兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 食事管理
院長ブログ

カテゴリー別アーカイブ: 食事管理

犬の蛋白喪失性腸症

犬のお腹が膨れて来て、腹水が溜まっているという状態で受診して来た時に。 血液検査を行なってみると、 血液中の蛋白質の一種であるアルブミンの量がひどく少なくなっている場合があります。

血清アルブミンは、 比較的分子サイズの小さな蛋白質でして。 肝臓で造られています。 アルブミンにはいろいろな働きがありますが。 そのうちの一つに、 血液の膠質浸透圧の維持と言って。 血管内に水分を保持する役割があります。

従って、血清アルブミン濃度が低下すると、 血管から水分が周囲組織に漏れて出てしまい。 漏れ出た水分が腹水や胸水という形になって目に見えるようになるわけです。

それで、血液中のアルブミンがどういう理由で減るのか?という話しなのですが。

単純に羅列してみますと。

蛋白喪失性腸症。 蛋白漏出性腎症。 肝臓機能不全。 火傷などの広範な皮膚障害。 出血。 腹膜炎。 膵外分泌不全。 アジソン病などいろいろであります。

前置きはこれくらいにして。 今回の症例の子は。 もうすぐ10才になるヨークシャーテリアの避妊済み女の子です。

この子は、 丁度1年前に歯の根に細菌感染が生じて眼の下に膿が溜まり。 眼の下の皮膚が破れて膿が流れ出て来るようになったので。 麻酔下で処置をする際に、 術前検査をしましたが。 その時にはアルブミンは2.5g/dlと異常はありませんでした。

その後、この秋に乳腺にしこりが出来まして。 乳腺腫瘍であろうということで外科的処置をする際に、 やはり術前検査を行ないましたが。 その際にアルブミンが1.7g/dlと明らかな低アルブミン血症になっていたのです。

一応一般状態は良好だし、肝機能にも問題は無かったので。 蛋白漏出性腎症を除外する目的で、尿中のアルブミン検査を行ないましたが。 アルブミンが尿に漏れているということもなくて。

アルブミン濃度が低い状態で大きな傷を作ると癒合不全に陥る可能性がありますので。 乳腺腫瘍はいつものように広範囲にマージンを付けて切除することは避けて、ピンポイント切除で病理検査を実施しました。

乳腺腫瘍は良性の物であり、 ほっとしました。

乳腺腫瘍摘出から2ヶ月経った先日。 ここ数日嘔吐が続いていることと、昨日から軟便になっているということで来院されまして。
飼い主様が、最近お腹が張っている感じなのが気になると言われますので。

血液検査と腹部エックス線検査を行なってみたところ。

血液中の総蛋白が2.9g/dlアルブミンが1.0g/dlと明らかにひどく低下しています。

腹部エックス線検査では、お腹の中に腹水が貯留しているという結果でした。

kinako2016121

お腹がポッコリと膨らんで、 お腹の中はスリガラス状にぼやけて見えます。 直腸にコントラストが強く見える粒子状の物体が見えますが。 これは同居の猫の使う猫砂を食べているのであろうということです。

2ヶ月前の検査では、尿中にアルブミンが出ていなかったので。 蛋白漏出性腎症は一応除外して考えることにして。

腹部エコー検査で肝臓や腸管を観察することにしました。

PLE001

肝臓は問題なく。

PLE002

胆嚢も問題なく。

PLEI20161217100311328

お腹の中には液体が充満していて。

PLEI20161217100311421

液体の中で大網膜や腸間膜の脂肪がヒラヒラ揺らめいていて。

PLEI201612171003312341

 

リニアのプローブで探って見ると。 腸管は特に異常はありません。 小腸粘膜の高エコー線状パターンが見られたら診断は腸リンパ管拡張症で決まりなのですが。 もう一つはっきりしません。

因みに小腸粘膜高エコー線上パターンとは。 下の画像のように見えます。

PLE201612190011

 

著作権の問題がありますので、出典を明らかにしておきますが。 この画像は、インターズーさんの「犬と猫の治療ガイド2015」の306ページから引用させてもらいました。

確定診断をしようと思えば、 麻酔下で消化管内視鏡検査あるいは腸の全層生検と病理検査をするべきだとは思いますが。

私はここで、試験的に治療してみることにしました。

処方の内容は、 副腎皮質ステロイドホルモン。 利尿剤。 抗生物質。 下痢止め。 整腸剤。 嘔吐止めというものです。 なお、内服以外には、腸管の慢性病変ではシアノコバラミンというビタミンの一種が不足して状態が悪化しますので。 シアノコバラミンの皮下注射も行いました。
食事は非常に重要ということですから。 低脂肪食を処方しました。

それで4日間治療してみると。

kinako201612021

 

下痢嘔吐は治まり。 腹囲は減少しまして。 お腹の中の液体も減少あるいは消失してました。

血液検査はさらに1週間投薬してから行なう予定ですが。 おそらく血漿アルブミン濃度は増加していることと確信しています。

今後は定期的に血液検査を実施しながら、 ステロイドホルモンの内服と、シアノコバラミンの皮下注射を続けて行く予定です。

この病気の多くは生涯にわたる治療が必要になることが多いようですから。 ステロイドホルモンを副作用が生じない最小限の用量で上手くコントロール出来るよう頑張ってみたいと思います。

ではまた。

子犬の食事量について

もうすぐ生後4ヶ月令になろうかというウェルシュ・コーギの男の子の話しですが。

目やにが多いので診て欲しいということで来院されました。

しかし、診察台上の子を見ると、異常に痩せています。

画像ではそんなに感じられないのかも知れませんが。それは被毛で覆われているせいで。手で身体を触ってみると、背骨は立っているし、肋骨も浮いているし、骨盤も突き出ているのが感じられるのです。

「この子は食が細い(食べる量が少ない)のですか?」と訊くと。

「もっと欲しそうにするんですが。買う時にペットショップの人が『この量を与えて下さい。』と言われた量を守って与えています。」との返事でした。

一瞬。めまいを感じてしまいました。カルテの記載を見ると飼育開始が生後約3ヶ月令の時ですから。その時の食事量を厳密に守っていれば、成長と共に食事の必要量が増えて行くのが生き物の子供の原則ですから。明らかに栄養不足であります。

ペットショップの店員さんの言い方がよほどきつかったのか?言われた量が完璧なマニュアルとして受け取られてしまったのかも知れませんね。

なお、目やにが多いのも、栄養失調の結果かも知れません。

飼い主様にはそのことをお話しして理解していただき。子犬の成長に合わせた食事量の決定法をお伝えしました。

私が用いている子犬の食事量の決め方ですが。基本的に食欲の程度と便の硬さを基準に考えています。

まず、子犬が来た時には。最初はそれまで世話をしていた人に伝えられた量の食事を与えます。
子犬が与えられた食事をあっという間に食べ終えて。その数時間後のお便がしっかりと硬いものであれば。
次から、食事毎にその量を5%から10%ずつ増やして行って。ある量を超えて便の状態が軟便になったら。
そのひとつ前の食事量がその子の消化能力の限界と考えて。その量あるいはそれよりひとつ前の量を与えるようにして。
成長と共に便の状態が微妙に硬く感じられるようになったら。もう一度量を増やしてみるということを繰り返すのです。

この方法は、まず検便や駆虫でお腹に消化器性寄生虫が居ないということが大前提であります。

基本的に、よほど特殊な例でない限り。成長期の子犬に肥満を用心しなければならないということはないと思います。

なお、小型犬の場合。往々にしてペットショップの店員が、「多く食べさせると大きくなり過ぎますから注意して下さい。」と説明することがあるようですが。

ショウドッグならばいざ知らず。一般的な家庭犬の場合は体格がスタンダードの範囲内に収まることよりも。健康で知能が高くお利口な犬に育つことの方がもっと重要だと思います。

基本的に犬の体格(骨格)は、持って生まれた資質。即ち遺伝情報でプログラムされた範囲内までしか大きくなることはありません。沢山食べさせて大きく育ってしまうということは大きくなってしまう遺伝情報の持ち主だったというだけのことだと思いますし。大きく育った小型犬が家庭犬として失格だとも思いません。

人間で「大きく育ったら駄目だ。」言われるのは競馬の騎手とか体重に制限のあるボクサーくらいのものでしょうし。そんな人でも小学生の頃はしっかり食べて健康に育つようにと、ご両親は愛情を込めて食べさせていると思います。

基本的に子犬も人間と同じです。成長に応じてその時その時に最適な食事の質と量を確保して、健康で賢い良い伴侶犬に育ててやって欲しいと思います。