兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2013 5月 19
院長ブログ

日別アーカイブ: 2013年5月19日

免疫低下の原因は?

1週間前に来院して来たシーズ犬のランちゃんは、9才と7ヶ月令避妊済み女の子なのですが。5才の頃よりアカラスと俗に言われる犬毛包虫症に罹ってまして。他院で治療しているのですが、すっきりしないということで、当院に来られたそうです。

アカラス以外にも、緑内障、乾燥性角結膜炎、それに僧房弁閉鎖不全症も存在しているようです。

で、診察室で今までの経過を聴き取りしている際に、来院4日前にトリミングに行ってから、翌日に41.1℃の発熱が生じて、かかりつけの動物病院で胸部エックス線検査の所見から気管支炎だとの診断で、解熱剤を注射してもらったが、食欲が無いというお話しでした。

検温してみますと、体温は40℃丁度で発熱しています。

診察申込み書の記載では皮膚病の治療希望ということでしたが、発熱と食欲廃絶ということであれば、まず何よりもそれに対応して、皮膚病は食欲が回復してから取り組むべきとお話しをしまして。

採血をして全血球計数とリパーゼ、犬CRPを含む徹底的な生化学検査を行なうと共に、胸部エックス線検査を実施してみました。

その結果ですが。胸部エックス線検査では気管支炎の所見は見つけられませんでした。血液生化学検査では総コレステロール、アルカリフォスファターゼ、リパーゼ、犬CRPに高値が見られました。

膵炎の疑いがあり、アルカリフォスファターゼの高値は副腎皮質機能亢進症か?膵炎による2次的なものか?どちらかと思われます。飼い主様には膵炎の確定診断のために「犬膵特異的リパーゼ」の外注検査を東京のアイデックスラボラトリーズに依頼するのと、静脈カテーテルを前腕に留置して輸液を行ないながらの入院になることを了承していただきました。

入院初日には、座っているランちゃんの頭がフーッと左に流れるように落ちて行って、ハッと戻るような常同行動と言って良いのか?と思われるような動作がずうっと見られて、意識レベルとかにも何処か問題がありそうな感じを受けました。

体温は入院二日目から38.4とか38.3℃くらいまで低下して。皮膚炎も大幅な改善が見られます。頭部のおかしな動きも2日目には消失して意識レベルも正常になりました。

犬膵特異的リパーゼの検査結果は634μg/Lと正常値200634μg/L以下に比べて上昇が見られましたので、膵炎の存在は確定ということになりました。

しかし、3日目くらいにはランちゃんの表情からかなり体調がよろしくなって来ていると判断しまして。
膵炎対応低脂肪処方食を食べてもらおうと、目の前に提示してみるのですが、顔をそむけるような反応です。

4日目、5日目も全然食事を食べようとはしません。元々自宅でも食が細く、少しでも気に入らないと頑として受け付けないということですので。

5日目にして一旦帰宅してもらいました。

すると、翌日の報告では少しではありますが食べたということです。

膵炎は何とかクリヤーというところでしょうか?

ランちゃんのこれからですが、元々大きな問題である5才で発症した全身性毛包虫症は、免疫を低下させる何らかの基礎疾患が存在していることが多いですから。副腎皮質の機能評価とか免疫機能に関わる疾病を探って行かなければならないと思います。

当面、毛包虫症は細菌の二次感染をコントロールしながら週に1回の注射で治療して行こうと考えています。

入院中中1日のペースで実施した血液検査では、犬CRPはずっと6以上の高値を継続していましたから、内臓の疾患がそんなにひどいと思われない現状では、皮膚疾患が相当悪いのだと思わざるを得ません。何とか治してやりたいと考えています。

緑内障は、これも、大きな問題ではありますが。現在は高眼圧で苦しんでいる様子はありません。眼球が大きくなって目蓋が完全に閉じなくなってしまっていることと、涙が出なくなってしまっている乾性角結膜炎(重度のドライアイ)によって慢性的に眼がひどい炎症を起こしていることに関しては人工の涙を供給する眼軟膏を米国から輸入して持っておりますので、それを使用して。

巨大になってしまっている方の眼球に関しては、そのうちに生活の質を向上させるために摘出も考えた方が良いかも知れません。

僧房弁閉鎖不全症は、今のところそんなに重症でもなさそうなので、ACE阻害剤というお薬を継続して行けば当面大丈夫かと思います。

ランちゃん、いろいろ大変ですが。急性の膵炎をクリヤーしたこれからが本番だと気を引き締めて頑張りたいと思います。