兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2019 4月 13
院長ブログ

日別アーカイブ: 2019年4月13日

乳腺腫瘍、ここまで育てたら駄目です。

ここしばらくは、私自身が食道癌に罹ってしまって。その治療で辛かったのですが。その治療の合い間に受診されて対応した乳腺腫瘍2例がすごかったです。

最初の症例は、高齢のシーズちゃん。

1年くらい前から乳腺のマスに気付いていたのですが。毎日見ていると不思議に見慣れてしまい、大きくなって来ていても切迫感を感じなかったようです。

それで、受診をしようと思うようになったきっかけは。腫瘍が巨大になり過ぎて床と擦れるようになって、そのために腫瘍の表面が傷ついて出血するようになったためだそうです。

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ワンちゃんが高齢のため、乳腺の全摘出は諦めて、大きなマスの切除と卵巣子宮全摘出とだけを行なうことにしました。

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手術津準備が整った時点での画像です。

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手術が終了しました。

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もうすぐ麻酔から醒めて、気管チューブを抜く少し前の状態です。

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麻酔から醒めて、メリヤスのシャツを着せたところです。一晩経過したら肢に入れている静脈カテーテルを抜いて、青いラッパ状のエリザベスカラーを外します。

術後はメリヤスのシャツを着て化膿止めを内服しながら様子を見て行って。術後10日から2週間で抜糸します。

 

その次の症例は、13才の甲斐犬雑の女の子です。約1年前から両側乳腺に小さな腫瘤が沢山ありましたので、手術を勧めていたのですが。飼い主様が「手術は可哀相だから。」と考えられたのか?そのままになってしまっていて。

「大きくなってしまった。何とかならないか?」ということで受診した時には、大きな腫瘤は直径13センチくらいになってしまってました。

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大小の腫瘤を切除し、卵巣子宮全摘出を行なって、手術は終わりです。

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術前検査で、肺に腫瘍の転移像が見られたこともあるのと、年齢などいろいろ考えて、大きな腫瘤を取って生活の質を確保することを優先して。乳腺の前と後の一部分は敢えて残して、手術時間を短縮するようにしました。

これら2頭の子らは、術後の経過は割りと良好で、身体のコンディションも手術前より回復してました。大きな悪性腫瘍は身体をいじめる物質を分泌していますから、本体を切除すると身体はずいぶん楽になることと思います。

どちらの子にも、腫瘤摘出だけでなく卵巣子宮全摘出も実施したのは、乳腺腫瘍の場合、その多くは卵胞ホルモンの影響を受けると大きくなりやすいということがあります。卵巣を切除して卵胞ホルモンが出ないようにすることで、残されている腫瘍の発育は随分遅くなって、いつかは来るであろう更なる状態悪化の時期をかなり遅く出来るということを期待しているわけです。

過去にも書いたことですが。乳腺腫瘍の場合、良性と悪性の比率は概ね半々であり。悪性の方では更にその半分、全体の4分の1は悪性度が高い乳腺癌であるということが報告されています。

悪性の乳腺腫瘍の場合、手術を早くに実施して、腫瘤が小さい間に実施すると、転移している率が低いということも報告されていますし。

犬の女の子の場合、最初の発情の前に卵巣子宮全摘出を実施すると、何にもしなかった子に比べて、乳腺腫瘍の発生率は200分の1まで低下するということも報告されています。

ご愛犬を乳腺腫瘍から守りたい飼い主様にありましては。その子で繁殖する予定が全く無いのであれば、最初の発情が来る前の生後6ヶ月令辺りで卵巣子宮全摘出を実施することが、まず第一の対策ですし。

仮に乳腺に腫瘤が見つかった場合には、なるべく早くに腫瘍摘出と卵巣子宮全摘出を同時に実施してしまうということが第2の対策になります。

この子らのレベルまで腫瘍を育ててしまっていると、高い確率で腫瘍は転移しております。この2頭の子らも病理検査の結果は悪性度の高い乳腺癌という診断でしたし。甲斐犬雑の子に至っては、術前の胸部エックス線検査で明らかな肺転移像が認められていました。

乳腺腫瘍は、まず予防すること、次いで出来てしまった場合にはなるべく早期に対処することが大切です。くれぐれもこの子らのように大きく育てることの無いようにして下さい。

ではまた。