兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 院長ブログ

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庭に繋いでいるだけでもマダニが寄生

 

グリーンピース動物病院の周辺は、市街地から郊外に移行するような街並みで。住宅地と田んぼや畑が混在するようなところも所々見られます。最近は、大阪や神戸のベッドタウンという感じで新しい住宅も増えて来まして。

一見して、こんなところに野生の哺乳類なんか居るわけないだろうという感じですが。

どっこい、自然豊かな加古川河川敷と、川向こうの神吉町や平荘町という田園地帯が意外と近くにありますので。
グリーンピース動物病院の近くに、深夜2時とか3時には舗装道路上を野生の狐が歩いていたりしています。

そんな自然環境のためか?先日近所の人が飼育している日本犬の子が狂犬病予防注射で来院した時に、その子の身体に多数のマダニが寄生しているのを動物看護師さんが発見しました。

飼い主様にその子の普段居る場所について訊いてみたところ。普段は庭に鎖で繋いでいて。朝夕の散歩は草が茂ったところには行かないということです。

庭の状態を訊いてみると。草は生えているということでした。

恐らくですが。庭の草にマダニが大量に棲み付いているのではないか?と思います。

そして、そのマダニは。付近を徘徊している狐やイタチなどの野生の哺乳類が落として行ったものではないか?と考えられます。

 

 

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見つけたマダニを捕まえてビンの中に入れました。大きなのが上の方に2匹と底の方に1匹見えますが。これくらいになると、動物の身体から落ちて近くの植物に取り付いて産卵するまで成長していると思います。

ワンちゃんに寄生しているマダニの数が半端でないので。即効性を期待してブラベクト錠を処方させてもらいました。そして、飼い主様には庭の草を刈り取った方が良いと思うとお伝えしました。

これで、この犬は向こう3ヶ月間はマダニに悩まされることはないでしょう。

山に入ることの全くない犬であっても、マダニに寄生されることがあるという事実は。私にとっては結構新鮮な驚きでした。

今後は普通に庭に居るだけの子でもマダニに注意して予防をお勧めしたいと思います。

ではまた。

ブラベクト錠(内服型ノミマダニ駆除剤)の安全性を勉強しました。

2015年末に、「内服するノミダニ駆除薬について(院長私見)」という記事を書きましたが。その後いろいろ勉強はして来てまして。

安全性についてもそれなりに使える印象は強くなって来てましたが。知識の整理という点ではまだ完璧に納得出来ていませんでした。

最近、ブラベクト錠という内服型ノミマダニ駆除薬について、メーカーの方にグリーンピース動物病院まで来ていただき、詳しくお薬の説明、特に安全性についての説明を受けることが出来ました。

メーカーさんからは、営業の方と学術の方のお二人が来られました。

説明の内容は。

薬効が3ヶ月持続出来るのはどうしてなのか?

犬における薬効成分の動態、分布、代謝、排泄機序。

ノミとマダニに対する実際の効果(効果発現時間、効果の持続期間)

安全性(急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、催奇形性、繁殖安全性、染色体異常、成長期の子犬に対する安全性、皮膚や眼に対する刺激性等)

2014年から諸外国で、その後我が国で販売された使用実績に基づく、有害事象発現情報の実際。

等多岐にわたりましたが。

その中で、私は特に安全性についてのお話しに集中して聴くことが出来ました。

聴いた結果として。ブラベクト錠は現時点におけるノミマダニ駆除薬の中では滴下型、内服型を含めて、トップレベルの安全性を有しているということが納得出来ました。

細かい数値は膨大多岐にわたりますので。ここには掲載しませんが。急性及び慢性毒性ではライバル製品のネクスガードに比べて2倍の安全性が確認されてますし。
実際の犬の生体合計40頭を用いて行なった繁殖試験も実施して生まれて来る子犬に対する安全性を確認しているのはこのブラベクト錠だけということですし。

販売後の有害事象についても、薬との関連性が確かなものは非常に少ないようですし。
国内販売後の有害事象についても、重大な結果の症例はほとんどが重大な基礎疾患を持っていて。例えば成犬の犬毛包虫症(アカラス)の治療のためにブラベクトを使用した子について生じているということですから。ある意味仕方がなかった症例とも思えますし。その件数も率的には非常に少ないですから。

ブラベクト錠は、効果の面からも安全性の面からも、今後私の動物病院で安心してクライアントの皆様にお勧め出来る内服型ノミマダニ駆除薬であります。

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犬の蛋白喪失性腸症

犬のお腹が膨れて来て、腹水が溜まっているという状態で受診して来た時に。 血液検査を行なってみると、 血液中の蛋白質の一種であるアルブミンの量がひどく少なくなっている場合があります。

血清アルブミンは、 比較的分子サイズの小さな蛋白質でして。 肝臓で造られています。 アルブミンにはいろいろな働きがありますが。 そのうちの一つに、 血液の膠質浸透圧の維持と言って。 血管内に水分を保持する役割があります。

従って、血清アルブミン濃度が低下すると、 血管から水分が周囲組織に漏れて出てしまい。 漏れ出た水分が腹水や胸水という形になって目に見えるようになるわけです。

それで、血液中のアルブミンがどういう理由で減るのか?という話しなのですが。

単純に羅列してみますと。

蛋白喪失性腸症。 蛋白漏出性腎症。 肝臓機能不全。 火傷などの広範な皮膚障害。 出血。 腹膜炎。 膵外分泌不全。 アジソン病などいろいろであります。

前置きはこれくらいにして。 今回の症例の子は。 もうすぐ10才になるヨークシャーテリアの避妊済み女の子です。

この子は、 丁度1年前に歯の根に細菌感染が生じて眼の下に膿が溜まり。 眼の下の皮膚が破れて膿が流れ出て来るようになったので。 麻酔下で処置をする際に、 術前検査をしましたが。 その時にはアルブミンは2.5g/dlと異常はありませんでした。

その後、この秋に乳腺にしこりが出来まして。 乳腺腫瘍であろうということで外科的処置をする際に、 やはり術前検査を行ないましたが。 その際にアルブミンが1.7g/dlと明らかな低アルブミン血症になっていたのです。

一応一般状態は良好だし、肝機能にも問題は無かったので。 蛋白漏出性腎症を除外する目的で、尿中のアルブミン検査を行ないましたが。 アルブミンが尿に漏れているということもなくて。

アルブミン濃度が低い状態で大きな傷を作ると癒合不全に陥る可能性がありますので。 乳腺腫瘍はいつものように広範囲にマージンを付けて切除することは避けて、ピンポイント切除で病理検査を実施しました。

乳腺腫瘍は良性の物であり、 ほっとしました。

乳腺腫瘍摘出から2ヶ月経った先日。 ここ数日嘔吐が続いていることと、昨日から軟便になっているということで来院されまして。
飼い主様が、最近お腹が張っている感じなのが気になると言われますので。

血液検査と腹部エックス線検査を行なってみたところ。

血液中の総蛋白が2.9g/dlアルブミンが1.0g/dlと明らかにひどく低下しています。

腹部エックス線検査では、お腹の中に腹水が貯留しているという結果でした。

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お腹がポッコリと膨らんで、 お腹の中はスリガラス状にぼやけて見えます。 直腸にコントラストが強く見える粒子状の物体が見えますが。 これは同居の猫の使う猫砂を食べているのであろうということです。

2ヶ月前の検査では、尿中にアルブミンが出ていなかったので。 蛋白漏出性腎症は一応除外して考えることにして。

腹部エコー検査で肝臓や腸管を観察することにしました。

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肝臓は問題なく。

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胆嚢も問題なく。

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お腹の中には液体が充満していて。

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液体の中で大網膜や腸間膜の脂肪がヒラヒラ揺らめいていて。

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リニアのプローブで探って見ると。 腸管は特に異常はありません。 小腸粘膜の高エコー線状パターンが見られたら診断は腸リンパ管拡張症で決まりなのですが。 もう一つはっきりしません。

因みに小腸粘膜高エコー線上パターンとは。 下の画像のように見えます。

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著作権の問題がありますので、出典を明らかにしておきますが。 この画像は、インターズーさんの「犬と猫の治療ガイド2015」の306ページから引用させてもらいました。

確定診断をしようと思えば、 麻酔下で消化管内視鏡検査あるいは腸の全層生検と病理検査をするべきだとは思いますが。

私はここで、試験的に治療してみることにしました。

処方の内容は、 副腎皮質ステロイドホルモン。 利尿剤。 抗生物質。 下痢止め。 整腸剤。 嘔吐止めというものです。 なお、内服以外には、腸管の慢性病変ではシアノコバラミンというビタミンの一種が不足して状態が悪化しますので。 シアノコバラミンの皮下注射も行いました。
食事は非常に重要ということですから。 低脂肪食を処方しました。

それで4日間治療してみると。

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下痢嘔吐は治まり。 腹囲は減少しまして。 お腹の中の液体も減少あるいは消失してました。

血液検査はさらに1週間投薬してから行なう予定ですが。 おそらく血漿アルブミン濃度は増加していることと確信しています。

今後は定期的に血液検査を実施しながら、 ステロイドホルモンの内服と、シアノコバラミンの皮下注射を続けて行く予定です。

この病気の多くは生涯にわたる治療が必要になることが多いようですから。 ステロイドホルモンを副作用が生じない最小限の用量で上手くコントロール出来るよう頑張ってみたいと思います。

ではまた。

リウマチと診断して良いかな?

今月で15才ヶ月令になる日本犬雑の未避妊女の子の話しです。

2ヶ月前から歩行時左前足をかばうようになって。 約1ヶ月前から痛みがひどくなり。 最近は夜も頻繁に悲鳴を上げるようになり、ワンちゃんも飼い主様も眠れない状態が続いているということで来院されました。

痛む左前肢を触ってみますと。 肘関節から上の上腕部外側の筋肉が萎縮してしまっていますし。 肘関節周辺がひどく腫れています。

前肢のエックス線検査を実施しました。

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上の画像が側面像。 下の画像が正面像です。 矢印の先に骨が虫に喰われたような穴が開いたように映っている場所がありますし。 正面像で向かって右側の左前肢の肘関節部分周囲が反対側に比べてひどく腫脹していることと、関節の中の骨と骨との間隔が明らかに反対側よりも狭くなっていることが判ると思います。

この時点で、私の頭をリウマチのような免疫が関与する関節疾患がよぎっています。

しかし、関節周囲に尖った形の新生骨が見られるのは反対側の痛まない右肘も同じですから。 この子には元々老齢性変化の変形性骨関節症は存在していたと思われます。

一応体温測定を実施しますと、39.4℃と軽い発熱があります。

この時点で、血液検査を行ないました。

院内の全血球検査では、 白血球数の増加、 特に好中球 (細菌と戦う細胞で炎症が存在する時に増加する) と単球 (炎症が長引いた時に増加することの多い細胞) の増加が特異的です。

次に、血液生化学検査では、 犬CRPという炎症マーカーが7.0mg/dlオーバーと測定限界を超えてしまっていました。

外注試験で、 抗核抗体とリウマチ因子の二つの検査を行ないます。

飼い主様がセルフメディケーションを行なってまして。 市販の犬用アスピリンを与えると、 その後2時間から3時間は症状が軽減されるというお話しでした。

私としては、 免疫系の疾患であれば、白血球数は増加しているから抗生物質は使うにしても、 最初からステロイドホルモンを使用したかったのですが。
飼い主様が先にアスピリンを使用しているということもあって、 非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDS)を処方することにしました。

アスピリンもNSAIDSの一種なのですが。 NSAIDSとステロイドホルモンを同時に使用すると、胃出血などの重度の消化器系の異常が生じて、状況によっては命に係わる可能性がありますから。 とりあえず、外注血液検査の結果が出るまでNSAIDSで様子を見ることにしたのです。

翌日、検査センターから速報で結果がFAXされて来ました。

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抗核抗体は自分の身体を攻撃する自己免疫抗体の一種ですが。 典型的なリウマチでは、抗核抗体陰性で、リウマチ因子は陽性ということが多いようにテキストには記載があります。

テキストと言えば。 このリウマチに関しては獣医学のテキストにはなかなか良い物が無くて苦労しているところです。 数少ない教科書にも有効なお薬はステロイドホルモンくらいしか記載がありません。 当然テキストを記載された先生もいろいろな人体薬も試しているみたいですが。 残念なことに人のリウマチ薬でメインに使えるお薬はまだ見つかっていないということです。
人間の医療ではリウマチのお薬はいろいろ良いお薬が開発されているように聴きますが。 動物種差も大きな壁なのかも知れません。

飼い主様にお電話して。 結果をお伝えし、来院していただきました。 ステロイドホルモンと抗生物質、ステロイドの副作用を軽減するためのお薬を処方し。 先に処方したNSAIDSを最後に内服してから1日以上、出来れば1日半くらい時間を空けてから内服させるようにとお伝えしました。

本日、内服開始から3日経過した時点で、経過観察のために来院されましたが。

それまでひどく苦しんでいた痛みが、内服翌日から改善傾向を示し。 2日後からは普通に歩けるようになったということです。
それまでどんな姿勢をしても痛みが治まらずに、 痛む足を下にした時なぞはひどい悲鳴を上げて苦しむ状態だったのが。 今は任意の姿勢を取ってリラックス出来るということであります。

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あれだけ腫れていた左前肢がすっきりと細くなって。 右前肢と同じ太さに改善しています。痛そうな表情も消えて如何にも楽になったという感じです。

再び4日前と同じ処方でお薬を14日分お渡ししました。

今後は、経過を診ながら。 今から4週間後に痛みの状態を観察しつつ、血液検査で炎症マーカーの低下や、ステロイドで内臓がどれくらいダメージを受けているのかとかをモニターしつつ。 経過が良ければなるべく慎重に減薬して、長期管理が出来るように持って行きたいところであります。
調子良い状態が続くようならば、場合によってはリウマチ治療の人体薬を併用して最低限のステロイドホルモンで維持出来るようにしたいところです。

テキストの予後  (今後の経過についての見通し)  の記載を読むと。 リウマチの予後は悪く、いったんは薬が利いたとしても経過が長く。 完全な長期コントロールは不可能であって、数年かけて病状は徐々に悪化して行き。 最終的には歩行や起立が困難になってQOL(生活の質)が低下して衰弱し、死に至ると書いてあります。
この子の場合には、 15才という年齢もありますので。 そこまで行くことなく寿命が来てしまうかも知れませんが。 ある意味それが救いになるかも知れません。

私としてはこの子の生活の質をキープしながら穏やかに寿命を終えることが出来るように手助け出来たら良いと考えています。

ではまた。

僧帽弁閉鎖不全症(あるいは僧帽弁逆流症)の治療のさじ加減

12才2ケ月になる、まるで日本スピッツかと錯覚するような美しいポメラニアンの男の子の話しですが。

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約1年前に、咳をするようになって、近医で「心臓の音が良くないね。」と言われて。 心臓のお薬を処方されたのですが。 服用開始から3日目で妙に元気が無くなったので、服用を中止したそうです。

その後、微妙に咳が続いていたらしいですが。 3週間前から急に咳がひどくなって来たので。 再度同じ近医を受診して。 お薬を2種類処方されたのですが。 全然改善しないので。 当院にかかっておられる犬友さんの紹介により、 グリーンピース動物病院を受診して来たとのことであります。

処方されたお薬を見せてもらうと、 ひとつはACE阻害剤という種類のお薬で。 もうひとつは多分ステロイドホルモンらしいです。

胸部聴診を行なってみると、全収縮期心雑音が、 ニューヨーク心臓病協会の基準で言うと6段階中3段階くらいの強度で聴取されます。 不整脈までは発生してはいません。

詳しく訊いてみると。 今までの診察では胸部エックス線検査も心エコー図検査もしていないということです。

若い頃に心雑音が無かった子で。 ある程度年齢が来て、 心雑音が聴こえるようになった場合。 80%から90%の確率で僧帽弁閉鎖不全症ですから。 その先生の診察方法もあながち間違いというわけではありませんが。

やはり、残る10%から20%の他の心臓病の可能性を探ることも大切かと思いますし。 エックス線検査や心エコー図検査を実施すれば、 他の病気との鑑別や重症度の判定も出来ますので。 それなりに意味あることと思ってやっています。

まず、胸部エックス線検査を行なってみます。

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画像のオレンジの矢印の先は左心房領域なのですが。 かなり膨れていて、専門用語で言う後方心ウェストの消失という状態です。
黒い矢印の先周辺は、 肺の後葉でして。 これくらい白っぽいということは、 肺炎か、肺水腫のどちらかという印象ですね。

一応体温測定もしましたが。 直腸温で38.8℃で、平熱でしたので。 肺炎は除外して考えることにします。

次に心エコー図検査を実施しました。

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犬の身体の左下からエコーのプローブを当てて撮影してみると。本来は薄く見えるはずの僧帽弁(赤の矢印の先)が妙に膨らんで見えます。 これは弁の粘液変性と言う病的な変化で、心臓弁膜症に特有の病変です。
この図でも僧帽弁の下に見える左心房が拡張している感がありますが。

次に大動脈と左心房の大きさの比率を測定してみます。

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点々の線が2本見えますが。 上の短い破線の部分が大動脈の断面で。 下の長い破線も部分が左心房です。
この二つの大きさの比率は、正常な犬では1対1もしくは1対1.5くらいなのですが。 この子は1対1.8という状態で。 左心房が大きくなっているということが判りました。

次に、心臓の収縮率を測定してみます。

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心臓の輪切りの画像ですが。 左が拡張した時。 右が収縮した時の画像です。
これを計測してみると、下の表のFSというのが心収縮率ですが。 31.3%というのは心臓の収縮率としては問題ない数字です。
これで、心臓の筋肉には問題は無いと判断しました。

最後に、胸壁の左下からプローブを当てて、心臓の4腔断面を書いてみます。

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4つ見える黒い空間が、左心房左心室(右側に見えます。)と右心房右心室(左側にみえます)で。矢印の部分が僧帽弁で。 やはり先が膨れていて粘液変性を生じているのが判ります。

ここで、カラードップラーを当ててみます。

カラードップラーとは、物理のドップラー効果(どんな現象かは検索して調べてみて下さい)を応用した撮影方法です。

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台形の下の色が付いている部分で、赤や黄色や緑の色がモザイク状に混ざって見えるところでは血流が乱れて渦状になっているということでして。 青一色との境界が僧帽弁ですから。 心室が収縮した時に弁が閉じ切れなくて、血液が逆流していることを現わしているのです。
この逆流は、あってはならない現象であります。

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右心房と右心室を隔てている三尖弁にもドップラーを当ててみましましたが。 逆流はあるものの、ごくわずかです。

以上で検査は総て終了です。 心電図は聴診で不整脈とかは無かったので、今回は省略しました。

以上の結果を総合的に判断すると。 近医さんの診断は当たっていたあものの、重症度の判定に関しては今ひとつだったようです。

この症例に対して私が行なった処方は、 近医さんで処方されたACE阻害剤は継続して使用すること。 心筋の収縮力増大と全身の血圧を低下させるという一見相反する作用のあるお薬に、肺胞に溜まった水を抜く利尿剤、 更に一応細菌の2次感染を防ぐ抗生物質を組み合わせるということでした。

これを2日間試してみて。 症状改善があるかどうか?2日後に判定します。

2日後に来院したポメちゃんは、呼吸状態非常に良くなってまして。 飼い主様もびっくりされてました。

一応肺水腫の状態がどうなっているのか?胸部エックス線検査は実施しました。

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黒い矢印の先の後葉の白さはかなり黒っぽく変化してまして。 水が抜けていることが判ります。
オレンジの矢印の先の左心房の拡張も幾分改善していると見て取れます。

緊急状態は一応脱したと判断しましたので。 利尿剤の投与回数を1日2回から1回に減らして。 次の1週間分を処方しました。

来週調子が良ければ、利尿剤と抗生物質はいったん休薬して。 ACE阻害剤と、心筋収縮アップと全身血圧低下を狙ったお薬の2種類は当分継続するという形で治療を続けて行く予定です。

今後、治療を続けて行く間に、病気はそれなりに進行はして行きますが。 治療をするのとしないのとでは、進行速度には大きな差があると思います。

飼い主様には、100数十万円以上はかかるけれども。 弁の再建手術を行なえば根本治療となるので。 希望されるならば手術の出来る動物病院を紹介させてもらうとお伝えしましたが。 年齢から考えてもコスパには相当無理があることもあって。 手術の道は選択されませんでしたので。
これからは、 私が内科的にこの子の心臓弁膜症を管理して行くことになると思います。

心臓弁膜症の内科的療法は、その犬が老衰とかの他の原因で亡くなった時に、結果として心臓で苦しまなかったということが、 治療の成功ということになると考えています。 これから永いお付き合いになることと思いますが。 頑張って治療して行くつもりであります。

幸せに長生き出来ますように祈っています。

ではまた。

 

長時間作用型外耳炎治療薬とその限界

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その外耳炎治療薬は、オスルニアと言いまして。 割りと最近認可された外用薬ですが。

薬屋さんの曰くは、 外耳炎を患っている子が来院したら。 とりあえず、 このお薬を点耳(耳の穴の中に注入することをこう表現します)します。 この時に耳垢とかはそんなに頑張って除去しなくても良いということです。

オスルニアを1回点耳したら、内服薬を出す出さないは別として。 患者さんをお帰しして。 1週間後に来院するまで自宅では何にもしなくても良いということです。

初診で1回点耳して1週間経過して再来院して来た時に。 再度オスルニアを点耳します。

2回目の点耳の後も、そのまま帰宅させます。

その後も自宅では何にもしなくてもよろしいとのことです。

1週間後に3回目の来院の時に、治っていることを確認して治療終了となるということです。

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初めてそのことを聴いた時には、俄かには信じることが出来ませんでした。

それまでの外耳炎の治療は、最初の診察で耳垢を洗浄除去した後、自宅で毎日お薬を点耳し続けることが標準的なやり方ですから。

ものは試しにと、 外耳炎で来院して来た子に、 このオスルニアを使用してみたところ。

薬屋さんの言う通りに、 自宅で何もしなくても外耳炎は合計3回の診察で治りました。

その後、数頭オスルニアを使用してみましたが。

何頭目かに、オスルニアを使用しても治らない子に遭遇しました。

その原因を探るべく。 その子の耳垢の細菌培養と薬剤感受性試験を実施してみたところ。

オスルニアに使用している抗生物質に耐性を持つ細菌が感染しているということが判明しました。

オスルニアというお薬は。 基材やお薬の作り方に特殊な技法を用いて、耳の穴の中でお薬が長時間作用し続けるようにしたものだと思います。
使用している抗生物質が、今まで獣医療で使われて来なかった種類の物なので、最初の数例はたまたま薬剤耐性菌に出合う確率が低かっただけで。 順調に治ってくれたものの。

いつかはこのお薬に反応しない細菌による外耳炎に行き当たることは当然と言えば当然だと思います。

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これはオスルニアが利かない外耳炎の耳垢の細菌培養と薬剤感受性試験の例です。 上の画像の赤い矢印の先がオスルニアに使用している抗生物質を含ませているろ紙です。

ろ紙の周辺に、点々と見えているのが細菌でして。 薬の存在に関係なく生えていることは。 その薬が利いていないということです。

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これは、オスルニアが利いている外耳炎の耳垢の培養です。 矢印の先のろ紙の周辺には小さなツブツブの細菌は生えていません。

というわけで。 夢の新薬と言えども抵抗性のある細菌が原因の場合、治療には役に立たないということが判明してしまいました。

また。 これは従前からそうなのですが。 外耳炎を再発する動物は、基礎疾患としてのアレルギー体質や、免疫力低下などの素因を有しているわけです。

外耳炎の子が来院した場合には。 必ず基礎疾患の有無にも思いを致しながら診療にあたる必要があります。

ではまた。

 

 

痒みをコントロールする新しい分子標的薬

今年の夏は、獣医皮膚科診療においては、非常に画期的な新薬が発売されました。

その薬は、オクラシチニブという成分名で、商品名はアポキルと言います。

欧米では数年前から日常診療に使用されていて、素晴らしい効果を上げているということでしたので。  勉強熱心な先生方は、既にその存在を認識していて、日本国内販売を渇望されていたようですが。

我が国でもやっと農林水産省の審査が通って販売されるようになったものです。

アポキルは、分子標的薬という特定の分子に作用してその働きを制限するお薬の一種で。  ターゲットになる分子は、皮膚の痒みを生じさせるサイトカインの信号伝達に関与するヤヌスキナーゼという物だそうです。
小難しい話しは省略して。  要するに痒み生じさせる生体の連鎖反応を途中でブロックするお薬だと考えれば良いと思います。

どんな薬もそうですが。このお薬にも、それなりに特徴があります。  それは。

1、基本的にアトピー性皮膚炎の痒みに対しては非常に有効である。  メーカーの推奨量を守って投薬する限りにおいては、ステロイドホルモンのような副作用はまず生じない。

2、食物アレルギーに対しては、アトピー性皮膚炎ほどには利かない。 通常量の倍を使用すれば何とか抑えることは出来るけれども。 倍量使用を継続すると他の免疫反応一般を低下させてしまうという問題を生じさせる可能性が出て来る。

3、痒みに対して有効な症例では、投与の当日から痒みの著しい低下が認められ。 素晴らしい即効性が確認された。

4、アポキルを使用する場合。  最初の2週間は維持料の2倍の量を投与する。  2週間経過して良好な反応が得られたら、導入量の半量の維持料に減薬するが。  その際に少し痒みが戻って来ることがある。  その場合には。 局所使用に特化したステロイドのスプレーを使用したりすることもあるが。  たいていの場合戻った痒みも我慢が出来る範囲のことが多く、2週間から3週間経過すると再び落ち着いて痒みを感じなくなることが多い。

5、総てのアレルギーの犬について、ステロイドホルモンよりも有効であるとは限らない。  当院でのほとんどの症例ではアポキルの導入により、ステロイドから離脱出来たのであるが。
たった1例だけ、投薬何回かに1回嘔吐して、痒みのコントロールも上手く行かないで。 飼い主様のご希望で少量のステロイドホルモン1日置きの投与で快適な生活に戻った症例もあります。

しかし、ごく少数の例外を除けば、適切な症例として判断して投与している多くの子らは、このアポキル錠のお陰で夜も痒くて眠れないこともなくなって、快適な生活を送ることが出来るようになっています。

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顕微鏡新調

検査機器もいろいろとありまして。  顕微鏡なんかも、本当にピンキリです。

性能の良い顕微鏡は、他の顕微鏡では見えないような物でも発見することが出来ます。

この度、長年の懸案であった、ちょっとこましなオリンパスの顕微鏡を購入しました。

ディスプレイも解像度の高いのを外付けで設置しましたので。 これからは飼い主様に画面に映る対象物を指さしながら丁寧に説明することが可能になると思います。

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しかし、検査台が機器で一杯で狭いです。

重度肛門嚢炎に対する肛門嚢摘出術

犬や猫などの肉食獣には、 他の科目の動物に無い組織として、 肛門嚢という強烈な臭いを発生させる袋状の器官が肛門の辺りに存在します。

犬の肛門嚢は、 排便の際にその分泌物が糞便の上に少量落とされて、 他の犬たちに対するメッセージの役割りを果たしていると言われていますが。 本当かどうか?は実際に犬に訊いて返事をもらった人はおそらく居ないと思いますので。 一応推測の範囲ではないか?と勝手に思っています。
しかも、 都会生活を送っている最近の我が国のワンたちは、 散歩の時に排便してもマナーをきちんと守る飼い主様が糞便を回収してしまいますから。 糞便と肛門嚢分泌物によるコミュニケーションは非常に困難な時代になってしまっております。

この肛門嚢は、 分泌物の出口が肛門のすぐそばに開口しておりますので。 しばしば大腸菌などの細菌が侵入して繁殖し、 炎症を起こすことがあります。

大抵の肛門嚢炎は、 適切な抗生物質を使って治療することにより治ってしまうものですが。 時たま薬剤耐性菌が感染していたり、 肛門嚢が拡大して大きな袋状になってしまい、 内部まで薬の効果が及び難くなってしまっていて、  内科治療が困難な症例に出くわすことがあります。

内科治療困難な肛門嚢に対する治療法は、こまめに絞って中身を溜めないようにしながら、細菌培養と薬剤感受性試験を繰り返して、その結果に基づく適切な抗生物質を投与するという地道な内科療法を行なうのですが。 それでも治って行かない場合。 最終的には外科的に肛門嚢を摘出する方法があります。

この外科療法には、やはり落とし穴が存在しておりまして。

肛門嚢の組織を取り残した場合に、あの臭い中身が傷の中に分泌され続けるので、瘻管という非常に不愉快な結果が残ることになります。

いったん瘻管が形成されると。 その原因である残存肛門嚢組織を綺麗に除去しない限りいつまでも不愉快なジクジクとした悪臭を伴なう不潔な肛門周囲組織と付き合わなければなりません。

そして、瘻管を摘出しようとすると、これが結構難しい手術になることと思います。 仮に瘻管がそっくり摘出された場合でも、周囲組織を大きくごっそりと切除しなければならなかったりして。その結果、排便をコントロールしてくれる肛門括約筋を損傷して。 頑固な便失禁が残るということになりかねません。

どんな手術でも、最初に上手く行かなくてやり直しをする方が、難しいものであります。

肛門嚢摘出手術も、 簡単なようで、 意外に難しかったりします。

というわけで。 私は犬猫の肛門嚢摘出手術をする際には、 アナルサックゲルキットという熱可塑性樹脂の製品を、切除直前に肛門嚢内に注入して、肛門嚢を周囲組織とはっきり区別出来るようにしてからやることにしています。

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画像がアナルサックゲルキットの内容です。 グリーンの円筒形容器には熱可塑性樹脂が入っていまして。 使用直前に沸騰水で熱して、これを上のステンレスの注入器にセットして肛門嚢の出口の穴から中に充填するのです。

麻酔下で行なう作業なので、100℃とは言いませんが70℃とか80℃くらいの樹脂が嚢内に入ることになります。

実は、これが万が一にも肛門嚢組織を取り残した場合でも瘻管が出来ない保険のようなものなのです。 通常の生き物の細胞は、細菌でも、我々や犬猫の身体の細胞でも、70℃くらいの高温に数秒でもさらされると、死んでしまうのです。

高温のアナルサックゲルキットを空の肛門嚢に注入することにより、 肛門嚢の内貼りにあたる悪臭液分泌細胞を殺すことが出来るので。 万が一組織の取り残しが出来ても、 瘻管形成を防ぐことが出来るかな?と一応考えているところであります。

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一応、手術の光景も掲載します。 まず手術準備の消毒のところです。

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覆い布をかけます。

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何故か、左側が終わって右側の皮膚切開をしているところです。

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矢印の先が肛門嚢の組織ですが。 丁寧に分離しているところです。

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手術が終わって。 肛門が開かないように肛門を絞めていた縫合糸を抜いたところです。

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術後1週間が経過して、来院して来たところです。 この段階で、手術後の排便のし難さとかは完全に消失して、抗生物質の内服とエリザベスカラーで舐めないようにしている以外はほぼ通常の生活が出来ています。

肛門嚢摘出術は、 そんなに件数の多い手術ではありませんが。 やる時はやらなければならない手術でもあります。 今のところ私がやった手術で瘻管形成に陥った症例はありません。 これからも心して取り組みたいと思います。

ではまた。

 

 

犬の糖尿病のインスリン抵抗性(インスリンが利かない、あるいは利き過ぎる糖尿病について)

先日から当院に転院して来られた日本犬の女の子ですが。

最初にかかっていた近くの動物病院で、糖尿病と診断されて。 インスリンによる血糖コントロールを試みていたのですが。

なかなかコントロール出来ないで。 インスリンを注射するとフラフラになったりして。 とても可哀相なんだと。 その上にどんどん痩せて来て、多尿多飲も全然改善しないということで。

最近、 そこの獣医さんに、 「もうこの子は長く生きられません。」と宣告されてしまったとのことで。

インターネットでいろいろ調べていたら。 グリーンピース動物病院にヒットしたということでの転院だったそうです。

糖尿病で、 インスリンが利かないという子は時々診ますが。 インスリンが安定して利き難い原因として。 まず考えなければならないことは。 その子の身体の状態が、 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)でないか?ということと。 その次に考えなければならないことは。 女の子で避妊手術を受けていないということです。

その他にもいろいろありますが。 この子の場合はこの二つをまず考えなければならないと思います。

血液検査を実施しつつ、 身体検査を行なって行くと。 飼い主様が膿性の下り物が性器から出ていると言われます。

となると。 血糖コントロールが難しいのは、 子宮蓄膿症あるいは子宮内膜炎の存在が原因ではないか?と強く疑われます。

血液検査の結果を見ると。 ひどい高血糖に総コレステロールが450mg/dlオーバー、カリウムイオンが5.2mEq/lとそろそろ糖尿病性ケトアシドーシスで危なくなって来ている感があります。

何はともあれ、感染した子宮を卵巣と共に摘出して。 インスリンが利くような身体の状態に持って行きたいところです。

その日は。 インスリンを体重1キロ当たり0.4単位くらい注射してやって。 飼い主様に当院で使うインスリンをお渡しして、打ち方を指導させていただきました。

翌日、速攻で麻酔をかけて、 卵巣子宮全摘出を実施しました。

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画像は麻酔をかけて、今から術野の毛を刈ろうかという状態のものです。 麻酔前に血液検査で血糖値を調べて。 極端な低血糖でないことは確認済みです。

手術は最短で終了しまして。 子宮は膿でパンパンという感じではありませんでしたが。 取り出した子宮の内容を無菌的に採取して、 細菌培養と薬剤感受性試験を実施しますと、 しっかり細菌が生えて来ました。

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卵巣子宮全摘出の手術の際に、 右第4乳頭すぐそばに小さな腫瘤を発見しましたので。 今回は大きくは取らずに、小さく切除して病理検査に供しました。 後日良性の物であるという報告が来ました。

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手術の翌々日に再来院しましたので。 状態を聴いて、 すこぶる調子が良いということですから。 静脈留置を抜去して。 抗生剤の内服とインスリンの注射を自宅でやってもらいました。

術後1週間での半日預かっての2時間毎血糖曲線の結果は。 今ひとつ高めだったので。
ほんの少しだけ増量を指示させていただき。 更に1週間後の本日、半日預かって抜糸と2時間毎血糖曲線の検査をやっております。

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今のところ、非常に良好に血糖値がコントロールされておりまして。 半日の間で100から200mg/dlの間に収まりそうです。

初診時ガリガリに痩せていた身体も、少し筋肉や脂肪が戻って来て、幸せそうな雰囲気の犬になりつつあります。

朝一の採血での血糖値以外の項目でも。 総コレステロールが随分低下したことと。 カリウムイオンも4.3mEq/lと程良い数値になっておりますし。 少し高めだった肝酵素の数値もかなり改善しております。

これからのこの子は、 多分ですが。 血糖値は良好に管理されるようになることと予想しています。

次回の2時間毎血糖曲線検査は1ヶ月後に実施する予定です。 数回月一の検査を行なって、安定しているようであれば、 それも間隔を開けて行く予定です。

犬の糖尿病のインスリン抵抗性については、鑑別リストがきちんと教科書に載ってますから。 それをひとつひとつ解決して行けばかなりの症例で救うことが出来ると思います。

今回はかなり早くに解決出来て良かったと思います。

しかし、惜しむらくは。 3ヶ月前の発症時に診させていただければ、 糖尿病性白内障で失明せずに済んだかも知れません。
ただ。 糖尿病性白内障については。 網膜さえ傷んでなければ、 水晶体を眼内レンズに交換することで、 再び視力を取り戻すことも可能かと思います。

御年11才のこの子ですが。 以前に管理していた同じような糖尿病の日本犬でも、16才で老衰で亡くなるまで元気に過ごせてましたから。 この子もそこまで幸せに生きて欲しいものであります。

ではまた。