皆さんこんにちは
グリーンピース動物病院の更新担当の中西です
さて今回は
~高齢猫ちゃんの原因不明発熱~

高齢の猫が「熱っぽい」「元気がない」「食欲が落ちた」という状態で来院されることは珍しくありません。原因がすぐに特定できない発熱(不明熱)の場合、検査の組み合わせや解釈、治療の優先順位づけが大切です。本記事では、当院に寄せられた実際の症例をもとに、不明熱へのアプローチを整理します。
症例の概要
受診までの経緯と初期対応のポイント
1軒目の病院では発熱から「猫風邪」と判断され解熱剤で一時的に改善。しかし翌日に再発。2軒目ではレントゲン・超音波・血液検査の結果、腹水や小さな腎結石、腸管内の結石様所見が見つかったものの「原因不明」とされ、CTや開腹手術を提案されました。再度1軒目でFIP(猫伝染性腹膜炎)疑いとされ、コロナ抗体検査を外注、抗生剤と解熱剤の注射が行われました。
ここでの学び
追加検査:腹水検査が示したもの
高度医療機関での再評価では、X線・エコー・血液検査に加え、腹水の採取・評価が行われました。血液検査では軽度黄疸、リパーゼ・LDH高値、炎症マーカーSAAが150超(基準6以下)と著明高値。腹水は比重が高く、どろっとした滲出液で炎症細胞が豊富でした。ただし腹水のコロナウイルス遺伝子検査は陰性で、「FIPではない」との判断が提示されました(同日にレムデシビル投与の記録あり)。
ここでの学び
鑑別診断の整理
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FIP(猫伝染性腹膜炎):腹水の性状や炎症所見から強く示唆。ただし遺伝子検査は陰性。
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重度の非特異的炎症(膵炎など):高リパーゼや強い炎症反応から候補。
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腫瘍性疾患:高齢である点から鑑別に挙げるが、即断は不可。
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細菌性腹膜炎/消化管由来の合併症:画像所見や臨床経過と突き合わせながら検討。
これらを“総合”して、当面は「強い炎症に対するコントロール」を優先する方針となりました。

初期治療と反応
強力な抗炎症薬(膵炎での使用が認可、犬猫の重度炎症に実績のある注射薬)を皮下投与。食べられていないため皮下補液(乳酸リンゲル)を併用し、抗生剤の内服を処方しました。中1日で再診したところ、活力と食欲は回復傾向、体温は39.3℃→翌日39.1℃に低下。経過は良好でした。
ここでの学び
今後の方針
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寛解が続くかを慎重に観察し、再発や悪化があれば大学病院への紹介を検討。
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検査結果の「陰性」を過信せず、臨床所見・画像・体腔液・経過を重ね合わせてFIPを含む鑑別を継続。
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飼い主さまと情報を共有し、治療の選択肢(支持療法・抗炎症治療・抗ウイルス薬の適応評価・侵襲的検査の是非)を段階的に検討します。
飼い主さまへのアドバイス
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「熱が下がった=治った」ではありません。 再発が多い場合は追加検査が必要です。
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検査は組み合わせが重要。 血液・画像・体腔液の結果を総合して診断精度が高まります。
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陰性結果の解釈に注意。 特に感染症の遺伝子検査は、採材や病期で鋭敏さが変わることがあります。
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通院頻度とモニタリング。 体温・食欲・元気度・呼吸状態・排泄の変化は、早期悪化のサインです。小さな変化も共有してください
まとめ
高齢猫の不明熱は、単純な上部気道炎では説明できないことが多く、**腹水の性状評価や炎症マーカー(SAA)**を含めた総合判断が鍵になります。本症例では、強力な抗炎症治療と補液・抗菌薬の併用で臨床的に改善が得られましたが、根本原因の確定には引き続き慎重な観察と再評価が必要です。気になる症状があれば、早めにご相談ください。