兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2014 3月 24
院長ブログ

日別アーカイブ: 2014年3月24日

急性フィラリア症の手術

ここで急性フィラリア症と称している病気は、犬のフィラリア症のひとつの型でして。正式には大静脈症候群と呼ばれているらしいです。

普通に慢性フィラリア症の場合、蚊に刺されることで感染したフィラリアという線虫は、肺動脈に寄生しています。これはこれで感染数が増加すると、肺動脈が炎症や変形を起こしたりして、慢性の咳や削痩、腹水、運動不耐症などの症状が生じて、真綿で首を締め上げられるように苦しみながら徐々に死んで行くのですが。

慢性だったフィラリア症が、虫が肺動脈から右心房、更に大静脈洞に移動することにより急性フィラリア症となると。
犬は急激に苦しみ始めて、1週間から2週間くらいの経過で死んでしまいます。

具体的な症状は。典型例では突然の食欲不振、虚脱衰弱、呼吸困難、濃黄色~赤色からコーヒー色までのいろいろな程度の血色素尿、舌のいろが蒼白になる、などです。
獣医師が聴診器で胸の音を聴いてみると、ガガガガガとかザリザリザリとかゴロゴロゴロというような特徴のある心雑音が聴こえます。

それで、この急性フィラリア症は、早急な手術を実施して、大静脈洞に居るフィラリア虫を釣り出してやらないと、ほとんどの犬が死亡してしまうのです。

手術の危険性は非常に高く。私が10数年前に聴いた話しでは、平均して30%の死亡率だそうです。
ただし、手術を乗り越えて、フィラリア虫がきちんと除去されると。劇的に回復することが多い病気でして。
この急性フィラリア症と子宮蓄膿症は、獣医師が「神の手」となれる疾病の典型なのです。

今回の症例は、8才7ヶ月の柴犬の男の子でした。2日前に少し離れたところにある動物病院に救急で受診して。「急性フィラリア症なので手術が必要である。手術出来る先生が限られているので、その先生を確保する都合上早く手術を決断して欲しい。」と言われたそうなのですが。手術を受けないこととして、副腎皮質ステロイドの注射をしてもらっただけで帰られたとのことです。

その後、飼い主様の息子さんが当院のことを調べて、こちらに行くように勧められたということで、当院に来られたということです。

聴診して、特徴的な心雑音が聴こえることと、発症の状況、他院でのお話しなどなどから、急性フィラリア症は間違いないだろうとお伝えし。手術の危険性などをお伝えしたところ。

飼い主様はいろいろな理由があるみたいですが。手術を相当ためらっておいででした。

その後、飼い主様の息子さんが来られて、いろいろ相談されたようで。結局手術を受けることになりました。

動物看護師には残業をお願いしまして。午後5時前から麻酔導入を始めます。

気管挿管、静脈輸液、各種モニターの装着を済ませてから。術野の毛刈り、消毒、術者、助手の手洗い消毒、術衣手袋の装着と、手術の準備を手早く進めて。
いよいよ執刀準備が整いました。


この手術の術式は非常に簡単です。頸静脈を露出して、小さな穴を開けて。そこからアリゲーター鉗子という先端に鰐口が付いた鉗子を大静脈から出来れば心臓まで差し込んで。フィラリア虫をつまみ出すだけです。

しかし、鉗子の操作が総て手探りで。指先の微妙な感覚だけが頼りですし。強引な操作をすると、静脈壁を突き破ったり、心臓の弁の腱索を引きちぎったりして、わんこは突然に死亡してしまいます。
また、心不全状態の犬に麻酔をかけるわけですから。麻酔導入を試みたらすぐに死んでしまうという事態もあり。
なかなかにストレスフルな手術ではあります。

アリhゲーター鉗子を挿入してすぐにフィラリア虫を掴むことに成功です。

虫を拡大してみます。

1回に5匹か6匹を掴んでいます。

こんな感じで虫を快調に摘出して。そのうちに取れなくなりますので、3回、4回と探ってみて、それでも虫が取れない時には、心音を聴いてみます。

特徴的な心雑音が消えていたら、その時点で虫の釣り出しは終了として、縫合にかかります。

この子も、とりあえずのガリガリ音は聴こえなくなりましたので、縫合して終了としました。

後で勘定したら、摘出した虫の数は、35匹でした。

今回は麻酔導入開始から縫合終了まで約1時間半くらいかかりました。もっと熟練した神の手先生だったらもっと短いかも知れませんが。アベレージ獣医の私ですから、こんなものですね。

麻酔からの覚醒はまあまあでした。術前に相当弱っていましたから、良い方だったかも知れません。

麻酔から醒めた時点でかなり気分はましになっているようだったし。蒼白だった舌の色もきれいなピンク色になってましたが。
さすがにその夜は何回か起きて容態観察をやってました。

明けて翌日。わんこの気分は随分良さそうです。飼い主様が持参された食べ物にもかなり興味を示してましたが。まだ食べるまでには至りませんでした。

もう少し回復して食欲が出て来たら退院です。

今回も手術が上手く行って良かったです。この手術は、症例がかなり減っていて、回数は少ないですが。私の場合今のところ成功率70%は軽くクリヤーして90%くらいは行っていると、自分では思っています。

ではまた。