兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 犬の年齢・体況に合わせた食事コントロール
院長ブログ

犬の年齢・体況に合わせた食事コントロール

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皆さんこんにちは

グリーンピース動物病院の更新担当の中西です

 

 

さて今回は

~犬の年齢・体況に合わせた食事コントロール~

 

「何をどれだけ食べさせれば良いのか」は、年齢・体格・去勢有無・活動量・持病の有無で大きく変わります。食事は治療そのものでもあり、逆に合わない食事は疾患のリスクを高めます。本記事では、来院時に私たちが実際に行う評価手順と、ライフステージ別・体況別・疾患別の食事設計を体系化して解説します。


食事設計の前提:評価のフレーム

1) 体重・体型(BCS)と筋肉量(MCS)

  • BCS(Body Condition Score):1〜9段階で理想は4〜5。肋骨が軽く触れる、腰にくびれ、上から見て砂時計型。

  • MCS(Muscle Condition Score):側頭筋・肩甲・腰背筋の量を触診。加齢や疾患で痩筋(サルコペニア)が進行していないかを別軸で評価。

2) 活動量と生活環境

  • 室内主体・散歩時間・スポーツ(アジリティ、嗅覚作業)・気温湿度・留守時間。

  • 去勢・避妊後は代謝が低下し食欲が増す傾向があるため、2〜4週間での摂餌量見直しが必須。

3) ライフステージ

  • 成長期(子犬)維持期(成犬)高齢期(シニア)妊娠・授乳期で栄養要件が異なる。

  • 大型犬の成長期は長く、骨成長管理(Ca/P比とエネルギー過多の回避)が最重要

4) 既往歴・内科疾患・薬剤

  • 慢性腎臓病、膵炎既往、肝胆道疾患、消化器疾患、尿路結石、アレルギー、糖尿病、心疾患、甲状腺機能など。


摂取量のベース:必要エネルギーの考え方

1日の基礎計算は**RER(安静時必要エネルギー)**から始めます。
RER = 70 × 体重(kg)^0.75

ここに生活ステージや活動量に応じた係数を掛けて**MER(維持必要エネルギー)**を仮決めします。

  • 成犬・室内飼い:1.4〜1.6 × RER

  • 活動性が高い成犬:1.6〜2.0 × RER

  • 去勢・避妊後の成犬(活動低〜中):1.2〜1.4 × RER

  • 体重減量中:0.8〜1.0 × RER(初期設定、進捗で調整)

  • 成長期(子犬):

    • 体重成長が速い前半:2.0 × RER

    • 成長が落ち着く後半:1.6〜1.8 × RER

  • 妊娠後半(週数に応じて):1.3〜1.6 × RER

  • 授乳期(頭数による):2.0〜3.0 × RER

  • シニア(活動低):1.2〜1.4 × RER

※あくまで出発点。2〜4週間で体重・BCS・MCS・便性状を見て微調整します。


ライフステージ別の栄養設計

A. 成長期(子犬)

  • タンパク質:高消化性・必要量十分(一般に乾物換算で22〜28%目安、品種・製品で差あり)。

  • 脂質:エネルギー源。過剰は肥満・成長板への負荷に。

  • Ca/P比約1.2:1〜1.4:1を維持。特に大型犬の過剰Caは骨関節疾患のリスク

  • DHA/EPA:脳神経・視覚発達に寄与。

  • 給与回数:6か月齢までは1日3回、その後は2回へ。

  • 体重増加速度:急激な増量は避け、月次で理想曲線内を推移。

B. 維持期(成犬)

  • 体重維持と代謝に合わせたエネルギー調整が中心。

  • 去勢・避妊後:同じフードでも給餌量を10〜20%減から開始し、3週間で再評価。

  • 活動犬:脂質エネルギー比の高いフード、運動前の大量一気食いは胃拡張リスクのため回避。

C. シニア(高齢期)

  • MCS維持のため、高消化性で十分な必須アミノ酸を確保。

  • 慢性疾患リスクに応じてリン・ナトリウム・脂質の最適化可溶性・不溶性食物繊維の比率を調整。

  • 関節ケア:体重管理が第一。必要に応じてEPA/DHA、グルコサミン・コンドロイチン配合の処方食。

  • 腎泌尿器:検査値を見ながらタンパク・リンの段階的コントロール。

D. 妊娠・授乳

  • 妊娠前半は維持量、後半から徐々に増量

  • 授乳期は需要が最大。高エネルギーで高消化性、水分アクセスを十分に。1日3〜4回以上へ分割。


体況別の食事コントロール

1) 肥満・過体重

  • 目標体重の設定(現在体重の10〜20%減を段階目標)。

  • 低エネルギー高たんぱく・適正繊維の減量用療法食を使用。

  • 週1回の体重測定月1回のBCS/MCS評価

  • 間食は1日の総カロリーの10%以内、できればゼロへ。

2) 痩せ(低体重)

  • 吸収不良や内分泌疾患を除外。

  • エネルギー密度の高い高消化性フード、1日3回以上の分割。

  • 急な高カロリー導入は下痢の原因、3〜7日で段階移行

3) 胃腸が不安定・便の質に課題

  • **可溶性繊維(発酵性)**で腸内環境を整える処方食、脂質過多の回避。

  • 新しい蛋白源への切替は1〜2週間かけて

  • 長引く下痢・血便は検査で原因精査(寄生虫、炎症、IBD など)。


疾患別の要点(簡易ガイド)

詳細は検査値・病期で変わるため、必ず主治医の指示に従ってください。

  • 慢性腎臓病(CKD)
    早期からリン制限ナトリウム適正高消化性タンパクの質重視。脱水回避のためウェットや水分強化。

  • 膵炎既往
    低脂肪・高消化性、間食の脂質管理。急な食事変更・暴食回避。

  • 肝胆道疾患
    中鎖脂肪酸の活用や高消化性、銅含量の管理が必要なケースも。

  • 糖尿病
    一定の炭水化物量と食後血糖の安定、食事とインスリンのタイミング一貫性。

  • 食物アレルギー/不耐
    加水分解蛋白または新奇蛋白の療法食で8週間の厳格トライアル。おやつ・薬のカプセル原料にも注意。

  • 心疾患
    ナトリウム制限、体重・浮腫・咳のモニタリング、筋量維持。

  • 尿路結石
    結石タイプに応じた尿pH・ミネラル管理と水分強化。勝手な食事戻しは再発リスク。


給餌の実務:頻度・食器・水分・おやつ

  • 給与回数:子犬3回、成犬2回、疾患やシニアで血糖や消化に配慮が必要なら3回以上へ。

  • 食器:浅め・広口で食べやすく、早食いにはスローボウル。

  • 水分:複数箇所に新鮮水、ウェットの併用、ぬるま湯で嗜好性を上げる。

  • おやつ管理:総量の10%以内。しつけはフードの取り分けで代用可。


食事の切り替え手順(失敗しない移行)

  • 1〜2日目:旧:新=75:25

  • 3〜4日目:旧:新=50:50

  • 5〜6日目:旧:新=25:75

  • 7日目以降:新100%
    便が緩む場合は段階を戻し、移行を長めに設定。疾患時は個別計画に従う。


家庭でのモニタリングチェックリスト(週次)

  • 体重、BCS、触って分かる筋肉量の変化

  • 食欲と摂餌時間、食べ方(早食い・残す)

  • 便性状(形・硬さ・回数・色・におい)

  • 飲水量(器の減り、給水器の補充頻度)

  • 活動量・散歩距離・息切れの有無

  • 皮膚・被毛(フケ、艶、かゆみ)

  • シニアや疾患犬は月1回以上の通院モニタリングを推奨


よくある落とし穴

  • 袋の後ろを読まない:カロリー密度は製品ごとに大きく違う。計量スプーン依存は誤差を生みやすい。

  • おやつの積み重ね:小さな一口でも回数で大きなカロリーに。

  • 去勢・避妊後の“据え置き量”:代謝が落ちるのに量が同じ→体重増加。

  • 短期間で結果を求める:減量は毎週0.5〜1.5%の体重減を目安に、数か月単位で。


ケース別・簡易モデルプラン(例)

実際は体重・検査値・嗜好・生活を聞き取り個別処方します。

  • 避妊済み成犬・室内生活・軽運動
    MER=1.3×RER。高消化性・中等度脂質の維持食。1日2回、間食はフード取り分け。月1回の体重・BCS確認。

  • 活動犬(週4のアジリティ)
    MER=1.8×RER。脂質と必須アミノ酸を確保、運動前は軽食または空腹時間を十分とる。水分と電解質の回復を重視。

  • シニア・軽度の腎機能変化
    MER=1.2×RER。リン控えめ・高消化性・適正ナトリウム。ウェット併用で水分強化。3か月毎に血液・尿検査。

  • 減量プログラム
    目標体重設定→0.8〜1.0×RERから開始。高たんぱく・高繊維の減量療法食。週次計測、停滞期は5〜10%追加調整。


受診の目安

  • 2週間以上の体重変動(±5%以上)

  • 慢性的な軟便・嘔吐・食欲低下

  • 被毛の急な艶低下・皮膚トラブル

  • 急な多飲多尿、運動不耐性、咳や呼吸の変化

  • 去勢・避妊後の食欲増進と体重増加が止まらない


まとめ

食事コントロールは「フードの銘柄選び」だけではありません。RER→MERで量を仮決めし、BCS/MCS・活動量・便や被毛の状態で2〜4週間ごとに調整するのが実務の核心です。年齢・体況・疾患に応じた目的別の処方食を使い分け、水分・給与回数・おやつ・運動を含めた総合設計で、長期的な健康とQOLを守りましょう。気になる変化があれば早めにご相談ください。