになる。

皮膚掻き取り試験とは皮膚を鋭匙(えいひ)というエッジの付いたスプーンやメスの刃で削り取って、それを水酸化カリウムとDMSOという薬品で処理して、顕微鏡で観察するという検査である。

皮膚掻き取り試験では毛包虫とか疥癬のような寄生虫性皮膚炎を診断することが出来る。 しかし、寄生虫の場合、虫を発見すれば寄生虫性皮膚炎ということが出来るが、発見出来ないからといってそうではないと断言することは出来ない。

寄生虫性皮膚炎の場合、疥癬と毛包虫では治療法が全然異なる。 疥癬は非常に治し易く、アイボメックという注射薬を3回ほど注射すれば大抵治ってしまう。 毛包虫は恐ろしくしぶといので、薬浴か飲み薬か注射かいろいろ試してみないといけない場合があるし、治ったように見えてもまた再発することも再々である。

さて、抗生物質で完全に治り切らず、皮膚の掻き取り試験でも陰性で、病変が眼の周囲、口角、口唇部のような皮膚粘膜移行部であるとか、足の裏というような自己免疫性皮膚炎の場合に特徴的な分布を示しているような場合、麻酔下で皮膚の生検を実施する。

また、抗生物質で完全に治り切らず、皮膚の掻き取り試験でも陰性の症例で、病変分布にもこれといった特徴がない子には、次に痒みのコントロールをするのに、プレドニゾロンというステロイドホルモンを少し控えめの量で使用してみる。 この時に痒みが劇的に治まるようならば、その子はアトピー性皮膚炎で痒いことが多いようである。 ただ、これも絶対という基準ではない。

プレドニゾロンを使用し始めた症例には、同時にアレルゲン除去食を食べさせるようにする。 アレルゲン除去食は、最近は蛋白質を酵素で加水分解して、アレルギー反応を生じさせないくらいに小さなペプチドという単位にまでバラバラにした商品が主流になっている。

アレルゲン除去食を試す期間は、少なくとも1ヶ月は必要である。 そして、この期間は水とアレルゲン除去食以外を、それがフィラリア予防薬や関節炎のチュアブルタイプの薬であっても、口にさせないように念を入れなければならない。

また、痒みの程度があまりにも激しい場合、一応アイボメックの注射を試みて疥癬を除外しておくこともある。

こうして、痒みがかなりコントロールされた症例の場合、食事はアレルゲン除去食のままで、一度プレドニゾロンを切ってみる。

アレルゲン除去食を食べさせているのにプレドニゾロンを切った途端に痒みがひどくなる症例の場合、アトピー性皮膚炎の可能性が高くなる。 反対にプレドニゾロンを切っても痒みが出て来ない場合は食事性アレルギー皮膚炎の可能性が高くなる。

食事性アレルギー皮膚炎の可能性が強い子の場合、アレルゲン除去食を試しながら、週毎に一品ずついろいろな食材を食べさせて何に反応しているのかを確認することが最終診断にたどり着く手順であるが、大方の飼い主さんは処方食で問題が解決した時点で満足して、以後その処方食を続けるのを選択する傾向が強い。

アトピー性皮膚炎の治療には何通りかの方法がある。

①一つ目は、プレドニゾロンを中心に、抗ヒスタミン剤、脂肪酸製剤などの痒みを抑える薬を組み合わせるやり方で、価格的にはかなり安く上がる方法である。

犬は人間よりもステロイドに対して副作用が生じ難い傾向の動物であり、プレドニゾロンを体重1キロ当たり1000分の0.5グラム程度を1日置きに内服する程度であれば、その期間が長期にわたってもそんなにひどい副作用は生じないと言われて来た。

猫の場合犬よりもさらにステロイドに対して抵抗性が強い。 なお、人間は動物の中ではステロイドに対して弱い部類に属するということである。

②二つ目の方法は、シクロスポリンという免疫抑制剤を動物の体重に合わせて内服させるというものである。 シクロスポリンはプレドニゾロンよりも副作用が出難いとされるが、この治療はワクチン接種の前後一定期間投薬を中断しなければならないとかいろいろ制約があるようなので、私自身は昨年1回試しかけて中断してしまった経緯がある。

③三つ目の方法は、減感作療法という方法である、これはその動物が反応する抗原を調整した注射液を一定の間隔を置いて皮下注射を続けるというものであるが、注射液の販売元が米国の会社であったりして取り組むのに少々エネルギーが必要な感じであり、興味はあるがまだ試した経験はない。

④最後の方法は、インターフェロン療法である。 これは、アトピー性皮膚炎は生体の免疫系のアンバランス、具体的にはTリンパ球の1型と2型のバランスが大きく崩れた結果であるという知見に基づくもので、東レという会社が遺伝子組み換え技術で開発したインタードッグというインターフェロンを、ある間隔を置いて皮下注射することにより免疫系のバランスが戻り、痒みがコントロールされるというものである。

インターフェロン療法は、理論上副作用も少なくアトピーの子の8割に有効であるとあって、素晴らしい方法だと思われるのであるが、いかんせん最新の遺伝子組み換え技術で造られた薬はかなり高価で、小型犬でないと飼い主さんが破産してしまいそうである。 10年後に薬品の特許が切れてジェネリック薬品が出て来れば、あるいはもっとリーズナブルな価格でサービスを提供出来るようになるかも知れない。

現在グリーンピース動物病院では、アトピー性皮膚炎の治療は、プレドニゾロン療法をメインに、希望者にはインターフェロン療法を試みるというスタンスで行なっている。