兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 皮膚科
院長ブログ

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柴犬の痒みを伴う皮膚炎

もうすぐ7才になる柴犬の男の子の話しです。

4ヶ月前から最初は背中の皮膚が痒くなって毛が抜けて来たという事で、最初は近医に受診して。
抗生物質とステロイドホルモンで最初とその次の月は10日間治療して。3ヶ月目には20日間治療して。ある程度良くなったので休薬したら、痒み脱毛がみるみるひどくなって来たということで当院に受診されたものです。

初診時の皮膚の状態を見てみましょう。

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こんな感じでした。

こういう症例には、痒みを伴う犬の皮膚炎の原因として、一般的な7つの原因である、
細菌感染、皮膚糸状菌感染、マラセチア感染、疥癬症、毛包虫症、食物性アレルギー、アトピー性皮膚炎をひとつひとつ除外して行くしかありません。

初日にやった検査は、皮膚の細菌培養と薬剤感受性試験、皮膚糸状菌の培養、日本全薬工業がやっているチリダニグループ2アレルゲンIgE抗体検査(いわゆるアトピー体質の検査)の3種類です。

初日の治療をしては、アトピー性皮膚炎の特効薬である強力な痒みを抑える分子標的薬ととりあえずの抗生物質、皮膚に住む疥癬と毛包虫を駆除できる滴下剤の処方をやりました。

翌日からは、薬剤感受性試験に基づく適切な抗生物質の投与を行ないます。この時点で皮膚の痒みはかなり改善していて、掻く回数が激減していました。

来院1週間後には皮膚糸状菌培養結果が陽性になっていましたので、血液検査を実施して内臓機能が正常であることを確認した上で経口抗真菌薬を処方すると共に、抗真菌剤入りシャンプーとセラミド入り皮膚保湿剤の滴下を週に1回実施するよう指示します。

日本全薬のアトピー体質検査の結果は11日後に報告がありまして、抗体価ワンプラスという結果でしたので。3回目来院時に飼い主様に説明しました。

飼い主様曰くは、治療前どことなく元気が無い感じだったのが、最近は元気はつらつという感じになったとのことでした。

ここまで来たら、後は皮膚が正常になるまで治療を続けるだけです。

初診から1か月半で、皮膚被毛の状態はほぼ正常に回復しました。血液検査のデータも正常で、抗真菌経口剤による肝障害も生じておらず。皮膚糸状菌の培養検査も培養9日目でも全然生えて来ていませんから、皮膚のカビも退治出来たと思います。

ここで、初診時と治療1か月半の皮膚被毛の状態をビフォー&アフターの画像で比較してみたいと思います。

ビフォー

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アフター

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ビフォー

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アフター

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ビフォー

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アフター

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ビフォー

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アフター

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治療効果がはっきりと判ると思います。

今後は、アトピー性皮膚炎の治療薬の痒みを抑える分子標的薬を内服して、保湿シャンプーと保湿剤の滴下で管理出来ると思いますが。冬季には治療を休んでも大丈夫かも知れません。

飼い主様もすごく喜んでいました。お力になれて私たちも嬉しいです。

ではまた。

 

 

 

柴犬の皮膚病(主原因はアトピー)

今日の症例は、3ヶ月半前に初診の柴犬10才避妊済み女の子です。

来院2年前に皮膚炎が始まって。近医で治療するも却って悪化して。少し遠い動物病院で治療したらいったん良くなったものの、最近また悪化したので当院に受診したということです。

初診時の皮膚症状は画像の通りで、強い痒みを伴っているということです。

なお、食事はアレルギー性皮膚炎に対応しているという市販のドライフードを与えているということです。

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この子には、皮膚の掻き取り試験と、皮膚の細菌培養と抗生物質感受性試験に皮膚糸状菌培養検査。それに日本全薬工業㈱が実施しているアトピー性皮膚炎であるかどうかの血液検査を行ないます。

皮膚にトンネルを作る疥癬というダニとか、毛根に生息する毛包虫に関しては、掻き取り試験では見つからなかったのですが、保険として3ヶ月間効力のあるダニ駆除薬を与えました。

薬剤試験で判明した効果ある抗生物質と、皮膚糸状菌培養で陽性だったので内服の抗真菌薬の投与。皮膚に住む細菌や真菌をコントロールするシャンプーとその後の保湿剤の使用。それにアトピー性皮膚炎であるとの血液検査の結果に基づく痒みをコントロールする分子標的薬の内服を実施します。

次の週から皮膚の状態はどんどん改善して行きまして。

約1ヶ月後に画像を撮影してみますと。

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被毛の状態がかなり改善しているのが判ると思います。痒みも改善されてほとんど掻かなくなっているのと、夜眠れなかったのがぐっすりと安眠出来るようになっているということでした。

その後、治療開始から2ヶ月半くらいになったところで、抗生物質や抗真菌剤の内服は打ち切りまして。痒みをブロックする分子標的薬の内服と週に1回のシャンプーと保湿剤の適用で治療を継続して。

先日3回目の画像撮影を行ないました。

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被毛は9割方生えそろっています。後はアトピー性皮膚炎という体質であることを認識して、治療を継続することが大切であるということをお話ししていますから。

今後もボチボチ治療を続けて行くことで良い状態の皮膚被毛が維持されて行けると思います。

最後に、初診の画像と治療開始3ヶ月半の画像を、ビフォー&アフターという形で見ていただいてお終いにしたいと思います。

ビフォー
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アフター
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ビフォー
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以上です。有り難うございました。

柴犬の皮膚病(食事性アレルギー?に細菌と真菌感染が併発)

今年16才になる柴犬のこう太君、初診は2019年4月12日ですが。昨年秋口より皮膚がひどく痒くなって、11月から近医で抗生物質と痒みを抑える分子標的薬の併用で治療しても、思うように治療効果が上がらず、来院1週間前から抗アレルギー薬をステロイドホルモンに変更しているということでした。

とにかく痒くて痒くて夜も眠れず可哀相なくらいだということです。

初診時の皮膚の状態を撮影してありますので。掲載しておきます。

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それまで治療していた獣医師は、特にこれといった検査とかはやっていないみたいなので。当院では最初に、皮膚搔き取り試験と皮膚糸状菌培養試験、皮膚の細菌培養と薬剤感受性試験を実施しました。

皮膚搔き取り試験は陰性でしたが、この試験では毛穴に棲む毛包虫はともかく、皮膚にトンネルを造って水平移動する疥癬虫は検出出来ないこともありますから、疥癬虫も毛包虫も一気に駆除可能で安全性も高い内服タイプのダニ駆除薬を与えてもらいます。

しばらくの間毎週通院してもらいながら、経過を見て行きますが。なかなかに苦戦です。皮膚の細菌には感受性試験で利くはずの抗生物質を投与していますし、皮膚糸状菌の検査も陽性なので、こう太君が家で使用しているケージや敷物、生活環境のカビの駆除を徹底するように指導させていただきながら、経口抗真菌薬も投与しますが。感染に対する治療も完璧なのに、治療効果は今ひとつです。

そうなるとアレルギー性皮膚炎の可能性も高いように感じますが。アレルギーのうちアトピー性皮膚炎は、その多くが生後6ヶ月令から3歳令までの間に発症します。15才や16才という高年齢での発症は無くもないでしょうが。いきなりそうと決めつけるのもどうかと思います。
であるならば、食事性アレルギーはどうか?という話しになります。

食事内容について聴き取りを試みます。昨年春に膵炎を発症して、低脂肪の処方食を6月から与え始めて、皮膚の痒みは9月からの発症だということです。

食事は加水分解蛋白質で、それも分解の程度が相当細かいところまで分解している食事に切り替えてもらうことにしました。
同時に、スプレー式のステロイドホルモンで、局所で作用したらそこで分解して、全身に副作用を生じにくい外用剤も1日1回使ってもらいます。

食事変更すると、翌週から痒みの改善がはっきり出て来ました。

ただ、皮膚糸状菌感染が頑固で、新たな病変が発現したりするので、抗真菌剤入りシャンプーや抗真菌剤クリームなどを併用しながら内服を続けます。

アトピー性皮膚炎は一応考えないというスタンスでやっていましたが、食事の変更で減ったとはいえ、どうしても痒みのコントロールが難しいので、最終的に経口ステロイドホルモンと分子標的薬の抗掻痒薬の併用を、試みました。

そんなこんなでやっていると、治療開始から3ヶ月くらい経過した頃にはかなり改善してきまして。

下の画像は治療開始後約6ヶ月の皮膚の状態ですが。素晴らしく良い状態に回復しました。

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なお、食事については、加水分解蛋白食では異常に糞便が硬くなって生活の質が良くないと思われるくらいまでになって来たので。こう太君がそれまで食べたことの無い新規蛋白食に変更しました。具体的にはカンガルーとオーツ麦を主原料とする食事です

現在は皮膚に関しては、皮膚糸状菌の治療も終了して、食事と抗アレルギー薬の内服だけになっています。

なお、年齢によるものでしょうが、認知機能の低下による旋回運動が当初から見られたので、脳内のセロトニン濃度を保つお薬の内服で対応して、それもかなり改善しております。

最後に初診時と治療6ヶ月の皮膚被毛の状態の比較画像を再度掲載しておきます。

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こう太君気分良く生活出来るようになって良かったです。

ではまた。

寄生虫性皮膚炎(疥癬)

しばらく前に初診で来院した性格の穏やかな素晴らしい四国犬の男の子の話しですが。

2ヶ月前から前足の先をひどく咬み始めて。徐々に病変が全身に広がって行って。

近くの動物病院に受診して治療を開始したのは痒くなり始めてすぐでしたが。一向に改善しないで、悪化するばかりということで。当初使用していたステロイドホルモンを内服すると下痢をするので。現在は軟膏塗布により治療をしているようなことだそうです。

病変はほとんど全身に広がっていまして。本当に痒そうであります。

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しかし、よくよく見ると、身体の下半分がよりひどい傾向があるような。

飼い主様に、痒みを主訴とする皮膚疾患は、ざっと勘定して7種類あること。その原因をひとつひとつ消去して行って、残る原因がアトピー性皮膚炎になるのだが。アトピー性皮膚炎の多くは生後半年から3才までの間に発症する等の話しをしつつ。

7つの原因の消去法として、疥癬や毛包虫(アカラス)を駆除することが出来る3ヶ月有効なマダニノミ駆除剤の処方。皮膚糸状菌の培養、細菌の培養と薬剤感受性試験を進めて行きます。

そこで、病変部の見た目とか分布とかを見ていると、どうしても疥癬を検出する皮膚搔き取り試験をやらなければならないかも?という気になって来まして。

鋭いエッジのついた鋭匙という道具で皮膚を搔き取って、取れた組織を水酸化カリウムとDMSOというお薬との混合液で溶かして、顕微鏡で見てみると。
あれあれ、疥癬が沢山見えるではありませんか。

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小さい倍率で見たのが上の画像で、拡大してみると下の画像のように見えます。

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疥癬も卵を産みまして。産んだ卵も下の画像に見えています。

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この四国犬は可哀相に疥癬という非常にクラシックな皮膚の寄生虫に侵されて、それを最初に受診した動物病院で見落としたものですから、2ヶ月もひどい痒みと皮膚の炎症で苦しんでいたのだと思います。

最初に処方した3ヶ月有効なノミマダニ駆除剤を帰宅して内服させるように指示して帰ってもらいました。

翌日に皮膚の細菌の培養と薬剤感受性試験に基づいて抗生物質を処方する時に、飼い主様が言うには、「久し振りに夜眠るようになりました。」ということでした。

次の週に来院した時には、痒みはほとんど無くなっていて、食欲も増進して来たとのことです。その時点では皮膚の状態は見た目にはそんなに改善はしていませんでした。

最初に培養した皮膚糸状菌培地にはカビが生えていて培地の色も赤く変色してましたので、皮膚糸状菌の2次感染も生じていたようですから。内服タイプの抗真菌薬も処方しました。

その次の週に来院された時には、皮膚の状態は見た目もかなり改善してました。画像でははっきり判り難いかも知れませんが、画像を掲載しておきます。

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もっと良くなった画像は後日掲載すると思いますが。

この四国犬はこれで治って行くと思います。

疥癬の感染源は、推定ですが、飼い主様のお住いの近くに疥癬に罹った狸か狐が居たのではないか?と思われます。

この子の場合全身状態がひどく悪くなっていて、体重も進行性に減少して行きつつある状態だったので。診断が付かなかったらそのうちに皮膚の炎症に疲れ果てて死亡する可能性が高いと予想されます。

疥癬なんて過去の病気だなんて決めつけないで、初心に帰ってきちんとやるべきことをやらなければならないと再度確認出来た有り難い症例でした。

最後に、更に2週間くらい経過して来院した状態は、皮膚の状態も被毛の状態も随分良くなっていて。体重もかなり増えて、一見して幸せそうな状態になってました。
培養検査で確認された2次感染と思われる皮膚糸状菌も制圧されて来ていて、今回の処方で内服薬もお終いかな?という感じでした。

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この子の治療は以上です。

最後に初診の時の皮膚と最近の皮膚の画像の比較を載せてみます。同じような構図の画像を二つ並べます。上が初診、下が最近のです。

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直接見るとその変化は大きいのですが。画像にするとどうなんかな?注意してみると大きな変化が判るとは思いますが。

ではまた。

 

ウェスティーの皮膚病の1症例

2ヶ月前に初診の、少し離れた街から来院されているウェストハイランドホワイトテリアのもうすぐ9才になる女の子の話しです。

昨年8月(初診の7ヶ月前)から脱毛とひどい痒みに悩まされているそうです。

近医でアポキルという痒みを強力にコントロールする錠剤を処方されて。最初の2週間の導入量を内服している間は痒みは止まっていたのが。3週間目に入って導入量の半分の維持量に移行すると利かなくなってしまい。その後ノルバサンシャンプーという細菌を殺す効果の強いシャンプーを続けながら、現在に至っているということでした。

その時の皮膚の状態は。

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こんな状態です。脱毛部の皮膚はひどく分厚く硬くなっていて、皺だらけです。この状態を苔癬化といいます。

特徴的なのは、フケ(皮膚科の世界では鱗屑と呼びます)が異常に多いということです。

因みに、背中側の皮膚には異常は見られません。

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病変が喉元から尻尾にかけての主に腹面に集中しているのが一つの特徴です。

一般的なアトピー性皮膚炎の発症年齢は生後6ヶ月から3年の間が多いので。それとはかなり異なります。

聴けば、2年前に同居犬のウェスティーも同じような脱毛症を患って、結局死亡してしまったということです。

この子も、全身的には進行性の削痩が進んでいます。痒みで安眠出来ないということ、皮膚の炎症が激しくて、炎症と闘うために身体がひどく疲れているためです。
このまま放置していると、この子もやがて疲れ切って死に至るのが予想されます。

飼い主様に、一般的に痒みを伴なう皮膚の病気は7種類ほど存在しているので。それらを除外して行くようなやり方で診断と治療を試みてみますとお伝えして。

初診日には、皮膚の搔き取り試験(ニキビダニと疥癬虫の検査)、細菌培養と薬剤感受性試験、皮膚糸状菌の培養検査を行なうと共に、基礎疾患としての甲状腺機能低下や副腎皮質機能低下症などを除外するための血液検査を実施しました。

この日は、ニキビダニと疥癬虫を強力に駆除する経口タイプ皮膚殺ダニ剤を処方して。ノルバサンシャンプーの後に皮膚に滴下する保湿剤と皮膚の必須脂肪酸のサプリをお渡しして帰ってもらいました。

翌日、細菌培養と薬剤感受性試験の結果が出ました。生えて来た菌はかなり手強そうな薬剤耐性菌であります。
その結果に基づいて、最も有効である抗生物質と、導入量のアポキル、抗生物質が胃を荒らして食欲不振を起こす可能性が高い薬なので、胃酸分泌を制限して嘔吐を防ぐお薬の組み合わせを処方しました。

1週間後の再来院時には、痒みがコントロールされていて夜に眠れるようになったことと。手足の毛が気持ち長く伸びて来たということです。

最初と同じ処方でお薬を出します。

同時に、加水分解蛋白質を蛋白源にした食事性アレルギー対応の処方食をお渡ししました。この食事と水だけで少なくとも2ヶ月間は食事性アレルギーを除外する試験的治療を行なうのです。

また、違うとは思うのですが。一応念のためにアトピー性皮膚炎の際に見られる環境中のチリダニグループのダニに対するIgE抗体が存在するのかどうかという血液検査も実施しました。

次の診察は、初診から約2週間です。発毛しつつありとのことです。前回の近医での治療では、アポキル単独の投与でして、導入量で痒みはコントロールされていたが、発毛はしなかったということです。
なお、アトピーのIgE抗体検査では(-)という結果でしたのと。皮膚糸状菌の培養検査結果は陽性でした。

皮膚糸状菌のコントロールは、今のところ症状がコントロールされているので、主原因はアレルギーか細菌の2次感染と判断して、糸状菌をやっつける内服薬は当面処方しないこととしました。

この日の処方から、アポキルは維持量にします。導入量の半分です。半量にすると普通に軽い痒みが発現するのですが。それをどうクリヤーするのかがある意味課題になります。
アポキル以外の処方はそれまでと同じでした。

約2週間目の皮膚の状態の画像です。

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皮膚の苔癬化はなかなか改善しません。相変わらず皮膚は分厚くて、あちこち溝が見えています。脚の辺りは若干の発毛が見られます。

アポキルを維持量に変えて1週間経過した時の診察では。やはり少し痒みが発現していました。

ここで、次の一手を出してみます。

アンテドラッグという形態の皮膚に直接塗布するステロイドホルモンです。

このお薬の特徴は、強力に皮膚の痒みを抑え込んだ後は、局所で分解されて全身には副作用を及ぼさない形になってしまうので。長期かつ基準量をしっかり使用しても、全身に副作用を及ぼさないということです。

このお薬は日本に入って来て数年経過していますが。どこの獣医さんでもそんなに素晴らしいという評価を聴きません。
しかし、それにはちゃんと理由がありまして。飼い主様に使用する部位と使用量をきちんと説明されていないために、絶対的に使用量が不足しているということが原因なのであります。

そこで、飼い主様に説明する際に。お薬に添付の犬の画を使用して。症状のひどい脱毛部で10センチ×10センチの四角を体表にイメージしていただきます。そして、その四角のひとつ当たりにスプレーの頭を2押しして液を皮膚に付けて。それを指で擦り込むように塗り広げてやることと。
お薬を皮膚に塗り広げた後は30分だけ犬がお薬を舐めない時間を作ってやることを理解していただきました。

この子は、10センチ×10センチの四角が14区画ありますので。毎回28プッシュを投与することになります。1プッシュが0.13ミリリットルになりますので。毎回3.64ミリリットル消費する計算になります。1週間で25.5ミリリットルくらいです。

そういうことで、最初の1週間は31ミリリットルのボトルを処方して。1週間後にそのボトルを持参していただき、実際に投与した量が指示通りかどうかのチェックまできちんとやります。

内服薬はそのまま維持します。

塗り薬の投与を2週間毎日実施していただいた後の皮膚の状態は下の画像の通りです。

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胸と腹の皮膚にはまだ発毛がまばらですが。首や肩、脚部に尻尾の皮膚には白い綺麗な毛がかなり生えて来ています。
それと、皮膚の肥厚がかなり改善して来て。皮膚が薄く滑らかになっています。
痒みは全くと言って良い程生じていなくて。夜も熟睡出来ているということです。

この時点で、細菌の2次感染はコントロール出来たと判断しまして。抗生物質の内服は中止しました。
それまで使用していた抗生物質は、やはり胃や腸に負担をかけているみたいで。どうしても処方食の喰い付きが悪いという訴えもありました。

従って、内服はアポキルの維持量のみとなります。アンテドラッグステロイドの塗り薬は、毎日から1日置きと投与間隔を少し開けることにしました。

その2週間後、本日ですが。皮膚の状態は以下の通りです。

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発毛が進んでいます。皮膚もほとんどが滑らかで薄く、かなり健康的な感じです。

ただ、少し課題もあるのは。喉元の皮膚に若干の苔癬化が残っていること。この2週間の間3回ほど足の裏を舐める行動が見られたことです。

その対策として。喉元と足先だけ塗り薬を毎日使用することを指示しました。その他の部位は1日置きで行ないます。
内服はアポキル維持量のみ。食事は加水分解タンパク食のみを継続します。

2週間後には血液検査を実施して、アンテドラッグステロイドが内臓機能に副作用を及ぼしていないかどうか?をチェックする予定です。

ここまで来ればこのウェスティーちゃんのアレルギーの管理は道筋がついたと考えています。
今後、食事面ではどんな蛋白質に反応して症状が出るのか?を検証することと。皮膚が健常な状態になった後は、アポキルの内服と週に2回程度のアンテドラッグステロイドの継続使用により再発を予防して行くことが肝要であります。

このブログを最初にアップしてから2週間経過して、経過観察来院がありました。皮膚の状態は更に改善していて。アンテドラッグステロイドの副作用チェックのための血液検査では、副作用は全く無いと言って良いほど値は正常でした。

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最後に、初診時と約64日後の同部位の画像を並べてみて、治療効果を実感してみたいと思います。上の画像が初診時、下が約64日後になります。

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今日のところは以上です。お読みいただいて有り難うございました。

ではまた。

猫の心因性脱毛症

アビシニアンの4才の女の子の話しですが。

この冬から3日に1回咳がひどく出るようになって、近医で猫ぜんそくの疑いありと言われた他、血液検査でコロナウィルスのキャリアであるとされたとのことです。

今回は毛が抜けているということで、受診されました。

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両側の上腕から肩の皮膚の被毛が無くなっています。

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脱毛部には特に赤いとか丘疹のような炎症像は見当たりません。

とにかく熱心に患部を舐めているということでした。

猫の皮膚病はなかなか難しいところがありまして。どちらかと言うと苦手なのですが。とりあえず、細菌培養と薬剤感受性試験に皮膚真菌の培養試験を実施しました。

しかし、細菌も真菌も生えて来ませんでした。

正直良く判りませんので、軟膏を処方して朝夕塗布するようにお伝えしました。

1週間後の再診では、脱毛部に発毛が見られ始めたとのことで。住居の清掃を徹底したところ、ぜんそくの発作も生じなくなったということでした。

コロナウィルスについても以前の検査から半年は経過しているらしいので、当院で採血して検査に出してみたところ、100倍という検出限界ギリギリの抗体価でした。

皮膚については軟膏の塗布を継続すること、コロナウィルスについては感染は一過性のものに終わる可能性があるので半年後に再検査をしようとお伝えしました。

ところが2回目の受診から11日後に来院された時に、皮膚症状が急激に悪化したということです。

飼い主様はストレスによる知覚過敏ではないのか?という疑問を持たれてましたが。私と塩手はぜんそくの既往があることにひっかかってまして。アレルギーを除外するためにステロイドホルモンを処方してみました。

その次に受診された時には、ステロイド処方後しばらくは舐める動作が消失したとのことでしたが。ある日飼い主様の都合で猫ちゃんのお気に入りの場所に入ることを制限した途端、皮膚を激しく舐め始めて毛の擦り切れ部分が急速に拡大し始めたらしいです。

そこで、試しに投薬したのが人間で抗うつ剤として使用されているお薬です。動物では問題行動の治療に使われてまして。教科書的には原因がはっきりしない脱毛症にこのお薬を処方して治療に反応した場合には何らかの精神的な要因が存在するとされていますので。入室制限が舐める行動発現のトリガーになったという情報もありますので、試験的に使用してみることにしました。

すると、約1週間後の再診時には、舐める行動はほとんど消失し。

1ケ月後には舐める行動が消失した結果、被毛の擦り切れは生じなくなって、被毛の状態は劇的に改善して来たということであります。

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私もびっくりの結果でしたが。

猫の皮膚異常が心因性であると診断した際には、その原因になる要因、例えば家族構成や家族の行動パターンの変化、新しいペットの導入、監禁、退屈などを調べて。

猫ちゃんの環境を変えることで症状を改善することが望ましいと教科書には書いてありますが。
正直なところ、猫の言葉が判りませんので、カウンセリングはとても困難であります。
飼い主様に心当たりのある環境要因や家族要因について変更出来ることは変更してもらって。
当分の間抗うつ剤の投薬を続けて、落ち着いた頃に休薬して様子をみようと思います。

今後同様な炎症像に乏しい良く判らない脱毛症を診察した時には、試験的に抗うつ剤の投薬を試みて、反応が無いようであれば、それからアレルギーを疑って投薬なり食事の変更成りを考えても良いかも知れません。

 

痒みをコントロールする新しい分子標的薬

今年の夏は、獣医皮膚科診療においては、非常に画期的な新薬が発売されました。

その薬は、オクラシチニブという成分名で、商品名はアポキルと言います。

欧米では数年前から日常診療に使用されていて、素晴らしい効果を上げているということでしたので。  勉強熱心な先生方は、既にその存在を認識していて、日本国内販売を渇望されていたようですが。

我が国でもやっと農林水産省の審査が通って販売されるようになったものです。

アポキルは、分子標的薬という特定の分子に作用してその働きを制限するお薬の一種で。  ターゲットになる分子は、皮膚の痒みを生じさせるサイトカインの信号伝達に関与するヤヌスキナーゼという物だそうです。
小難しい話しは省略して。  要するに痒み生じさせる生体の連鎖反応を途中でブロックするお薬だと考えれば良いと思います。

どんな薬もそうですが。このお薬にも、それなりに特徴があります。  それは。

1、基本的にアトピー性皮膚炎の痒みに対しては非常に有効である。  メーカーの推奨量を守って投薬する限りにおいては、ステロイドホルモンのような副作用はまず生じない。

2、食物アレルギーに対しては、アトピー性皮膚炎ほどには利かない。 通常量の倍を使用すれば何とか抑えることは出来るけれども。 倍量使用を継続すると他の免疫反応一般を低下させてしまうという問題を生じさせる可能性が出て来る。

3、痒みに対して有効な症例では、投与の当日から痒みの著しい低下が認められ。 素晴らしい即効性が確認された。

4、アポキルを使用する場合。  最初の2週間は維持料の2倍の量を投与する。  2週間経過して良好な反応が得られたら、導入量の半量の維持料に減薬するが。  その際に少し痒みが戻って来ることがある。  その場合には。 局所使用に特化したステロイドのスプレーを使用したりすることもあるが。  たいていの場合戻った痒みも我慢が出来る範囲のことが多く、2週間から3週間経過すると再び落ち着いて痒みを感じなくなることが多い。

5、総てのアレルギーの犬について、ステロイドホルモンよりも有効であるとは限らない。  当院でのほとんどの症例ではアポキルの導入により、ステロイドから離脱出来たのであるが。
たった1例だけ、投薬何回かに1回嘔吐して、痒みのコントロールも上手く行かないで。 飼い主様のご希望で少量のステロイドホルモン1日置きの投与で快適な生活に戻った症例もあります。

しかし、ごく少数の例外を除けば、適切な症例として判断して投与している多くの子らは、このアポキル錠のお陰で夜も痒くて眠れないこともなくなって、快適な生活を送ることが出来るようになっています。

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こじれていたアレルギー性皮膚炎

お久し振りです。

今日の症例は、もうすぐ生後14才になる日本犬雑の男の子ですが。3才になる頃に皮膚に痒みと発疹脱毛が生じて。

近くの獣医さんで「草木アレルギー」と診断され。抗生物質とステロイド&抗ヒスタミン合剤、肝機能庇護剤の内服。外用剤として、ステロイドホルモンのスプレー、ステロイド&抗菌剤&抗真菌剤合剤軟膏という治療をずうっと継続して来たが。

全然改善せずで。今まで高級車が買えるくらいお金を使って来たということです。

この度グリーンピース動物病院を聴き合わせて転院されて来たそうですが。私にこの子の症状を改善させることが出来ますかどうか?

皮膚症状を見ると。

背部皮膚に脱毛が数ヶ所ありまして。両側鼠蹊部に赤色斑があります。最も辛いのが夜も眠れないほどの痒みということですから。

アレルギーを疑う以前に、まず痒みを生じる皮膚病を除外することから始めようと思います。

同時に、もう10年くらいステロイドホルモンとか内服を続けて来たということなので。採血して全血球計数検査、血液生化学検査を詳しくやります。

まず、皮膚に非常に強い痒みを生じさせる病気の代表格としての疥癬と、毛包虫を除外するために、皮膚掻き取り試験を実施します。鋭匙で掻き取った皮膚の組織をお薬で溶かして顕微鏡で詳しく観察しましたが、疥癬や毛包虫のような皮膚の寄生虫は見当たりませんでした。

血液検査では、総コレステロールとアルカリフォスファターゼが高値でしたが。これは長年のステロイドの内服に依るものと思われます。他に炎症マーカーである犬CRPが0.8mg/dlと、基準参考値をわずかに上回っていますが。これは皮膚炎に起因するものかも知れません。

脱毛が生じている部分の被毛を抜き取って、真菌培養検査の培地に植え付けて。脱毛部を滅菌生理食塩水で濡らした滅菌綿棒で入念に擦って、取った材料をミューラーヒントン寒天培地に塗り付けて。12種類の抗生物質についてどれが利くのかという薬剤感受性試験を院内で行ないます。

院内の薬剤感受性試験は翌日に結果が出ますので、それに基づいた適切な抗生物質を内服させます。また、真菌培養も3日後には皮膚糸状菌(人の水虫菌と同じようなカビ)が生えたという結果でしたので。1週間後から経口抗真菌剤の内服を開始しました。

この2種類のお薬の内服で、治療開始後3週間経過すると、掻いたり舐めたりという痒み症状が約70パーセントは改善したとのことです。

治療開始後3週間の時点で、動物アレルギー検査株式会社による「アレルギー強度試験」を実施しました。
やることは、採血して、冷蔵宅急便で検体を検査センターに送るだけのことですが。その子がアレルギーを生じやすい状態であるかどうかを正確に判断してくれると思ってやっています。

帰って来た返答は、下の画像の通りでした。

CCR4/CD4が高値であるということは。アレルギーの際に出現するリンパ球の数が多いということですから。その子がアレルギーを起こしやすい免疫状態と考えて良いのです。

アレルギー強度検査は検体を送って2日後には返事が来ましたから。結果が返って来た翌日にはこの結果を飼い主様にお伝えして。

いよいよ、血液中のアレルゲン特異的IgE(1型アレルギーの検査)とリンパ球反応検査(Ⅳ型アレルギーの検査)を行ないます。今回も採血して検体を動物アレルギー検査株式会社に冷蔵宅急便で送るだけです。

今回は、結果が返って来るまで1週間以上かかりました。

結果を見てちょっとびっくりしました。

アレルゲン特異的IgEもリンパ球反応検査も、調べた項目総てで陰性だったのです。

これはどういうことかというと。調べた項目以外の何かに反応してアレルギー反応が生じている可能性があるということなのかも知れません。

ただ、こうして検査をしている間にも、薬剤感受性試験と真菌培養検査に基づいた投薬を続けてましたが。わんちゃんはほとんど痒みを表現することなく。

皮膚病は治ったんちゃう?という素晴らしい状態になっております。

飼い主様も高額なアレルギー検査であっても。当面食べ物に関して大体はわんちゃんが好きな物を与えても心配ないという結果に喜びを感じているらしく。また、アトピーや花粉症も大体は否定されるということで、かなり安心されていました。

ただ、アレルギー強度試験では陽性であるのに。具体的なアレルゲン物質が特定出来なかったことについては。将来的に不安は残ります。

思うに、最初に治療した獣医師が、根拠不明な「草木アレルギー」という診断の元、2次的な病変である細菌感染に対して、ステロイドホルモンと共に薬剤耐性が生じやすい系統の抗生物質を漫然と長期間にわたり処方し続けたことなどが、この子の状態を悪化させていたのではないか?という疑いを捨て切れません。

細菌感染と言えば、過去に受講したセミナーでは、ブドウ球菌に対するアレルギーを持つ動物が存在するということを聴いたことがあります。動物アレルギー検査株式会社の検査では細菌及びその毒素については対象外になっていますので。確定は出来ませんが。
その場合には、薬剤感受性試験を繰り返しながら適切な抗生物質を処方しつつ、マラセブシャンプーとかノルバサンシャンプーのような抗菌剤入りシャンプーの使用などで細菌感染をコントロールして行かなければならないでしょう。

現在このわんちゃんは、状態良好につきステロイドホルモンを処方せずに。抗生物質も打ち切って、マラセブシャンプーで週に1回洗浄するだけで経過を見ているようなことであります。

今後については不明な点もありますが。このまま痒みを感じることなく生活出来れば良いと思います。

特に皮膚病の症例では、他院からの転院の子で、疥癬や毛包虫の見落としとか、細菌の2次感染への対応のまずさから不必要に状態が悪化している例が目立つように感じられます。

ある症例なんか、2軒受診した動物病院の2軒共が、その子の皮膚を見るなり、「これはマラセチアだ。」と検査も無しに断定して、数年間延々と同じお薬を処方し続けていたのですが。全然改善しなくて。
私は、症例の皮膚を見ただけでそれをマラセチアと断定出来るほどの知識を持ち合わせていませんので、一からということで皮膚掻き取り試験を行なったところ、毛包虫が検出されて、薬剤感受性試験に基づく適切な抗生物質の投与と共に毛包虫の治療を行なったところ皮膚症状は著しく改善したものであります。

まあ、そうは言っても。私自身の症例も。もしかして私の見落としを他院で指摘されているようなこともあるかも知れません。

持って他山の石として。気を引き締めて日々の診療に当たりたいと思います。

ではまた。

 

 

 

 

犬のアトピー性皮膚炎に対する減感作療法

アトピー性皮膚炎は、アレルギー疾患のひとつと考えて良い皮膚疾患です。

皮膚に痒みなどの症状を起こすアレルギー性皮膚炎は、アトピー性皮膚炎以外にIgEという抗体が関与する食物アレルギー(1型アレルギー)と、リンパ球が直接反応する以前は食物有害反応と呼んでいたⅣ型アレルギーとがあります。

アトピー性皮膚炎の診断は、簡単なようで難しいところがありまして。食物アレルギーも含めて、細菌性皮膚炎、真菌性皮膚炎、寄生虫性皮膚炎(疥癬、毛包虫症、蚤アレルギー)などの他の病気を正確に除外して初めてアトピー性皮膚炎と呼ぶことが出来るのですが。

他院の例ですが。診療の最初にアレルギーもあったと思うのですが。2次的な細菌感染と真菌感染に対する対応が甘くて、細菌が耐性を獲得して全然利かなくなっている抗生物質とステロイドを何年もの間漫然と投与し続けている症例が転院して来る例が結構多くあります。

私の場合。アレルギーかどうか怪しいと思われるわんこが来院した時には。その子に他院での治療歴が無い場合にはなるべく早くに。他院での治療歴があって、しかもステロイドホルモンの内服薬を処方されている子の場合には、ステロイドホルモンを休薬して症状が強く出るようになった時点、あるいは4週間から最長で6週間経過してステロイドの影響が消失したと思えるようになった時点で。動物アレルギー検査株式会社のやっているアレルギー強度試験を実施して。その子の皮膚症状がアレルギーで生じているかどうかの鑑別を行なうことを心掛けています。

動物アレルギー検査株式会社のアレルギー検査には、最初に行なうアレルギー強度試験以外に、アレルゲン特異的IgE検査とリンパ球反応試験がありまして。

アレルゲン特異的IgE検査は1型アレルギーを調べて。リンパ球反応試験は、食物に対するⅣ型アレルギーを調べる試験ですが。リンパ球反応試験は普通に犬の食事に含まれている成分を調べる、「主要食物アレルゲン試験」とドッグフードメーカーがアレルギー対応食として販売しているフードに含まれている成分を調べる「除去食アレルゲン試験」とがあります。

いろいろ調べて行くと、アレルゲン除去食と銘打って販売している食事を食べ続けていたわんこが、その食事に含まれていたジャガイモとか米に対して非常に強い反応を示す症例も何例かありました。

そんなこんなでアレルギー性皮膚炎を治療しながら診断して行く感じで診て行って。

いろいろ除外診断をした結果、その子がアトピー性皮膚炎であると診断がついた際に。選択出来る治療法としては。

従来は、1、副腎皮質ステロイドホルモンのお薬。2、抗ヒスタミン剤。3、シクロスポリンという免疫抑制剤。4インターフェロン(免疫のバランス調整の注射)という方法を、それぞれ単独あるいは組み合わせで使用していたのですが。

昨年から減感作療法という方法が、比較的簡単に使えるようになりました。

減感作療法は、今まででも米国の会社が検査と注射薬を提供してくれる体制はあったのですが。費用が半端でないことと、副作用が心配なこと。それに最初の間の注射の頻度がほぼ毎日であって、飼い主様がついて来れない治療法だったので、私は従来型減感作療法は最初から勘定に入れていませんでした。

昨年から利用出来る新しい減感作療法は、最初に除外診断でアトピー性皮膚炎と診断出来れば。

メーカーが提供する血清IgE抗体検査を実施して、その注射薬が利くのかどうかという確認を行なって。

注射は、週に1回の頻度で6回だけという非常に簡単なものであります。

今まで当院で、この減感作療法を実施したのは、まだ3頭だけですが。その3頭は今まで出し続けていたステロイドホルモンを休薬することが出来ています。また心配される副作用も、注射薬調整の際に生じ難く加工されていることもあってか?今のところこの3頭では全く生じませんでした。

ただ、従来型減感作療法を見聞きして来た者としてどうかな?と思う点は。従来型が最終的には月に1回なりともずうっと注射を続けなければならないのに対して。新しい治療法は6回こっきりで注射を終了してしまいますので。アトピー性皮膚炎の再発が本当に無いのか?ということくらいです。
再発が生じないとすれば、アトピー性皮膚炎が根治出来るということですから、本当に素晴らしい画期的なことだと思います。

今年も夏になって、アトピー性皮膚炎が悪化する季節がやって来ました。1頭でも多くのわんこがこの素晴らしい治療法の恩恵を受けて、痒みの無い幸せな生活を送れるようになれたらよいと思います。

 

犬の爪の損傷

犬の爪の損傷は、意外にありふれたトラブルです。

伸び過ぎた爪は、走ったりする時に何かに引っ掛かり易く。これが折れると相当痛いようです。

ただ、折れた爪が指先から脱落してくれれば、その部分に新しい爪が生えて来て、元通りになるのですが。

爪は折れたものの。半分だけ折れて、残りはきちんと指先にくっついて残っている状態になると。


爪が伸びて、損傷部位が爪の芯の部分を通過してしまえば、神経や血管が分布しているのは爪の芯の部分だけですから、苦痛は消失するでしょうが。

爪が伸びるスピードが1日に0.3ミリくらいとすると、折れた爪による疼痛や違和感が消失するまでには、かなりの日数がかかることが多いです。

そこで、このような症例が来院した場合に、私がやらなければならないことは。折れた爪を除去して、早くに苦痛から解放してやることです。

そのやり方ですが。爪の損傷が大きくて、もう少しで脱落するという状態であって、ちょっとくらいの痛みでは心臓が止まってしまいそうにない強靭なワンコの場合だったら。
ワンコをしっかり保定してもらっておいて、鉗子とかペンチのような道具で爪を把持して、えいやあ!!で取ってしまうということも、時としてやることがあります。

この方法の利点は、全身麻酔をかけないで済むことと、料金がお安く済むということですね。

えいやあ方式が通用しそうにない損傷の程度であるとか。非常にデリケートで、強い恐怖や痛みでショックを起こすかも知れないワンコの場合には。どうしても全身麻酔をかけて、安全に処置を済ませなければなりません。

ここで私が使用する麻酔は。静脈から注入して使用するタイプで、作用時間がせいぜい10分くらいで、その後は速やかに覚醒してしまうものです。この麻酔の特徴は、少々腎臓や肝臓の状態が悪くても、また、ちょっとくらい心臓が弱くっても、比較的安全にかけることが出来るというものです。
もちろん。不測の事態に備えて、必要とあれば気管挿管とか静脈輸液が出来るようにはしておきます。

麻酔をかけて、折れた爪を除去します。同時に化膿止めの抗生物質も注射します。他の爪も随分長く伸びていましたから、爪切りも行ないます。
眠っている間に行なうことですから。ワンコは痛みや恐怖を感じることはありません。

処置が済んで、麻酔の切れる時間が来れば。ワンコは速やかに覚醒します。
注射を打ってから20分か30分も経てば、起立歩行が可能になります。

後は、明日から数日間化膿止めのお薬を内服して。露出した爪の芯が乾いてしまえば。そのうちに、忘れた頃に新しい爪が伸びて来ます。

今日の症例は。大したことではないかも知れませんが。それなりに切実な問題を取り上げてみました。

こういう簡単な症例でも、安全かつ速やかに動物の苦痛を取り除いてやることが大切だと思ってやっております。

ではまた。