兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 日記
院長ブログ

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猫の「年齢」と「猫種」から読み解く

皆さんこんにちは

グリーンピース動物病院の更新担当の中西です

 

 

さて今回は

~猫の「年齢」と「猫種」から読み解く~

 

猫の健康管理は「現在の状態」だけでなく、**年齢(ライフステージ)猫種(遺伝的背景・体型)**を前提に考えると精度が大きく上がります。本稿では、臨床での観察ポイントを軸に、年齢別の身体変化・疾患リスク、主要猫種の身体的特徴と特有リスク、検診・栄養・運動・生活環境の調整指針までを体系的に解説します。


年齢からみる身体的特徴と注意点

1. 幼猫期(0〜6か月)

  • 身体的特徴:骨格・筋肉・神経発達が急速。体温調節が未熟、脱水に弱い。乳歯から永久歯へ交換(生後3〜6か月)。

  • 臨床上の要点

    • 低血糖・脱水の早期進行に注意。

    • ワクチン、寄生虫対策、早期の社会化。

    • 栄養は高エネルギー・高消化性。カルシウムとリンの比率(Ca/P)を適正に。

2. 若齢期(7か月〜2歳)

  • 身体的特徴:成長完了。性成熟・行動の活発化。

  • 臨床上の要点:避妊去勢後は代謝低下と食欲増進のギャップで体重増加を招きやすい。2〜4週間で給餌量の微調整が必要。

3. 成猫期(3〜6歳)

  • 身体的特徴:代謝は安定。筋量維持がQOLを左右。

  • 臨床上の要点:歯周病や下部尿路疾患(FLUTD)の初発が増える。ストレスやトイレ環境を整え、体重・飲水量・排尿習慣の定期チェック。

4. 中高齢期(7〜10歳)

  • 身体的特徴:基礎代謝の低下、脂肪量増加、筋量緩徐低下。

  • 臨床上の要点:慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症、関節疾患のスクリーニングを開始。年1〜2回の血液・尿検査、血圧測定を推奨。

5. シニア期(11歳以上)

  • 身体的特徴:サルコペニア(筋肉減少)、感覚低下、認知機能の変化。食欲と嗜好の変動、脱水傾向。

  • 臨床上の要点:体重・筋肉量・水分摂取の細やかな管理。関節痛、認知機能変化、心腎疾患、歯周病の併発に注意。投薬・栄養・環境(段差、保温、夜間照明)を総合調整。


猫種からみる身体的特徴と特有リスク

純血種だけでなく、混血でも親系統の影響が見られることがあります。以下は診療で頻繁に考慮する代表的な特性です。

スコティッシュフォールド/ストレート

  • 体型・特徴:中型、骨軟骨形成の遺伝的要素。

  • 要注意点:骨関節の痛み・可動域制限、尻尾や四肢末端の硬直。若齢でも跛行やジャンプ回避があればX線評価を検討。体重管理と痛み評価が柱。

マンチカン

  • 体型・特徴:短肢。脊椎・関節への負荷が個体差で大きい。

  • 要注意点:段差の少ない環境、爪とぎ位置の低さ、ジャンプの回数を減らすレイアウト。関節痛の早期サインに着目。

ブリティッシュショートヘア

  • 体型・特徴:筋肉質でがっしり。

  • 要注意点:体重過多による関節・心負担。心筋症(HCM)のスクリーニングを年1回以上で検討。

メインクーン

  • 体型・特徴:大型。成長がゆっくり。

  • 要注意点:HCMリスクの評価、関節・股関節の管理。給餌はゆるやかな成長曲線を意識。

ノルウェージャンフォレスト/サイベリアン

  • 体型・特徴:長毛・二重被毛。

  • 要注意点:毛球症予防に整毛・繊維設計。体表観察が難しいため体重・触診での被毛下の筋量評価を重視。

ペルシャ系(チンチラ含む)

  • 体型・特徴:扁平顔(短頭傾向)、長毛。

  • 要注意点:涙やけ、鼻涙管狭窄、歯列不整。眼・鼻の毎日ケア、歯科検診の頻度を上げる。

シャルトリュー/ロシアンブルー

  • 体型・特徴:引き締まった中型、被毛密。

  • 要注意点:ストレス感受性の高さが見られる個体も。環境変化は段階的に。膀胱炎予防に飲水施策。

ラグドール

  • 体型・特徴:大型で温和。抱き上げに力が抜けやすい。

  • 要注意点:肥満管理、HCMのスクリーニング。被毛ケアで皮膚トラブル予防。

アビシニアン/ソマリ

  • 体型・特徴:スリムで活発。

  • 要注意点:高活動に見合うエネルギーと環境エンリッチメント。消化器の敏感さがみられる個体は食事の変更を段階的に。

ベンガル

  • 体型・特徴:筋肉質・高活動。

  • 要注意点:運動・探索環境の不足による問題行動とストレス関連疾患の予防。高たんぱく高消化性の栄養設計。

スフィンクス

  • 体型・特徴:無毛〜短毛。体温喪失が早く、皮脂管理が難しい。

  • 要注意点:保温・皮膚清拭・皮脂バランスの維持。紫外線対策。


年齢 × 猫種で変わる実務ポイント

1) 体重・筋肉量(BCS/MCS)の評価

  • 長毛種や大型種は見た目での肥満・痩せの判定が難しいため、触診(肋骨・腰背筋)と体重推移を併用。

  • シニア期は筋量の維持を最優先。高消化性のたんぱく質と適度な運動、段差・高さを安全に使える環境を整える。

2) 心臓のスクリーニング

  • メインクーン、ラグドール、ブリティッシュなどは**心筋症(HCM)**の家系的素因を考慮し、年1回以上の聴診・心エコー(必要に応じ)を検討。

3) 関節・骨格

  • スコティッシュ、マンチカンは若齢でも関節痛が潜むことがある。段差の最適化、体重管理、痛み評価スケールをルーチン化。

  • 大型種や高齢猫は滑りにくい床材、高低差の緩やかな導線に。

4) 皮膚・被毛・口腔

  • 長毛種は毛球症対策(整毛・繊維・水分)。

  • 扁平顔では涙やけ・呼吸の細やかなケア。

  • 全猫種で歯周病対策(定期スケーリング、在宅歯みがき導入)。加齢で歯根病変の発生率が上がる。

5) 泌尿器

  • ストレス感受性の高い個体・長毛で飲水が少ない個体はFLUTDリスクが上がる。飲水デザイン(循環式給水器、器の材質・設置数)、トイレ環境最適化(頭数+1台、清潔、静寂)。


栄養・運動・環境の調整

栄養

  • 年齢別:幼猫は高エネルギー・高消化性。成猫は体重維持を基軸。シニアは腎・関節・口腔の状態に合わせて処方。

  • 猫種別:大型種は成長が緩やかなため過栄養に注意。扁平顔は食器の高さ・形状で摂食効率を補助。皮膚に課題のある猫は脂肪酸バランスやたんぱく源に配慮。

  • 共通:急な切替は避け、7日程度で段階移行。水分はウェット併用やぬるま湯で強化。

運動・行動

  • 活動性の高い猫種(ベンガル、アビシニアン)には上下運動と探索の機会を。

  • シニアや関節が弱い猫には緩やかな段差、低めのキャットタワー、滑り止めを導入。短時間の遊びを高頻度に。

環境

  • トイレ:猫数+1、広さと深さは個体の好みに合わせ、砂は継続性重視。

  • ストレス低減:隠れ家・高所・見通しの良い場所を確保。来客・模様替えは段階的に。

  • 保温・保湿:幼猫・高齢猫・無毛種では季節変動に敏感。冬季はベッドの保温、夏季は直射日光と冷房のバランス。


年齢・猫種別の検診プラン(目安)

  • 幼猫〜若齢:月齢に応じたワクチン・寄生虫対策、6か月齢で避妊去勢相談、歯列・乳歯残存のチェック。

  • 成猫(年1回):身体検査、体重・BCS/MCS、口腔・歯科、便・尿の基礎検査。猫種に応じ心エコーなど追加。

  • 7歳以上(年1〜2回):血液検査(腎肝・甲状腺)、尿検査、血圧、歯科評価。HCMリスクがあれば心臓検査を定期化。

  • 11歳以上(年2回以上):上記に加え、認知・関節・体液バランスの評価。投薬・食事・環境の三位一体でアップデート。


ご家庭で見逃したくないサイン

  • 体重変動(±5%以上/月)、被毛艶の低下、毛づくろいの減少

  • ジャンプ回避、階段や高所への躊躇、歩幅の変化

  • 飲水量やトイレ回数・時間の変化、血尿・排尿時の鳴き

  • 食欲の波、丸呑み・食べこぼし、口臭・よだれ

  • 夜間の徘徊、鳴き、睡眠リズムの変化(高齢)


まとめ

猫のケアは「いま目の前の症状」だけでなく、年齢で予測される変化猫種の身体的特性を重ね合わせて設計すると、予防と早期発見の精度が高まります。体重・筋肉量・飲水・トイレ・行動を定点観測し、猫種に応じた心臓・関節・皮膚・歯科の重点領域を定めることが実務の核心です。気になる変化があれば、些細なことでも遠慮なくご相談ください。ご家庭と病院で役割を分担し、猫それぞれの個性と年齢に寄り添うケアを一緒に作っていきましょう。

犬の年齢・体況に合わせた食事コントロール

皆さんこんにちは

グリーンピース動物病院の更新担当の中西です

 

 

さて今回は

~犬の年齢・体況に合わせた食事コントロール~

 

「何をどれだけ食べさせれば良いのか」は、年齢・体格・去勢有無・活動量・持病の有無で大きく変わります。食事は治療そのものでもあり、逆に合わない食事は疾患のリスクを高めます。本記事では、来院時に私たちが実際に行う評価手順と、ライフステージ別・体況別・疾患別の食事設計を体系化して解説します。


食事設計の前提:評価のフレーム

1) 体重・体型(BCS)と筋肉量(MCS)

  • BCS(Body Condition Score):1〜9段階で理想は4〜5。肋骨が軽く触れる、腰にくびれ、上から見て砂時計型。

  • MCS(Muscle Condition Score):側頭筋・肩甲・腰背筋の量を触診。加齢や疾患で痩筋(サルコペニア)が進行していないかを別軸で評価。

2) 活動量と生活環境

  • 室内主体・散歩時間・スポーツ(アジリティ、嗅覚作業)・気温湿度・留守時間。

  • 去勢・避妊後は代謝が低下し食欲が増す傾向があるため、2〜4週間での摂餌量見直しが必須。

3) ライフステージ

  • 成長期(子犬)維持期(成犬)高齢期(シニア)妊娠・授乳期で栄養要件が異なる。

  • 大型犬の成長期は長く、骨成長管理(Ca/P比とエネルギー過多の回避)が最重要

4) 既往歴・内科疾患・薬剤

  • 慢性腎臓病、膵炎既往、肝胆道疾患、消化器疾患、尿路結石、アレルギー、糖尿病、心疾患、甲状腺機能など。


摂取量のベース:必要エネルギーの考え方

1日の基礎計算は**RER(安静時必要エネルギー)**から始めます。
RER = 70 × 体重(kg)^0.75

ここに生活ステージや活動量に応じた係数を掛けて**MER(維持必要エネルギー)**を仮決めします。

  • 成犬・室内飼い:1.4〜1.6 × RER

  • 活動性が高い成犬:1.6〜2.0 × RER

  • 去勢・避妊後の成犬(活動低〜中):1.2〜1.4 × RER

  • 体重減量中:0.8〜1.0 × RER(初期設定、進捗で調整)

  • 成長期(子犬):

    • 体重成長が速い前半:2.0 × RER

    • 成長が落ち着く後半:1.6〜1.8 × RER

  • 妊娠後半(週数に応じて):1.3〜1.6 × RER

  • 授乳期(頭数による):2.0〜3.0 × RER

  • シニア(活動低):1.2〜1.4 × RER

※あくまで出発点。2〜4週間で体重・BCS・MCS・便性状を見て微調整します。


ライフステージ別の栄養設計

A. 成長期(子犬)

  • タンパク質:高消化性・必要量十分(一般に乾物換算で22〜28%目安、品種・製品で差あり)。

  • 脂質:エネルギー源。過剰は肥満・成長板への負荷に。

  • Ca/P比約1.2:1〜1.4:1を維持。特に大型犬の過剰Caは骨関節疾患のリスク

  • DHA/EPA:脳神経・視覚発達に寄与。

  • 給与回数:6か月齢までは1日3回、その後は2回へ。

  • 体重増加速度:急激な増量は避け、月次で理想曲線内を推移。

B. 維持期(成犬)

  • 体重維持と代謝に合わせたエネルギー調整が中心。

  • 去勢・避妊後:同じフードでも給餌量を10〜20%減から開始し、3週間で再評価。

  • 活動犬:脂質エネルギー比の高いフード、運動前の大量一気食いは胃拡張リスクのため回避。

C. シニア(高齢期)

  • MCS維持のため、高消化性で十分な必須アミノ酸を確保。

  • 慢性疾患リスクに応じてリン・ナトリウム・脂質の最適化可溶性・不溶性食物繊維の比率を調整。

  • 関節ケア:体重管理が第一。必要に応じてEPA/DHA、グルコサミン・コンドロイチン配合の処方食。

  • 腎泌尿器:検査値を見ながらタンパク・リンの段階的コントロール。

D. 妊娠・授乳

  • 妊娠前半は維持量、後半から徐々に増量

  • 授乳期は需要が最大。高エネルギーで高消化性、水分アクセスを十分に。1日3〜4回以上へ分割。


体況別の食事コントロール

1) 肥満・過体重

  • 目標体重の設定(現在体重の10〜20%減を段階目標)。

  • 低エネルギー高たんぱく・適正繊維の減量用療法食を使用。

  • 週1回の体重測定月1回のBCS/MCS評価

  • 間食は1日の総カロリーの10%以内、できればゼロへ。

2) 痩せ(低体重)

  • 吸収不良や内分泌疾患を除外。

  • エネルギー密度の高い高消化性フード、1日3回以上の分割。

  • 急な高カロリー導入は下痢の原因、3〜7日で段階移行

3) 胃腸が不安定・便の質に課題

  • **可溶性繊維(発酵性)**で腸内環境を整える処方食、脂質過多の回避。

  • 新しい蛋白源への切替は1〜2週間かけて

  • 長引く下痢・血便は検査で原因精査(寄生虫、炎症、IBD など)。


疾患別の要点(簡易ガイド)

詳細は検査値・病期で変わるため、必ず主治医の指示に従ってください。

  • 慢性腎臓病(CKD)
    早期からリン制限ナトリウム適正高消化性タンパクの質重視。脱水回避のためウェットや水分強化。

  • 膵炎既往
    低脂肪・高消化性、間食の脂質管理。急な食事変更・暴食回避。

  • 肝胆道疾患
    中鎖脂肪酸の活用や高消化性、銅含量の管理が必要なケースも。

  • 糖尿病
    一定の炭水化物量と食後血糖の安定、食事とインスリンのタイミング一貫性。

  • 食物アレルギー/不耐
    加水分解蛋白または新奇蛋白の療法食で8週間の厳格トライアル。おやつ・薬のカプセル原料にも注意。

  • 心疾患
    ナトリウム制限、体重・浮腫・咳のモニタリング、筋量維持。

  • 尿路結石
    結石タイプに応じた尿pH・ミネラル管理と水分強化。勝手な食事戻しは再発リスク。


給餌の実務:頻度・食器・水分・おやつ

  • 給与回数:子犬3回、成犬2回、疾患やシニアで血糖や消化に配慮が必要なら3回以上へ。

  • 食器:浅め・広口で食べやすく、早食いにはスローボウル。

  • 水分:複数箇所に新鮮水、ウェットの併用、ぬるま湯で嗜好性を上げる。

  • おやつ管理:総量の10%以内。しつけはフードの取り分けで代用可。


食事の切り替え手順(失敗しない移行)

  • 1〜2日目:旧:新=75:25

  • 3〜4日目:旧:新=50:50

  • 5〜6日目:旧:新=25:75

  • 7日目以降:新100%
    便が緩む場合は段階を戻し、移行を長めに設定。疾患時は個別計画に従う。


家庭でのモニタリングチェックリスト(週次)

  • 体重、BCS、触って分かる筋肉量の変化

  • 食欲と摂餌時間、食べ方(早食い・残す)

  • 便性状(形・硬さ・回数・色・におい)

  • 飲水量(器の減り、給水器の補充頻度)

  • 活動量・散歩距離・息切れの有無

  • 皮膚・被毛(フケ、艶、かゆみ)

  • シニアや疾患犬は月1回以上の通院モニタリングを推奨


よくある落とし穴

  • 袋の後ろを読まない:カロリー密度は製品ごとに大きく違う。計量スプーン依存は誤差を生みやすい。

  • おやつの積み重ね:小さな一口でも回数で大きなカロリーに。

  • 去勢・避妊後の“据え置き量”:代謝が落ちるのに量が同じ→体重増加。

  • 短期間で結果を求める:減量は毎週0.5〜1.5%の体重減を目安に、数か月単位で。


ケース別・簡易モデルプラン(例)

実際は体重・検査値・嗜好・生活を聞き取り個別処方します。

  • 避妊済み成犬・室内生活・軽運動
    MER=1.3×RER。高消化性・中等度脂質の維持食。1日2回、間食はフード取り分け。月1回の体重・BCS確認。

  • 活動犬(週4のアジリティ)
    MER=1.8×RER。脂質と必須アミノ酸を確保、運動前は軽食または空腹時間を十分とる。水分と電解質の回復を重視。

  • シニア・軽度の腎機能変化
    MER=1.2×RER。リン控えめ・高消化性・適正ナトリウム。ウェット併用で水分強化。3か月毎に血液・尿検査。

  • 減量プログラム
    目標体重設定→0.8〜1.0×RERから開始。高たんぱく・高繊維の減量療法食。週次計測、停滞期は5〜10%追加調整。


受診の目安

  • 2週間以上の体重変動(±5%以上)

  • 慢性的な軟便・嘔吐・食欲低下

  • 被毛の急な艶低下・皮膚トラブル

  • 急な多飲多尿、運動不耐性、咳や呼吸の変化

  • 去勢・避妊後の食欲増進と体重増加が止まらない


まとめ

食事コントロールは「フードの銘柄選び」だけではありません。RER→MERで量を仮決めし、BCS/MCS・活動量・便や被毛の状態で2〜4週間ごとに調整するのが実務の核心です。年齢・体況・疾患に応じた目的別の処方食を使い分け、水分・給与回数・おやつ・運動を含めた総合設計で、長期的な健康とQOLを守りましょう。気になる変化があれば早めにご相談ください。

猫の尿路結石

皆さんこんにちは

グリーンピース動物病院の更新担当の中西です

 

 

さて今回は

~猫の尿路結石~

 

猫の「トイレ問題」は見過ごされがちですが、その裏に**尿路結石(尿石症)が潜んでいることは少なくありません。放置すると激しい痛みだけでなく、特にオス猫では尿道閉塞(おしっこが完全に出ない状態)**により急速に命に関わる危険があります。本記事では、臨床現場でよく遭遇する尿路結石について、サイン(兆候)・特徴・診断の流れ・治療の選択肢・再発予防を体系的に解説します。


尿路結石とは

尿に含まれるミネラルや老廃物が結晶化し、次第に塊(結石)となったもの。発生部位は腎臓・尿管・膀胱・尿道のいずれにも及びます。猫ではとくに**膀胱結石・尿道栓子(結晶や粘液が混ざった栓)**が多く、尿道が細いオス猫に重篤な閉塞が起きやすいのが特徴です。

よく見られる結石の種類

  • ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)
    比較的若〜中年齢の猫にもみられ、尿がアルカリ性に傾く・膀胱炎を併発するなどの条件で形成。栄養管理で溶解可能なことが多い。

  • シュウ酸カルシウム
    中高齢で増加。尿のpHに依存しづらく、溶解食で溶かせないため外科的除去や排石が必要になる場合がある。

  • 尿酸塩(尿酸アンモニウム)・シスチン・キサンチン
    発生頻度は低いが、代謝異常や特定疾患・投薬歴が関与することがある。


飼い主さまが気づける「サイン」(初期〜進行)

尿路結石は**下部尿路疾患(FLUTD)**として似た症状を示すことが多く、結石があるかどうかは検査での確定が必要です。以下のサインが複数当てはまる場合、早期受診をおすすめします。

  1. 排尿姿勢の頻回化
    トイレに何度も出入りするのに、ほとんど出ない、あるいは数滴しか出ない。

  2. 排尿時の痛み
    排尿中・排尿後に鳴く、体を丸める、触られるのを嫌がる。

  3. 血尿・濁った尿・強いアンモニア臭
    砂の色が赤褐色になる、ペットシーツにピンクの染みがつくなど。

  4. トイレ外での排尿
    我慢できずに粗相をする、トイレ滞在時間が長い。

  5. 陰部を過度に舐める
    刺激・痛み・違和感のサイン。

  6. 食欲低下・元気消失・嘔吐
    進行や閉塞に伴う全身症状。特にオス猫では時間単位で悪化することがある。

すぐに救急受診が必要な「赤信号」

  • 何度もトイレに行くのにまったく尿が出ない

  • 腹部が張って痛がる、触ると怒る

  • 嘔吐、ぐったり、低体温
    これらは尿道閉塞の疑いが高く、数時間〜半日で腎不全や高カリウム血症による不整脈・心停止の危険があります。


尿路結石が起こりやすい背景(リスク因子)

  • 性別・体格:オス猫(特に去勢後、肥満傾向)

  • 飲水量の不足:ドライ中心の食事、冬季の飲水低下

  • 食事組成:ミネラルバランス・マグネシウム・カルシウム・リン、尿pHに影響

  • ストレス・環境要因:多頭飼育、トイレ不足、縄張り争い、来客・引っ越し

  • 基礎疾患:慢性腎臓病、代謝異常、先天性要因

  • 年齢:ストルバイトは若〜中年、シュウ酸カルシウムは中高齢に多い傾向


診断の流れ(当院での基本プロトコル)

  1. 問診・身体検査
    発症時期、飲水量、食事、トイレ回数、既往歴、投薬歴、多頭環境などを詳細に聴取。膀胱の触診で尿貯留や痛みを確認。

  2. 尿検査(必須)
    比重、pH、蛋白・潜血、沈渣における結晶の有無、細菌・炎症細胞の確認。尿培養で細菌感染の有無・薬剤感受性評価。

  3. 画像検査

    • レントゲン:シュウ酸カルシウム・ストルバイトなど多くはX線で白く写る。

    • 超音波検査:X線で写りにくい結石(一部の尿酸塩/シスチン)や、膀胱壁の炎症・ポリープ、腎盂拡張などの評価。

  4. 血液検査
    腎機能(BUN/クレアチニン)、電解質(高カリウムの有無)、炎症マーカー等。閉塞の重症度や全身状態を把握し治療方針を決める。


治療方針:状況別のアプローチ

A. 閉塞がない場合(排尿は可能)

  • 疼痛管理・抗炎症

  • 食事療法
    ストルバイトでは溶解食で結石・結晶の溶解を目指す。シュウ酸カルシウムでは溶解不可のため、再発予防に適した維持食へ切り替え。

  • 抗菌薬
    尿培養で細菌性膀胱炎がある場合に適応。

  • 水分摂取計画
    飲水増加の工夫(後述)。

  • 再評価
    2〜4週間ごとの尿検査・画像評価で反応を確認。

B. 尿道閉塞・重度排尿困難がある場合(救急)

  • カテーテルでの閉塞解除
    鎮静下に尿道を洗浄しカテーテル留置、膀胱洗浄。

  • 静脈点滴
    脱水・電解質異常・腎前性因子の是正。

  • 入院管理
    痛みのコントロール、尿量モニタリング、合併症対策。

  • 再発多発例への外科
    尿道狭窄や再閉塞を繰り返すオス猫では、適応を満たせば**会陰尿道瘻形成術(PU手術)**を検討。

C. 膀胱結石が大きい・溶解不能・症状が強い

  • 膀胱切開術
    シュウ酸カルシウムなど溶解不能、あるいはサイズ・形状によっては外科的摘出が第一選択。

  • 尿管結石
    微小な結石でも腎後性腎不全に直結。ステント留置や外科手術(SUBシステム含む)の評価が必要。


再発を防ぐための生活・食事・環境設計

尿路結石は再発率が高い疾患です。治療後こそ、日々の管理が重要です。

1. 水分戦略

  • フードの水分量を増やす:ウェット食の併用、ぬるま湯でのふやかし。

  • 給水器の数と種類:流れる水を好む猫も多い。設置場所を分散。

  • 器の材質・形状・高さ:ヒゲが当たりにくい広口、好みを観察して最適化。

2. 食事設計

  • 獣医師推奨の療法食・維持食を継続。自己判断で市販食へ戻すと再発リスクが跳ね上がる。

  • おやつ・トッピングの一貫性:ミネラルバランスを崩さない。

  • 体重管理:肥満は再発要因。月1回以上の体重モニタリング。

3. トイレ環境の最適化

  • 頭数+1台を目安に複数設置。

  • 清潔・静かな場所に置き、砂は好みに合わせて継続使用。

  • トイレの形状・出入り口高さは高齢猫や関節に配慮。

4. ストレスコントロール

  • 環境変化は段階的に。来客・模様替え・多頭間の緊張に配慮。

  • 高所や隠れ家の確保、遊び・運動で情動安定を図る。


ご家庭でできる早期発見のコツ

  • 排尿日誌:回数・量・時間・トイレ滞在時間を簡単に記録。

  • 色とニオイ:ピンク〜茶色の変化、強い刺激臭に注意。

  • 飲水量:季節やフード変更で増減がないか。

  • 行動変化:陰部を舐める、落ち着きがない、夜間にトイレへ何度も行く。


よくある誤解

  • 「血が混じる=必ず結石」ではない
    膀胱炎(特に特発性)でも血尿は起きます。検査での鑑別が必須。

  • 「一度治ればもう大丈夫」ではない
    食事や環境を戻すと再発しやすく、無症状の“結晶尿”段階でも進行します。

  • 「水さえ飲めば防げる」わけではない
    飲水は重要ですが、結石の種類に合った食事管理と総合的な環境調整が必要です。


再診・モニタリング計画の目安

  • 急性期後:2〜4週間で尿検査(pH・比重・沈渣)、必要に応じて画像再評価。

  • 安定期:3〜6か月ごとに尿検査、体重・BCS(ボディコンディションスコア)チェック。

  • 再発既往:季節の変わり目やストレスイベント前後で臨時チェック。


受診のタイミング

  • サインが複数当てはまる、もしくは1つでも悪化傾向があれば早めに受診。

  • 上述の赤信号(尿が出ない、強い痛み、嘔吐・ぐったり)は即日救急へ。


まとめ

猫の尿路結石は、サインが見えづらい初期段階から適切に拾い上げ、検査で確定診断を行い、結石の種類に応じた治療と再発予防を継続することが鍵です。特にオス猫の尿道閉塞は時間との勝負になります。トイレ行動の変化に気づいたら、無理せず早めにご相談ください。
ご家庭では水分摂取・療法食の継続・トイレ環境とストレス管理を柱に、動物病院では定期的な尿検査・画像評価を組み合わせることで、痛みの少ない暮らしを長く支えることができます。

高齢猫ちゃんの原因不明発熱

皆さんこんにちは

グリーンピース動物病院の更新担当の中西です

 

 

さて今回は

~高齢猫ちゃんの原因不明発熱~

高齢の猫が「熱っぽい」「元気がない」「食欲が落ちた」という状態で来院されることは珍しくありません。原因がすぐに特定できない発熱(不明熱)の場合、検査の組み合わせや解釈、治療の優先順位づけが大切です。本記事では、当院に寄せられた実際の症例をもとに、不明熱へのアプローチを整理します。


症例の概要

  • 12歳6か月、去勢済みのオス

  • 品種:スコティッシュストレート

  • 初診時体温:40.2℃、著しい活力低下と食欲不振
    本症例は、複数の病院を受診しながらも原因がつかめず、検査結果の解釈にも幅がありました。


受診までの経緯と初期対応のポイント

1軒目の病院では発熱から「猫風邪」と判断され解熱剤で一時的に改善。しかし翌日に再発。2軒目ではレントゲン・超音波・血液検査の結果、腹水や小さな腎結石、腸管内の結石様所見が見つかったものの「原因不明」とされ、CTや開腹手術を提案されました。再度1軒目でFIP(猫伝染性腹膜炎)疑いとされ、コロナ抗体検査を外注、抗生剤と解熱剤の注射が行われました。

ここでの学び

  • 高齢猫の発熱は「上部気道炎=猫風邪」だけでは説明できないことが多く、画像検査や体腔液の評価を含む系統立てた鑑別が必要です。

  • 一時的な解熱は「原因の解決」を意味しません。再発は追加検査のサインです。


追加検査:腹水検査が示したもの

高度医療機関での再評価では、X線・エコー・血液検査に加え、腹水の採取・評価が行われました。血液検査では軽度黄疸、リパーゼ・LDH高値、炎症マーカーSAAが150超(基準6以下)と著明高値。腹水は比重が高く、どろっとした滲出液で炎症細胞が豊富でした。ただし腹水のコロナウイルス遺伝子検査は陰性で、「FIPではない」との判断が提示されました(同日にレムデシビル投与の記録あり)。

ここでの学び

  • 体腔液の性状は病態を大きく絞り込みます。滲出液+高SAAは強い炎症を示唆。

  • 遺伝子検査は強力な武器ですが「陰性=完全否定」ではありません。検査には感度・特異度の限界があり、検体の採取部位・タイミング・病勢によって結果が左右されることがあります。


鑑別診断の整理

  • FIP(猫伝染性腹膜炎):腹水の性状や炎症所見から強く示唆。ただし遺伝子検査は陰性。

  • 重度の非特異的炎症(膵炎など):高リパーゼや強い炎症反応から候補。

  • 腫瘍性疾患:高齢である点から鑑別に挙げるが、即断は不可。

  • 細菌性腹膜炎/消化管由来の合併症:画像所見や臨床経過と突き合わせながら検討。
    これらを“総合”して、当面は「強い炎症に対するコントロール」を優先する方針となりました。


初期治療と反応

強力な抗炎症薬(膵炎での使用が認可、犬猫の重度炎症に実績のある注射薬)を皮下投与。食べられていないため皮下補液(乳酸リンゲル)を併用し、抗生剤の内服を処方しました。中1日で再診したところ、活力と食欲は回復傾向、体温は39.3℃→翌日39.1℃に低下。経過は良好でした。

ここでの学び

  • “原因探索”と“全身状態の安定化”は両輪。重症化を防ぐため、循環・栄養・炎症のコントロールを優先することがあります。

  • 反応が良い=完治ではありません。寛解と再燃を繰り返すこともあり、計画的なモニタリングが欠かせません。


今後の方針

  • 寛解が続くかを慎重に観察し、再発や悪化があれば大学病院への紹介を検討。

  • 検査結果の「陰性」を過信せず、臨床所見・画像・体腔液・経過を重ね合わせてFIPを含む鑑別を継続。

  • 飼い主さまと情報を共有し、治療の選択肢(支持療法・抗炎症治療・抗ウイルス薬の適応評価・侵襲的検査の是非)を段階的に検討します。


飼い主さまへのアドバイス

  1. 「熱が下がった=治った」ではありません。 再発が多い場合は追加検査が必要です。

  2. 検査は組み合わせが重要。 血液・画像・体腔液の結果を総合して診断精度が高まります。

  3. 陰性結果の解釈に注意。 特に感染症の遺伝子検査は、採材や病期で鋭敏さが変わることがあります。

  4. 通院頻度とモニタリング。 体温・食欲・元気度・呼吸状態・排泄の変化は、早期悪化のサインです。小さな変化も共有してください


まとめ

高齢猫の不明熱は、単純な上部気道炎では説明できないことが多く、**腹水の性状評価や炎症マーカー(SAA)**を含めた総合判断が鍵になります。本症例では、強力な抗炎症治療と補液・抗菌薬の併用で臨床的に改善が得られましたが、根本原因の確定には引き続き慎重な観察と再評価が必要です。気になる症状があれば、早めにご相談ください。

 

柴犬の痒みを伴う皮膚炎

もうすぐ7才になる柴犬の男の子の話しです。

4ヶ月前から最初は背中の皮膚が痒くなって毛が抜けて来たという事で、最初は近医に受診して。
抗生物質とステロイドホルモンで最初とその次の月は10日間治療して。3ヶ月目には20日間治療して。ある程度良くなったので休薬したら、痒み脱毛がみるみるひどくなって来たということで当院に受診されたものです。

初診時の皮膚の状態を見てみましょう。

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こんな感じでした。

こういう症例には、痒みを伴う犬の皮膚炎の原因として、一般的な7つの原因である、
細菌感染、皮膚糸状菌感染、マラセチア感染、疥癬症、毛包虫症、食物性アレルギー、アトピー性皮膚炎をひとつひとつ除外して行くしかありません。

初日にやった検査は、皮膚の細菌培養と薬剤感受性試験、皮膚糸状菌の培養、日本全薬工業がやっているチリダニグループ2アレルゲンIgE抗体検査(いわゆるアトピー体質の検査)の3種類です。

初日の治療をしては、アトピー性皮膚炎の特効薬である強力な痒みを抑える分子標的薬ととりあえずの抗生物質、皮膚に住む疥癬と毛包虫を駆除できる滴下剤の処方をやりました。

翌日からは、薬剤感受性試験に基づく適切な抗生物質の投与を行ないます。この時点で皮膚の痒みはかなり改善していて、掻く回数が激減していました。

来院1週間後には皮膚糸状菌培養結果が陽性になっていましたので、血液検査を実施して内臓機能が正常であることを確認した上で経口抗真菌薬を処方すると共に、抗真菌剤入りシャンプーとセラミド入り皮膚保湿剤の滴下を週に1回実施するよう指示します。

日本全薬のアトピー体質検査の結果は11日後に報告がありまして、抗体価ワンプラスという結果でしたので。3回目来院時に飼い主様に説明しました。

飼い主様曰くは、治療前どことなく元気が無い感じだったのが、最近は元気はつらつという感じになったとのことでした。

ここまで来たら、後は皮膚が正常になるまで治療を続けるだけです。

初診から1か月半で、皮膚被毛の状態はほぼ正常に回復しました。血液検査のデータも正常で、抗真菌経口剤による肝障害も生じておらず。皮膚糸状菌の培養検査も培養9日目でも全然生えて来ていませんから、皮膚のカビも退治出来たと思います。

ここで、初診時と治療1か月半の皮膚被毛の状態をビフォー&アフターの画像で比較してみたいと思います。

ビフォー

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アフター

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ビフォー

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アフター

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ビフォー

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アフター

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ビフォー

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アフター

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治療効果がはっきりと判ると思います。

今後は、アトピー性皮膚炎の治療薬の痒みを抑える分子標的薬を内服して、保湿シャンプーと保湿剤の滴下で管理出来ると思いますが。冬季には治療を休んでも大丈夫かも知れません。

飼い主様もすごく喜んでいました。お力になれて私たちも嬉しいです。

ではまた。

 

 

 

犬のゴム風船誤嚥

昨日の事ですが。もうすぐ1日も終わりという頃に、初診のイタリアングレイハウンド男の子が、約1時間前にゴム風船を食べてしまったということで受診されました。

1時間前の事ですから、もしかすると既に胃から腸に移動してしまっているかも知れないかな?と思いつつ、催吐剤を与えてみました。

すると、出ました。

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ゲゲーッと吐きまして。

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吐物の中に緑色の物体が見えます。

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洗ってみれば、そのまんまゴム風船でした。

イタグレ君、これが腸に行ってしまったら、そのままツルリと出てくれるかどうか?ですが。もし途中で引っ掛かったら開腹手術という大事になる可能性がありました。

そこまで至らずに簡単な催吐処置で済んで良かったです。

ワンちゃん、猫ちゃんの異物誤嚥にはくれぐれも注意して下さい。

ではまた。

乳腺腫瘍、ここまで育てたら駄目です。

ここしばらくは、私自身が食道癌に罹ってしまって。その治療で辛かったのですが。その治療の合い間に受診されて対応した乳腺腫瘍2例がすごかったです。

最初の症例は、高齢のシーズちゃん。

1年くらい前から乳腺のマスに気付いていたのですが。毎日見ていると不思議に見慣れてしまい、大きくなって来ていても切迫感を感じなかったようです。

それで、受診をしようと思うようになったきっかけは。腫瘍が巨大になり過ぎて床と擦れるようになって、そのために腫瘍の表面が傷ついて出血するようになったためだそうです。

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ワンちゃんが高齢のため、乳腺の全摘出は諦めて、大きなマスの切除と卵巣子宮全摘出とだけを行なうことにしました。

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手術津準備が整った時点での画像です。

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手術が終了しました。

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もうすぐ麻酔から醒めて、気管チューブを抜く少し前の状態です。

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麻酔から醒めて、メリヤスのシャツを着せたところです。一晩経過したら肢に入れている静脈カテーテルを抜いて、青いラッパ状のエリザベスカラーを外します。

術後はメリヤスのシャツを着て化膿止めを内服しながら様子を見て行って。術後10日から2週間で抜糸します。

 

その次の症例は、13才の甲斐犬雑の女の子です。約1年前から両側乳腺に小さな腫瘤が沢山ありましたので、手術を勧めていたのですが。飼い主様が「手術は可哀相だから。」と考えられたのか?そのままになってしまっていて。

「大きくなってしまった。何とかならないか?」ということで受診した時には、大きな腫瘤は直径13センチくらいになってしまってました。

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大小の腫瘤を切除し、卵巣子宮全摘出を行なって、手術は終わりです。

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術前検査で、肺に腫瘍の転移像が見られたこともあるのと、年齢などいろいろ考えて、大きな腫瘤を取って生活の質を確保することを優先して。乳腺の前と後の一部分は敢えて残して、手術時間を短縮するようにしました。

これら2頭の子らは、術後の経過は割りと良好で、身体のコンディションも手術前より回復してました。大きな悪性腫瘍は身体をいじめる物質を分泌していますから、本体を切除すると身体はずいぶん楽になることと思います。

どちらの子にも、腫瘤摘出だけでなく卵巣子宮全摘出も実施したのは、乳腺腫瘍の場合、その多くは卵胞ホルモンの影響を受けると大きくなりやすいということがあります。卵巣を切除して卵胞ホルモンが出ないようにすることで、残されている腫瘍の発育は随分遅くなって、いつかは来るであろう更なる状態悪化の時期をかなり遅く出来るということを期待しているわけです。

過去にも書いたことですが。乳腺腫瘍の場合、良性と悪性の比率は概ね半々であり。悪性の方では更にその半分、全体の4分の1は悪性度が高い乳腺癌であるということが報告されています。

悪性の乳腺腫瘍の場合、手術を早くに実施して、腫瘤が小さい間に実施すると、転移している率が低いということも報告されていますし。

犬の女の子の場合、最初の発情の前に卵巣子宮全摘出を実施すると、何にもしなかった子に比べて、乳腺腫瘍の発生率は200分の1まで低下するということも報告されています。

ご愛犬を乳腺腫瘍から守りたい飼い主様にありましては。その子で繁殖する予定が全く無いのであれば、最初の発情が来る前の生後6ヶ月令辺りで卵巣子宮全摘出を実施することが、まず第一の対策ですし。

仮に乳腺に腫瘤が見つかった場合には、なるべく早くに腫瘍摘出と卵巣子宮全摘出を同時に実施してしまうということが第2の対策になります。

この子らのレベルまで腫瘍を育ててしまっていると、高い確率で腫瘍は転移しております。この2頭の子らも病理検査の結果は悪性度の高い乳腺癌という診断でしたし。甲斐犬雑の子に至っては、術前の胸部エックス線検査で明らかな肺転移像が認められていました。

乳腺腫瘍は、まず予防すること、次いで出来てしまった場合にはなるべく早期に対処することが大切です。くれぐれもこの子らのように大きく育てることの無いようにして下さい。

ではまた。

異物を取り残して創傷縫合をされていた犬の治療

3ヶ月くらい前に治療完了した広島県のビーグル系猪猟犬の子の話しですが。

昨猟期終盤ですから、2月末頃でしょうか? 山で猪を獲った際に左肢を怪我して、その時に近医にて傷を縫合してもらったのに。一旦は傷が癒合して抜糸したものの、その後すぐに傷から膿が出て来るようになって。
最初に縫合した獣医師がそれから延々と同じ抗生物質を処方するも、3ヶ月にわたって同じように膿が出続けているということで、その子の飼い主様の知人から相談を受けたものであります。

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傷は、左後肢下腿外側にあります。

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確かに膿性分泌物が出ています。

この子は、傷があって膿が出続けていてもそれを気にすることもなく、普通に歩いていまして。生活に支障は無いようですが。

飼い主様はこの状態に対して非常に心を痛めてまして。何とか治らないものであろうか?ということです。

まず、3ヶ月以上も同じ抗生物質を漫然と投与し続けていることに大きな問題があると考えまして。薬剤耐性菌の出現によって治癒が妨げられている可能性があること。検査によって選択した有効な抗生物質を投与しても改善が見られない場合には、最初に傷を縫合した際に、傷の中に木の葉や木屑、石や砂、泥などの異物を残したままにしてしまっている可能性が高いとお伝えしました。

ということで、最初にやったのが膿性分泌物を細菌培養と薬剤感受性試験に供して、それで選択した抗生物質を10日間与えるということでした。

しかし、10日経過しても、傷の状態に変化は見られませんでしたので。

当院に入院させて、ひと通りの術前検査を行なった後に、全身麻酔をかけて、傷を開いてやって。異物を探して摘出する作業を行ないました。

傷を切開した後に、傷から探索子を挿入してみると、腿の後ろ側にスッと入って行って、その辺りに大きなポケット状の空洞があるのが判りました。

空洞の中を探って行くと。ありました。木片が採取されました。

後は廃液管を装着して縫い合わせます。異物が見つかれば簡単なものです。

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手術後の状態。

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採取された異物(木片)です。

その後、細菌培養と薬剤感受性試験で利くことを確認してある抗生物質を投与して経過を見ましたが。
速やかに回復して、1週間後には退院させ。1ヶ月後に往診で確認すると完全に治っていました。

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猪に斬られた傷の縫合なんか、外科処置の初歩の初歩ですが。最初に傷を点検して異物を除去しておくことが基本です。

この症例は外科処置の基本を怠った結果と言えると思います。

簡単な症例ほど落とし穴に嵌まる可能性が高いです。自分自身も心して臨まなければならないと思います。

ではまた。

寄生虫性皮膚炎(疥癬)

しばらく前に初診で来院した性格の穏やかな素晴らしい四国犬の男の子の話しですが。

2ヶ月前から前足の先をひどく咬み始めて。徐々に病変が全身に広がって行って。

近くの動物病院に受診して治療を開始したのは痒くなり始めてすぐでしたが。一向に改善しないで、悪化するばかりということで。当初使用していたステロイドホルモンを内服すると下痢をするので。現在は軟膏塗布により治療をしているようなことだそうです。

病変はほとんど全身に広がっていまして。本当に痒そうであります。

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しかし、よくよく見ると、身体の下半分がよりひどい傾向があるような。

飼い主様に、痒みを主訴とする皮膚疾患は、ざっと勘定して7種類あること。その原因をひとつひとつ消去して行って、残る原因がアトピー性皮膚炎になるのだが。アトピー性皮膚炎の多くは生後半年から3才までの間に発症する等の話しをしつつ。

7つの原因の消去法として、疥癬や毛包虫(アカラス)を駆除することが出来る3ヶ月有効なマダニノミ駆除剤の処方。皮膚糸状菌の培養、細菌の培養と薬剤感受性試験を進めて行きます。

そこで、病変部の見た目とか分布とかを見ていると、どうしても疥癬を検出する皮膚搔き取り試験をやらなければならないかも?という気になって来まして。

鋭いエッジのついた鋭匙という道具で皮膚を搔き取って、取れた組織を水酸化カリウムとDMSOというお薬との混合液で溶かして、顕微鏡で見てみると。
あれあれ、疥癬が沢山見えるではありませんか。

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小さい倍率で見たのが上の画像で、拡大してみると下の画像のように見えます。

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疥癬も卵を産みまして。産んだ卵も下の画像に見えています。

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この四国犬は可哀相に疥癬という非常にクラシックな皮膚の寄生虫に侵されて、それを最初に受診した動物病院で見落としたものですから、2ヶ月もひどい痒みと皮膚の炎症で苦しんでいたのだと思います。

最初に処方した3ヶ月有効なノミマダニ駆除剤を帰宅して内服させるように指示して帰ってもらいました。

翌日に皮膚の細菌の培養と薬剤感受性試験に基づいて抗生物質を処方する時に、飼い主様が言うには、「久し振りに夜眠るようになりました。」ということでした。

次の週に来院した時には、痒みはほとんど無くなっていて、食欲も増進して来たとのことです。その時点では皮膚の状態は見た目にはそんなに改善はしていませんでした。

最初に培養した皮膚糸状菌培地にはカビが生えていて培地の色も赤く変色してましたので、皮膚糸状菌の2次感染も生じていたようですから。内服タイプの抗真菌薬も処方しました。

その次の週に来院された時には、皮膚の状態は見た目もかなり改善してました。画像でははっきり判り難いかも知れませんが、画像を掲載しておきます。

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もっと良くなった画像は後日掲載すると思いますが。

この四国犬はこれで治って行くと思います。

疥癬の感染源は、推定ですが、飼い主様のお住いの近くに疥癬に罹った狸か狐が居たのではないか?と思われます。

この子の場合全身状態がひどく悪くなっていて、体重も進行性に減少して行きつつある状態だったので。診断が付かなかったらそのうちに皮膚の炎症に疲れ果てて死亡する可能性が高いと予想されます。

疥癬なんて過去の病気だなんて決めつけないで、初心に帰ってきちんとやるべきことをやらなければならないと再度確認出来た有り難い症例でした。

最後に、更に2週間くらい経過して来院した状態は、皮膚の状態も被毛の状態も随分良くなっていて。体重もかなり増えて、一見して幸せそうな状態になってました。
培養検査で確認された2次感染と思われる皮膚糸状菌も制圧されて来ていて、今回の処方で内服薬もお終いかな?という感じでした。

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この子の治療は以上です。

最後に初診の時の皮膚と最近の皮膚の画像の比較を載せてみます。同じような構図の画像を二つ並べます。上が初診、下が最近のです。

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直接見るとその変化は大きいのですが。画像にするとどうなんかな?注意してみると大きな変化が判るとは思いますが。

ではまた。

 

未去勢犬の精巣腫瘍

昨年から未去勢牡犬の精巣腫瘍の症例が続いています。

昨年夏から1年弱の期間で、大方7例ほど手術したでしょうか?

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精巣腫瘍の多くは、片方の精巣が大きくなったことにより発見されます。反対側の精巣は、萎縮して小さくなっていることが多いです。

その発生頻度はかなり多く、未去勢であれば全腫瘍発生件数の2番目にくらいにカウントされると記憶しています。

当然ですが、去勢している犬では発生することはありません。

なお、精巣腫瘍は停留精巣では発生リスクが正常に陰嚢に下りた精巣の約10倍に上昇するということです。

今回の症例は停留精巣ではありませんでした。

この1年で手術した7例の精巣腫瘍は、4例が停留精巣で、3例が正常に陰嚢に下りた精巣でした。

この子は、飼い主様は腫瘍の存在に気が付いてなくて。狂犬病予防注射とフィラリア予防で来院した際に、犬を保定する動物看護師が左側の精巣が巨大化しているのに気付いたというものです。

すぐにフィラリア予防の前の血液検査を検診付きのコースにして。その他必要な術前検査を実施し。

後日全身麻酔下で精巣腫瘍摘出手術を行ないました。その際に大きくはなっていない反対側の精巣も必ず摘出します。巨大化した精巣から出る異常なホルモンの影響を受けて反対側の精巣もダメージを受けていることが多く。最悪はそちらも腫瘍化していることがあるからです。

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手術は気管挿管とガス麻酔、静脈カテーテル留置と静脈輸液、各種麻酔モニターの装着は必須で行ないます。

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摘出した精巣は、片方が異常に大きくなっていましたし。反対側もどちらかというと萎縮気味でした。

これを病理検査に出します。

病理検査の結果によっては、約半年にわたる抗癌剤の投与を考慮しなければなりません。

牡犬の去勢手術、牝犬の避妊手術については、健康な動物にメスを入れることを嫌って実施したくないという飼い主様が居られますが。

最近の獣医学の常識では、繁殖予定の無い犬猫の早期の避妊去勢手術は病気の発生リスクを減少させるだけでなく、生殖にまつわるストレスから動物を解放することが出来て、動物愛護に資する行為であるとされています。

新たに子犬を迎えられる飼い主様、今現在未去勢牡犬と暮らしておられる飼い主様は、繁殖予定が無い場合は去勢手術を行なうことも考えて見られたら如何かと思う次第であります。

ではまた。