兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2018 3月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2018年3月

猫の心因性脱毛症

アビシニアンの4才の女の子の話しですが。

この冬から3日に1回咳がひどく出るようになって、近医で猫ぜんそくの疑いありと言われた他、血液検査でコロナウィルスのキャリアであるとされたとのことです。

今回は毛が抜けているということで、受診されました。

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両側の上腕から肩の皮膚の被毛が無くなっています。

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脱毛部には特に赤いとか丘疹のような炎症像は見当たりません。

とにかく熱心に患部を舐めているということでした。

猫の皮膚病はなかなか難しいところがありまして。どちらかと言うと苦手なのですが。とりあえず、細菌培養と薬剤感受性試験に皮膚真菌の培養試験を実施しました。

しかし、細菌も真菌も生えて来ませんでした。

正直良く判りませんので、軟膏を処方して朝夕塗布するようにお伝えしました。

1週間後の再診では、脱毛部に発毛が見られ始めたとのことで。住居の清掃を徹底したところ、ぜんそくの発作も生じなくなったということでした。

コロナウィルスについても以前の検査から半年は経過しているらしいので、当院で採血して検査に出してみたところ、100倍という検出限界ギリギリの抗体価でした。

皮膚については軟膏の塗布を継続すること、コロナウィルスについては感染は一過性のものに終わる可能性があるので半年後に再検査をしようとお伝えしました。

ところが2回目の受診から11日後に来院された時に、皮膚症状が急激に悪化したということです。

飼い主様はストレスによる知覚過敏ではないのか?という疑問を持たれてましたが。私と塩手はぜんそくの既往があることにひっかかってまして。アレルギーを除外するためにステロイドホルモンを処方してみました。

その次に受診された時には、ステロイド処方後しばらくは舐める動作が消失したとのことでしたが。ある日飼い主様の都合で猫ちゃんのお気に入りの場所に入ることを制限した途端、皮膚を激しく舐め始めて毛の擦り切れ部分が急速に拡大し始めたらしいです。

そこで、試しに投薬したのが人間で抗うつ剤として使用されているお薬です。動物では問題行動の治療に使われてまして。教科書的には原因がはっきりしない脱毛症にこのお薬を処方して治療に反応した場合には何らかの精神的な要因が存在するとされていますので。入室制限が舐める行動発現のトリガーになったという情報もありますので、試験的に使用してみることにしました。

すると、約1週間後の再診時には、舐める行動はほとんど消失し。

1ケ月後には舐める行動が消失した結果、被毛の擦り切れは生じなくなって、被毛の状態は劇的に改善して来たということであります。

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私もびっくりの結果でしたが。

猫の皮膚異常が心因性であると診断した際には、その原因になる要因、例えば家族構成や家族の行動パターンの変化、新しいペットの導入、監禁、退屈などを調べて。

猫ちゃんの環境を変えることで症状を改善することが望ましいと教科書には書いてありますが。
正直なところ、猫の言葉が判りませんので、カウンセリングはとても困難であります。
飼い主様に心当たりのある環境要因や家族要因について変更出来ることは変更してもらって。
当分の間抗うつ剤の投薬を続けて、落ち着いた頃に休薬して様子をみようと思います。

今後同様な炎症像に乏しい良く判らない脱毛症を診察した時には、試験的に抗うつ剤の投薬を試みて、反応が無いようであれば、それからアレルギーを疑って投薬なり食事の変更成りを考えても良いかも知れません。