兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2014 6月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2014年6月

熱中症

動物、特に犬は暑さに弱い傾向があります。日本の夏は犬たちにとっては暑さだけでなく湿気もひどいので熱中症になりやすいです。

今回の子は、もう15才以上になるというパピヨンの男の子なのですが。心臓が悪くて別の動物病院でお薬を処方されているということでした。

午後3時過ぎからお宅から100メートル?くらいの近くの公園に散歩に連れて行ったらしいですが。行きはきちんと歩いていたのが、帰りはトボトボ歩きになって、ようやく自宅に戻ったら横になって荒い息をしているということで。

ご主人はそのまま様子をみるつもりだったようですが。脳梗塞でリハビリを受けている奥様が、「様子がおかしいから、頼むさかい動物病院に連れて行ったって。」と言うとのことで。3時40分くらいに電話連絡がありました。

一刻をあらそうから速く来院するようにお伝えして、しばらくしてから入って来たわんちゃんを見ると。意識も消失していてかなり危なそうです。

受け付けもそこそこに、すぐに手術室に連れて行って。体温測定、アルコールをスプレーしてドライヤーで冷風を送って冷やすこと。酸素吸入と心電図モニターの装着と。大急ぎでいろいろやるのです。

検温の結果は、41.8℃というひどいものです。数分後にもう一度測ると、42.0℃になって来ます。

静脈カテーテルの留置と常温の乳酸リンゲルの輸液も行ないます。

熱中症の治療で最も大切なことは、まず何よりもとにかく体温を下げてやること。次に体温が極端に上昇した結果による内臓機能や脳の機能の異常を防ぐこと。及びDICという血液凝固機能の暴走を防ぐことです。

体温を下げるについては、まず気化しやすいアルコールを体表にスプレーして、ドライヤーで冷風を送る。もしくは冷水で身体を濡らして冷風を当てる。というのがファーストチョイスですが。
それで効果が今ひとつという場合には。冷水浣腸という方法も試みる場合もあります。

内蔵機能の温存やDICの予防には。まず酸素を吸入させると並行して、思い切った量のステロイドホルモンの静脈内投与を行ないます。次いで低分子ヘパリンという血液凝固を防止するお薬を最初にドンと静脈内に注入した後、持続点滴で投与し続けるという方法を取ります。

熱中症の治療をやっていると。動物の意識が戻ったら。治療費を気にされる飼い主様などは、一刻も早くにお家に連れて帰りたいと言う方も居られますが。
ちょっと意識が戻ったからといってすぐに退院させてしまうと、体温調節機能が戻っていなくてすぐに高体温に戻ってしまったり。DICが生じたり、腎障害肝障害が生じたりして、結果が悪い場合がありますので。
状態が安定するまで、しばらくの間ICU内で静脈輸液を続けた方が良いと考えています。

さて、アルコールとドライヤーで冷やしていると。40分くらいで、直腸温が39.0℃まで下がりましたので、少し手をゆるめると、またすぐに39.5℃に戻り、上昇傾向にありますので。身体を水で濡らしてドライヤーで送風します。

1時間ほど頑張って冷やしていると。体温は37.9℃まで下がって、38℃台で維持出来るようになって来ました。

2時間くらい経過すると。最初は横たわって意識が無かったのが、意識が戻って来て、伏せの姿勢になります。

治療開始から約2時間半経過した時点で、随分状態が改善して来ましたから、集中治療室(ICU)に収容しました。

画像はICUに入れてすぐのものですから。温度とか酸素濃度が設定通りではありませんが。設定は温度が19℃、湿度55%、酸素濃度は30%という条件で。
夜間に随時体温を測定しながら、診てました。

何とか夜を過ごして、翌朝に血液検査を実施しましたが。白血球数が上昇していることと、軽い肝障害があるくらいで。血小板数も正常値でしたから、血液凝固機能の暴走は何とか食い止めることが出来たと思います。

朝食を与えてみましたが。私たちのことを警戒してなのか?食べてはくれません。

発症翌日の午後に飼い主様に経過を説明して、退院させました。
抗生物質と肝臓のお薬を処方して。わんちゃんが居るお部屋の温度管理に十分気を配るようにお伝えしました。

その後、1週間後にお薬が切れる頃になっても、飼い主様の都合によるものか?どうか?は不明ですが、来院されませんので、経過について心配しておりましたが。

動物看護師が何かの用事で近くを通った時には飼い主様とわんちゃんが元気そうに歩いていたということですので。経過は悪くなかったようです。

ブログについては、処置中に飼い主様に断りを入れてありますので。今日掲載させていただきました。

その後の肝臓に状態とかについて、ちょっと心配ではありますが。15才超のパピヨンちゃん、元気で幸せに長生きして欲しいものであります。

 

 

 

 

24才の大往生

約2ヶ月前から当院に受診していた猫ちゃんですが。

先日24才にて眠るように亡くなったということでした。

当院における初診の時には。他の動物病院にかかっているのだが。時々皮下輸液をしてもらっているくらいで。先日皮下輸液の後痙攣が生じたとのことで。
当院にかかるきっかけになった症状は来院1時間前に頻尿、尿失禁及び赤色尿が見られたというものでした。

わずかに診察台上に漏れ出た尿を採取して試験紙での検査を行なってみると、尿蛋白は3+、pHは5から6、尿潜血3+という結果で。尿比重は量が不足していて計測不能でした。

当日は、抗生物質と止血剤の注射を実施して。翌日その反応を見るから再来院するようお伝えしてお帰ししました。

翌日来院した時には。尿色薄くなり、失禁はしなくなり。排尿はトイレでするようになった。食欲はそれなりにあり、ドライフードを食べているが。水を飲んだ後吐くということでした。

しかし、24才という高齢であることとか。口内炎が観察されること。嘔吐があることなどを考慮して。最低でも血液検査は実施した方が良い旨を飼い主様に説明して、同意を得たので、採血を実施しました。

採血後約30分後に出た結果では。赤血球容積(PCV)が18.5%と貧血であること。尿素窒素(BUN)が113.4mg/dl、 クレアチニン(CRE)が5.6mg/dlと腎不全が疑われる状態でした。
慢性腎不全かどうか?は尿比重が計測されていないことと。網状赤血球数が1マイクロリットル当たり58,900個とそれなりに多くなっているので、微妙なところです。

慢性腎不全による貧血は、腎臓から分泌されるエリスロポエチンという骨髄を刺激して赤血球産生を促す物質が出なくなってしまうことから、非再生性貧血になるのですが。貧血の際に網状赤血球数がマイクロリットル当たり6万個以上存在していれば骨髄は貧血に反応していると判断されるという基準があるのです。

飼い主様と話し合って。24才という超高齢猫でもあり。いつどんなことになるのか?予断を許さないこと。今まで十分に長い時間生きて来たことでもあり。とにかく猫ちゃんが苦しまないようにして看取ってあげたいという希望でもあり。
基本的に難しいことはなるべくしないようにして。

腎不全とか下部尿路疾患、尿量増加による脱水などをコントロールして、出来るだけ気分良く日常生活を送れるようにやってみようという方針に決定しました。

それからは、投薬出来る範囲でお薬を数種類使用して、何とか血尿はコントロール出来て。
他院で皮下輸液の後痙攣が生じたことについては、私には原因とかは判りませんが。私なりのやり方でやってみるということでご理解をいただいて。皮下輸液をやってみたところ、問題無く実施できましたので。皮下輸液は週に2回から1回の間隔で実施して。

ぼちぼちながらに穏やかに生活出来るようになりまして。

それなりに元気とは言え、体重減少も徐々に進行して来ましたので。そろそろあちらの世界に行く準備をしているのかな?と思いながら。皮下輸液を続けていましたら。

先週、6月17日に静かに亡くなりましたと。飼い主様が猫ちゃんの写真を持ってご挨拶に見えられました。

飼い主様は、猫ちゃんが亡くなって悲しい気持ちは感じているけれども。安らかに逝かせてやることが出来たことと。24才という普通では考えられないくらいの長い間それなりに生きてくれたということから。何かをやり切ったという一種の満足感を感じておられるように見受けられました。

私も丁寧な感謝の挨拶をしていただいて。獣医師として一生懸命やって来たことを評価されたという満足感を感じながら、亡くなった猫ちゃんにしみじみと想いを致した次第であります。

これからも頑張って飼い主様と動物たちの幸せのために良い仕事をして行きたいと思います。

 

ボーダーコリーの炎症性腸疾患(IBD)

ボーダーコリーの、もうすぐ1才4ヶ月令になる女の子の話しですが。少し遠い街に住んでいる子でして。飼い主様がグリーンピース動物病院のHPとか私のブログをお読みになってこちらに受診されたということです。

この女の子ですが。2月の半ばに、野鳥の糞を食べてから急に下痢が始まったとのことです。

それで、近くの主治医の先生のところで、それこそいろいろやってみたのですが。新しい治療を試みると、少しの間反応した後、すぐに下痢が再発してしまうということでした。

最近やった治療としては5月の14日からパンクレアチンという消化酵素を食事に添加するというものでしたが。これも最初の1週間はそれなりに効果があったようだが。すぐに下痢が再発して。パンクレアチンの量を7グラムから15、20、30グラムへとどんどん増やしていっても、改善しないということです。

今までやった検査の資料を見せてもらいましたが。それこそ、内視鏡を使った十二指腸粘膜の病理検査から、私が昔利用していたことのある広範なIgEの検査までやってました。

しかし、いくつか気になることがあります。
それは、パンクレアチンを投与しているし、利きが悪くなったのにしつこく増量している割りには。消化酵素が不足している症例のエビデンスとなるはずの犬トリプシン様免疫反応物質(c-TLI)という検査を行なっていないということ。
実施していた血清のIgE検査は、やってみれば全く症状の出ていない子でも全部で90以上の項目のうち20や30くらいは普通に陽性反応が出て、検査結果と臨床症状との間の関連性が不明確なものであること。
院内の血液検査は実施しているものの、下痢症状が存在している時には必須であると私が感じている数項目が測定されていないこと。

などであります。

そこで、アレルギーの疑いに対しては、動物アレルギー検査株式会社の「アレルギー強度試験」を実施することにしました。

また、初日には食事を摂った状態でしたので。翌日空腹状態にして再来院してもらい。c-TLIを測定すると共に、検便にて寄生虫の検査を実施します。

検便では特にこれといった寄生虫は見つかりません。また翌日に帰って来たc-TLIの数値は正常範囲内でしたし。アレルギー強度試験では一応陽性でしたが。そんなに激しいものではありません。

c-TLIの検査結果が帰って来て翌日に、腹部エコー検査と、院内の血液検査を実施しました。

腹部エコー検査では特段の異常は見つかりません。腸管の粘膜の構造とか全然正常な感じです。
院内の血液検査でも膵炎関連の数値や炎症マーカーである犬CRPも全くの正常値です。

それで。今までの動物病院で実施して来た検査の結果も含めて考えると、炎症性腸疾患(IBD)の可能性が非常に高いと考えました。

因みに、世界小動物獣医師会(WASAVA)によるIBDの臨床診断基準では。
1、慢性消化器症状が3週間以上続いていること。
2、病理組織学的検査で消化管粘膜の炎症性変化が明らかである。
3、消化管に炎症を引き起こす疾患が認められない。
4、対症療法、食事療法、抗菌薬などに完全には反応しない。
5、抗炎症薬、免疫抑制療法によって症状が改善する。

というもので。IBDと診断するにはこれらの総て、あるいはほとんど総てを満たす必要があります。

この子に対しては1から4までは、軽いアレルギー以外は既に満たしていると思われますので。残るは5のみということになります。

そこで、IBDの第1選択薬であるプレドニゾロンというステロイドホルモンを、初期用量とされる量を1週間処方し。それまで食べていた中途半端な加水分解タンパク食を、徹底した完璧に近い加水分解タンパク食に変更してもらいました。

ステロイドホルモンを処方して1週間経った今日。来院されて言われるには。「この数ヶ月来有り得ないくらい正常な便が出るようになった。」ということでした。

この子は、今後の経過はどうなるのか?まだ完璧ではないにせよ。今のところIBDと言って良いのではないか?という感じです。

今後3ヶ月間は今の治療を継続して。状態が良ければ1ヶ月くらいかけてステロイドからの離脱を図る予定で行きますが。
ステロイドからの離脱が無理ということになったら。生涯にわたる免疫抑制療法が必要になる可能性がありますので。

その時は、ステロイド以外の長期投与が可能な免疫抑制剤を処方することになるかも知れません。

いずれにしても、遠くから訪ねて来られて、何とか恰好が付きそうですので少しホッとしています。

若く美しいボーダーコリーちゃんと飼い主様には、これから元気で幸せな生活をいつまでも続けて欲しいものであります。

 

 

 

急性フィラリア症(大静脈洞症候群)

昨日、電話がありまして。

「1週間前に近くの動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。状態が悪くて手術が出来ないと言われまして。お薬をやっているんですが。手術をしてもらえるんですか?」

という内容でした。

急性フィラリア症は、大静脈洞症候群といいまして。通常は右心室から肺動脈に寄生している犬フィラリア虫が、右心房から大静脈洞に移動することにより、急速に心不全状態が進行して。呼吸困難、運動不耐症、血色素尿などの厳しい症状が生じ、手術でフィラリア虫体を摘出しないと、多くは1週間から2週間で死亡してしまうという怖ろしい病気です。

私が思うには、急性フィラリア症にかかった犬の状態が悪いのは当たり前のことでして。
如何に状態が悪くとも診断がついた時点で急いで手術を行なわなければ。今悪い状態が、明日はもっと悪くなり、明後日はさらに悪くなり。手をこまねいている間に手術の成功率はどんどん悪くなってしまうのです。

ですから、どんなに状態が悪くても、急性フィラリア症と診断がついた時点で、最悪術中に死亡する確率は30%くらいはあることを飼い主様に了承してもらった上で、勇気をもって手術を行なうというのが、私の方針であります。

電話の向こうの飼い主様に、大体以上のような内容のことを説明した後、「こちらに受診していただければ、頑張ってみますよ。」とお伝えしたところ。

「実は、こちらは千葉県なのです。」というお返事でした。

「それでは、近くの動物病院をいろいろ当たってみて、手術をしてもらえるところを探してみられた方が良いと思います。」とお伝えして。いったん話しは終わりました。

後刻、再度電話が入って。数件当たった動物病院ではいずれも手術は出来ないと言われたということでして。
「兵庫県のグリーンピース動物病院まで走ります。のでよろしくお願いします。」ということでした。

それで。今朝、9時前にはるばる千葉県からワンちゃんと飼い主様が来院されました。

ワンちゃんは、11才の雑種犬で体重は10キロちょっとの男の子です。

今までの血液検査のデータとか見せてもらって経過をお聴きして。
胸部聴診をしてみると。急性フィラリア症特有のゴロゴロというような収縮期性雑音が聴取されました。

エックス線検査では、普通に右心室が大きくなったフィラリア症特有の心臓が観察されます。

心エコー図検査を行なってみると、拡張した右心房に糸状のフィラリア虫体が多数見られます。これで急性フィラリア症は間違いないということになります。

血液検査を実施したところ、白血球数の著しい増加とGPT、GOT、ALP、BUN、IP(無機リン)、リパーゼ、犬CRPがいずれもひどく上昇しています。その数値は7日前や4日前と比較してみると、日を追う毎にひどくなって来ているのが見て取れます。

この飼い主様は、これだけ行動力があるのに、何でフィラリアに罹ってしまったのだろうか?と、予防をしなかった理由を尋ねてみたところ。いろいろと忙しかったのと、油断していたというお返事でした。

飼い主様には、手術は頑張ってチャレンジしてみること。最悪死亡してしまう可能性はあること。を説明し了解を得て。

前腕の静脈にカテーテルを装着し、静脈輸液を開始しました。
輸液には、血液電解質も相当狂っていて、低ナトリウム低クロール血症になっていましたので、生理食塩液を使用しました。
このような状態の子は、血液凝固系が暴走する播種性血管内凝固(DIC)という末期的な異常が生じることが多いですから。低分子ヘパリンも静脈に添加します。

しかし、手術準備を整えつつある午前10時半過ぎに、急に嘔吐した後、舌の色がチアノーゼに陥ってしまい。
急いで手術室に運んでみると、既に心停止が来ています。心マッサージと酸素吸入をしながらアドレナリンの静脈内投与を行ない。心室細動状態の心臓に対してカウンターショックまで駆使して蘇生術を行ないましたが。

元気な子が何かのきっかけで心停止が来たのと違って、弱って弱って、いよいよの状態で止まった心臓が戻って来ることはありませんでした。

ワンちゃんの生命力が手術前に尽きてしまった原因としては。長距離の移動とかの要因よりも何よりも、急性フィラリア症と診断した後、通り一遍の内科的療法をするだけで、外科手術をせずに放置していたということが最大の要因だと思います。

獣医師は、いろいろな要因で必要な手術や治療を動物にしてやることが出来ないこともあるかとは思いますが。そんな時には、二次診療施設に紹介するとかの手立てを取ることも必要なのではないでしょうか?

せっかく遠くから私を頼って来院されたのを、何とか助けてやりたかったのですが。残念な結果になってしまいました。

本当に、本当に、残念なことであります。記事を書いていて涙が出て来ます。

 

キャバリア・キング・チャールス・スパニエルの僧房弁逆流症

読者の皆様の多くはご存知でしょうが。表記の犬種、略してキャバリアは、心臓の僧房弁という左心房と左心室を仕切る弁の病気が遺伝的に多発することで知られています。それも、早い子だったら4才くらいでも心雑音が聴こえるようになり、そんな子は病気の進行も非常に速くて数年で亡くなってしまいます。

今日の子は、今年13才になるキャバリアですが。この犬種には珍しく?昨年までは胸部聴診をしても心雑音は聴こえませんでした。

しかし、今年に入って春のフィラリア予防の際に、夜間に咳をするようになったという稟告がありましたので、聴診をしてみたところ、かなりはっきりと大きく全収縮期雑音が聴取されました。

飼い主様に、一度時間を取って胸部エックス線検査と心電図、心エコー図検査を実施して確定診断をしてから、お薬の内服による治療をした方が良いとお伝えして。先日お昼の休診時間に1時間ほど時間を取って検査を実施しました。

検査をしてみると、エックス線検査では胸の容積に対して心臓の体積が幾分大きくなっている感じです。

心電図検査では、そんなに大きな変化はありませんでした。

心エコー図検査では、僧房弁からの逆流がはっきり観察されます。

この図は、カラードップラーという検査の画像ですが。血液が扇形の頂点のプローブに近付くように流れると赤く映り、遠ざかるように流れると青く映るという現象を利用して、心臓の中の血液が一定方向に流れているのか?逆流により乱流が生じているのか?を見るものです。

線で囲まれている部分の上の方は左心室で。青一色になっているのは、一定方向に流れているという事ですが。下の方が赤青黄緑の賑やかなモザイク模様になっているのは、この部分で乱流が生じていることを現わしていて、ここは左心房なのです。青の部分とモザイクの部分の接合部は僧房弁であります。

つまり、この図からは、僧房弁がきちんと閉まらなくなっていて、心室が収縮する時に逆流が生じているということです。

反対側、右心室と右心房を区切っている三尖弁の評価は。

逆流はほんの少し生じているものの、そんなに気にしなければならないほどのものではないという結果でした。

次に、大動脈径と左心房径の比率を計測します。健康な犬の場合。その比は大体1対1くらいに収まるのですが。この子の場合は、画面下側のLA/Ao   1.58  という数字にあるように、大動脈径1に対して左心房径1.58と左心房が大きくなっていることが判ります。
これは、左心室収縮時に左心房に向かって逆流が生じるために左心房の圧が上昇して、結果として左心房が拡張して来ているということであります。

病気は、それなりに進行しているということですね。

以上の検査結果と、全収縮期性心雑音、夜間にする咳の症状から、初期からやや進みつつある僧房弁閉鎖不全症と診断しました。

さて、せっかくエコー検査をしていることですし。時間もありますし。飼い主様が腹部の毛を刈っても良いとの許可を下さいましたので。腹部エコー検査もサービスでさせていただくことにしまして。

肝臓をまず最初に探査してみたところ。

画面左側に黒く映っている胆嚢の右側に大きく見えているのが、ここには本来あるはずの無い腫瘤(マス)です。

嫌な物を発見してしまいました。

肝臓以外の、左右腎臓、膀胱、脾臓、副腎、腸管は異常無しでした。

飼い主様には、僧房弁閉鎖不全症であること。多分ですが、お薬でコントロール可能であり。お薬を使用すれば進行も幾分遅くすることが出来るであろうこと。
この病気の内科的治療のゴールは、動物が死んだ時であり。治療成功は、その動物が僧坊弁閉鎖不全症で死ななかったこと、及び僧房弁閉鎖不全症で苦しまなかったことをもって成功と評価するということなどを説明させてもらいました。

飼い主様は、とりあえず心臓のお薬の処方を希望されて。肝臓のマスの治療については、家族でしっかり話し合いをした上で考えるということでした。

僧房弁閉鎖不全症の治療には、外科的に僧房弁の再建をするという方法もありますし。人間だったらこの病気を発見したらさっさと手術をやってしまうことがほとんどのようですが。

手術については、相当な金額がかかるということ。心臓を開く手術ですので、それなりに危険が伴うことがあります。また、弁膜症を患う犬はキャバリア以外では大抵が高齢の場合がほとんどですから。術後にどれくらいの寿命が残されているのか?というコスパの問題も、それなりに重要かと思います。

過去に当院から、僧房弁閉鎖不全症の手術を標榜するさる高度医療センターに患者様を紹介させていただいたことがありますが。
大変残念なことに、その患者様は手術の後急変して亡くなってしまったという、大変苦い経験があります。

それからは、この病気の手術については、私も随分慎重に考えるようにしております。

多くの飼い主様は、愛犬、愛猫が永遠に生きることは不可能であるということをきちんと理解されております。そして、大切な我が子が、せめて生きている間は、苦痛無く気分良く生活出来ること。その期間がそれなりに長く続くことが最も大切な事であるというお考えをお持ちだと思います。

私は犬猫の臨床に携わる者として、飼い主様の想いを大切にして、愛犬愛猫たちが苦痛の無い快適な生活を送れるように頑張って仕事をして行きたいと考えております。

ではまた。

 

 

若齢小型犬の股関節の痛み

Leg Calve-Perthes Disease (LVPD) という病気は、生後4ヶ月令から12ヶ月令の小型犬に突然発症することがある、股関節の病気です。 原因ははっきりしていませんが。成長期に大腿骨頭に供給される血液が不足して、骨頭部が変形したり壊死したりして、猛烈な痛みを伴なうのです。 今回の子は、ワイヤーヘアードフォックステリアの男の子です。生後11ヶ月令で、1週間前から突然左後ろ肢を挙げるようになったということで来院しました。

エックス線検査では、腹背像で左股関節の大腿骨頭の変形が見られます。

画像の向かって右側に縦に長く見える太腿の骨の上の方に、骨盤に向かって突き出て、骨盤の受け皿に嵌まっている構造が、大腿骨頭です。

この大腿骨頭が、向かって右側のが左側のに比べると幅が小さく、根元に一部黒っぽくくすんだ感じになっていますのが、異常像です。

この時点で、犬種、年齢、発症のタイミング、症状、エックス線所見から、レッグ・カーブ・ペルテス病を強く疑いました。

飼い主様には、疑わしい病名を告げながら。教科書通りに非ステロイド性消炎鎮痛剤を処方しました。

1週間後の再来院時には、患肢をある程度使うようになったということですので。もう一度非ステロイド性消炎鎮痛剤をお渡しします。

ところが、再来院から4日後に。それまで順調に回復していたのが、突然に脚を拳上して全く使わなくなってしまったということで、来院されました。

エックス線検査で、大腿骨頭に何か変化が生じていないか?確認します。

左大腿骨頭の先端の丸い軟骨の部分が、はく離骨折を起こしています。

大腿骨頭の虚血性壊死によって、その部分が脆くなっているのでしょう。

こうなると、外科手術で大腿骨頭を切除するしか解決の方法はありません。私の印象ではほとんどのレッグ・カール・ペルテス病は、最終的には大腿骨頭切除術をせざるを得なくなるのです。

はく離骨折を診断した翌日に、手術を行ないました。

麻酔をかけて、術野の毛刈りを行ないます。一応骨を触る手術なので、カミソリで丹念に剃ります。
手術準備が出来て。今から切皮にかかるところです。

中途省略して。手術は終了です。

覚醒して、気管チューブを抜いて。皮下輸液をしているところです。

術後のエックス線写真です。左側、向かって右側の大腿骨頭は消失しております。

術後の注意事項としては。感染防止のための抗生物質をきちんと投与すること。術後10日から2週間で抜糸したら。非ステロイド性消炎鎮痛剤で疼痛を抑えながら、積極的に運動させて。大腿骨と骨盤の間に緩衝材となる繊維性の組織の形成を促進させてやるということです。

術後6ヶ月から1年くらいで正常に近い歩様にまで回復すると思います。

今までに私がこの手術をやった子らは全頭正常歩様になって、不自由なく元気に生活出来るようになっております。

この子も元気に歩けるようになりますように。

ではまた。