兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 子犬の社会化(あるいは社会馴致)
診療方針

子犬の社会化(あるいは社会馴致)

犬という生き物は、人間と同じく優れて社会的な存在である。 子犬の発達心理学については専門家ではないので、聞きかじりのうろ覚えではあるし、ここで社会化期の細かい分類をくどくどしく書き連ねてもそう意味のあることとは思えないので詳しくは書かないが、子犬が成長する過程で社会化期という時期を経ることが必要であると言われている。

そして、この時期に適切な教育がなされず、必要な経験を経ることが出来ないと、自分が犬であるという自覚を持てなくなってしまったり、異常に臆病になったり、攻撃的になったりすると言われている。

以前誰だったか、犬の訓練の専門家から聞いたことであるが、イタリアでお屋敷に住んでいるセレブが邸宅の防衛に使役しているのが、生後6ヶ月だか9ヶ月だかまでに主人以外の成人男性の姿を見せないように育てたベルジアンマリノワらしい。 そうして育てた犬を複数邸宅に放しておくと、侵入した賊を無条件で攻撃するので最強の防衛犬になるとのことであった。

これなどは社会化教育の知識のある意味逆の利用方法であろうが、同じことを我が国の狭い住宅密集地でやると、すごく問題になりそうである。

診察室で時々見ることであるが、異常におどおどしていたり、触ろうとすると牙をむいたりしてきちんとした検査をさせてくれなかったりする犬が結構いる。 そんな子の場合飼い主さんに聞くと、小さい頃獣医師に外に出すなと指導されていた事例が多い。

子犬の社会化期は、生後4ヶ月令までに過ぎてしまい、この時期は伝染病の予防ワクチンを接種しなければならない時期と重なるので、従来子犬の社会化教育に関心の薄かった獣医が、「ワクチンが済むまでは外に出さないでください。」と言い続けてきたまさにその時期でもあったのである。

もっとも、同じように育てられてもそんなに性格の歪みが生じない犬もいるので、生き物にはそれなりの個体差があるのだろうし、何でも絶対ということは言えないとは思うのだが、せっかく縁あって手許に来た可愛い我が子が円満で社会に受け入れられ易いいわゆる良い性格の子に育った方が良いと思うのが普通であろう。

そこで、具体的に子犬を育てるについてどうしたら良いのかという話しになるのだが、まず、ブリーダーの側としては、いわゆるパピーミルと言われて来たような工場まがいの子犬の繁殖場で子犬を生産することを厳禁としなければならない。

子犬は生後間もなくから家庭的な温かい雰囲気の中で人間に頻繁に触られながら育てられるべきなのである。 そして、ここ数年前から生後4週令で接種可能なワクチンが発売されているので、早期のワクチン接種を開始することが必要であろう。

そして、これから子犬を家に迎えようと思う人は、少なくともペットショップで展示販売されている子犬を避ける方が無難であるということを知るべきである。

何んとなれば、ペットショップで展示販売される犬の多くは、商品価値が下がらないように早くに親兄弟から離されて、オークションにかけられ、競り落とされることによって仕入れられている個体が多く、結果として犬同士の健全な付き合いを覚えなければならない大切な時期を犬社会から隔離されてしまって自分が犬であるという自覚を持てなくなったりしていることが多いと思われるのである。

私自身は、もともと子犬の展示販売には反対の考えを持っている。 こんなことを書くとまたペットショップの人たちに嫌われるのであろうが、あれは一種の虐待にあたると思うからである。

子犬を母犬や兄弟から離して新しい飼い主の許に移動させるのに最適な時期は、生後8週令から9週令くらいであろう。 この時期よりひどく早いと子犬は犬としての自覚、犬族との付き合い方を身に付けることが出来なくなるであろうし、反対にこの時期よりひどく遅くまで親兄弟だけの社会で育つと今度は人間社会に適応出来なくなってしまうのである。

従って、性格の良い子犬を求めようと思えばいろいろ調べて、一般の顧客にきちんと対応してくれるブリーダーさんから、少なくとも母犬を見せてもらって、生後8週令から9週令の子を購入するのがベストだと考えるものである。

日本のペットショップもヨーロッパ並みにショップ自体はフードや犬具を販売しつつ、子犬が欲しい人には紹介料をもらってブリーダーさんを紹介するような態勢を取るようにすれば良いのにと思うものである。

さて、そうして念願の子犬を入手した後は、まずかかりつけになるホームドクターの元に連れて行って検便とか簡単な身体検査を受ける。 この時期ならば子犬は既に1回か2回のワクチン接種を経験済みである。

子犬を受け取った時にブリーダーから次回のワクチン接種予定日を訊いておいて、獣医のもとでワクチン接種を受けるのであるが、ここで大切なことはワクチン接種後1週間は犬を移動することを控えるべきであるし、犬が新しい環境に移動したら1週間はワクチン接種を控えるべきである。

すなわち、子犬が新しい環境に移された時に、その犬は先行きの不安感から強いストレスを感じ、そのために免疫反応が正常に生じなくなって、ワクチン接種の効果がきちんと得られない可能性が高くなると思われるからである。 さらに、ストレス状態で体調不良の犬にワクチンを接種することによってその副作用も出易くなることも考えられる。

そうしてワクチンを接種しながら子犬を育てるにあたり、子犬を完全に外界から隔離して育てることは決して望ましいことではないと思う。 私の場合、ワクチンが終了していない子犬を抱っこしたり自動車に乗せたりして外の広い世界に接触させた方が良いと考えてその通りにしているのである。

子犬は成長する過程でなるべく多くの他人、特に成人男性や子供、老人などさまざまな年齢性別の人、なるべく多くの見知らぬ場所、見知らぬ犬や猫、その他の家畜と接触させた方がこの世のさまざまな物事やルールに慣れて適応力豊かな安定した良い性格に育つのである。

ただ、その場合、常に子犬が不要な不安感や恐怖を抱かないように安心させるように接触させることが大切なのは言うまでもない。