兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2014 10月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2014年10月

サナダムシ感染(アウトドア生活の危険) 

5才6ケ月令のパピヨンの女の子の話しですが。

この秋、1ヶ月ほど行方不明になってまして。見失った場所からかなり離れた田園地帯で保護した人が連絡をくれて、無事に飼い主様の許に帰って来たそうです。

それで、帰って来てから気になるのが。食欲が今ひとつ湧かないようで食が細いということと。息づかいが荒いように感じること。そして、来院の少し前に下痢便を排出したということで。来院されました。

下痢便は持参されてなかったので、当日に検便は出来ませんでした。

荒い息づかいに関しては。診察台上ではそんなに気にはなりませんでしたが。体温、呼吸数、心拍数を測定して、明らかな異常はない事を確認します。

食欲不振については、院内のスクリーニング血液検査を行ないました。

低蛋白血症、軽い貧血と、犬CRPの高値とが異常値として検出されました。

痩せてはいるが、それは野生に近い過酷な状況下で生活していたためかも知れないと考えて。一般的な腸炎のお薬を処方すると共に、便が採取されたら勘弁を実施したいので持参するようにとお願いしました。

2日後に持参された便は。腸炎のお薬が利いたようで下痢便ではありませんでしたが。
検便を行ないますと。直接塗抹法でサナダ虫の一種のマンソン裂頭条虫の虫卵が検出されました。浮遊法では虫卵は検出されませんでした。

マンソン裂頭条虫の虫卵は、やや歪んだ感じのラグビーボール様の形態をしているのが特徴です。

犬猫の臨床で問題になるサナダ虫には、マンソン裂頭条虫の他、広節裂頭条虫(日本海裂頭条虫)と瓜実条虫とがあります。

瓜実条虫は蚤を介して感染する比較的身近な虫で、駆虫は専用のお薬を使用すれば比較的容易です。

広節裂頭条虫とマンソン裂頭条虫は、水中や水辺の多くの動物を介して感染する寄生虫で、犬猫の他人間にも感染します。この2つの寄生虫は、もうひとつ壺型吸虫という寄生虫と共に同じ専用の駆虫薬を使用するのですが。これがかなりしぶとくて駆虫し難いのです。

駆虫薬には、内服薬と注射薬がありますが。過去に内服薬では落ちなかった経験が数例あり。注射薬は比較的効果が確実に発現しているように感じられます。

飼い主様に虫の卵をお見せして、以上の事を説明しましたところ、注射での治療を希望されましたので、注射を実施しました。

このお薬、注射にしても、内服にしても、症例によっては虫が溶けてしまって、虫体を確認出来ないことがあるらしいのですが。

今回のパピヨンちゃんの場合は、注射の翌日に大きなサナダ虫の虫体が糞中に排泄されたのを飼い主様が確認されたそうです。

画像は他のわんこから排出されたサナダ虫の画像です。このパピヨンちゃんのサナダ虫は飼い主様が処分してしまったそうです。

サナダ虫の名前の由来は、着物の着付けに使用する「真田紐」に虫の模様が似ていることから来たものだと聴いておりますが。真田紐ってこんな感じの紐なんですね。

パピヨンちゃん、虫が駆除出来て良かったです。そう言えば、今後の迷子対策にマイクロチップをお勧めした方が良いかも知れません。

ではまた。

ペルシャ猫の多発性嚢胞腎

8才になるペルシャ猫の男の子の話しです。 実はこの子、表題の病気の以前に、今年の8月に食道裂孔ヘルニアを発見しまして。母校の大阪府立大学で手術をしてもらったというヒストリーがあります。 大阪府立大学での診察の時に、エコー検査で膀胱内にキラキラした陰影が見られるから後日対処するようにと連絡をもらってましたので。 食道裂孔ヘルニアが一段落ついた昨日に、私なりに判断させていただくと断って、当院で腹部エコー検査を行ないました。 膀胱内のキラキラ陰影は確かに存在してまして。それなりに対応した方が良いのかな?という感じだったのですが。 同じ尿路系を評価するのだったら、やはり腎臓も診ておきたいと思い。プローブを腎臓領域に当ててみました。 「?????」腎臓に普通は見られない嚢胞(袋状の構造)があります。それも複数。 もう片方の腎臓も見てみました。 こちらも複数ありましたが。そのうちの一つはかなり大きいです。 腎嚢胞は、時たま小さい物を単体で見たことはありますが。こんなに多発する物を見るのは初めてです。

教科書でカンニングをしてみると。ペルシャ猫の多発性嚢胞腎は、ペルシャ猫以外にも発生は見られるが。一般的にペルシャ猫に多発していて。
遺伝性の病気であり。遺伝子診断も出来るようになっているとのことですが。

当院とお付き合いのある数軒のラボの資料には、記載は無かったです。
もし今度不安を訴える飼い主様が現れた場合。出入りのラボに訊いてみるか、母校の大阪府立大学の内科の先生もしくは教科書の執筆者のお勤めしている大学に問い合わせをしてみようかと思います。

腎嚢胞自体は、ときたま犬や猫の腎エコー検査をやっていると見つけることがありますが。多くは数も増えて行くこともなく将来的な問題もそんなに無いものであります。

しかし、多発性嚢胞腎の場合。年齢と共に嚢胞の数が多くなって行き。サイズも大きくなって。嚢胞が正常な腎組織を圧迫して、結果的には慢性腎不全に陥ることになるそうです。

嚢胞の増殖を防ぐことは今のところ不可能で。対症療法しかなく。経過は長期にわたりますので。治療法としては一般的な慢性腎不全の治療である食事療法や腎臓の糸球体という濾過器官を長持ちさせるお薬を内服させることしかありません。

遺伝病の場合。繁殖の段階で両親猫の遺伝子診断を実施して、不幸な子猫を作らないことが最も大切なことと思います。意識の高いペルシャ猫のブリーダーさんはもうとっくに実施されているかも知れませんが。まだ知らなかったという方は、愛猫の繁殖を考える前に獣医師に相談すべきと考えます。

今回の子の場合。とりあえず多発性嚢胞腎を発見したという段階であって。これから長い治療が始まるわけです。

気長に頑張ります。

 

 

蝮による咬傷

一昨日の夜ビーグル雑の女の子の飼い主様から電話がありまして。

「草むらに顔を突っ込んで臭いを嗅いでいたら、みるみる顔が腫れて来た。」ということです。

蝮による咬傷の疑いがあるのですぐに来院するようお伝えしました。

来院して来たワンちゃんの鼻面はかなり腫れ上がっています。

2本の矢印の先がほのかに赤く染まっているのは、そこがマムシの牙が入った場所だということだと思います。

マムシによる咬傷はそれなりに件数を診ていますが。犬の場合死ぬことは滅多に無いようです。

ただ、傷が治癒した後肝機能に異常を来した症例は診ています。

実は、お守りとしてマムシの馬抗毒素血清は常備してはいます。

ただ、この抗毒素血清を注射してもしなくても、そんなに経過が変わるという感触が無かったことと。注射により却ってアナフィラキシーショックを生じる可能性があったりして。

最近はほとんど使用することはありません。

この子の場合でも。来院時そんなに全身症状が悪くないこともあって。抗生物質とステロイドホルモンの注射を行なった上で。

内服は2次感染防止のための抗生物質と、抗炎症効果を期待したステロイドホルモン、強肝作用と解毒作用を期待して甘草エキス製剤の3剤を処方し。経過が心配ならば連絡をくれるようお伝えしてお帰ししました。

私的には、この場合に最も効果を期待する薬はステロイドホルモンで。次に甘草エキス製剤です。抗生物質はあくまで二次感染防止の意味合いで使用しています。

中1日置いて再来院したのを診ますと。食欲元気さはそれなりにしっかりしています。


鼻面の腫れは少しましになっていますが。下顎から首にかけて炎症性の分泌物が溜まっているのでしょう、ブヨブヨに浮腫が出来てました。

続きのお薬を処方して。1週間後に念のために血液検査を実施する旨お伝えしました。

犬のマムシによる咬傷は、一応こんな感じで、最近はほぼ全例が無事に回復しています。

犬がマムシに咬まれても重大な結果になり難いのは、反射神経が鋭いために咬まれても瞬間で離れるために、毒の注入量が少ないということなのかも?知れませんね。

私事ですが、私の実兄はマムシを捕まえてマムシ酒を作ったりしてましたが。数回咬まれて、その都度入院して抗毒素血清の注射を受けてました。
最後の入院の際には、「次回には抗毒素血清に対するアレルギー反応で重症になるかも知れません。」と脅かされて、最近はマムシに手を出すのは止めにしたみたいです。

お彼岸の前後からはマムシの繁殖期になりまして。マムシが攻撃的になる季節に入ります。
ワンちゃんと自然豊かな環境に行く際には十分に気を付けてやって下さい。