兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 院長ブログ

院長ブログ

未去勢犬の精巣腫瘍

昨年から未去勢牡犬の精巣腫瘍の症例が続いています。

昨年夏から1年弱の期間で、大方7例ほど手術したでしょうか?

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精巣腫瘍の多くは、片方の精巣が大きくなったことにより発見されます。反対側の精巣は、萎縮して小さくなっていることが多いです。

その発生頻度はかなり多く、未去勢であれば全腫瘍発生件数の2番目にくらいにカウントされると記憶しています。

当然ですが、去勢している犬では発生することはありません。

なお、精巣腫瘍は停留精巣では発生リスクが正常に陰嚢に下りた精巣の約10倍に上昇するということです。

今回の症例は停留精巣ではありませんでした。

この1年で手術した7例の精巣腫瘍は、4例が停留精巣で、3例が正常に陰嚢に下りた精巣でした。

この子は、飼い主様は腫瘍の存在に気が付いてなくて。狂犬病予防注射とフィラリア予防で来院した際に、犬を保定する動物看護師が左側の精巣が巨大化しているのに気付いたというものです。

すぐにフィラリア予防の前の血液検査を検診付きのコースにして。その他必要な術前検査を実施し。

後日全身麻酔下で精巣腫瘍摘出手術を行ないました。その際に大きくはなっていない反対側の精巣も必ず摘出します。巨大化した精巣から出る異常なホルモンの影響を受けて反対側の精巣もダメージを受けていることが多く。最悪はそちらも腫瘍化していることがあるからです。

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手術は気管挿管とガス麻酔、静脈カテーテル留置と静脈輸液、各種麻酔モニターの装着は必須で行ないます。

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摘出した精巣は、片方が異常に大きくなっていましたし。反対側もどちらかというと萎縮気味でした。

これを病理検査に出します。

病理検査の結果によっては、約半年にわたる抗癌剤の投与を考慮しなければなりません。

牡犬の去勢手術、牝犬の避妊手術については、健康な動物にメスを入れることを嫌って実施したくないという飼い主様が居られますが。

最近の獣医学の常識では、繁殖予定の無い犬猫の早期の避妊去勢手術は病気の発生リスクを減少させるだけでなく、生殖にまつわるストレスから動物を解放することが出来て、動物愛護に資する行為であるとされています。

新たに子犬を迎えられる飼い主様、今現在未去勢牡犬と暮らしておられる飼い主様は、繁殖予定が無い場合は去勢手術を行なうことも考えて見られたら如何かと思う次第であります。

ではまた。

 

 

 

ウェスティーの皮膚病の1症例

2ヶ月前に初診の、少し離れた街から来院されているウェストハイランドホワイトテリアのもうすぐ9才になる女の子の話しです。

昨年8月(初診の7ヶ月前)から脱毛とひどい痒みに悩まされているそうです。

近医でアポキルという痒みを強力にコントロールする錠剤を処方されて。最初の2週間の導入量を内服している間は痒みは止まっていたのが。3週間目に入って導入量の半分の維持量に移行すると利かなくなってしまい。その後ノルバサンシャンプーという細菌を殺す効果の強いシャンプーを続けながら、現在に至っているということでした。

その時の皮膚の状態は。

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こんな状態です。脱毛部の皮膚はひどく分厚く硬くなっていて、皺だらけです。この状態を苔癬化といいます。

特徴的なのは、フケ(皮膚科の世界では鱗屑と呼びます)が異常に多いということです。

因みに、背中側の皮膚には異常は見られません。

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病変が喉元から尻尾にかけての主に腹面に集中しているのが一つの特徴です。

一般的なアトピー性皮膚炎の発症年齢は生後6ヶ月から3年の間が多いので。それとはかなり異なります。

聴けば、2年前に同居犬のウェスティーも同じような脱毛症を患って、結局死亡してしまったということです。

この子も、全身的には進行性の削痩が進んでいます。痒みで安眠出来ないということ、皮膚の炎症が激しくて、炎症と闘うために身体がひどく疲れているためです。
このまま放置していると、この子もやがて疲れ切って死に至るのが予想されます。

飼い主様に、一般的に痒みを伴なう皮膚の病気は7種類ほど存在しているので。それらを除外して行くようなやり方で診断と治療を試みてみますとお伝えして。

初診日には、皮膚の搔き取り試験(ニキビダニと疥癬虫の検査)、細菌培養と薬剤感受性試験、皮膚糸状菌の培養検査を行なうと共に、基礎疾患としての甲状腺機能低下や副腎皮質機能低下症などを除外するための血液検査を実施しました。

この日は、ニキビダニと疥癬虫を強力に駆除する経口タイプ皮膚殺ダニ剤を処方して。ノルバサンシャンプーの後に皮膚に滴下する保湿剤と皮膚の必須脂肪酸のサプリをお渡しして帰ってもらいました。

翌日、細菌培養と薬剤感受性試験の結果が出ました。生えて来た菌はかなり手強そうな薬剤耐性菌であります。
その結果に基づいて、最も有効である抗生物質と、導入量のアポキル、抗生物質が胃を荒らして食欲不振を起こす可能性が高い薬なので、胃酸分泌を制限して嘔吐を防ぐお薬の組み合わせを処方しました。

1週間後の再来院時には、痒みがコントロールされていて夜に眠れるようになったことと。手足の毛が気持ち長く伸びて来たということです。

最初と同じ処方でお薬を出します。

同時に、加水分解蛋白質を蛋白源にした食事性アレルギー対応の処方食をお渡ししました。この食事と水だけで少なくとも2ヶ月間は食事性アレルギーを除外する試験的治療を行なうのです。

また、違うとは思うのですが。一応念のためにアトピー性皮膚炎の際に見られる環境中のチリダニグループのダニに対するIgE抗体が存在するのかどうかという血液検査も実施しました。

次の診察は、初診から約2週間です。発毛しつつありとのことです。前回の近医での治療では、アポキル単独の投与でして、導入量で痒みはコントロールされていたが、発毛はしなかったということです。
なお、アトピーのIgE抗体検査では(-)という結果でしたのと。皮膚糸状菌の培養検査結果は陽性でした。

皮膚糸状菌のコントロールは、今のところ症状がコントロールされているので、主原因はアレルギーか細菌の2次感染と判断して、糸状菌をやっつける内服薬は当面処方しないこととしました。

この日の処方から、アポキルは維持量にします。導入量の半分です。半量にすると普通に軽い痒みが発現するのですが。それをどうクリヤーするのかがある意味課題になります。
アポキル以外の処方はそれまでと同じでした。

約2週間目の皮膚の状態の画像です。

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皮膚の苔癬化はなかなか改善しません。相変わらず皮膚は分厚くて、あちこち溝が見えています。脚の辺りは若干の発毛が見られます。

アポキルを維持量に変えて1週間経過した時の診察では。やはり少し痒みが発現していました。

ここで、次の一手を出してみます。

アンテドラッグという形態の皮膚に直接塗布するステロイドホルモンです。

このお薬の特徴は、強力に皮膚の痒みを抑え込んだ後は、局所で分解されて全身には副作用を及ぼさない形になってしまうので。長期かつ基準量をしっかり使用しても、全身に副作用を及ぼさないということです。

このお薬は日本に入って来て数年経過していますが。どこの獣医さんでもそんなに素晴らしいという評価を聴きません。
しかし、それにはちゃんと理由がありまして。飼い主様に使用する部位と使用量をきちんと説明されていないために、絶対的に使用量が不足しているということが原因なのであります。

そこで、飼い主様に説明する際に。お薬に添付の犬の画を使用して。症状のひどい脱毛部で10センチ×10センチの四角を体表にイメージしていただきます。そして、その四角のひとつ当たりにスプレーの頭を2押しして液を皮膚に付けて。それを指で擦り込むように塗り広げてやることと。
お薬を皮膚に塗り広げた後は30分だけ犬がお薬を舐めない時間を作ってやることを理解していただきました。

この子は、10センチ×10センチの四角が14区画ありますので。毎回28プッシュを投与することになります。1プッシュが0.13ミリリットルになりますので。毎回3.64ミリリットル消費する計算になります。1週間で25.5ミリリットルくらいです。

そういうことで、最初の1週間は31ミリリットルのボトルを処方して。1週間後にそのボトルを持参していただき、実際に投与した量が指示通りかどうかのチェックまできちんとやります。

内服薬はそのまま維持します。

塗り薬の投与を2週間毎日実施していただいた後の皮膚の状態は下の画像の通りです。

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胸と腹の皮膚にはまだ発毛がまばらですが。首や肩、脚部に尻尾の皮膚には白い綺麗な毛がかなり生えて来ています。
それと、皮膚の肥厚がかなり改善して来て。皮膚が薄く滑らかになっています。
痒みは全くと言って良い程生じていなくて。夜も熟睡出来ているということです。

この時点で、細菌の2次感染はコントロール出来たと判断しまして。抗生物質の内服は中止しました。
それまで使用していた抗生物質は、やはり胃や腸に負担をかけているみたいで。どうしても処方食の喰い付きが悪いという訴えもありました。

従って、内服はアポキルの維持量のみとなります。アンテドラッグステロイドの塗り薬は、毎日から1日置きと投与間隔を少し開けることにしました。

その2週間後、本日ですが。皮膚の状態は以下の通りです。

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発毛が進んでいます。皮膚もほとんどが滑らかで薄く、かなり健康的な感じです。

ただ、少し課題もあるのは。喉元の皮膚に若干の苔癬化が残っていること。この2週間の間3回ほど足の裏を舐める行動が見られたことです。

その対策として。喉元と足先だけ塗り薬を毎日使用することを指示しました。その他の部位は1日置きで行ないます。
内服はアポキル維持量のみ。食事は加水分解タンパク食のみを継続します。

2週間後には血液検査を実施して、アンテドラッグステロイドが内臓機能に副作用を及ぼしていないかどうか?をチェックする予定です。

ここまで来ればこのウェスティーちゃんのアレルギーの管理は道筋がついたと考えています。
今後、食事面ではどんな蛋白質に反応して症状が出るのか?を検証することと。皮膚が健常な状態になった後は、アポキルの内服と週に2回程度のアンテドラッグステロイドの継続使用により再発を予防して行くことが肝要であります。

このブログを最初にアップしてから2週間経過して、経過観察来院がありました。皮膚の状態は更に改善していて。アンテドラッグステロイドの副作用チェックのための血液検査では、副作用は全く無いと言って良いほど値は正常でした。

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最後に、初診時と約64日後の同部位の画像を並べてみて、治療効果を実感してみたいと思います。上の画像が初診時、下が約64日後になります。

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今日のところは以上です。お読みいただいて有り難うございました。

ではまた。

犬の急性フィラリア症の手術

先週土曜日に、柴犬が急性フィラリア症を発症したのだが。近医では内服薬を処方されただけなので、グリーンピース動物病院で手術して欲しいと、午後に電話がありまして。

聴けば、一般道高速道乗り継いで1時間は離れた町からだそうですが。

果たして本当に急性フィラリア症なのか?と半信半疑ではありましたが。午後診に来院していただいて。

問診で経過を聴いて。身体検査、血液検査、心エコー図検査、等々やったところ。

本当に急性フィラリア症でした。

フィラリア症は、春から秋までにフィラリアの幼虫を持っている蚊に刺されることにより、犬科の動物や猫の心臓にフィラリア虫という素麺のような線虫が寄生することによって発症する循環器疾患ですが。
犬フィラリア症には、肺動脈に虫が寄生している慢性フィラリア症と、肺動脈に居た虫が右心房から大静脈洞付近に移動することにより発症する急性フィラリア症があります。

急性フィラリア症は、フィラリア感染が証明されていること。急な発症でショック状態に陥っていて、苦しそうな呼吸、食欲は減少から廃絶になり、胸部聴診すると特有のガリガリゴロゴロという心雑音が聴取されて、血色素尿症になっていることくらいで診断されます。
発症が多く生じる季節は気温が急激に上昇する春先が多いです。

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この柴犬ちゃんは、フィラリア成虫抗体の検出キットで、反応窓に2本バンドが現れていますので。寄生は証明されました。

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尿検査をしてみると、遠心分離後の上澄みが血色素尿特有の色をしてまして。ここには出していませんが尿検査試験紙でヘモグロビンの反応が生じてました。

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エコー検査を実施してみると。右心房にフィラリア虫体が団子状になって詰まっています。上の画像の向かって左中ほどからやや下の点々ブツブツという感じの部分がそれです。

静止画では随分判り難いですので。YouTubeにアップした動画をご覧いただくことにしましょう。

静止画の説明でお伝えした向かって左側中ほどから下の部分に団子状になったフィラリア虫が心臓の動きに合わせて動いているのが判るかと思います。

というわけで。診断が付いた頃に外来診療が終わりましたので。そのまま残業して頚静脈フィラリア吊り出し手術を実施しました。

飼い主様には、一般的にはこの手術は死亡率3割の非常に危険な手術ではあるが。実施しないとほぼ100%死亡するので、犬を助けようと思えば選択の余地は無いということを説明して同意を得ました。

術前の血液検査では、血小板数の減少がありますので。DIC(播種性血管内凝固)が始まりつつある可能性大であると判断して。低分子ヘパリンの投与も開始します。

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麻酔導入して、気管にチューブを入れる時が、この手術の最初の試練なのですが。妙に徐脈になって心停止来るか?という雰囲気になって、相当ヒヤヒヤしました。

何とかそこを乗り切って、麻酔が安定したので、首の毛を刈ります。フィラリア吊り出し手術は頚静脈からアリゲーター鉗子という器械を心臓まで入れてフィラリア虫を摘まみ出すのです。

麻酔導入、術野の毛刈り消毒、術者の手洗い消毒、術衣帽子マスク手袋の装着は迅速に行って、ちょっとでも時間短縮を図らなければなりません。

それで、手術を開始して。アリゲーター鉗子を頚静脈から挿入して、途中引っ掛かる場所があるのですが。犬の首と身体の角度を微妙に動かして、真っ直ぐな鉗子が無理なく入って行く角度をみつけます。

いったん鉗子が心臓内に入れば。その角度を保持するようにして。鉗子の顎を開いて、手探りで虫を捕まえます。

吊り出した虫を拡大するとこんな感じです。

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これで4匹か5匹は獲れているでしょうか?

この操作を何回も繰り返して。最後には鉗子を心臓に3回も4回も入れて探っても虫が摘まめない状態になったところで。看護師さんに聴診器を犬の胸に当ててもらって、心音を聴取して。心雑音が消失していれば完了なのですが。

この子の場合心雑音は消失しなくて、音調がガリガリゴロゴロという感じからシャーシャーという透明感のあるものに変化していました。

心雑音が消失していないと、取り残しが心配になりますが。そうこうしている間にまた徐脈になって、心電図も上手く取れなくなって行きます。

これはヤバいか?と心配になりまして。心臓マッサージを試みたりして。

ちょっと回復したところで、頚静脈、皮下織、皮膚の順に縫合を行ない。麻酔からの覚醒を図ります。

あれ以上粘っても、既に虫は鉗子で探れる位置には居なくなっているわけですから。リスクが増えるだけです。

時間はかかりましたが。何とか回復しまして。麻酔からも覚醒することが出来ました。

ほんのちょっとだけエコーの探子を胸に当てて、心臓の中の様子を観察します。

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静止画でも判りますが。最初に見られた団子状のフィラリア虫が消失しています。

動かしてみると良くお判りになると思います。

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手術後は、静脈輸液を継続しながら入院ケージにて治療を継続します。

その晩は、コーヒー色の尿を何回か排泄し、コールタール状の下痢便も少量排泄し。意識も相当低下してましたが。何とか夜を乗り切りました。

翌日は朝から水を欲しがりますので、少量与えてみるのですが、水を飲めばすぐに吐いてしまい。
夕方には元気もかなり回復して来て、飼い主様が面会に来られた時には起立出来るまでになりまして。しかし、水を与えるとやはり吐いてしまいます。

術後2日目に血液検査を行なってみると。来院時に異常に高かった尿素窒素とクレアチニン、無機リンはかなり低下しましたが。肝酵素が上昇して来ているのと。リパーゼの上昇が見られます。
もしかすると、循環不全の影響で膵臓が傷んで膵炎を継発しているのではないかと、心配になります。

それやこれやに対応しながら治療をやっていると。術後3日目の朝には何とか流動食を水で薄く溶いたものは摂取出来るようになりまして。その量も夕方には増えて来て。濃度を濃くしても何とか行けそうです。

この時点で試験的に退院させました。

中1日置いて再来院してもらいましたが。すっかり元気になってまして。心雑音は完全に消失してましたし。固形物も食べるようになってました。

この子の場合、手術前に一般状態が相当悪くなってましたし。内臓機能も恐ろしく傷んでましたので。回復がかなり困難でしたが。
発症後速やかに診断が付いて手術を早期に行なえば、こんなに苦戦することはなかったと思います。

それでも何とか助けることが出来てホッとしました。

しかしです。私はこの子を最初に診察した獣医師にかなりイラっと来るものがあります。

急性フィラリア症は、そんなに診断が難しい病気ではないと思うので。手術を行なうことが出来ない獣医師でも診断は容易に付けれるはずであります。
そして、診察後に何で急性フィラリア症であることを飼い主様に告げなかったのか?内服薬の処方だけで済ませてしまったのか?

自分が手術を出来ないことは別に恥でも何でもありません。私だって出来る手術よりも出来ない手術の方が圧倒的に多いです。

そして、自分には出来ない手術症例に出逢った時には、出来る獣医師に速やかに紹介すれば良いだけの話しではないですか。

最初に診察した獣医師が、この子の状態を急性フィラリア症であると判っていて手術の必要性を飼い主に説明することなく投薬だけで済ませたのであるならば。
その獣医師は、獣医師である前に人間としてどうなんだと訊きたいところであります。

そんなことを考えながら、昨日いつもお世話になっている整骨院で治療を受けた時に。この話しが出まして。その時に院長先生が、自分の犬がフィラリア症と診断された時に今の話しとそっくりの症状だったけれども。診察した市内の若い獣医師は急性フィラリア症であるということや手術をしないと死んでしまうことなどは言わずに10日間の薬だけをくれただけで。
愛犬が苦しみながら日々弱って行って、とうとう死んでしまって。ものすごく悲しい気持ちになってしまったのだと言われてました。

本当に辛い話しです。

そんな話しを聴くと。私はこれからも自分の仕事に誠実に、仕事の対象の動物たちに愛情を持って、飼い主様には正直に、誠意ある獣医療を頑張って行きたいと心から思う次第であります。

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ではまた。

猫の心因性脱毛症

アビシニアンの4才の女の子の話しですが。

この冬から3日に1回咳がひどく出るようになって、近医で猫ぜんそくの疑いありと言われた他、血液検査でコロナウィルスのキャリアであるとされたとのことです。

今回は毛が抜けているということで、受診されました。

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両側の上腕から肩の皮膚の被毛が無くなっています。

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脱毛部には特に赤いとか丘疹のような炎症像は見当たりません。

とにかく熱心に患部を舐めているということでした。

猫の皮膚病はなかなか難しいところがありまして。どちらかと言うと苦手なのですが。とりあえず、細菌培養と薬剤感受性試験に皮膚真菌の培養試験を実施しました。

しかし、細菌も真菌も生えて来ませんでした。

正直良く判りませんので、軟膏を処方して朝夕塗布するようにお伝えしました。

1週間後の再診では、脱毛部に発毛が見られ始めたとのことで。住居の清掃を徹底したところ、ぜんそくの発作も生じなくなったということでした。

コロナウィルスについても以前の検査から半年は経過しているらしいので、当院で採血して検査に出してみたところ、100倍という検出限界ギリギリの抗体価でした。

皮膚については軟膏の塗布を継続すること、コロナウィルスについては感染は一過性のものに終わる可能性があるので半年後に再検査をしようとお伝えしました。

ところが2回目の受診から11日後に来院された時に、皮膚症状が急激に悪化したということです。

飼い主様はストレスによる知覚過敏ではないのか?という疑問を持たれてましたが。私と塩手はぜんそくの既往があることにひっかかってまして。アレルギーを除外するためにステロイドホルモンを処方してみました。

その次に受診された時には、ステロイド処方後しばらくは舐める動作が消失したとのことでしたが。ある日飼い主様の都合で猫ちゃんのお気に入りの場所に入ることを制限した途端、皮膚を激しく舐め始めて毛の擦り切れ部分が急速に拡大し始めたらしいです。

そこで、試しに投薬したのが人間で抗うつ剤として使用されているお薬です。動物では問題行動の治療に使われてまして。教科書的には原因がはっきりしない脱毛症にこのお薬を処方して治療に反応した場合には何らかの精神的な要因が存在するとされていますので。入室制限が舐める行動発現のトリガーになったという情報もありますので、試験的に使用してみることにしました。

すると、約1週間後の再診時には、舐める行動はほとんど消失し。

1ケ月後には舐める行動が消失した結果、被毛の擦り切れは生じなくなって、被毛の状態は劇的に改善して来たということであります。

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私もびっくりの結果でしたが。

猫の皮膚異常が心因性であると診断した際には、その原因になる要因、例えば家族構成や家族の行動パターンの変化、新しいペットの導入、監禁、退屈などを調べて。

猫ちゃんの環境を変えることで症状を改善することが望ましいと教科書には書いてありますが。
正直なところ、猫の言葉が判りませんので、カウンセリングはとても困難であります。
飼い主様に心当たりのある環境要因や家族要因について変更出来ることは変更してもらって。
当分の間抗うつ剤の投薬を続けて、落ち着いた頃に休薬して様子をみようと思います。

今後同様な炎症像に乏しい良く判らない脱毛症を診察した時には、試験的に抗うつ剤の投薬を試みて、反応が無いようであれば、それからアレルギーを疑って投薬なり食事の変更成りを考えても良いかも知れません。

 

犬と猫のワクチン接種の見直しについて(WASAVAワクチネーションプログラムとワクチン抗体価検査)

ワクチンという疾病予防法は、怖い伝染病を予防するのに非常に有効です。それはどんな物かというと。病気を引き起こす細菌やウィルスなどの死んだ物(不活化ワクチン)、あるいは人間が飼い慣らして病気を引き起こさなくなったウィルスの生きた物(生ワクチン)を注射あるいはスプレーもしくは内服薬の形で生体に接種するという物です。

ワクチンは動物の感染症対策には非常に有用な手段ですが。同時に副作用の危険性を伴なうということも忘れてはいけません。

ワクチン副作用による健康被害の例としては。

1、ワクチン接種によりアナフィラキシーショックのようなアレルギー反応が生じる。
2、免疫抑制剤の投与によって生体の防御力が著しく低下している子などは、本来病原性が消失しているはずの生ワクチン接種で発病してしまう。
3、昨年だか数年前だかに発表されたという論文によると、猫ワクチン接種を頑張って毎年実施している飼い猫ちゃんの方が、ワクチン接種で頑張ってない飼い猫ちゃんよりも慢性腎臓病発病の発症が早くなってしまう。
4、狂犬病予防注射により痙攣や麻痺のような神経障害が生じる。

ということがあるらしいです。

1,2,4については従来から認知していましたが。3、は先日のセミナーで聴くまでは知りませんでした。そして正直意外でした。しかし、そのメカニズムについて知るとなるほどと納得出来るものがあります。

猫の3種混合ワクチンは、ほとんどのワクチンメーカーがその培養基材として猫から採取した腎芽細胞を使用しているそうです。
そうであれば、ワクチン製造過程において頑張って精製してもどうしても腎臓由来の成分が製品中に残存してしまうでしょう。
そのワクチンを接種された動物には、ワクチン本来の病気を防ぐ抗体も上昇しますが。不純物として残ってしまった腎臓由来の成分に対する抗体も作られてしまう可能性があります。
そうして、期せずして作られてしまった腎臓に対する抗体は、多分自分自身の腎臓も攻撃するようになると思われます。

ワクチンという物は、そんなわけで思わぬ副作用を生じてしまう可能性を秘めているわけです。必要最小限の接種に止めておくこともまた大切だと思います。

知っている人は知っているかと思いますが。WASAVA(世界動物病院協会)という団体がありまして。その中で犬猫のワクチン接種ついてこうした方が望ましいという推奨プログラムが制定されています。

グリーンピース動物病院でも、このWASAVAワクチネーションプログラムに準じたやり方で、当院に来院されるワンちゃんネコちゃんに必要なワクチン接種を行なって行こうと、遅ればせながら決定しました。

基本的な考え方としては、ワンちゃんネコちゃんには必要なワクチンを必要な回数接種して、決して接種し過ぎないようにすることでして。それ以上でもそれ以下でもありません。

 

それで、当院が今後犬と猫に接種するワクチンのプログラムを具体的に述べます。

まず、犬ですが。

ワクチンの中で最も大切なものをコアワクチンと言いますが。WASAVAは犬のコアワクチンを、ジステンパー、パルボ、伝染性肝炎の3種類としています。我が国で大切なワクチンは、このコアワクチンと、ノンコアワクチンの中でのレプトスピラが挙げられると思います。

レプトスピラ感染症は、レプトスピラ属の細菌が病原体です。犬だけでなく人間にも感染する人獣共通感染症であること、ネズミなどのげっ歯類の尿を介して感染すること、高温多湿の環境を好み、冷涼乾燥の環境では感染しにくい、などの特徴があります。
その特徴から日本を始めとする東アジアのモンスーン気候の国では重要な感染症と思われます。
当院ではここ数年はレプトスピラ対策として、京都の微生物学研究所(京都微研)のレプトスピラ5種ワクチンを使用していました。この5種ワクチンで日本で発生するレプトスピラの90%に対応出来るとされてました。
ただ、今年に入って京都微研の事情によりレプトスピラ5種ワクチンは入手不可能になってしまいまして。現在利用可能なレプトスピラワクチンは、レプトスピラ・カニコーラとレプトスピラ・イクテロヘモラギー(コペンハーゲニー)に対応した2種ワクチンのみであります。2種でも接種しないよりははるかにましです。

具体的にワクチン接種を希望される犬が来院したならば。子犬の場合は生後1ヶ月令くらいならばまず5種混合ワクチンを接種します。その後3週間おきに7種混合ワクチンを2回接種します。3回目の時に、あるいは3回接種後3週間の時点で血液中の抗体検査を実施して、少なくとも抗体が上昇し難いジステンパーとパルボに対する抗体価を測定した方が良いです。

子犬のワクチンが3回終了して抗体価がしっかり上昇したならば。2年目に再度7種混合ワクチンを接種して。

それ以降は3年に1回のペースで7種混合ワクチンを。間の年にはレプトスピラワクチンを接種することになります。

このやり方で、コアワクチンは3年に1回、レプトスピラワクチンは毎年接種されるわけです。

ワクチン希望の成犬の場合。それまでの接種歴がはっきりしていない場合には、7種混合ワクチンを1回接種して3週間後に抗体検査を実施して、免疫が付いていることが確認されたら翌年からは7種を3年に1回と間にレプトワクチンを毎年接種して行きます。

 

猫のコアワクチンは、猫伝染性鼻気管炎、猫カリシウィルス感染症、猫汎白血球減少症の3つの病気に対するワクチンです。これは当院で従来から使用している猫3種生ワクチンです。

子猫だったら上記の3種を1ヶ月くらいおいて2回接種して。1年後にもう1回接種したら後は3年に1回接種して行くことになります。

成猫の場合は3種を1回接種して、出来れば抗体検査を実施して、その後は3年に1回継続接種することになります。

猫のワクチンの場合、基本的には3種生ワクチン以外は接種しません。猫エイズや猫白血病ウィルスワクチンは接種の根拠が無いと、WASAVAは言い切ってますし。いろいろなメーカーが発売しているアジュバントを使用している不活化ワクチンは過去の経験で接種部位に繊維肉腫を発症した辛い経験がありますので、自分としては絶対に使用することはありません。

この接種のやり方は、今月から早速始めております。

なお、トリミングサロン、ドッグラン、犬猫同伴可能宿泊施設等がワクチン接種証明書の提示を求めて来る場合がありますが。その場合は、動物から採血してワクチン抗体検査を外注検査で実施して。ワクチン抗体検査証明書を発行しますので、それを提示することでワクチン接種証明書に換えることが可能と思います。必要ならばその施設に私が説明するようにいたします。

 

2018年4月 追記です。

その後、生後2年目以降のワクチン追加接種時期の到来した動物に。犬にも猫にもワクチン抗体価検査を何例か実施したところ。
4頭に1頭くらいの割合いで、コアワクチン関連のウィルスに対する抗体が不足しているという事実が判明しました。

そういうわけで。2018年3月からは、犬でも猫でも2年目以降にワクチン追加接種の時期が来た動物に対しては。ワクチン抗体価検査をルーチンで実施して、接種の可否や接種内容の検討を行なうことにしています。

要らないワクチンは打たないが。必要なワクチンはきちんと打つ。そして、その根拠にはワクチン抗体価検査結果というエビデンスを活用するというやり方が、ワンちゃんネコちゃんと飼い主様の安心と安全に必要不可欠であると思います。

ではまた。

 

 

子宮蓄膿症と胃内異物の合併症例

もうすぐ9才7ヶ月令になるシェトランドシープドッグの女の子の話しですが。

昨日から気分悪そうにしていて、食事も摂らないという稟告で来院されました。

連れて来られた方がその家のお嬢さんで、症状とか詳しく把握していないみたいですから。最初どの分野の問題なのか?私も正直迷いました。

身体検査を行なってみると。体温39.5℃、脈拍毎分124回、呼吸毎分56回。両眼の瞬膜突出、膿性眼脂あり。両眼共対光反射は正常。

ちょっと気分悪そうな感じです。

仕方がないので、血液検査と腹部エックス線検査を行なうことにしました。

血液検査で目立ったのは、白血球のうち細菌と闘う好中球が増加していることと、炎症マーカーのCRPが7.0mg/dlオーバーと振り切っていることくらいです。

腹部エックス線検査ではお腹の中にとぐろを巻くように太いソーセージのような構造が白っぽく見えます。

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画像の向かって右側の2本の矢印の先に見えるのがその構造です。

同時に、この画像ではもうひとつはっきり見えないかも知れませんが。胃の中に異物が見えています。

とぐろを巻いている太い構造は、多分ですが、子宮に膿が溜まったものだと思います。

胃の中の異物は何なのか?不明ですが。このまま放置して置くと腸閉塞の原因になるかも知れません。

ワンコを連れて来たお嬢様に状態を説明して。腹部エコー検査を追加で実施しました。

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赤い矢印の先に見えるのが、膿を充満している子宮です。子宮蓄膿症と胃内異物合併症例という診断が確定です。

そのまま左手に静脈カテーテルを留置して、乳酸リンゲルの点滴を開始しまして。午後から麻酔をかけて手術を行いました。

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最初に子宮を取り出しました。正常だったらもっともっと細く短い子宮がボコボコに膨れていまして。突いてみると膿が噴出して来ました。

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出て来た膿で細菌培養と感受性試験を行ないます。

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次に胃を開けてみると、プラスチックの吸盤みたいな構造が出て来ました。

胃を2重に縫い合わせ。お腹を閉じて手術は終了です。

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麻酔を切ってしばらくすると覚醒しましたので、気管チューブを抜いて、回復室に入ってもらいます。

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多分ですが。明日の夕方には食欲も回復しますので、最短では明日の夕方に退院ということになると思います。

今回の症例のような例は、今まで何回もアップして来ていますので。目新しさも無いかも知れませんが。

繁殖予定の無い犬猫の、早期の避妊去勢手術は、その動物のいろいろな病気を予防し、性的なフラストレーションを防ぐことが証明されていて。動物愛護の観点からも強く推奨されているのが、現代獣医学の常識になっています。

この記事を読まれた飼い主様で、単に現在病気でないというだけの理由でご愛犬の避妊去勢手術をためらっている方が居られましたら。是非とも主治医に相談するようになさって下さい。

ではまた。

子犬の耳疥癬立て続けに来院

先日からブルドッグの女の子とトイプードルの男の子と、立て続けに2頭の子犬から耳疥癬が検出されて、現在治療中です。

ブルドッグの女の子は直接ブリーダーさんから購入されたようですし。トイプードルの男の子はペットショップでの購入だったようですから。それぞれ別々の感染ということになります。

見つかった耳疥癬虫は、耳垢を顕微鏡で観察すると、こんな感じで見えます。

最近は、ブリーダーやペットショップで購入した子犬子猫で、さすがに回虫や鉤虫のような線虫と呼ばれる寄生虫に感染した個体は見ることがほとんど無くなりましたが。
耳疥癬の感染は時々見つかります。

耳疥癬は、通称ミミダニというダニの一種(疥癬虫)に感染することにより、耳の中に特有の黒い耳垢が多量に増えて、猛烈な痒みを生じる。いわゆる寄生虫性外耳炎という病気です。

耳疥癬の治療は、疥癬虫を殺すお薬を皮下注射で1週間間隔で3回投与することと。耳の炎症を抑えるお薬を点耳することで、比較的簡単に行なうことが出来ます。

子犬たちは早くに診断がついたので、外耳炎が慢性化して難治性になることはないと思いますが。

犬猫を販売される業者さんについては販売する子犬子猫の健康管理について万全を期していただきたいと切に願うものであります。

猫の子宮蓄膿症にはアリジンは利かなかった?

先日からアリジンで治療していた猫の子宮蓄膿症ですが。

初回のアリジン皮下注射から1週間が経過しまして。再来院しました。

食欲はそれなりに回復しているものの。目視出来る性器からの排膿は無しとのことです。

エコー検査を実施してみたところ。先週と変わりない膿らしき液体を含んだ子宮と思われる陰影が確認出来ました。

アリジンが食欲回復に一役買っているのかどうか?は不明ですが。同時に使用している抗生物質が子宮内の細菌を殺してくれて、その結果状態が改善している可能性は高いです。

しかし、このまま内科的に治療を続けても、いずれ抗生物質は利かなくなって破たんが来るのは目に見えてますから。
状態が少しでも改善している今が、外科手術を決行するチャンスと思いまして。

飼い主様に、「今日残業してでも手術を行なって治療しましょう。」と提案しました。

飼い主様は、どちらかというと手術は怖いというお考えの持ち主のようで。少しためらっている感じでしたが。

このままでは、いずれ状態が悪化して、播種性血管内凝固(DIC)や多臓器不全に陥って亡くなってしまうということを説明すると。何とか同意してくれました。

手術同意を取り付けてすぐに静脈カテーテルを留置し。乳酸リンゲルの点滴を開始します。
午後7時に午後診外来が終了した後。麻酔導入して。各種モニターの装着、気管挿管の実施と進めて行って。

開腹手術を開始しました。

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お腹を開けますと。出て来ました。正常よりも何倍にも腫大した子宮です。多量の液体を含んでいます。

関連する血管を合成吸収糸で結紮して、卵巣と子宮をセットで取り出しました。特に子宮頚管の部分については、子宮体部の取り残しが無いように神経を使いました。また、腎臓から膀胱に尿を送る尿管という管を結紮で巻き込まないように留意しました。

手術は無事に終了し。覚醒も速やかで。午後9時には無事に手術終了です。

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取り出した子宮をメスで突いてみると。膿が大量に出て来ます。細菌培養と薬剤感受性試験を実施しました。

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一夜明けて。細菌培養と薬剤感受性試験では細菌は生えませんでした。

で、猫ちゃん本体はどうか?というと。すごく元気です。朝食に猫缶を与えてみると。意欲的に食べてくれました。

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疑いの眼でこちらを見ているのは。治療の意義を理解していないので仕方がないことと思います。

手術翌日の夕方には退院となりました。

術創を舐めて破壊しないように、メリヤスのシャツを着せています。

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今回は、何とか元気な猫ちゃんに戻すことが出来ました。しかし、獣医のテキストにあれだけしっかりと「アリジンは猫の子宮蓄膿症にも犬同様利いて、副作用もありません。」と記載されていたのに。実際に使用してみると思ったほど利いてくれなかったのは、正直心外でした。
もしかすると、それなりに利いてはいたのかも?知れませんが。少なくとも子宮からの排膿は無かったです。

次回同様の症例が来た時に、どうするか?ちょっと迷うところであります。

 

猫の子宮蓄膿症にアリジンを使用(注意!!後日談があります)

3日前のことですが。午後診に猫ちゃんが来院されまして。2日前から食欲が無いという稟告です。

聴けば、昨年末辺りから、近医にて腎臓が悪いと診断されて、お薬の内服と皮下輸液を随分やったのだが。いろいろあって最近は腎臓病用の食事だけで管理して来たのが悪かったのだろうか?と気にされています。

何で最初に診断した近医に行かなかったのか?と訊くと。「あの先生は私には合わないようでして。」と言われますので。それ以上は訊きませんでした。

既に腎機能不全という診断が下されていたということであれば。私のところでもまず血液検査、そして必ず尿検査を実施したいところです。

セミナーを受講すると、講師先生が必ず言われるのが「尿検査を実施せずして腎臓を評価してはいけない。」ということです。

先に「腎臓が悪い」と診断された獣医師さんは、尿検査はされなかったそうです。私も性格的に採尿が不可能な子の場合やむなく尿検査を省略すること無しとは言いませんので他人のことは言えませんが。なるべく尿検査はやりたいところです。

飼い主様にお断りして採血し。採尿はエコーで膀胱を観察しながら細い針と注射器を使用した膀胱穿刺で行ないました。大人しい子でスムーズに尿が採取出来ました。

猫ちゃんから採尿する時に、手で下腹部をマッサージしたり圧迫したりして膀胱から尿を絞り出す、いわゆる圧迫採尿は、絶対にやってはいけない行為であります。なぜならば膀胱の内容が尿管を逆流して腎臓に戻って行くことが多く。その結果腎盂腎炎を発病することがしばしばあるからであります。
エコーで膀胱を確認しながら細い針で採尿する方法は、腎臓病の専門医さんが推奨している方法で、よほどひどく暴れる猫ちゃんでなければ、侵襲が少なく無菌的に尿が採取できる優れた方法であります。

エコー検査をしてみると。あっと驚く画像が撮れてしまいました。

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画面右上の黒い部分が膀胱なのですが。その左側に接してコントラストがやや白っぽく映る構造が見えると思います。

それをエコーの探子でたどって行くと。

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屈曲した中空の構造で、内容は尿よりも濃い液状の物体。おそらくは膿のような物であると推察されます。

となると。未避妊の女の子ですから、子宮蓄膿症という致死的な病気が最も可能性が高いと思われます。

腎臓も調べて見ましたが。

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左の腎臓も。

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右の腎臓もエコーの画像上では問題無しです。

血液検査の結果を見ると。まず目を引くのが白血球数特に好中球という細菌と闘う細胞の著しい増加でした。尿素窒素(BUN)が若干高値であるだけです。クレアチニンという項目は少し高めですが。参考値内に収まっています。

尿検査では、比重が1.014と薄目ではありますが。何とか尿は濃縮されているようです。尿比重で最悪の結果が1.008から1.012の間です。

尿比重が低い目というのは、しかし、子宮蓄膿症に罹患すると、大体において多尿多飲の症状がでますから。

まず子宮蓄膿症を治療してそれから腎臓の機能を評価すべきと考えます。

子宮蓄膿症の治療法で最もポピュラーなものは、やはり早期の開腹手術となります。子宮に膿が溜まって毒性を発揮していますので。その膿を子宮毎取り出してやれば、DIC(播種性血管内凝固)を併発しているのでなければ、急速に開腹に向かうものであります。

しかし、残業してでも手術をと飼い主様にお伝えすると。突然のことでびっくりされて、混乱してしまっています。

これは困ったことです。私の伝え方が悪かったのかも知れません。

次善の策をと、黄体ホルモンレセプター阻害剤のアグレプリストン(商品名アリジン)の皮下注射を軸にした治療法を提案することにしました。

アリジンは、元々は犬のお薬で。人工妊娠中絶や子宮蓄膿症の特効薬的な存在で、副作用もほとんど無いという優れたお薬なのですが。

私の持っている教科書には、猫にも犬と同じように使用可能で、副作用も無く有効であると記載されております。

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そういうわけで。飼い主様にその旨お伝えして同意を得ることが出来ましたので。

アリジンの皮下注射。抗生物質の皮下注射。ラクトリンゲルの皮下注射によって治療を開始しました。

アリジンは、24時間置いて2回注射するのですが。2回目の注射の際にはまだ性器からの膿の排出はありませんで。

どうなるのか?少し心配でしたが。3日目に診療した際には、膿の排出はまだ見られないが、食欲が回復しつつあるということでしたので。一応抗生物質の内服だけで経過を追うことにしました。

動物による個体差もあるかも知れませんが。次回来院の際にはエコー検査を実施して子宮の状態を確認する予定です。

また、犬の場合でも同様ですが。アリジンで治療した場合。次の発情の後黄体期に入ると子宮蓄膿症の再発が心配ですので。
いったん回復して麻酔のリスクが低くなった時点で避妊手術を実施するよう飼い主様にはお伝えしてあります。

子宮蓄膿症が治った時点で。もう一度尿検査と血液検査を実施して腎機能の正確な評価を行なわなければなりません。

猫ちゃんと飼い主様には、これからもまだまだ幸せな生活を送って欲しいと、切に願う次第であります。

ではまた。

なお、この件については。アリジンの実際の利きについて後日談がありますので。そちらもご参照下さい。

 

 

マイクロチップで飼い主発見!!

先日のことですが。

隣り町で迷い犬を保護して警察に届けたのだけれども。警察でこれ以上預かれないから連れて帰ってくれと言われて引き取って来たという方が。
シャンプーをするのに、その後ノミマダニ駆除の滴下剤を購入したいということで来院されました。

話しを聴くと、警察ではマイクロチップの読み取りはしなかったということです。

それでは念のためにと。当院に備え付けてあるマイクロチップ読み取り機のスイッチをオンにして。その子の首の付け根辺りに近付けてみました。

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ピッという独特の音がして。読み取り機の画面に番号が表示されました。

一発逆転とはこのことです。

すぐにマイクロチップの情報を管理している日本獣医師会の情報センターに問い合わせて。飼い主が判明。

飼い主に返すことが出来ました。

警察にこの読み取り機が備わっていれば、保護した人がここまで苦労することは無かったのですが。

現在兵庫県では県内の獣医師会に所属している小動物診療施設の総てと、県内数ヶ所の動物愛護センターの総てに、このマイクロチップ読み取り機が備えられております。

グリーンピース動物病院では、この10年間の間に、保護されて連れて来られた動物にマイクロチップが入っていて、それを読み取ることが出来たために飼い主の許に無事返すことが出来た事例は2件あります。

2件という数字が多いのか少ないのかという議論はさておき。マイクロチップという小さな電子機器は、動物の個体識別の手段としては素晴らしく優れた方法だと考えております。

私の場合。子犬子猫が来院した時には、ワクチンやフィラリア予防、ノミマダニの駆除、避妊去勢の説明と共に、マイクロチップの有用性を説明してそれを入れるようお勧めするのをルーティーンにしております。

最近は、一部のペットショップでは販売の時点でマイクロチップを入れているところもありますが。良いことだと思います。

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上の画像の中に赤と黒の小さな物体がマイクロチップです。これを動物に入れたイメージは。下の画像のような感じです。

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画像の中の赤い矢印の先に白いコントラストで映っているのがマイクロチップです。注射器のような挿入器で皮下に入れてやるのですが。全く無害でありますし。首輪や迷子札と違って体内にあるわけですから。落ちて紛失することも皆無です。

マイクロチップを自分の動物に未だ入れてない飼い主様には、この記事をお読みになったのを機会に、その挿入を検討されてみることをお勧めします。料金は挿入するのに本体込みで税別6,000円。情報登録料が1,000円だったと思います。