兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 猫の心筋症(猫の心臓病といえば何と言っても)
診療方針

猫の心筋症(猫の心臓病といえば何と言っても)

どんな病気なの?

犬における僧坊弁閉鎖不全症と並んで、猫では心筋症は後天性心疾患の大半を占める重要な病気である。

心筋症というのは、心臓を形作っている心筋という筋肉組織が何らかの原因で障害を受けて正常に機能しなくなったために生じる病気のことをいう。

心筋症には、肥大型、拡張型、拘束型、その他がある。 1980年代の終わり頃、拡張型心筋症の主な原因としてタウリンという物質欠乏が明らかにされてから、市販のキャットフードにはタウリンが添加されるよう になり、拡張型心筋症の発生は大幅に減少してしまった。 そのために現在では猫の心筋症といえば肥大型心筋症というのが一般的である。

猫の肥大型心筋症の原因には、特発性のものと、二次性のものとがあるらしく、特発性は若令から中令の牡猫に発生が見 られる。 特にメインクーンという種類の猫では常染色体優性遺伝であると解明されていて、これはペルシャやアメリカンショートヘアー種でも報告されているらしい。

二次性肥大型心筋症の原因は、中高齢の猫の場合甲状腺機能亢進症による全身性高血圧症がまず第一に挙げられるようだ。 次に成長ホルモンの過剰(末端肥大症)、さらにリンパ腫というリンパ球の腫瘍性疾患が心筋を侵した場合などがあるらしい。

肥大型心筋症の場合、心室の壁が異常に肥厚してその運動性が損なわれる。 そのために心臓が拡張する時に十分に血液を貯めることが出来ず、結果として収縮しても十分な量の血液を送り出すことが出来ない。

また、心筋症の猫では割と高い確率で心臓の中に血栓という血液の塊が出来ることがあり、これが抹消血管、特に大腿動脈に詰まって後ろ足が麻痺したりする重篤な大腿動脈血栓塞栓症という状態になることも多い。

心筋症の猫では、ごく軽症のものは無症状とかどことなく元気がない程度であり、病気に気が付かないことも多いようで ある。 しかし、これが重症になると、肺水腫や胸水の貯留で突然の咳や呼吸困難(呼吸が速くなったり、口を開けて呼吸したり)に陥ることがある。 心臓の1回拍出量が低下することによって、元気がなくなったり、強い運動に耐えられなくなったり、また、不整脈が発生したり、突然死亡したりと症状的には いろいろである。

診断はどうしてするの?

猫の心筋症の診断は、聴診、胸部レントゲン検査、心電図検査、心エコー検査を組み合わせて行なう。

聴診では心雑音が聴こえることが割りとあるのだが、この雑音は、僧坊弁で逆流が起きていたり、血液が左心室から大動 脈へ流出する際に異常が生じて起きることが多いようである。 心臓は常に無理をしているので、心拍は強く感じられることが多く、大腿動脈を触ってみると、血栓が詰まっている症例でなければ、その拍動はむしろ力強く感 じることが多い。

肥大型心筋症の猫では胸部レントゲン検査で、心臓の形が非常に特徴的なバレンタインシェイプトハートという、いわゆ るハート型に映って見えることがある。 これは左右の心房が大きく拡張しているということなのである。 猫によっては胸水(胸腔の中で肺の外側に溜まる水)が溜まっていたり肺水腫が観察されることがある。

心電図検査では、左心室拡大や洞性頻脈、左心房拡大の所見が見られることが多い。 また、房室ブロック、左脚ブロックという心臓内の電気信号の伝達異常所見も時々観察されることがある。

心エコーは、直接的に左心室の壁や心室中隔の厚みの増大や、左心房拡大、左心室の収縮率の増大などが特徴的な所見で、他に何らかの原因がなく、拡張期の最後の左心室後壁か心室中隔の厚みが6ミリメートル以上あれば肥大型心筋症と診断して良いということである。

治療法はありますか?

無症状の心筋症の猫には心臓の筋肉を保護し、柔軟性を保つ作用を有するカルシウムチャンネルブロッカー、ベータブロッカーという種類の薬を長期投与していく。 私はそのほかに、血小板の作用を阻害して血栓を作らないようにするための薬も投与するようにしている。

咳や開口呼吸のような呼吸器症状など何らかの臨床症状が発現している症例では、肺水腫があれば強めの利尿剤の投与、胸水が溜まっていれば胸腔穿刺でそれを抜いてやったりするとともに、ICUに収容して状態の安定をはかる。

また、大腿動脈血栓塞栓症が存在すれば、血栓を溶かす薬を使用したりする。なお、以前は大腿動脈血栓塞栓症の症例に血栓を除去する手術が適用されていたのであるが、最近はあまり奨励されていないようである。

その他、抹消循環を改善するために副腎皮質ホルモンを適量使用するとか、痛んだ肺組織に二次感染を生じさせないよう に抗生物質を投与するとかいろいろやるのであるが、この病気の予後(治癒とか悪化についての見通し)は、症状が発現している症例ではあまり良くない。うっ 血性心不全や大腿動脈血栓塞栓症を発症した症例では生存期間の平均が2ヶ月から3ヶ月とも言われている。

それに対して、何にも症状が現れていない症例や、心拍数が平常で一分間に200回以下の症例では結構長期間生存するとされている。