兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 院長ブログ

院長ブログ

子犬の食事量について

もうすぐ生後4ヶ月令になろうかというウェルシュ・コーギの男の子の話しですが。

目やにが多いので診て欲しいということで来院されました。

しかし、診察台上の子を見ると、異常に痩せています。

画像ではそんなに感じられないのかも知れませんが。それは被毛で覆われているせいで。手で身体を触ってみると、背骨は立っているし、肋骨も浮いているし、骨盤も突き出ているのが感じられるのです。

「この子は食が細い(食べる量が少ない)のですか?」と訊くと。

「もっと欲しそうにするんですが。買う時にペットショップの人が『この量を与えて下さい。』と言われた量を守って与えています。」との返事でした。

一瞬。めまいを感じてしまいました。カルテの記載を見ると飼育開始が生後約3ヶ月令の時ですから。その時の食事量を厳密に守っていれば、成長と共に食事の必要量が増えて行くのが生き物の子供の原則ですから。明らかに栄養不足であります。

ペットショップの店員さんの言い方がよほどきつかったのか?言われた量が完璧なマニュアルとして受け取られてしまったのかも知れませんね。

なお、目やにが多いのも、栄養失調の結果かも知れません。

飼い主様にはそのことをお話しして理解していただき。子犬の成長に合わせた食事量の決定法をお伝えしました。

私が用いている子犬の食事量の決め方ですが。基本的に食欲の程度と便の硬さを基準に考えています。

まず、子犬が来た時には。最初はそれまで世話をしていた人に伝えられた量の食事を与えます。
子犬が与えられた食事をあっという間に食べ終えて。その数時間後のお便がしっかりと硬いものであれば。
次から、食事毎にその量を5%から10%ずつ増やして行って。ある量を超えて便の状態が軟便になったら。
そのひとつ前の食事量がその子の消化能力の限界と考えて。その量あるいはそれよりひとつ前の量を与えるようにして。
成長と共に便の状態が微妙に硬く感じられるようになったら。もう一度量を増やしてみるということを繰り返すのです。

この方法は、まず検便や駆虫でお腹に消化器性寄生虫が居ないということが大前提であります。

基本的に、よほど特殊な例でない限り。成長期の子犬に肥満を用心しなければならないということはないと思います。

なお、小型犬の場合。往々にしてペットショップの店員が、「多く食べさせると大きくなり過ぎますから注意して下さい。」と説明することがあるようですが。

ショウドッグならばいざ知らず。一般的な家庭犬の場合は体格がスタンダードの範囲内に収まることよりも。健康で知能が高くお利口な犬に育つことの方がもっと重要だと思います。

基本的に犬の体格(骨格)は、持って生まれた資質。即ち遺伝情報でプログラムされた範囲内までしか大きくなることはありません。沢山食べさせて大きく育ってしまうということは大きくなってしまう遺伝情報の持ち主だったというだけのことだと思いますし。大きく育った小型犬が家庭犬として失格だとも思いません。

人間で「大きく育ったら駄目だ。」言われるのは競馬の騎手とか体重に制限のあるボクサーくらいのものでしょうし。そんな人でも小学生の頃はしっかり食べて健康に育つようにと、ご両親は愛情を込めて食べさせていると思います。

基本的に子犬も人間と同じです。成長に応じてその時その時に最適な食事の質と量を確保して、健康で賢い良い伴侶犬に育ててやって欲しいと思います。

 

 

外猫生活の危険性

今年16才になる日本猫の女の子の話しですが。

この子は8才の頃急に元気食欲低下を訴えて来院し。血液検査で猫免疫不全ウィルス(通称猫エイズウィルス)に感染していることが判明しています。

その後、それなりに元気に自由奔放な外猫生活を謳歌しているのですが。

3日前に飼い主様が以前にも経験している膀胱炎症状を呈しているということで来院され。お薬を処方したところ。

今朝は本猫を連れて来院され。投薬した後こんな物を吐いたと。ジップロックのポリエチレン袋を出されました。

猫回虫が入ってました。

猫回虫は人間にも感染する可能性があることとか。人間でも幼児が感染すると回虫幼虫体内移行症になる可能性もあることなどお話しして。

プロフェンダースポットという滴下式の駆虫薬を猫ちゃんの首筋に垂らしてやりました。

この度の感染は、これで駆虫出来ると思いますが。

この子が活動するエリアは、回虫卵に汚染されているとせねばなりませんから。当然再感染の可能性は高いと考えられます。

同居しているお孫さんの健康のこととか考えると。猫ちゃんが外に遊びに行くことを制限することが最も有効な対策であるとは思いますが。飼い主様は猫ちゃんの自由を制限することは考えられないみたいです。

また、定期的な検便をとも思うのですが。外での排泄が習慣化しているので便の採取は不可能だとのこと。

せめて、滴下剤による定期的な駆虫をされたらどうか?とお伝えしています。プロフェンダースポットのメーカーは年に4回の定期的駆虫を推奨しております。

自由なアウトドア生活は、危険と隣り合わせです。

外出自由な猫ちゃんと外出は皆無で家の中のみでの生活の猫ちゃんとで寿命の統計を取ったところ、家の中だけでの生活の猫ちゃんの方が3年は寿命が長いという結果が出たとの新聞記事を記憶しております。
総理府でも猫の室内飼いをするようにという方針ですし。

猫は避妊去勢を実施して室内で生活させるように子猫の頃から習慣づけてやれば、出れないからといってストレスを感じることもないと思いますので。

「猫は外に出るもの」とお考えの飼い主様においては、今一度考え直していただきたいと切に思うものであります。

ではまた。

犬の子宮蓄膿症

8才と8ヶ月令になるミニチュアシュナウザーの女の子のなっちゃんの話しですが。

飼い主様はなっちゃんの子が欲しかったとのことで、避妊手術をせずにこの齢まで来ましたが。肝心の子供の方は、発情が微弱で判らなかったらしく、交配をするに至らなかったそうです。

ところが。この度の来院の約1週間前から食欲がひどく低下して。2日前から下り物が出るようになったということで、来院されました。

これは多分子宮蓄膿症であろうと思うのですが。あまりにも先入観をもって事を進めて、致命的な誤診に陥っても困りますので。

血液検査、腹部エックス線検査を行ないます。

血液検査では、白血球数の増加。特に好中球数と単球数の増加が著しく。軽い貧血があります。血液生化学検査では血液総蛋白の増加と、犬CRPの高値が目立つ異常でした。

白血球数、特に好中球と単球の増加、及び炎症マーカーである犬CRPの高値は体内に炎症が存在しているということを示唆しております。血液総蛋白の増加は、継続する抗原刺激によって免疫抗体が増加しているということなのかも?知れません。

となると、経過は結構長い?

腹部エックス線検査では。

横から撮った画像では、お腹の中央部分に白く大きなマスが見えています。

画像が小さいので判り難いかも知れませんが。小腸のガスが画面向かって左と上に押しやられています。

子宮が膨れて蛇行している陰影がはっきりと確認出来ているわけではありませんので。腹部エコー検査を行ないました。

画面やや右側にくっきり真っ黒に見える逆台形みたいな像が膀胱でして。その左側に見えているのが膿で充満された子宮かな?という感じです。

それで、その像を辿ってみます。

ぶっとい筒状の構造が前の方に延びて行っております。そして、それは2本存在してました。

以上で子宮蓄膿症の診断確定です。

私の場合、子宮蓄膿症と診断を付けたら、動物の状態が許す限りなるべく早期の手術を行なう方針で臨みます。

この子の場合も、残業してその日のうちに手術を実施しました。

手術までの数時間、静脈カテーテルより乳酸リンゲルの輸液を行ないます。

外来診療の時間が終了したら、すぐに麻酔導入を行ない。術野の毛刈り、消毒、術者、助手の手洗い消毒、術衣と手袋の装着と、手術の準備をどんどん進めて行きます。

で、お腹を開けて見ると。こんな物が出て来ました。

アップすると。

こんな感じです。大きな子宮です。普通に正常な子宮は、この子のサイズの犬だったら、ボールペンくらいの太さで長さはボールペンよりも少し短いくらいでしょうか?

摘出した子宮は、無菌的にちょいと突いて。出て来た膿を使って細菌培養と薬剤感受性試験を行ないます。

膿の色が気持ち悪いです。

術中に血液酸素飽和度が若干低下気味で不安になる時間もありましたが。何とか手術は終了。画像は丁度覚醒して気管チューブを抜く瞬間です。

麻酔から覚醒して入院室で一晩過ごしたなっちゃんです。

この後、翌日には食事を摂るようになりましたので。手術後2日で退院して行きました。

何とか無難に手術を終えて良かったです。

繁殖予定の無い女の子のわんちゃんは、なるべく早期に避妊手術を実施することによって健康で長生きすることが獣医学的に証明されております。未避妊のわんちゃんと一緒に暮らしている飼い主様には、是非そこのところに想いを致していただきたいと思います。

ではまた。

 

 

高齢黒ラブちゃんの腸内紐状異物

今朝来院されたもうすぐ14才になる黒ラブちゃんですが。

昨日からいきなり嘔吐が始まって。何回も吐くし、食欲は全く無いし。ということです。

今まで特段の基礎疾患も無い子ですから。いきなりの発症では消化管内異物か?とも思いますが。あまり先入観を持ち過ぎても誤診に繋がりますから。

症状が厳しいし、一般状態もひどく悪い感じでもありますし。血液検査と腹部エックス線検査、必要に応じて腹部エコー検査を行なう旨飼い主様の了解を得て検査に入りました。

血液検査では、総コレステロールが高いこと。アルカリフォスファターゼが高いこと。犬CRPがひどく高値であること。総白血球数と好中球、単球がかなり高いという結果です。

腹部エックス線検査では、胃の中に妙な陰影が観察されます。

黒い矢印の先が胃底部ですが。紐のような物がありそうです。
腸の方にはガスの貯留は見当たりません。
その他の所見としては、もう一つの横向きの画像で前立腺肥大が観察されました。

念のために腹部エコー検査も実施しましたが。腸管の妙な拡張像があるくらいです。今回の症状とは関係が薄いでしょうが、副腎が大きくなっていることも観察されました。

私としては。絶対とは言い切れませんが。消化管内異物で苦しんでいる可能性があると判断しまして。午後から試験的開腹を試みたいと飼い主様に提案して。了解を得ました。

それから手術までの間、前腕の静脈に留置した静脈カテーテルから乳酸リンゲルの輸液を実施します。

午後1時過ぎから麻酔導入にかかります。

気管挿管をして。各種モニターを装着し。術野の毛を刈り。消毒を実施して。術者、助手は手洗い、消毒、滅菌した術衣手袋の装着と、基本通りの手術の準備を進めて行きます。

画像は、助手が準備を済ませて入室するのを待っているところです。

準備が整ったら、皮膚切開から始まり。みぞおちからペニスの横にかけて大きくお腹を開けて行きます。

胃を外から触ってみると、明らかに大きな異物があります。腸を出してみると。アコーディオンのようにヒダヒダに折り畳まれて窮屈そうです。

画像がちょっと拡大し過ぎですね。この腸管の状態は、紐状異物が入った時に特有の所見です。

胃や腸を優しく触って調べて行くと。腸の異物は胃の異物と繋がっていることが判りました。

腸の異物を胃の方に優しくしごいてみると。胃の方に移動して行きます。腸をひどく傷めないように注意しながら、腸の異物を胃に戻してやることが出来ました。

その後は、胃を切開して異物を取り出します。

えらい物が引っ張り出されてますね。

取り出された異物はこんな物でした。

その後は、胃の切開創を縫い合わせて。もう一度胃や腸を優しく触って異物が残っていないことを確認して。腹膜、腹筋、皮下織、皮膚と、縫合を実施してお終いになります。

麻酔は安定してますので。事前に飼い主様の了解を得ていた通りに前立腺肥大対策として、去勢も併せて実施しました。

縫合が済んで、術創にフィルムを貼ったりしながら、覚醒をさせているところです。この後しばらく時間はかかりましたが。無事に覚醒してくれました。

これから数日入院してもらって。翌日以降に食事を食べるようになれば退院ということになる予定です。

何せ生き物のことですから絶対という言葉は使えませんが。一応回復してくれるものと考えております。

早く元気になってお家に帰って。幸せな生活を送って欲しいものであります。

ではまた。

 

 

小型犬の膝蓋骨内方脱臼グレード3に対する手術療法

今日は本当に久し振りにトイプードルの若犬の膝蓋骨内方脱臼グレード3の手術を行ないました。

午後1時過ぎから麻酔にとりかかって。術野の毛刈り、毛剃り、消毒。術者と助手の手洗い消毒、滅菌術衣手袋の装着ひと通りきちんと行なって。

① 大腿骨の先っぽの、膝のお皿が入る溝を深くする手術と。

② 膝のお皿が内側に引っ張られないようにする内側支帯解放術と。

③ 膝のお皿から下に延びる膝蓋靭帯がすねの骨に付着している場所(脛骨粗面といいます)を少しばかり外側に移動させて、膝のお皿が内側に引っ張られるモーメントが生じないようにする術式と。

以上3つの処置を行ないまして。

手術は無事に終わりました。

エックス線写真が小さくて見難いかも知れません。画像向かって左側がこの子の右脚ですが。まだ手術をしておりませんので矢印の先に脱臼した膝蓋骨が見えています。

向かって右側の左脚は、上の矢印が手術によって本来の位置に収まっている膝蓋骨でして。下の矢印は脛骨粗面移植術を行なった場所です。

左脚が回復した時点で、右脚も同じ手術を行ないたいと思います。

ポムちゃん、予定では順調に治って元気に走れるようになることと予想しております。

最近、ブログの更新をサボっておりました。その後、猫の甲状腺機能亢進症とか、犬のアトピー性皮膚炎に対する減感作療法とかいろいろ書きたい題材はありますので。ボチボチでも書いて行きたいと思います。読者の皆様にはこれからもよろしくお願い致します。

追記
手術の翌日。トイプー君は経過観察のために来院されました。

飼い主様の報告によれば、朝食は元気に食べて、化膿止めの投薬も普通に出来たそうです。
見たところ、一般状態すこぶる良好で。麻酔後の不整脈とか肺水腫の有無を確認するためにルーチンで行なっている胸部聴診でも特に異常は認められず。術創も良い感じです。

こうした手術では、術後2週間を目途に抜糸を行ないますが。足を普通に使うようになるには、少なくとも1ヶ月はかかると思います。
しかし、機能が回復した後は、もう膝のお皿が外れることはありませんので、正常歩行が可能になるはずです。

もう片方のお皿の脱臼については状態をみて、出来れば手術をした方が良いでしょう。

まだ1才未満の若い犬ですから。元気で長生きして幸せな一生を送って欲しいと切に願っております。

 

 

 

2014.11.11 エアデールテリアの子犬が生まれています

犬友さんから連絡があり。エアデールテリアの子犬が生まれたそうです。

母親はドイツ輸入犬。父犬の父親はドイツ輸入犬で私が飼っていた日本チャンピオンにして日本警戒訓練チャンピオングループのタイトル保持犬。父犬の母親は私の繁殖犬で全日本で臭気選別チャンピオンタイトル保持犬です。

従って、この子らにはドイツ輸入犬以外の血液は入っておりません。

母親 : タイパンズ アランゴ (父)オラーフV ヴァレンシュタイン (母)ヤロモニス イーラ

父親 : アルデバラン オブ ザナドゥ (父)ズーコV ハウスシルマ (母)ザナドゥ オブ パドルビー

9月23日出産 オス4 メス2

子犬を望まれる方は、私のメールアドレス wkhtdg@hera.eonet.ne.jp にご連絡を下されば、繁殖者の電話番号をお教えします。具体的な諸条件は繁殖者に直接訊いて下さい。

追記 犬友さんより後から電話があって。子犬たちの父犬がJKCの訓練競技会服従の部で優勝したそうです。

慢性外耳炎の悪化

遠く兵庫県の東部から私のHPを見られて来院されたウェルシュテリアとその飼い主様のお話しですが。

このウェルシュテリアは、今年10才になる男の子で未去勢です。

昨年末、およそ10ヶ月前に黒い目ヤニと黒い耳垢が出て、食欲もひどく低下するような状態になったそうですが。近医にて治療し治っていたそうです。

それが、また再発したそうで、こちらに受診する11日前にやはり近医にて治療するも、2週間利くという抗生物質の注射も効を奏さず。食欲も無くなり、飲水もしないような状態になって。入院したそうです。その時には体温も40℃にまで上昇し。左耳の付け根が異常に腫れたのを切開し排膿したそうです。

しかし、切開排膿の後も全身状態は改善しなかったそうで。

そちらの獣医さんは、全耳道切除をしなければならないと説明してくれたそうですが。使用する抗生物質は、せっかく薬剤感受性試験を実施しているのにもかかわらず。明らかに利いていない薬剤を、「生体内と検査の環境とは違うから。」ということで使おうとしていたということです。

さすがに飼い主様は、おかしいのではないか?と疑問を感じられたらしく。私の動物病院を受診することにしたとのことです。

画像は、私が受診当初のを撮影し忘れてまして。飼い主様に送っていただいたものですが。受診初日の左耳とその周辺はひどく壊れていて、その付近を通っている顔面神経も侵されているらしく。眼の動きも明らかにおかしいものでした。

耳は、左右共垂直耳道はひどく石灰化しているようで。耳道は塞がっており、外から触るとカチカチに硬化しています。

切開排膿した大きな穴から滅菌綿棒をそっと挿入して材料を採取し。院内での細菌培養と薬剤感受性試験を実施しました。

翌日出た結果は、12種類調べた薬剤の内、ファロペネムとミノサイクリン、ドキシサイクリンの3種類のみがしっかりと効果ありで。フラジオマイシンがまあまあ利くというものでした。

そこで、今までの経験から、内服しても消化器症状などの障害の出難いファロペネムを内服しながら、フラジオマイシンの点耳をしてもらうことにしました。

同時に、この年齢になって急に感染に弱くなったのであれば。何らかの基礎疾患を有している可能性があると疑って。院内のスクリーニング血液検査を実施しました。

血液検査では、高コレステロール血症とアルカリフォスファターゼの軽い上昇が判明しました。

とりあえず、高コレステロール血症に対して、甲状腺の機能の検査を実施しましたが。甲状腺関係のホルモン濃度は正常でした。

残るは副腎機能の検査ですが。当初聴いていた少し大目の飲水量が、治療をしているうちにそんなにもおおくは無いという感じになりましたので。副腎機能の検査は経過をみて実施することにしました。

耳の経過ですが。感受性試験に基づいた投薬を実施したところ、来院1週間目には穴は塞がりつつあって。食欲元気さも回復して来て。

更に2週間投薬を続けたところ。排膿していた穴は完全に塞がって、元気食欲も正常に復したということです。

しかし、耳道を触診してみると、ひどく硬い状態はそのままですし。耳の穴も塞がったままです。

このままの状態で満足していると、またぞろ同じ感染が燃え上がって大変な状態になる可能性大ですから。全耳道切除をお勧めしました。

全耳道切除は、正直自分でやるには気の重い手術ですから。大阪府立大学獣医臨床センターの外科系の教授に連絡してお願いすることにしました。

飼い主様は手術に前向きですので。この11月11日に府立大学に行って、おそらく東部のCT検査くらいは実施して。後日に日を決めて全耳道切除ということになると予想しております。

全耳道切除を行なっても、鼓膜から奥の中耳内耳に問題無ければ、聴力もかなり残りますから、生活に不便は無いでしょうし。耳道を取っても耳たぶは触りませんから外見上の違和感はありません。

ミッチー君、もう一度元気になって飼い主様と幸せに過ごせるようになってもらいたいと切に願っております。

 

サナダムシ感染(アウトドア生活の危険) 

5才6ケ月令のパピヨンの女の子の話しですが。

この秋、1ヶ月ほど行方不明になってまして。見失った場所からかなり離れた田園地帯で保護した人が連絡をくれて、無事に飼い主様の許に帰って来たそうです。

それで、帰って来てから気になるのが。食欲が今ひとつ湧かないようで食が細いということと。息づかいが荒いように感じること。そして、来院の少し前に下痢便を排出したということで。来院されました。

下痢便は持参されてなかったので、当日に検便は出来ませんでした。

荒い息づかいに関しては。診察台上ではそんなに気にはなりませんでしたが。体温、呼吸数、心拍数を測定して、明らかな異常はない事を確認します。

食欲不振については、院内のスクリーニング血液検査を行ないました。

低蛋白血症、軽い貧血と、犬CRPの高値とが異常値として検出されました。

痩せてはいるが、それは野生に近い過酷な状況下で生活していたためかも知れないと考えて。一般的な腸炎のお薬を処方すると共に、便が採取されたら勘弁を実施したいので持参するようにとお願いしました。

2日後に持参された便は。腸炎のお薬が利いたようで下痢便ではありませんでしたが。
検便を行ないますと。直接塗抹法でサナダ虫の一種のマンソン裂頭条虫の虫卵が検出されました。浮遊法では虫卵は検出されませんでした。

マンソン裂頭条虫の虫卵は、やや歪んだ感じのラグビーボール様の形態をしているのが特徴です。

犬猫の臨床で問題になるサナダ虫には、マンソン裂頭条虫の他、広節裂頭条虫(日本海裂頭条虫)と瓜実条虫とがあります。

瓜実条虫は蚤を介して感染する比較的身近な虫で、駆虫は専用のお薬を使用すれば比較的容易です。

広節裂頭条虫とマンソン裂頭条虫は、水中や水辺の多くの動物を介して感染する寄生虫で、犬猫の他人間にも感染します。この2つの寄生虫は、もうひとつ壺型吸虫という寄生虫と共に同じ専用の駆虫薬を使用するのですが。これがかなりしぶとくて駆虫し難いのです。

駆虫薬には、内服薬と注射薬がありますが。過去に内服薬では落ちなかった経験が数例あり。注射薬は比較的効果が確実に発現しているように感じられます。

飼い主様に虫の卵をお見せして、以上の事を説明しましたところ、注射での治療を希望されましたので、注射を実施しました。

このお薬、注射にしても、内服にしても、症例によっては虫が溶けてしまって、虫体を確認出来ないことがあるらしいのですが。

今回のパピヨンちゃんの場合は、注射の翌日に大きなサナダ虫の虫体が糞中に排泄されたのを飼い主様が確認されたそうです。

画像は他のわんこから排出されたサナダ虫の画像です。このパピヨンちゃんのサナダ虫は飼い主様が処分してしまったそうです。

サナダ虫の名前の由来は、着物の着付けに使用する「真田紐」に虫の模様が似ていることから来たものだと聴いておりますが。真田紐ってこんな感じの紐なんですね。

パピヨンちゃん、虫が駆除出来て良かったです。そう言えば、今後の迷子対策にマイクロチップをお勧めした方が良いかも知れません。

ではまた。

ペルシャ猫の多発性嚢胞腎

8才になるペルシャ猫の男の子の話しです。 実はこの子、表題の病気の以前に、今年の8月に食道裂孔ヘルニアを発見しまして。母校の大阪府立大学で手術をしてもらったというヒストリーがあります。 大阪府立大学での診察の時に、エコー検査で膀胱内にキラキラした陰影が見られるから後日対処するようにと連絡をもらってましたので。 食道裂孔ヘルニアが一段落ついた昨日に、私なりに判断させていただくと断って、当院で腹部エコー検査を行ないました。 膀胱内のキラキラ陰影は確かに存在してまして。それなりに対応した方が良いのかな?という感じだったのですが。 同じ尿路系を評価するのだったら、やはり腎臓も診ておきたいと思い。プローブを腎臓領域に当ててみました。 「?????」腎臓に普通は見られない嚢胞(袋状の構造)があります。それも複数。 もう片方の腎臓も見てみました。 こちらも複数ありましたが。そのうちの一つはかなり大きいです。 腎嚢胞は、時たま小さい物を単体で見たことはありますが。こんなに多発する物を見るのは初めてです。

教科書でカンニングをしてみると。ペルシャ猫の多発性嚢胞腎は、ペルシャ猫以外にも発生は見られるが。一般的にペルシャ猫に多発していて。
遺伝性の病気であり。遺伝子診断も出来るようになっているとのことですが。

当院とお付き合いのある数軒のラボの資料には、記載は無かったです。
もし今度不安を訴える飼い主様が現れた場合。出入りのラボに訊いてみるか、母校の大阪府立大学の内科の先生もしくは教科書の執筆者のお勤めしている大学に問い合わせをしてみようかと思います。

腎嚢胞自体は、ときたま犬や猫の腎エコー検査をやっていると見つけることがありますが。多くは数も増えて行くこともなく将来的な問題もそんなに無いものであります。

しかし、多発性嚢胞腎の場合。年齢と共に嚢胞の数が多くなって行き。サイズも大きくなって。嚢胞が正常な腎組織を圧迫して、結果的には慢性腎不全に陥ることになるそうです。

嚢胞の増殖を防ぐことは今のところ不可能で。対症療法しかなく。経過は長期にわたりますので。治療法としては一般的な慢性腎不全の治療である食事療法や腎臓の糸球体という濾過器官を長持ちさせるお薬を内服させることしかありません。

遺伝病の場合。繁殖の段階で両親猫の遺伝子診断を実施して、不幸な子猫を作らないことが最も大切なことと思います。意識の高いペルシャ猫のブリーダーさんはもうとっくに実施されているかも知れませんが。まだ知らなかったという方は、愛猫の繁殖を考える前に獣医師に相談すべきと考えます。

今回の子の場合。とりあえず多発性嚢胞腎を発見したという段階であって。これから長い治療が始まるわけです。

気長に頑張ります。

 

 

蝮による咬傷

一昨日の夜ビーグル雑の女の子の飼い主様から電話がありまして。

「草むらに顔を突っ込んで臭いを嗅いでいたら、みるみる顔が腫れて来た。」ということです。

蝮による咬傷の疑いがあるのですぐに来院するようお伝えしました。

来院して来たワンちゃんの鼻面はかなり腫れ上がっています。

2本の矢印の先がほのかに赤く染まっているのは、そこがマムシの牙が入った場所だということだと思います。

マムシによる咬傷はそれなりに件数を診ていますが。犬の場合死ぬことは滅多に無いようです。

ただ、傷が治癒した後肝機能に異常を来した症例は診ています。

実は、お守りとしてマムシの馬抗毒素血清は常備してはいます。

ただ、この抗毒素血清を注射してもしなくても、そんなに経過が変わるという感触が無かったことと。注射により却ってアナフィラキシーショックを生じる可能性があったりして。

最近はほとんど使用することはありません。

この子の場合でも。来院時そんなに全身症状が悪くないこともあって。抗生物質とステロイドホルモンの注射を行なった上で。

内服は2次感染防止のための抗生物質と、抗炎症効果を期待したステロイドホルモン、強肝作用と解毒作用を期待して甘草エキス製剤の3剤を処方し。経過が心配ならば連絡をくれるようお伝えしてお帰ししました。

私的には、この場合に最も効果を期待する薬はステロイドホルモンで。次に甘草エキス製剤です。抗生物質はあくまで二次感染防止の意味合いで使用しています。

中1日置いて再来院したのを診ますと。食欲元気さはそれなりにしっかりしています。


鼻面の腫れは少しましになっていますが。下顎から首にかけて炎症性の分泌物が溜まっているのでしょう、ブヨブヨに浮腫が出来てました。

続きのお薬を処方して。1週間後に念のために血液検査を実施する旨お伝えしました。

犬のマムシによる咬傷は、一応こんな感じで、最近はほぼ全例が無事に回復しています。

犬がマムシに咬まれても重大な結果になり難いのは、反射神経が鋭いために咬まれても瞬間で離れるために、毒の注入量が少ないということなのかも?知れませんね。

私事ですが、私の実兄はマムシを捕まえてマムシ酒を作ったりしてましたが。数回咬まれて、その都度入院して抗毒素血清の注射を受けてました。
最後の入院の際には、「次回には抗毒素血清に対するアレルギー反応で重症になるかも知れません。」と脅かされて、最近はマムシに手を出すのは止めにしたみたいです。

お彼岸の前後からはマムシの繁殖期になりまして。マムシが攻撃的になる季節に入ります。
ワンちゃんと自然豊かな環境に行く際には十分に気を付けてやって下さい。