兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2017 5月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2017年5月

子犬の耳疥癬立て続けに来院

先日からブルドッグの女の子とトイプードルの男の子と、立て続けに2頭の子犬から耳疥癬が検出されて、現在治療中です。

ブルドッグの女の子は直接ブリーダーさんから購入されたようですし。トイプードルの男の子はペットショップでの購入だったようですから。それぞれ別々の感染ということになります。

見つかった耳疥癬虫は、耳垢を顕微鏡で観察すると、こんな感じで見えます。

最近は、ブリーダーやペットショップで購入した子犬子猫で、さすがに回虫や鉤虫のような線虫と呼ばれる寄生虫に感染した個体は見ることがほとんど無くなりましたが。
耳疥癬の感染は時々見つかります。

耳疥癬は、通称ミミダニというダニの一種(疥癬虫)に感染することにより、耳の中に特有の黒い耳垢が多量に増えて、猛烈な痒みを生じる。いわゆる寄生虫性外耳炎という病気です。

耳疥癬の治療は、疥癬虫を殺すお薬を皮下注射で1週間間隔で3回投与することと。耳の炎症を抑えるお薬を点耳することで、比較的簡単に行なうことが出来ます。

子犬たちは早くに診断がついたので、外耳炎が慢性化して難治性になることはないと思いますが。

犬猫を販売される業者さんについては販売する子犬子猫の健康管理について万全を期していただきたいと切に願うものであります。

猫の子宮蓄膿症にはアリジンは利かなかった?

先日からアリジンで治療していた猫の子宮蓄膿症ですが。

初回のアリジン皮下注射から1週間が経過しまして。再来院しました。

食欲はそれなりに回復しているものの。目視出来る性器からの排膿は無しとのことです。

エコー検査を実施してみたところ。先週と変わりない膿らしき液体を含んだ子宮と思われる陰影が確認出来ました。

アリジンが食欲回復に一役買っているのかどうか?は不明ですが。同時に使用している抗生物質が子宮内の細菌を殺してくれて、その結果状態が改善している可能性は高いです。

しかし、このまま内科的に治療を続けても、いずれ抗生物質は利かなくなって破たんが来るのは目に見えてますから。
状態が少しでも改善している今が、外科手術を決行するチャンスと思いまして。

飼い主様に、「今日残業してでも手術を行なって治療しましょう。」と提案しました。

飼い主様は、どちらかというと手術は怖いというお考えの持ち主のようで。少しためらっている感じでしたが。

このままでは、いずれ状態が悪化して、播種性血管内凝固(DIC)や多臓器不全に陥って亡くなってしまうということを説明すると。何とか同意してくれました。

手術同意を取り付けてすぐに静脈カテーテルを留置し。乳酸リンゲルの点滴を開始します。
午後7時に午後診外来が終了した後。麻酔導入して。各種モニターの装着、気管挿管の実施と進めて行って。

開腹手術を開始しました。

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お腹を開けますと。出て来ました。正常よりも何倍にも腫大した子宮です。多量の液体を含んでいます。

関連する血管を合成吸収糸で結紮して、卵巣と子宮をセットで取り出しました。特に子宮頚管の部分については、子宮体部の取り残しが無いように神経を使いました。また、腎臓から膀胱に尿を送る尿管という管を結紮で巻き込まないように留意しました。

手術は無事に終了し。覚醒も速やかで。午後9時には無事に手術終了です。

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取り出した子宮をメスで突いてみると。膿が大量に出て来ます。細菌培養と薬剤感受性試験を実施しました。

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一夜明けて。細菌培養と薬剤感受性試験では細菌は生えませんでした。

で、猫ちゃん本体はどうか?というと。すごく元気です。朝食に猫缶を与えてみると。意欲的に食べてくれました。

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疑いの眼でこちらを見ているのは。治療の意義を理解していないので仕方がないことと思います。

手術翌日の夕方には退院となりました。

術創を舐めて破壊しないように、メリヤスのシャツを着せています。

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今回は、何とか元気な猫ちゃんに戻すことが出来ました。しかし、獣医のテキストにあれだけしっかりと「アリジンは猫の子宮蓄膿症にも犬同様利いて、副作用もありません。」と記載されていたのに。実際に使用してみると思ったほど利いてくれなかったのは、正直心外でした。
もしかすると、それなりに利いてはいたのかも?知れませんが。少なくとも子宮からの排膿は無かったです。

次回同様の症例が来た時に、どうするか?ちょっと迷うところであります。

 

猫の子宮蓄膿症にアリジンを使用(注意!!後日談があります)

3日前のことですが。午後診に猫ちゃんが来院されまして。2日前から食欲が無いという稟告です。

聴けば、昨年末辺りから、近医にて腎臓が悪いと診断されて、お薬の内服と皮下輸液を随分やったのだが。いろいろあって最近は腎臓病用の食事だけで管理して来たのが悪かったのだろうか?と気にされています。

何で最初に診断した近医に行かなかったのか?と訊くと。「あの先生は私には合わないようでして。」と言われますので。それ以上は訊きませんでした。

既に腎機能不全という診断が下されていたということであれば。私のところでもまず血液検査、そして必ず尿検査を実施したいところです。

セミナーを受講すると、講師先生が必ず言われるのが「尿検査を実施せずして腎臓を評価してはいけない。」ということです。

先に「腎臓が悪い」と診断された獣医師さんは、尿検査はされなかったそうです。私も性格的に採尿が不可能な子の場合やむなく尿検査を省略すること無しとは言いませんので他人のことは言えませんが。なるべく尿検査はやりたいところです。

飼い主様にお断りして採血し。採尿はエコーで膀胱を観察しながら細い針と注射器を使用した膀胱穿刺で行ないました。大人しい子でスムーズに尿が採取出来ました。

猫ちゃんから採尿する時に、手で下腹部をマッサージしたり圧迫したりして膀胱から尿を絞り出す、いわゆる圧迫採尿は、絶対にやってはいけない行為であります。なぜならば膀胱の内容が尿管を逆流して腎臓に戻って行くことが多く。その結果腎盂腎炎を発病することがしばしばあるからであります。
エコーで膀胱を確認しながら細い針で採尿する方法は、腎臓病の専門医さんが推奨している方法で、よほどひどく暴れる猫ちゃんでなければ、侵襲が少なく無菌的に尿が採取できる優れた方法であります。

エコー検査をしてみると。あっと驚く画像が撮れてしまいました。

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画面右上の黒い部分が膀胱なのですが。その左側に接してコントラストがやや白っぽく映る構造が見えると思います。

それをエコーの探子でたどって行くと。

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屈曲した中空の構造で、内容は尿よりも濃い液状の物体。おそらくは膿のような物であると推察されます。

となると。未避妊の女の子ですから、子宮蓄膿症という致死的な病気が最も可能性が高いと思われます。

腎臓も調べて見ましたが。

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左の腎臓も。

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右の腎臓もエコーの画像上では問題無しです。

血液検査の結果を見ると。まず目を引くのが白血球数特に好中球という細菌と闘う細胞の著しい増加でした。尿素窒素(BUN)が若干高値であるだけです。クレアチニンという項目は少し高めですが。参考値内に収まっています。

尿検査では、比重が1.014と薄目ではありますが。何とか尿は濃縮されているようです。尿比重で最悪の結果が1.008から1.012の間です。

尿比重が低い目というのは、しかし、子宮蓄膿症に罹患すると、大体において多尿多飲の症状がでますから。

まず子宮蓄膿症を治療してそれから腎臓の機能を評価すべきと考えます。

子宮蓄膿症の治療法で最もポピュラーなものは、やはり早期の開腹手術となります。子宮に膿が溜まって毒性を発揮していますので。その膿を子宮毎取り出してやれば、DIC(播種性血管内凝固)を併発しているのでなければ、急速に開腹に向かうものであります。

しかし、残業してでも手術をと飼い主様にお伝えすると。突然のことでびっくりされて、混乱してしまっています。

これは困ったことです。私の伝え方が悪かったのかも知れません。

次善の策をと、黄体ホルモンレセプター阻害剤のアグレプリストン(商品名アリジン)の皮下注射を軸にした治療法を提案することにしました。

アリジンは、元々は犬のお薬で。人工妊娠中絶や子宮蓄膿症の特効薬的な存在で、副作用もほとんど無いという優れたお薬なのですが。

私の持っている教科書には、猫にも犬と同じように使用可能で、副作用も無く有効であると記載されております。

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そういうわけで。飼い主様にその旨お伝えして同意を得ることが出来ましたので。

アリジンの皮下注射。抗生物質の皮下注射。ラクトリンゲルの皮下注射によって治療を開始しました。

アリジンは、24時間置いて2回注射するのですが。2回目の注射の際にはまだ性器からの膿の排出はありませんで。

どうなるのか?少し心配でしたが。3日目に診療した際には、膿の排出はまだ見られないが、食欲が回復しつつあるということでしたので。一応抗生物質の内服だけで経過を追うことにしました。

動物による個体差もあるかも知れませんが。次回来院の際にはエコー検査を実施して子宮の状態を確認する予定です。

また、犬の場合でも同様ですが。アリジンで治療した場合。次の発情の後黄体期に入ると子宮蓄膿症の再発が心配ですので。
いったん回復して麻酔のリスクが低くなった時点で避妊手術を実施するよう飼い主様にはお伝えしてあります。

子宮蓄膿症が治った時点で。もう一度尿検査と血液検査を実施して腎機能の正確な評価を行なわなければなりません。

猫ちゃんと飼い主様には、これからもまだまだ幸せな生活を送って欲しいと、切に願う次第であります。

ではまた。

なお、この件については。アリジンの実際の利きについて後日談がありますので。そちらもご参照下さい。

 

 

マイクロチップで飼い主発見!!

先日のことですが。

隣り町で迷い犬を保護して警察に届けたのだけれども。警察でこれ以上預かれないから連れて帰ってくれと言われて引き取って来たという方が。
シャンプーをするのに、その後ノミマダニ駆除の滴下剤を購入したいということで来院されました。

話しを聴くと、警察ではマイクロチップの読み取りはしなかったということです。

それでは念のためにと。当院に備え付けてあるマイクロチップ読み取り機のスイッチをオンにして。その子の首の付け根辺りに近付けてみました。

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ピッという独特の音がして。読み取り機の画面に番号が表示されました。

一発逆転とはこのことです。

すぐにマイクロチップの情報を管理している日本獣医師会の情報センターに問い合わせて。飼い主が判明。

飼い主に返すことが出来ました。

警察にこの読み取り機が備わっていれば、保護した人がここまで苦労することは無かったのですが。

現在兵庫県では県内の獣医師会に所属している小動物診療施設の総てと、県内数ヶ所の動物愛護センターの総てに、このマイクロチップ読み取り機が備えられております。

グリーンピース動物病院では、この10年間の間に、保護されて連れて来られた動物にマイクロチップが入っていて、それを読み取ることが出来たために飼い主の許に無事返すことが出来た事例は2件あります。

2件という数字が多いのか少ないのかという議論はさておき。マイクロチップという小さな電子機器は、動物の個体識別の手段としては素晴らしく優れた方法だと考えております。

私の場合。子犬子猫が来院した時には、ワクチンやフィラリア予防、ノミマダニの駆除、避妊去勢の説明と共に、マイクロチップの有用性を説明してそれを入れるようお勧めするのをルーティーンにしております。

最近は、一部のペットショップでは販売の時点でマイクロチップを入れているところもありますが。良いことだと思います。

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上の画像の中に赤と黒の小さな物体がマイクロチップです。これを動物に入れたイメージは。下の画像のような感じです。

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画像の中の赤い矢印の先に白いコントラストで映っているのがマイクロチップです。注射器のような挿入器で皮下に入れてやるのですが。全く無害でありますし。首輪や迷子札と違って体内にあるわけですから。落ちて紛失することも皆無です。

マイクロチップを自分の動物に未だ入れてない飼い主様には、この記事をお読みになったのを機会に、その挿入を検討されてみることをお勧めします。料金は挿入するのに本体込みで税別6,000円。情報登録料が1,000円だったと思います。

 

フィラリア予防失敗例 予防薬は決められた量を決められた回数と間隔で

先日来院された日本犬雑の女の子のことですが。

フィラリア予防開始の案内ハガキを送りましたので。フィラリアの感染の有無の検査を希望されました。
予防薬は、投与間隔が2ヶ月までは空いてはいないけれども。1ヶ月丁度にはやれていないので。残っていって。
結局ワンシーズン分残っているので。今回は処方を希望されませんでした。

それで、血液を少量採取して感染検出キットで検査してみたところ。

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画像上のパネルは、検査結果の解釈を図示した飼い主様説明用のものでして。本犬の検査キットは下の小さな日付を記載したものです。

キットの中央付近に2本縦に線が見えますが。Cの位置のはっきりした線は、この検査が正常に行われていることを示す線でして。Tの位置に見えているぼんやりとした線が、フィラリア感染していることを証明するエビデンスであります。

この子は、残念ながら昨年にフィラリアに感染していて。

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心臓の右心室から肺動脈にかけて、上の画像のボトルの中に見えるようなフィラリアの成虫が寄生しているのです。

幸い、まだ無症状ではありますが。今までと同じような中途半端な予防法を続けていると、徐々に寄生数が増えて行って慢性フィラリア症を発症して苦しむようになるでしょうし。何らかの原因で肺動脈や右心室に居たフィラリア虫が右心房や大静脈洞という部分に移動すると、急性フィラリア症を発症して1週間から2週間くらいでひどく苦しみながら死んでしまうこともあります。

飼い主様には、その旨説明を致しまして。今後はフィラリア予防については私の指示の通りにしていただくようお願いしました。

なお、いったん感染したフィラリアについては、それを駆除するのは。砒素剤を使用したり。ある種の抗生物質を併用すれば出来ますが。砒素剤は非常に危険を伴いますし。抗生物質の併用も現在犬がフィラリア症で苦しんでいるのでなければ、費用対効果の点でどうなんだろう?という感もありますし。。

この子の場合、今現在はフィラリア寄生による症状は全くありませんから。心臓の中の成虫については、そおっとしておいて。新しい虫が増えないように予防を徹底することで対応するようにします。

なお。心臓にフィラリアが寄生している状態で、漫然と予防薬を投与しますと、ショックを起こしたりして危険ですから。ショックを予防するお薬と組み合わせて与えることになります。

フィラリア予防薬については、当地方では5月末から12月末まで月に1回予防薬を投与するということは大体の皆さんには周知出来ていると思いますが。きちんと実施していないとこの子のように辛い結果に終わってしまう可能性がありますので。薬は指示の通りにきちんと与えていただきたいと思います。