兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2012 12月 07
院長ブログ

日別アーカイブ: 2012年12月7日

12/07 保護された猫ちゃんに炎症性腸疾患?と猫毛細線虫による膀胱炎

ノワちゃんは野良猫だったのですが。縁あって優しい方に保護されました。

しかし、健康診断のために連れて来られたのですが。どうも食欲は普通にあるものの、食べると吐くという症状を呈しているらしいです。

腹部の触診をやってみると、変に腸が硬いというか、ぶっとい腸管がカチカチの状態でした。いろいろと検査をやってみて。結果として腹部エコー検査での腸管の筋層の異常な肥厚から炎症性腸疾患の疑いが濃厚であると判断しました。

上の画像が腸管の横断面ですが。左側の矢印が筋層で、右側の矢印が粘膜層を指しています。

この筋層と粘膜層の厚さの比率が、この子では筋層が粘膜層の何倍にも肥厚しているのですが。実際に健康な子だったら、この比率が逆転しているのもでして。筋層はごく薄く、粘膜層がゆったりと厚く映るのであります。

炎症性腸疾患の診断には、本当でしたら腸管を開腹しての全層切除とか内視鏡による粘膜バイオプシーをやるのが正しいやり方です。

ただ、目の前に居る患者さんにそれを提案しても、なかなか受け入れてもらえないのが現実でありまして。

今回も、診断的に治療してその結果が思わしくなければ生検も考慮しようということになりました。

治療は、免疫抑制量のステロイドホルモンの内服とアレルゲン除去食の給餌とで行ないます。
嘔吐止めとかお腹の悪玉菌を駆除する抗菌剤の投与もしばらくの間は行ないます。

結果は、ステロイドホルモンの投与と共に嘔吐は止まって、食欲も旺盛になって来たということでした。

治療開始後1ヶ月の時点で、治療効果を確認するための腹部エコー検査と副作用チェックのための血液検査を実施しました。

腸管の筋層と粘膜層の厚みの比率は随分正常に近くなっていました。ただ、肝臓の酵素の数値がごく軽度ではありますが上昇傾向にありました。

肝細胞庇護剤を投薬に追加して治療を継続します。

気になるのが、この時点で膀胱内にモヤモヤとした粘液が漂うような陰影が見られました。初診のエコー検査でもごくわずかにその傾向は見られてましたが。今回はよりはっきりとして来てました。

尿検査をすべきであるとお伝えして採尿容器をお渡ししました。

本日治療開始後2ヶ月後の検査を実施したところ、腸管の粘膜層と筋層の厚みの比率は完全とは言えないかも知れませんが、大体満足すべき状態と思われました。

これから1ヶ月とか2ヶ月くらいの時間をかけて、ステロイドホルモンの量を徐々に減らして行こうと考えています。

ただ、膀胱のモヤモヤはもっとひどくなっています。

画面中央の黒い構造が尿を溜めた膀胱で、正常だったらその中は真っ黒に見えるはずですが。モヤモヤとした白い構造が浮いているのが判ると思います。

それで、飼い主様は自宅での採尿が非常に難しいと言われますので。エコーで観察しながらの膀胱穿刺を実施しまして。尿を無菌的に採取しました。

で、その尿を検査してみますと。尿蛋白は3+ですし、尿のpHは8とアルカリ性です。どうも膀胱炎に罹っているようですが。残尿感とかの膀胱炎症状は無いようでした。

そして、検査を進めて、顕微鏡で尿沈渣を観察する段になって、びっくりしました。

明らかに何かの寄生虫の卵と思われる構造が観察されたのです。

ついでに、寄生虫そのものと思われる構造も見えました。これが幼虫なのか成虫なのかは不明です。

お恥ずかしいことで不勉強にして この寄生虫の正体はすぐには思い付きませんでした。永らく獣医臨床をやっていて初めて見る相手でした。

こんな時には恥を忍んで知っているであろう人に訊くに限ります。

大阪府立大学の内科の先生に電話をかけた上でメールで画像を送って問い合わせしましたところ。

猫毛細線虫であろうという返答をいただきました。有り難うございました。

猫毛細線虫は、教科書を調べると確かに記載がありました。中間宿主としてミミズを必要とする寄生虫で、尿の虫卵が直接口に入ってもその卵はいきなり発育はしないようです。

つまり、猫の膀胱に棲んでそこで炎症を引き起こしながら卵を産むのですが。生まれた卵は排尿と共に地面に落ちて。そこでミミズに食べられて、ミミズの体内である程度発育した後。そのミミズが猫に食べられることによって猫に感染するという発育環を持っているようなのです。

有り難いことに人間には寄生しないようでした。

治療薬も何とか当院に常備しているお薬で対応出来そうです。

いったんお帰りいただいていた飼い主様には電話で連絡を入れて、お薬を処方する旨お伝えしました。

お薬は内服薬で、毎日1回3日間連続して投薬します。

毛細線虫の発育が急に生じた原因ですが。もしかすると炎症性腸疾患?の治療薬として投与した免疫抑制量のステロイドホルモンによる免疫力の低下が一つの要因になっているのかも知れません。

いずれにしても診断がついて良かったです。

こうして普通の獣医師は関係者のご助力を仰いだりしながら一生懸命に頑張っている次第です。

ノワちゃんが元気になるのはもうすぐだと思います。

ではまた。