兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 内科一般
院長ブログ

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猫の子宮蓄膿症にアリジンを使用(注意!!後日談があります)

3日前のことですが。午後診に猫ちゃんが来院されまして。2日前から食欲が無いという稟告です。

聴けば、昨年末辺りから、近医にて腎臓が悪いと診断されて、お薬の内服と皮下輸液を随分やったのだが。いろいろあって最近は腎臓病用の食事だけで管理して来たのが悪かったのだろうか?と気にされています。

何で最初に診断した近医に行かなかったのか?と訊くと。「あの先生は私には合わないようでして。」と言われますので。それ以上は訊きませんでした。

既に腎機能不全という診断が下されていたということであれば。私のところでもまず血液検査、そして必ず尿検査を実施したいところです。

セミナーを受講すると、講師先生が必ず言われるのが「尿検査を実施せずして腎臓を評価してはいけない。」ということです。

先に「腎臓が悪い」と診断された獣医師さんは、尿検査はされなかったそうです。私も性格的に採尿が不可能な子の場合やむなく尿検査を省略すること無しとは言いませんので他人のことは言えませんが。なるべく尿検査はやりたいところです。

飼い主様にお断りして採血し。採尿はエコーで膀胱を観察しながら細い針と注射器を使用した膀胱穿刺で行ないました。大人しい子でスムーズに尿が採取出来ました。

猫ちゃんから採尿する時に、手で下腹部をマッサージしたり圧迫したりして膀胱から尿を絞り出す、いわゆる圧迫採尿は、絶対にやってはいけない行為であります。なぜならば膀胱の内容が尿管を逆流して腎臓に戻って行くことが多く。その結果腎盂腎炎を発病することがしばしばあるからであります。
エコーで膀胱を確認しながら細い針で採尿する方法は、腎臓病の専門医さんが推奨している方法で、よほどひどく暴れる猫ちゃんでなければ、侵襲が少なく無菌的に尿が採取できる優れた方法であります。

エコー検査をしてみると。あっと驚く画像が撮れてしまいました。

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画面右上の黒い部分が膀胱なのですが。その左側に接してコントラストがやや白っぽく映る構造が見えると思います。

それをエコーの探子でたどって行くと。

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屈曲した中空の構造で、内容は尿よりも濃い液状の物体。おそらくは膿のような物であると推察されます。

となると。未避妊の女の子ですから、子宮蓄膿症という致死的な病気が最も可能性が高いと思われます。

腎臓も調べて見ましたが。

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左の腎臓も。

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右の腎臓もエコーの画像上では問題無しです。

血液検査の結果を見ると。まず目を引くのが白血球数特に好中球という細菌と闘う細胞の著しい増加でした。尿素窒素(BUN)が若干高値であるだけです。クレアチニンという項目は少し高めですが。参考値内に収まっています。

尿検査では、比重が1.014と薄目ではありますが。何とか尿は濃縮されているようです。尿比重で最悪の結果が1.008から1.012の間です。

尿比重が低い目というのは、しかし、子宮蓄膿症に罹患すると、大体において多尿多飲の症状がでますから。

まず子宮蓄膿症を治療してそれから腎臓の機能を評価すべきと考えます。

子宮蓄膿症の治療法で最もポピュラーなものは、やはり早期の開腹手術となります。子宮に膿が溜まって毒性を発揮していますので。その膿を子宮毎取り出してやれば、DIC(播種性血管内凝固)を併発しているのでなければ、急速に開腹に向かうものであります。

しかし、残業してでも手術をと飼い主様にお伝えすると。突然のことでびっくりされて、混乱してしまっています。

これは困ったことです。私の伝え方が悪かったのかも知れません。

次善の策をと、黄体ホルモンレセプター阻害剤のアグレプリストン(商品名アリジン)の皮下注射を軸にした治療法を提案することにしました。

アリジンは、元々は犬のお薬で。人工妊娠中絶や子宮蓄膿症の特効薬的な存在で、副作用もほとんど無いという優れたお薬なのですが。

私の持っている教科書には、猫にも犬と同じように使用可能で、副作用も無く有効であると記載されております。

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そういうわけで。飼い主様にその旨お伝えして同意を得ることが出来ましたので。

アリジンの皮下注射。抗生物質の皮下注射。ラクトリンゲルの皮下注射によって治療を開始しました。

アリジンは、24時間置いて2回注射するのですが。2回目の注射の際にはまだ性器からの膿の排出はありませんで。

どうなるのか?少し心配でしたが。3日目に診療した際には、膿の排出はまだ見られないが、食欲が回復しつつあるということでしたので。一応抗生物質の内服だけで経過を追うことにしました。

動物による個体差もあるかも知れませんが。次回来院の際にはエコー検査を実施して子宮の状態を確認する予定です。

また、犬の場合でも同様ですが。アリジンで治療した場合。次の発情の後黄体期に入ると子宮蓄膿症の再発が心配ですので。
いったん回復して麻酔のリスクが低くなった時点で避妊手術を実施するよう飼い主様にはお伝えしてあります。

子宮蓄膿症が治った時点で。もう一度尿検査と血液検査を実施して腎機能の正確な評価を行なわなければなりません。

猫ちゃんと飼い主様には、これからもまだまだ幸せな生活を送って欲しいと、切に願う次第であります。

ではまた。

なお、この件については。アリジンの実際の利きについて後日談がありますので。そちらもご参照下さい。

 

 

蝮による咬傷

一昨日の夜ビーグル雑の女の子の飼い主様から電話がありまして。

「草むらに顔を突っ込んで臭いを嗅いでいたら、みるみる顔が腫れて来た。」ということです。

蝮による咬傷の疑いがあるのですぐに来院するようお伝えしました。

来院して来たワンちゃんの鼻面はかなり腫れ上がっています。

2本の矢印の先がほのかに赤く染まっているのは、そこがマムシの牙が入った場所だということだと思います。

マムシによる咬傷はそれなりに件数を診ていますが。犬の場合死ぬことは滅多に無いようです。

ただ、傷が治癒した後肝機能に異常を来した症例は診ています。

実は、お守りとしてマムシの馬抗毒素血清は常備してはいます。

ただ、この抗毒素血清を注射してもしなくても、そんなに経過が変わるという感触が無かったことと。注射により却ってアナフィラキシーショックを生じる可能性があったりして。

最近はほとんど使用することはありません。

この子の場合でも。来院時そんなに全身症状が悪くないこともあって。抗生物質とステロイドホルモンの注射を行なった上で。

内服は2次感染防止のための抗生物質と、抗炎症効果を期待したステロイドホルモン、強肝作用と解毒作用を期待して甘草エキス製剤の3剤を処方し。経過が心配ならば連絡をくれるようお伝えしてお帰ししました。

私的には、この場合に最も効果を期待する薬はステロイドホルモンで。次に甘草エキス製剤です。抗生物質はあくまで二次感染防止の意味合いで使用しています。

中1日置いて再来院したのを診ますと。食欲元気さはそれなりにしっかりしています。


鼻面の腫れは少しましになっていますが。下顎から首にかけて炎症性の分泌物が溜まっているのでしょう、ブヨブヨに浮腫が出来てました。

続きのお薬を処方して。1週間後に念のために血液検査を実施する旨お伝えしました。

犬のマムシによる咬傷は、一応こんな感じで、最近はほぼ全例が無事に回復しています。

犬がマムシに咬まれても重大な結果になり難いのは、反射神経が鋭いために咬まれても瞬間で離れるために、毒の注入量が少ないということなのかも?知れませんね。

私事ですが、私の実兄はマムシを捕まえてマムシ酒を作ったりしてましたが。数回咬まれて、その都度入院して抗毒素血清の注射を受けてました。
最後の入院の際には、「次回には抗毒素血清に対するアレルギー反応で重症になるかも知れません。」と脅かされて、最近はマムシに手を出すのは止めにしたみたいです。

お彼岸の前後からはマムシの繁殖期になりまして。マムシが攻撃的になる季節に入ります。
ワンちゃんと自然豊かな環境に行く際には十分に気を付けてやって下さい。

免疫介在性血小板減少症(IMT)

今回の子は、10才のミニチュアシュナウザー避妊済みの女の子です。

2週間前にトリミングに行ったところ。トリマーさんに「皮膚に内出血があります。」と言われたとのことで、来院されました。

実はその時の画像を撮影していませんで。実物をお見せできませんが。イメージとしては、インターズーの「犬と猫の治療ガイド」という教科書の挿絵を掲載させてもらいます。

今回のミニシュナちゃんの皮膚の紫斑はここまでひどくはなかったですが。きちんと紫斑ではありました。

皮下に出血が見られる場合。血液が正常に固まってくれないという状態(凝固不全)が原因である可能性がありますから。採血して血液検査を実施したところ。血液を止めるのに必要な、血小板という細胞のかけらのような成分が、1マイクロリットル(1mm立方メートル)あたり1万1千個しかないということが判明しました。正常値は17万5千個から50万個の範囲です。

血液検査機器で血球系の異常が検出された場合に、必ずやらなければならないことは、血液をガラス板に薄く拡げた塗抹標本を作製して、顕微鏡を使って自分の眼でその異常を確認することです。人間も間違いを犯しますが、機械のデータも常に疑ってかかる必要があります。

塗抹標本でも血小板がひどく少ないことが明らかでしたので。血小板数を減らす他の病気が存在しないかどうか?を血液生化学検査、エックス線検査、腹部超音波検査を実施して調べますが、特段の疾病は見つかりません。

それ以外に血小板数が減少する疾患として、DICという血液凝固系の暴走による血栓形成が疑われますので、念のために血液凝固系の検査を外注試験で実施しました。でも、DICを生じさせるような基礎疾患は見当たりませんし、後日返って来たデータは正常でした。

こうして、除外診断により、免疫介在性血小板減少症(IMT)と診断を付けました。今回は骨髄生検まではしなくても良いと判断しました。

さて、それからは治療にかかるわけですが。

こういう自分の免疫機構が自分の身体を間違って攻撃してしまう自己免疫疾患の治療で第一選択薬として使用されるのは、プレドニゾロンというステロイドホルモンですが。これは免疫を抑制する量で使用すると、犬はステロイドに強いと言いながらも、いろいろ問題が生じることがあります。

この子は、最初にプレドニゾロンとサイクロスポリンの2剤併用で治療を開始しましたが。

皮膚の紫斑は治療開始翌日から生じなくなったものの、下痢が生じたり。治療3日目には血小板数が1マイクロリットル当たり2万8千個に回復しつつあるも。肝機能障害が始まりかけて、肝細胞保護剤を併用しなければならなかったり。
免疫機能の抑制が過ぎて、化膿性の皮膚炎が生じたりして。

結局プレドニゾロンは中止して。サイクロスポリンを体重1キロ当たり約千分の5グラム見当で、1日1回の投薬にして様子を見ました。

治療開始後2週間経過した昨日には血小板数も1マイクロリットル当たり19万3千個と正常範囲内まで回復しましたし。皮膚の化膿も治まりつつあります。

軽度の肝障害が生じたのについては、サイクロスポリンと同時に強肝剤を投与することで対応出来ると思います。

今後3ヶ月から4ヶ月の間、サイクロスポリンで治療を継続して、経過が良ければお薬から離脱出来るかどうか?試みてみたいと考えています。

ミニシュナちゃん。無事に治って欲しいです。

 

熱中症

動物、特に犬は暑さに弱い傾向があります。日本の夏は犬たちにとっては暑さだけでなく湿気もひどいので熱中症になりやすいです。

今回の子は、もう15才以上になるというパピヨンの男の子なのですが。心臓が悪くて別の動物病院でお薬を処方されているということでした。

午後3時過ぎからお宅から100メートル?くらいの近くの公園に散歩に連れて行ったらしいですが。行きはきちんと歩いていたのが、帰りはトボトボ歩きになって、ようやく自宅に戻ったら横になって荒い息をしているということで。

ご主人はそのまま様子をみるつもりだったようですが。脳梗塞でリハビリを受けている奥様が、「様子がおかしいから、頼むさかい動物病院に連れて行ったって。」と言うとのことで。3時40分くらいに電話連絡がありました。

一刻をあらそうから速く来院するようにお伝えして、しばらくしてから入って来たわんちゃんを見ると。意識も消失していてかなり危なそうです。

受け付けもそこそこに、すぐに手術室に連れて行って。体温測定、アルコールをスプレーしてドライヤーで冷風を送って冷やすこと。酸素吸入と心電図モニターの装着と。大急ぎでいろいろやるのです。

検温の結果は、41.8℃というひどいものです。数分後にもう一度測ると、42.0℃になって来ます。

静脈カテーテルの留置と常温の乳酸リンゲルの輸液も行ないます。

熱中症の治療で最も大切なことは、まず何よりもとにかく体温を下げてやること。次に体温が極端に上昇した結果による内臓機能や脳の機能の異常を防ぐこと。及びDICという血液凝固機能の暴走を防ぐことです。

体温を下げるについては、まず気化しやすいアルコールを体表にスプレーして、ドライヤーで冷風を送る。もしくは冷水で身体を濡らして冷風を当てる。というのがファーストチョイスですが。
それで効果が今ひとつという場合には。冷水浣腸という方法も試みる場合もあります。

内蔵機能の温存やDICの予防には。まず酸素を吸入させると並行して、思い切った量のステロイドホルモンの静脈内投与を行ないます。次いで低分子ヘパリンという血液凝固を防止するお薬を最初にドンと静脈内に注入した後、持続点滴で投与し続けるという方法を取ります。

熱中症の治療をやっていると。動物の意識が戻ったら。治療費を気にされる飼い主様などは、一刻も早くにお家に連れて帰りたいと言う方も居られますが。
ちょっと意識が戻ったからといってすぐに退院させてしまうと、体温調節機能が戻っていなくてすぐに高体温に戻ってしまったり。DICが生じたり、腎障害肝障害が生じたりして、結果が悪い場合がありますので。
状態が安定するまで、しばらくの間ICU内で静脈輸液を続けた方が良いと考えています。

さて、アルコールとドライヤーで冷やしていると。40分くらいで、直腸温が39.0℃まで下がりましたので、少し手をゆるめると、またすぐに39.5℃に戻り、上昇傾向にありますので。身体を水で濡らしてドライヤーで送風します。

1時間ほど頑張って冷やしていると。体温は37.9℃まで下がって、38℃台で維持出来るようになって来ました。

2時間くらい経過すると。最初は横たわって意識が無かったのが、意識が戻って来て、伏せの姿勢になります。

治療開始から約2時間半経過した時点で、随分状態が改善して来ましたから、集中治療室(ICU)に収容しました。

画像はICUに入れてすぐのものですから。温度とか酸素濃度が設定通りではありませんが。設定は温度が19℃、湿度55%、酸素濃度は30%という条件で。
夜間に随時体温を測定しながら、診てました。

何とか夜を過ごして、翌朝に血液検査を実施しましたが。白血球数が上昇していることと、軽い肝障害があるくらいで。血小板数も正常値でしたから、血液凝固機能の暴走は何とか食い止めることが出来たと思います。

朝食を与えてみましたが。私たちのことを警戒してなのか?食べてはくれません。

発症翌日の午後に飼い主様に経過を説明して、退院させました。
抗生物質と肝臓のお薬を処方して。わんちゃんが居るお部屋の温度管理に十分気を配るようにお伝えしました。

その後、1週間後にお薬が切れる頃になっても、飼い主様の都合によるものか?どうか?は不明ですが、来院されませんので、経過について心配しておりましたが。

動物看護師が何かの用事で近くを通った時には飼い主様とわんちゃんが元気そうに歩いていたということですので。経過は悪くなかったようです。

ブログについては、処置中に飼い主様に断りを入れてありますので。今日掲載させていただきました。

その後の肝臓に状態とかについて、ちょっと心配ではありますが。15才超のパピヨンちゃん、元気で幸せに長生きして欲しいものであります。

 

 

 

 

12/01 後躯麻痺に随伴する尿失禁への対応

もうすぐ16才になる柴犬の男の子の話しですが。

今まで庭に入り込んで来た狐の疥癬虫をもらって重度の皮膚炎になったり、歯の根っ子に細菌感染が生じて顔が腫れたりと、いろいろあったのですが。

この夏前から足腰がひどく弱って来て。秋口から夜間にひどく鳴くようになったり、排便困難になったり、食後の嘔吐が生じたりしたのを、抗不安薬とかを使用したり消化管の運動改善剤を使用したりして対応して来ました。

認知症はあると思われたので、ヒルズのB/Dという認知症対策用処方食は食べさせていただいております。

飼い主様の意向では、年相応に少しでも楽に生活させて、安らかに送ってやりたいということなのですが。

11月29日の来院では。その前日から排尿がほとんど見られなくなってしまったということでした。話しを聴いてみると、完全に出ないと言うよりは、ジミジミと漏れ出て来るような感じのようです。

尿失禁が生じる以前に、後躯が弱ったのか?起立や歩行が出来なくなってしまっているようです。

一般的に尿が出難いという場合には。尿が生成されて排泄される全ての経路において、腎臓の尿産生が行われなくなったのか?尿管から膀胱、尿道の排泄経路のいずれかで尿路結石による閉塞や狭窄や神経系や平滑筋に機能不全が生じていると考えますから。

まず、尿道に詰まりが無いのかどうか?をカテーテルを挿入することによって点検します。

なかなかカテーテルが入りません。局所麻酔薬の入ったゼリーを塗って滑らかにしているのですが。結石でも詰まっているのでしょうか?

いろいろやって、何とか通るようになったのですが。でも、結石とはどこか違うような感じがします。

最初に使用したのよりももっともっと細いカテーテルを使用すると、スムースに入るのですが。最初のカテーテルをもう一度入れようとすると途中で入らなくなってしまいます。

尿道平滑筋が変に収縮しているような感じを受けます。

腹部エックス線検査では、少なくともエックス線で判るような結石は、腎臓から膀胱、尿道の何処にも見当たりません。

 腹部エコー検査でも、結石の徴候は無いです。

膀胱内には大量の尿が貯留していて。細いカテーテルで採取したら470ミリリットル溜まってました。

尿検査でも結石とか感染の徴候は感じられません。

ここ数週間の間に後ろ肢が立たなくなったということですが。もしかして、その後躯麻痺に関連した神経系の問題なのかも知れません。

後躯麻痺を追求すべきなのかも知れませんが。今までの経過とか犬の体力、意識レベルの問題とか考えると、正直微妙な感じです。

結局、後躯麻痺に関連して、膀胱から尿を排出させる機能が働かなくなってしまって、膀胱内に大量に尿が貯留するようになって、オーバーフローという感じで、尿失禁が生じていると判断しました。

治療は、本日カテーテル導尿をやったということありますので、しばらく抗生物質を内服してもらうのと。尿道とか膀胱頸部の緊張を緩めて尿が排泄されやすいように神経に働いてくれるお薬を内服してもらうということで行なうことにしました。

投薬開始して翌日、やはり尿が出ないということで、飼い主様が不安を感じられて来院されましたが。膀胱を圧迫すると容易に排尿がなされるようになっていることをやって見せて。膀胱の圧迫法を少し練習していただいて安心してもらいました。

白君の介護については、ご家族の皆様がそれぞれ役割分担して一生懸命に取り組んでおられてまして。

ある意味彼の存在が家族の絆を深めているように感じている次第であります。

後躯麻痺があるのはあるように感じられますが。ワンちゃんの意識レベルの問題もあり、どこまで追求するべきなのか?私にも判断がつきかねるような微妙な症例であります。

何とか日常介護でそれなりに生活出来ているようですから、このまま安らかに生活出来て、苦痛無く犬生をまっとう出来ればそれで良いのかも知れません。

 

 

 

11/08 マルチーズの免疫介在性溶血性貧血

表題の免疫介在性溶血性貧血とは、自分の免疫抗体が自分自身の肉体を攻撃してしまうという、自己免疫性疾患の一種であります。

例えて言えば、自衛隊が自国民を攻撃するようになったという、悲しい病気なのですが。

狂った免疫機能がターゲットにする相手が赤血球の場合、免疫介在性溶血性貧血ということになりますし、皮膚組織の場合天疱瘡という病気になります。免疫機能が間違ってターゲットにしてしまう相手は、その他にも関節軟骨であるとか、甲状腺組織であるとか、腸管であるとか、いろいろ様々です。

そして、免疫介在性溶血性貧血でも、診断が特に難しいのは、先月に大学病院に診断を依頼した病気で、昔赤芽球癆と呼んでましたが、今でもそうなのか?骨髄の中で育って来て、今まさに循環血液中に出て行こうとしている若い赤血球が、自分の免疫で壊されてしまうという病気であります。この場合には、骨髄の生検と病理診断が必須になります。

この度診察した10才8ヶ月令のマルチーズの男の子の場合、来院まで4日か5日間突然食欲がほとんど消失してしまうという症状が出て、来院当日には散歩に連れて行こうとしたら、すぐに立ち上がったものの倒れてしまったという稟告でした。

視診で、どうも舌の色が異常に薄いように感じましたので、飼い主様に検査の必要性をお伝えして。
まず血液検査(全血球計数と血液生化学検査)とエックス線検査を行ないました。

血液検査でまず目を引いたのは、重度の貧血です。赤血球容積が9.3%しかありません。これくらいの数字の場合、動物は酸欠で口を開いた呼吸になることも多いですが。この子の呼吸状態は正常でした。

私たち獣医師が動物の貧血を発見した時にまず考えなければならないのは。

その貧血が、悪性腫瘍とか後天性免疫機能不全などが原因で骨髄で赤血球が造られなくなって生じた「非再生性貧血」なのか?

もしくは骨髄では一生懸命に赤血球を造っているのに、出血とか血管内溶血とかで貧血が進行して行くという「再生性貧血」なのか?

ということなのであります。

そして、その見極めの決め手となるのが、血液中の若い赤血球である「網状赤血球」の絶対数です。

犬でも猫でも、網状赤血球の絶対数と貧血との関連は、ちゃんとデータがありますから。網状赤血球数をカウントすることの出来る血球計数機を持っているか?あるいは特殊染色を行なった血液塗抹標本を顕微鏡で覗いてコツコツとカウンターを使って自分で計数するのかのどちらかを行なわなければなりません。

グリーンピース動物病院の場合、アイデックスラボラトリーズという米国のメーカー製の、レーザーサイトというレーザー光線の反射を用いた全血球計数が出来る血球計数機を使用しておりますので。
貧血を発見すると同時に、網状赤血球の絶対数もプリントアウトされて来ています。

ゴンちゃんの場合、網状赤血球は1μm当たり120,5300という数字で、骨髄は貧血を改善すべく一生懸命に頑張っているということが見て取れます。

即ち、ゴンちゃんの貧血は、「再生性貧血」なのです。

再生性貧血の場合、次に考えるべき問題は。それが出血性なのか?溶血性なのか?ということですが。これも全血球計数のデータの読み取りと血液生化学で黄疸色素が上昇しているのかどうか?で判断が付きます。

この場合、溶血性貧血は間違いないという結果でした。

更に突き詰めるべきことは、溶血性貧血にも、犬の場合「バベシア原虫」の寄生に拠るものか?ヘモバルトネラ寄生に拠るものか?あるいは最初に書いた免疫介在性の溶血性貧血なのか?という問題です。

ここで血液塗抹標本を真面目に評価する必要があります。血液塗抹標本を顕微鏡で覗きもしないで貧血をうんぬんする獣医師が居たとすれば、その獣医師ははっきり言って似非獣医師であり藪であると断言しても良いと思います。

私が見た塗抹の印象としては。
まず、赤血球が大きなのや小さいのやいろいろのサイズがあることと、球状赤血球が多数見られるということです。

上の画像を見れば、赤血球のサイズがいろいろであるということはすぐに判ると思います。
球状赤血球とは、丸い赤血球の中心部の色が薄くなっていない物をそう言います。

バベシア原虫らしき像も存在はしているのですが、正直アーティファクト(人工産物)との区別がはっきりしないので自信はありません。また、ヘモバルトネラの寄生は無いと言って良いと思います。これは自信があります。

上記画像の矢印の先にある色がわずかに薄くなっている部分がバベシアか?という構造なのですが。どうもはっきりと判りません。

なお、ヘモバルトネラの寄生は、正直他の基礎疾患があって、免疫機能が低下している犬でなければ、ほとんど診たことはありません。

脾臓や肝臓の血管系の腫瘍で生じるかけらのような赤血球は存在しませんでした。

塗抹の鏡検では、球状赤血球が多数確認されましたので、獣医の教科書を紐解くと、球状赤血球の存在は免疫介在性溶血性貧血を示唆するとなってはいますが。
バベシアに似たような赤血球内の構造も見られることですし。

ここでバベシアか?溶血性か?というこの問題を解決するには、外注検査による自己免疫抗体の確認(クームス試験)とバベシアの遺伝子診断とが決め手になると思います。

もう一度採血して、全血を検査センターに送ることにしました。

ただ、検査をするのは良いのですが。結果待ちの1日とか2日の間にも病状は進行して行くことでしょうから。何とかしなければなりません。

緊急避難的処方ではありますが。バベシアの特効薬の皮下注射と、免疫介在性溶血性貧血の第1選択薬であるステロイドホルモンの免疫抑制量の皮下注射のどちらも一気に行なうことにします。

輸血はとりあえずしません。口を開けた呼吸とかのひどい酸欠症状は見られないことと、血液型の事前の検査が出来ていないことがその理由です。

血液型の検査は、健康な時に前もって実施して置くのが正しいやり方で。こんなひどい貧血になってから慌ててやっても、少なくとも院内の検査では正確に結果が出ないことが多いです。

そんなことを言っていても、いよいよ危ないとなれば、我が院のドナー犬を務めてくれている謙ちゃんからの採血をやって、ためらい無く輸血を実施する心積りはあります。

という風に、ゴンちゃんの貧血の診断と治療は進んで行きましたが。

その夜には、ゴンちゃんは未明に輸液ラインをひどくキンクさせて、輸液が出来ない状態にしてくれました。しかも、それを直そうと試みると激しく抵抗して、悪くすると彼がショックを起こすか?私が咬まれて大怪我をするか?という感じでありました。

それでも、翌日になると、ゴンちゃんはいきなり朝食を食べてくれます。バベシアの注射か?ステロイドの注射のどちらかが?効いているのは間違いなさそうです。

入院2日目の夕方にはクームス試験の結果が帰って来まして。自己免疫抗体の存在は、確実とは言えないが怪しいと言うレベルの結果でした。
免疫介在性溶血性貧血の約3割はクームス試験陰性というセミナーの話しもありますので。陽性ならば確実で、陰性でも疑いは晴れないというところでしょう。

その間にもどんどん元気になって行って。入院3日目が終了するところで退院ということになりました。バベシアの遺伝子検査も陰性という報告がファクスされて来ましたので。診断としては免疫介在性溶血性貧血で良いと思います。

ゴンちゃんの今後の治療方針としては、ステロイドが効くのであれば、それ単独で。効きが今一つであれば、サイクロスポリンのような強力な免疫抑制剤との組み合わせを使用して。
とにかく血球容積を正常値にまで持って行って。貧血が改善したのであれば、徐々にお薬の量を減らして行って。

目標では3ヶ月後にはお薬からの離脱を図るということが、治療のゴールであります。

当然ステロイドを沢山使用しますから、最初の頃は毎週血液検査を実施して副作用のモニタリング、貧血改善の確認を行わなければなりません。

そんなことで、ゴンちゃんの貧血の治療は始まったばかりですが。ちゃんと道筋はつきましたので、頑張って治して行きたいと思います。

画像は入院3日目にして、退院を待っている猛犬ゴンちゃんの可愛らしい姿であります。

ではまた。