兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の リウマチと診断して良いかな?
院長ブログ

リウマチと診断して良いかな?

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今月で15才ヶ月令になる日本犬雑の未避妊女の子の話しです。

2ヶ月前から歩行時左前足をかばうようになって。 約1ヶ月前から痛みがひどくなり。 最近は夜も頻繁に悲鳴を上げるようになり、ワンちゃんも飼い主様も眠れない状態が続いているということで来院されました。

痛む左前肢を触ってみますと。 肘関節から上の上腕部外側の筋肉が萎縮してしまっていますし。 肘関節周辺がひどく腫れています。

前肢のエックス線検査を実施しました。

riumachis

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上の画像が側面像。 下の画像が正面像です。 矢印の先に骨が虫に喰われたような穴が開いたように映っている場所がありますし。 正面像で向かって右側の左前肢の肘関節部分周囲が反対側に比べてひどく腫脹していることと、関節の中の骨と骨との間隔が明らかに反対側よりも狭くなっていることが判ると思います。

この時点で、私の頭をリウマチのような免疫が関与する関節疾患がよぎっています。

しかし、関節周囲に尖った形の新生骨が見られるのは反対側の痛まない右肘も同じですから。 この子には元々老齢性変化の変形性骨関節症は存在していたと思われます。

一応体温測定を実施しますと、39.4℃と軽い発熱があります。

この時点で、血液検査を行ないました。

院内の全血球検査では、 白血球数の増加、 特に好中球 (細菌と戦う細胞で炎症が存在する時に増加する) と単球 (炎症が長引いた時に増加することの多い細胞) の増加が特異的です。

次に、血液生化学検査では、 犬CRPという炎症マーカーが7.0mg/dlオーバーと測定限界を超えてしまっていました。

外注試験で、 抗核抗体とリウマチ因子の二つの検査を行ないます。

飼い主様がセルフメディケーションを行なってまして。 市販の犬用アスピリンを与えると、 その後2時間から3時間は症状が軽減されるというお話しでした。

私としては、 免疫系の疾患であれば、白血球数は増加しているから抗生物質は使うにしても、 最初からステロイドホルモンを使用したかったのですが。
飼い主様が先にアスピリンを使用しているということもあって、 非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDS)を処方することにしました。

アスピリンもNSAIDSの一種なのですが。 NSAIDSとステロイドホルモンを同時に使用すると、胃出血などの重度の消化器系の異常が生じて、状況によっては命に係わる可能性がありますから。 とりあえず、外注血液検査の結果が出るまでNSAIDSで様子を見ることにしたのです。

翌日、検査センターから速報で結果がFAXされて来ました。

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抗核抗体は自分の身体を攻撃する自己免疫抗体の一種ですが。 典型的なリウマチでは、抗核抗体陰性で、リウマチ因子は陽性ということが多いようにテキストには記載があります。

テキストと言えば。 このリウマチに関しては獣医学のテキストにはなかなか良い物が無くて苦労しているところです。 数少ない教科書にも有効なお薬はステロイドホルモンくらいしか記載がありません。 当然テキストを記載された先生もいろいろな人体薬も試しているみたいですが。 残念なことに人のリウマチ薬でメインに使えるお薬はまだ見つかっていないということです。
人間の医療ではリウマチのお薬はいろいろ良いお薬が開発されているように聴きますが。 動物種差も大きな壁なのかも知れません。

飼い主様にお電話して。 結果をお伝えし、来院していただきました。 ステロイドホルモンと抗生物質、ステロイドの副作用を軽減するためのお薬を処方し。 先に処方したNSAIDSを最後に内服してから1日以上、出来れば1日半くらい時間を空けてから内服させるようにとお伝えしました。

本日、内服開始から3日経過した時点で、経過観察のために来院されましたが。

それまでひどく苦しんでいた痛みが、内服翌日から改善傾向を示し。 2日後からは普通に歩けるようになったということです。
それまでどんな姿勢をしても痛みが治まらずに、 痛む足を下にした時なぞはひどい悲鳴を上げて苦しむ状態だったのが。 今は任意の姿勢を取ってリラックス出来るということであります。

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あれだけ腫れていた左前肢がすっきりと細くなって。 右前肢と同じ太さに改善しています。痛そうな表情も消えて如何にも楽になったという感じです。

再び4日前と同じ処方でお薬を14日分お渡ししました。

今後は、経過を診ながら。 今から4週間後に痛みの状態を観察しつつ、血液検査で炎症マーカーの低下や、ステロイドで内臓がどれくらいダメージを受けているのかとかをモニターしつつ。 経過が良ければなるべく慎重に減薬して、長期管理が出来るように持って行きたいところであります。
調子良い状態が続くようならば、場合によってはリウマチ治療の人体薬を併用して最低限のステロイドホルモンで維持出来るようにしたいところです。

テキストの予後  (今後の経過についての見通し)  の記載を読むと。 リウマチの予後は悪く、いったんは薬が利いたとしても経過が長く。 完全な長期コントロールは不可能であって、数年かけて病状は徐々に悪化して行き。 最終的には歩行や起立が困難になってQOL(生活の質)が低下して衰弱し、死に至ると書いてあります。
この子の場合には、 15才という年齢もありますので。 そこまで行くことなく寿命が来てしまうかも知れませんが。 ある意味それが救いになるかも知れません。

私としてはこの子の生活の質をキープしながら穏やかに寿命を終えることが出来るように手助け出来たら良いと考えています。

ではまた。