兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 寄生虫&疾病の予防
院長ブログ

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外猫生活の危険性

今年16才になる日本猫の女の子の話しですが。

この子は8才の頃急に元気食欲低下を訴えて来院し。血液検査で猫免疫不全ウィルス(通称猫エイズウィルス)に感染していることが判明しています。

その後、それなりに元気に自由奔放な外猫生活を謳歌しているのですが。

3日前に飼い主様が以前にも経験している膀胱炎症状を呈しているということで来院され。お薬を処方したところ。

今朝は本猫を連れて来院され。投薬した後こんな物を吐いたと。ジップロックのポリエチレン袋を出されました。

猫回虫が入ってました。

猫回虫は人間にも感染する可能性があることとか。人間でも幼児が感染すると回虫幼虫体内移行症になる可能性もあることなどお話しして。

プロフェンダースポットという滴下式の駆虫薬を猫ちゃんの首筋に垂らしてやりました。

この度の感染は、これで駆虫出来ると思いますが。

この子が活動するエリアは、回虫卵に汚染されているとせねばなりませんから。当然再感染の可能性は高いと考えられます。

同居しているお孫さんの健康のこととか考えると。猫ちゃんが外に遊びに行くことを制限することが最も有効な対策であるとは思いますが。飼い主様は猫ちゃんの自由を制限することは考えられないみたいです。

また、定期的な検便をとも思うのですが。外での排泄が習慣化しているので便の採取は不可能だとのこと。

せめて、滴下剤による定期的な駆虫をされたらどうか?とお伝えしています。プロフェンダースポットのメーカーは年に4回の定期的駆虫を推奨しております。

自由なアウトドア生活は、危険と隣り合わせです。

外出自由な猫ちゃんと外出は皆無で家の中のみでの生活の猫ちゃんとで寿命の統計を取ったところ、家の中だけでの生活の猫ちゃんの方が3年は寿命が長いという結果が出たとの新聞記事を記憶しております。
総理府でも猫の室内飼いをするようにという方針ですし。

猫は避妊去勢を実施して室内で生活させるように子猫の頃から習慣づけてやれば、出れないからといってストレスを感じることもないと思いますので。

「猫は外に出るもの」とお考えの飼い主様においては、今一度考え直していただきたいと切に思うものであります。

ではまた。

サナダムシ感染(アウトドア生活の危険) 

5才6ケ月令のパピヨンの女の子の話しですが。

この秋、1ヶ月ほど行方不明になってまして。見失った場所からかなり離れた田園地帯で保護した人が連絡をくれて、無事に飼い主様の許に帰って来たそうです。

それで、帰って来てから気になるのが。食欲が今ひとつ湧かないようで食が細いということと。息づかいが荒いように感じること。そして、来院の少し前に下痢便を排出したということで。来院されました。

下痢便は持参されてなかったので、当日に検便は出来ませんでした。

荒い息づかいに関しては。診察台上ではそんなに気にはなりませんでしたが。体温、呼吸数、心拍数を測定して、明らかな異常はない事を確認します。

食欲不振については、院内のスクリーニング血液検査を行ないました。

低蛋白血症、軽い貧血と、犬CRPの高値とが異常値として検出されました。

痩せてはいるが、それは野生に近い過酷な状況下で生活していたためかも知れないと考えて。一般的な腸炎のお薬を処方すると共に、便が採取されたら勘弁を実施したいので持参するようにとお願いしました。

2日後に持参された便は。腸炎のお薬が利いたようで下痢便ではありませんでしたが。
検便を行ないますと。直接塗抹法でサナダ虫の一種のマンソン裂頭条虫の虫卵が検出されました。浮遊法では虫卵は検出されませんでした。

マンソン裂頭条虫の虫卵は、やや歪んだ感じのラグビーボール様の形態をしているのが特徴です。

犬猫の臨床で問題になるサナダ虫には、マンソン裂頭条虫の他、広節裂頭条虫(日本海裂頭条虫)と瓜実条虫とがあります。

瓜実条虫は蚤を介して感染する比較的身近な虫で、駆虫は専用のお薬を使用すれば比較的容易です。

広節裂頭条虫とマンソン裂頭条虫は、水中や水辺の多くの動物を介して感染する寄生虫で、犬猫の他人間にも感染します。この2つの寄生虫は、もうひとつ壺型吸虫という寄生虫と共に同じ専用の駆虫薬を使用するのですが。これがかなりしぶとくて駆虫し難いのです。

駆虫薬には、内服薬と注射薬がありますが。過去に内服薬では落ちなかった経験が数例あり。注射薬は比較的効果が確実に発現しているように感じられます。

飼い主様に虫の卵をお見せして、以上の事を説明しましたところ、注射での治療を希望されましたので、注射を実施しました。

このお薬、注射にしても、内服にしても、症例によっては虫が溶けてしまって、虫体を確認出来ないことがあるらしいのですが。

今回のパピヨンちゃんの場合は、注射の翌日に大きなサナダ虫の虫体が糞中に排泄されたのを飼い主様が確認されたそうです。

画像は他のわんこから排出されたサナダ虫の画像です。このパピヨンちゃんのサナダ虫は飼い主様が処分してしまったそうです。

サナダ虫の名前の由来は、着物の着付けに使用する「真田紐」に虫の模様が似ていることから来たものだと聴いておりますが。真田紐ってこんな感じの紐なんですね。

パピヨンちゃん、虫が駆除出来て良かったです。そう言えば、今後の迷子対策にマイクロチップをお勧めした方が良いかも知れません。

ではまた。

耳疥癬

犬と猫には耳に寄生する耳疥癬という寄生虫がおります。命がどうこうという寄生虫ではありませんが。

耳疥癬に寄生されると、激しい痒みを特徴とする外耳炎になって。対応を誤ると慢性外耳炎に移行し、ずっと外耳炎で苦しむようになる可能性があります。

今回の子は、生後2ヶ月に満たないラブラドール・レトリーバーの子犬です。

ワクチン接種で来院されて、気になる点が無いかどうか?いろいろ訊いているうちに、耳が汚れていて、掃除をしてもまたすぐに汚れるという症状を聴取しました。

さっそく耳の中を点検してみると。黒っぽい耳垢があります。

拡大してみると。

こんな感じです。

その耳垢をスライドグラスに塗り拡げて、顕微鏡で観察すると。

こんな虫が見えました。

動画で見ると。かなりのスピードで走り回る虫です。

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耳疥癬を発見したら。その治療は。まず疥癬の特効薬とも言うべき注射を、7日置きに3回皮下注射します。
ただ、この注射はコリー、シェトランドシープドッグのようなコリー系の犬種には、遺伝子検査でこの薬が大丈夫かどうか?検査をして大丈夫の結果が出ない限り使ってはいけません。

注射を行なったら。耳掃除を実施します。耳用の洗浄液を使って耳道洗浄を行なった後に、炎症を抑える点耳薬を使用します。

耳掃除は最初の頃は毎日した方が良いですが。耳疥癬が注射で死滅して、炎症が治まって来ると、日を開けていっても大丈夫です。

こうしてきちんと治療すれば、耳疥癬は後に障害が残ることなく治ります。

犬猫の外耳炎を発見したら、面倒でも耳垢の顕微鏡検査をまめに行なった方が良いと思います。

耳疥癬は、自然に発生することは無いですから。この子の耳疥癬もペットショップかブリーダーのところで感染したものであると思います。犬を販売するプロの方は、動物取扱業の許可制度が実施されてからはかなりレベルは上昇したように感じていますが。

伝染病や、腸内寄生虫、耳疥癬のような古典的な感染症の管理をきちんとして欲しいと思います。

 

犬の急性フィラリア症の心エコー図動画

先日フィラリア吊り出し術を行なった、犬の急性フィラリア症の、術前と術後の心エコー図動画をアップしてみます。

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画面左下側に白い点々のような塊りがゾロゾロ動いているのが、右心房に居るフィラリア虫です。

それで。手術を行なってフィラリアを除去した後の動画を次にアップしてみます。

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画面左下付近の汚いゾロゾロが消失しているのが判るでしょうか?体重3.8キロの小さな犬でしたが。採取されたフィラリア虫は19匹いました。

 

 

 

 

 

急性フィラリア症の手術

昨日夕方に電話がありまして。

「大阪からですが。今かかっている動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。そちらで手術が出来ますか?」

という内容でした。

手術は出来ることと一応の予算とかお伝えしますと。そこの動物病院では手術は出来ないのだが。紹介先の手術料金が私のと比較すると4倍近くになるということで。「明日行かせていただきます。」ということでした。

飼い主様のお仕事の都合で、本日昼前に来院でしたが。

まず、心音を聴取してみますと。ガリガリガリッという急性フィラリア症特有の心雑音が聴こえます。
次に急性フィラリア症という診断が正しいのかどうか?を判定すべく、決め手になる心エコー図検査で確認します。


図の左下に→で示しているのが、右心房に存在しているフィラリア虫体です。慢性フィラリア症ではこの部分ではなくて、肺動脈にフィラリアが見えるはずなのですが。右心房に虫が見えることから、急性フィラリア症という診断で間違いないです。


わんちゃんは、診断からまだ日が浅いこともあってか。まだ元気です。しかし、大切にされている感じなのに。一体どうしてフィラリアのような、ある意味レベルの低い感染症に罹ってしまったのでしょうか?

お尋ねしてみると。予防はやっていたのだが。予防薬の服用期間が6月初めから10月初めまでと。ひどく短くて不適当であったということ。それも、今回急性フィラリア症であると診断された動物病院とは別の動物病院の指示による服用期間だったということでした。

フィラリア予防薬は、一般的な内服薬の場合、5月末から12月末まで、月に1回ずつ、合計8回の内服が必要なのです。

それと、私の動物病院に受診する気になられたのは、必ずしも料金だけの問題だけではなくって、グリーンピース動物病院のHPや私のブログをお読みになって、きちんと治してくれそうだという感触を強く感じられたからだということでした。

手術についてひと通り説明させていただき。同意を得たので。血液検査を実施して。待ち時間の間に昼食を摂らせてもらって。午後1時20分くらいから手術にかかりました。

血液検査の結果では。血管内溶血のためでしょう。軽い貧血と高ビリルビン血症、軽い肝障害が生じています。

後3日か4日放置されると、もっとすごいことになって行くと思われます。

麻酔導入を基本通りやって、午後1時50分くらいから切皮を始めました。

今日は助手無しでやります。基本的にフィラリアの吊り出し術は、アリゲーター鉗子の操作を丁寧にやれば、そんなに難しい手術ではありません。
ただ、ちょっとしたコツがありますけれども。それを身に付ければ1人で十分に遂行可能です。

左頸静脈を露出して、周囲組織と丁寧に分離します。

アリゲーター鉗子を頸静脈に開けた穴から心臓にまで挿入して、手探りでフィラリア虫体をつまみ出します。

画像ではごっそり引き出されているのがお判りになると思います。

最初の頃は鉗子を入れる度に虫が何匹もつまみ出されて来まして。そのうちに摘出される虫の数が減っていって。
最後の頃は、4回、5回と探ってみて虫が取れなくなったので。心音を確認し、心雑音が消失しているので、虫は取り切ったと判断して血管、皮下織、皮膚の順に縫合して、手術を終了しました。

取れたフィラリア虫は19匹でした。体重3.8キロの小さな犬なのに。19匹とは大変な数だと思います。

覆い布を取り除いて、傷に創傷保護フィルムを貼って。覚醒を待ちます。

覚醒間近になったところで、飼い主様に撫でながら声をかけてもらいます。

無事に覚醒して。入院室に入ってもらいますが。不安そうに鳴いたりしますので。落ち着くまで飼い主様に抱っこしてもらいました。

落ち着いた頃に。心エコー図検査を実施して。フィラリア虫が完全に取り切れているのか?確認します。

完璧に取り除かれています。執刀した獣医師としては、ホッとすると同時に嬉しく感じる瞬間です。

わんちゃんは数日お預かりして、術後の急変が無いかどうか確認して。金曜日くらいに退院の予定であることをお伝えしました。

先日ははるばる千葉から同じ病気で来院されましたのに。診断から日が経ち過ぎていて手術前に亡くなってしまいましたが。今日の子は無事に手術を乗り切ることが出来ました。

とても嬉しいです。後は入院期間を回復順調に過ぎて無事に退院出来るよう、もうひと頑張りです。

 

 

 

急性フィラリア症(大静脈洞症候群)

昨日、電話がありまして。

「1週間前に近くの動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。状態が悪くて手術が出来ないと言われまして。お薬をやっているんですが。手術をしてもらえるんですか?」

という内容でした。

急性フィラリア症は、大静脈洞症候群といいまして。通常は右心室から肺動脈に寄生している犬フィラリア虫が、右心房から大静脈洞に移動することにより、急速に心不全状態が進行して。呼吸困難、運動不耐症、血色素尿などの厳しい症状が生じ、手術でフィラリア虫体を摘出しないと、多くは1週間から2週間で死亡してしまうという怖ろしい病気です。

私が思うには、急性フィラリア症にかかった犬の状態が悪いのは当たり前のことでして。
如何に状態が悪くとも診断がついた時点で急いで手術を行なわなければ。今悪い状態が、明日はもっと悪くなり、明後日はさらに悪くなり。手をこまねいている間に手術の成功率はどんどん悪くなってしまうのです。

ですから、どんなに状態が悪くても、急性フィラリア症と診断がついた時点で、最悪術中に死亡する確率は30%くらいはあることを飼い主様に了承してもらった上で、勇気をもって手術を行なうというのが、私の方針であります。

電話の向こうの飼い主様に、大体以上のような内容のことを説明した後、「こちらに受診していただければ、頑張ってみますよ。」とお伝えしたところ。

「実は、こちらは千葉県なのです。」というお返事でした。

「それでは、近くの動物病院をいろいろ当たってみて、手術をしてもらえるところを探してみられた方が良いと思います。」とお伝えして。いったん話しは終わりました。

後刻、再度電話が入って。数件当たった動物病院ではいずれも手術は出来ないと言われたということでして。
「兵庫県のグリーンピース動物病院まで走ります。のでよろしくお願いします。」ということでした。

それで。今朝、9時前にはるばる千葉県からワンちゃんと飼い主様が来院されました。

ワンちゃんは、11才の雑種犬で体重は10キロちょっとの男の子です。

今までの血液検査のデータとか見せてもらって経過をお聴きして。
胸部聴診をしてみると。急性フィラリア症特有のゴロゴロというような収縮期性雑音が聴取されました。

エックス線検査では、普通に右心室が大きくなったフィラリア症特有の心臓が観察されます。

心エコー図検査を行なってみると、拡張した右心房に糸状のフィラリア虫体が多数見られます。これで急性フィラリア症は間違いないということになります。

血液検査を実施したところ、白血球数の著しい増加とGPT、GOT、ALP、BUN、IP(無機リン)、リパーゼ、犬CRPがいずれもひどく上昇しています。その数値は7日前や4日前と比較してみると、日を追う毎にひどくなって来ているのが見て取れます。

この飼い主様は、これだけ行動力があるのに、何でフィラリアに罹ってしまったのだろうか?と、予防をしなかった理由を尋ねてみたところ。いろいろと忙しかったのと、油断していたというお返事でした。

飼い主様には、手術は頑張ってチャレンジしてみること。最悪死亡してしまう可能性はあること。を説明し了解を得て。

前腕の静脈にカテーテルを装着し、静脈輸液を開始しました。
輸液には、血液電解質も相当狂っていて、低ナトリウム低クロール血症になっていましたので、生理食塩液を使用しました。
このような状態の子は、血液凝固系が暴走する播種性血管内凝固(DIC)という末期的な異常が生じることが多いですから。低分子ヘパリンも静脈に添加します。

しかし、手術準備を整えつつある午前10時半過ぎに、急に嘔吐した後、舌の色がチアノーゼに陥ってしまい。
急いで手術室に運んでみると、既に心停止が来ています。心マッサージと酸素吸入をしながらアドレナリンの静脈内投与を行ない。心室細動状態の心臓に対してカウンターショックまで駆使して蘇生術を行ないましたが。

元気な子が何かのきっかけで心停止が来たのと違って、弱って弱って、いよいよの状態で止まった心臓が戻って来ることはありませんでした。

ワンちゃんの生命力が手術前に尽きてしまった原因としては。長距離の移動とかの要因よりも何よりも、急性フィラリア症と診断した後、通り一遍の内科的療法をするだけで、外科手術をせずに放置していたということが最大の要因だと思います。

獣医師は、いろいろな要因で必要な手術や治療を動物にしてやることが出来ないこともあるかとは思いますが。そんな時には、二次診療施設に紹介するとかの手立てを取ることも必要なのではないでしょうか?

せっかく遠くから私を頼って来院されたのを、何とか助けてやりたかったのですが。残念な結果になってしまいました。

本当に、本当に、残念なことであります。記事を書いていて涙が出て来ます。

 

急性フィラリア症の手術

ここで急性フィラリア症と称している病気は、犬のフィラリア症のひとつの型でして。正式には大静脈症候群と呼ばれているらしいです。

普通に慢性フィラリア症の場合、蚊に刺されることで感染したフィラリアという線虫は、肺動脈に寄生しています。これはこれで感染数が増加すると、肺動脈が炎症や変形を起こしたりして、慢性の咳や削痩、腹水、運動不耐症などの症状が生じて、真綿で首を締め上げられるように苦しみながら徐々に死んで行くのですが。

慢性だったフィラリア症が、虫が肺動脈から右心房、更に大静脈洞に移動することにより急性フィラリア症となると。
犬は急激に苦しみ始めて、1週間から2週間くらいの経過で死んでしまいます。

具体的な症状は。典型例では突然の食欲不振、虚脱衰弱、呼吸困難、濃黄色~赤色からコーヒー色までのいろいろな程度の血色素尿、舌のいろが蒼白になる、などです。
獣医師が聴診器で胸の音を聴いてみると、ガガガガガとかザリザリザリとかゴロゴロゴロというような特徴のある心雑音が聴こえます。

それで、この急性フィラリア症は、早急な手術を実施して、大静脈洞に居るフィラリア虫を釣り出してやらないと、ほとんどの犬が死亡してしまうのです。

手術の危険性は非常に高く。私が10数年前に聴いた話しでは、平均して30%の死亡率だそうです。
ただし、手術を乗り越えて、フィラリア虫がきちんと除去されると。劇的に回復することが多い病気でして。
この急性フィラリア症と子宮蓄膿症は、獣医師が「神の手」となれる疾病の典型なのです。

今回の症例は、8才7ヶ月の柴犬の男の子でした。2日前に少し離れたところにある動物病院に救急で受診して。「急性フィラリア症なので手術が必要である。手術出来る先生が限られているので、その先生を確保する都合上早く手術を決断して欲しい。」と言われたそうなのですが。手術を受けないこととして、副腎皮質ステロイドの注射をしてもらっただけで帰られたとのことです。

その後、飼い主様の息子さんが当院のことを調べて、こちらに行くように勧められたということで、当院に来られたということです。

聴診して、特徴的な心雑音が聴こえることと、発症の状況、他院でのお話しなどなどから、急性フィラリア症は間違いないだろうとお伝えし。手術の危険性などをお伝えしたところ。

飼い主様はいろいろな理由があるみたいですが。手術を相当ためらっておいででした。

その後、飼い主様の息子さんが来られて、いろいろ相談されたようで。結局手術を受けることになりました。

動物看護師には残業をお願いしまして。午後5時前から麻酔導入を始めます。

気管挿管、静脈輸液、各種モニターの装着を済ませてから。術野の毛刈り、消毒、術者、助手の手洗い消毒、術衣手袋の装着と、手術の準備を手早く進めて。
いよいよ執刀準備が整いました。


この手術の術式は非常に簡単です。頸静脈を露出して、小さな穴を開けて。そこからアリゲーター鉗子という先端に鰐口が付いた鉗子を大静脈から出来れば心臓まで差し込んで。フィラリア虫をつまみ出すだけです。

しかし、鉗子の操作が総て手探りで。指先の微妙な感覚だけが頼りですし。強引な操作をすると、静脈壁を突き破ったり、心臓の弁の腱索を引きちぎったりして、わんこは突然に死亡してしまいます。
また、心不全状態の犬に麻酔をかけるわけですから。麻酔導入を試みたらすぐに死んでしまうという事態もあり。
なかなかにストレスフルな手術ではあります。

アリhゲーター鉗子を挿入してすぐにフィラリア虫を掴むことに成功です。

虫を拡大してみます。

1回に5匹か6匹を掴んでいます。

こんな感じで虫を快調に摘出して。そのうちに取れなくなりますので、3回、4回と探ってみて、それでも虫が取れない時には、心音を聴いてみます。

特徴的な心雑音が消えていたら、その時点で虫の釣り出しは終了として、縫合にかかります。

この子も、とりあえずのガリガリ音は聴こえなくなりましたので、縫合して終了としました。

後で勘定したら、摘出した虫の数は、35匹でした。

今回は麻酔導入開始から縫合終了まで約1時間半くらいかかりました。もっと熟練した神の手先生だったらもっと短いかも知れませんが。アベレージ獣医の私ですから、こんなものですね。

麻酔からの覚醒はまあまあでした。術前に相当弱っていましたから、良い方だったかも知れません。

麻酔から醒めた時点でかなり気分はましになっているようだったし。蒼白だった舌の色もきれいなピンク色になってましたが。
さすがにその夜は何回か起きて容態観察をやってました。

明けて翌日。わんこの気分は随分良さそうです。飼い主様が持参された食べ物にもかなり興味を示してましたが。まだ食べるまでには至りませんでした。

もう少し回復して食欲が出て来たら退院です。

今回も手術が上手く行って良かったです。この手術は、症例がかなり減っていて、回数は少ないですが。私の場合今のところ成功率70%は軽くクリヤーして90%くらいは行っていると、自分では思っています。

ではまた。

 

猫のつぼ型吸虫

約2週間前に保護された、生後推定で3ヶ月令になる黒猫ちゃんですが。

先週と今日、虫が出たということで連れて来られました。

どんな虫が出たか?と訊くと輪ゴムのような感じの虫だということですから。回虫ではないか?と思うのですが。実物を持って来られていないので、確証に乏しいところもあります。

保護した翌日に市販の虫下しを与えたということです。ホームセンターなどで販売されている虫下しは、事実上回虫くらいしか落とす効果を持っていませんので。猫ちゃんが排出虫はそのことからも回虫の可能性が高いと思います。

猫ちゃんはひどく痩せていて、腹部を触診してみると、異常なくらい腸管が太く硬くなっています。

便は持参していないということですから、念のために小さなスプーンを肛門から直腸内に挿入して、便を少量掻き取り、直接塗抹法で検便を行なってみました。

すると、出て来たものは、つぼ型吸虫という、自然豊かな環境で猫ちゃんに寄生する寄生虫の卵でした。

仔細に見て行くと、結構沢山の虫卵が見えたりしています。

 つぼ型吸虫は、ウィキペディアで検索すると書きかけの記事がヒットします。アドレスは以下の通りです。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%BA%E5%BD%A2%E5%90%B8%E8%99%AB%E7%97%87

この虫を駆除するには、瓜実状虫の駆除薬と同じお薬を、瓜実状虫を落とす時の6倍投与する必要があります。お薬には内服薬と注射薬がありますが。投与量が多いので私は注射薬を使用するようにしています。

ただ、なかなかしぶとい寄生虫でして。1回で駆虫出来ない例も見られます。その時には落ちるまで何回も駆虫をかけなければなりません。

1回で駆虫出来て元気になりますように。

 

 

犬用11種混合ワクチンが出ました

もう1ヶ月前になりますが。京都市の微生物化学研究所(京都微研)から犬用の11種混合ワクチンが発売されました。

 

グリーンピース動物病院は、早速問屋さんから購入しまして。まず自分の犬たちに接種してみて。それから従来9種混合ワクチンを接種していた患者さんが来院された時に、新しいワクチンの話しをするようにして、希望される方には9種と同価格で11種混合を接種し、その経過とか見てました。

今のところ10数例と少ないですけれども、異常な接種反応は観察されていません。医薬品ですから国の承認を取って発売する前に厳しい安全審査があって、それをクリヤーして来ていますから、安全は当然のことであります。

さて、この11種ワクチンの特徴はと言えば。

従来の9種混合ワクチンと比べると、レプトスピラという細菌性の伝染病の血清型が2種追加されているということです。

追加された血清型は、レプトスピラ・オータムナリスとレプトスピラ・オーストラリスという型でありまして。
従来9種に混合されていた、レプトスピラ・イクテロヘモラジー、レプトスピラ・カニコーラ、レプトスピラ・ヘブドマティスの3種類の血清型と共に我が国で発生しているレプトスピラの多くを占める型であります。

レプトスピラ病は、ネズミ等のげっ歯類がベクター(病原体を保毒して媒介源になること)となって、その尿に汚染された溜まり水や湿った泥が、犬の眼や鼻、口、傷口に付着することにより病原体に感染し。肝臓や腎臓に炎症を起こします。重症例では死に至ることが普通でして。怖ろしいことに人間にも感染する人獣共通感染症でもあります。

レプトスピラ菌の大きな特徴は、高温多湿を好み、低温乾燥に弱いということです。つまり、気候冷涼なヨーロッパとか米国中北部ではそんなに重要な感染症ではないということです。

一方、我が国の場合。特に初夏から秋にかけては降雨量も多く気温も高く、まさにレプトスピラ菌の好む高温多湿状態であり。アウトドアでの行動機会の多い犬たちにとっては非常に危険な病気なのであります。

しかし、先に書いたように、米国や欧州ではそんなに重要な感染症ではないということから、これらの国から輸入される犬用ワクチンに入っているレプトスピラワクチンには、血清型としてレプトスピラ・クテロヘモラジーとレプトスピラ・カニコーラの二つの型しか入っていないのが普通でして。犬の輸入ワクチンは必ずしも我が国の伝染病発生の実情に対応したものではないのです。

先般、さる米国のメーカーの、レプトスピラが4種?くらい混合されていますというワクチンが新たに輸入販売されたようですが。レプトスピラの流行する血清型には地域によって特異性があるのでしょう。聴いたことの無い血清型が混合されていて、我が国の状況には全く対応不可であると判断させていただいたような次第であります。

今回の11種ワクチンの発売により、我が国の犬たちのレプトスピラ感染が激減することと期待しているところであります。

グリーンピース動物病院では、子犬の予防接種については3回目に、成犬では年に1回の追加接種の際に、従来の9種混合ワクチンから徐々にこの11種混合ワクチンに切り替えて行く予定であります。

なお、料金については仕入れ価格は9種よりも高いのではありますが、企業努力により11種については従来の9種と同価格で接種するように致します。

 

 

マンソン裂頭条虫

今日の午後診で3種混合ワクチンを接種に来られた猫ちゃんの話しですが。

私は、犬でも猫でも年に一度のワクチン追加接種の際には、なるべく検便と胸部聴診を欠かさないように心掛けています。

歳を経て心雑音が聴こえるようになって、心臓病の存在が明らかになる犬猫も居れば。消化管内寄生虫の感染が明らかになって、重症になる前に駆虫することにより事なきを得る事例も多いです。

この子の場合は、直接塗抹検便によりマンソン裂頭条虫という寄生虫の卵が発見されました。

検便は直接塗抹という方法と、浮遊法という方法と二通りの方法を同時に行なうことにより、検出可能な寄生虫卵のバリエーションが多くなります。

マンソン列頭条虫の卵は浮遊法では検出されることは普通はありません。この卵を見つけることが出来る方法は、直接塗抹法か、あるいは遠心集虫法と呼ばれるかなり手の込んだ検便のやり方になります。

それで、マンソン裂頭条虫とはどんな寄生虫かというと。自然豊かな土地に住んでいる、世間で「真田虫(サナダムシ)」と呼んでいる寄生虫です。真田という名前の由来は、和服の着付けに使用する真田紐という小道具に姿が似ているためと記憶しております。

マンソン裂頭条虫がどんなやり方で動物に寄生して行くのか?と言えば。まず、動物の腸管に棲んでいる親虫が卵を産んで。その卵が川や池の水の中に流れて行ったら。
そこでミジンコなどのプランクトンに食べられて。
そのプランクトンを魚やオタマジャクシたちが食べて。
その魚や、オタマジャクシが成長したカエルを犬や猫や人間が生で食べると、犬や猫や人間の腸管に親虫が寄生することになるわけです。

特筆すべきは、親虫が産んだ卵を、犬や猫や人間が直接口にしても、その卵はお腹の中で成長することはないということで。必ずプランクトンや魚やオタマジャクシなどの小動物の身体を経由しないと成長出来ないということなのであります。

因みに今日検便でマンソン裂頭条虫が発見されたにゃんこは、普段かなりワイルドな生活を送っていて。カエルやスズメやヘビや何やかやを狩りするのが日課だということでした。

このまま寄生を放置していると、お腹が具合悪くなったり、最悪虫が分泌する毒素にやられて神経症状が出たりすると言いますから、一応駆虫はしようという話しをさせていただいて。

この子の場合注射で駆虫しました。

しかし、猫にとって狩りをするというライフスタイルはなかなか改めることは困難だと思いますので。今後は定期的に検便を駆虫を繰り返す必要があると思います。

でもにゃんこちゃん。楽しい毎日を送っているのですね。ある意味素晴らしいことと思います。