兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2014 8月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2014年8月

ミニチュアダックスフントの難治性下痢症

牝犬の子宮蓄膿症とDIC(播種性血管内凝固)

本日、午前診の時に子宮蓄膿症の手術を受けた柴犬が退院して行きました。

この子は、一昨日に「2日前から急に食べなくなって、元気も無い。」という稟告で来院して来たものです。

症状とか既往を丁寧に聴き取りしていると、少し前に発情があったということです。念のために性器を診てみると。膿性の下り物が観察されます。

発情が終わって、このような下り物があって、元気食欲が急激に低下するとは、子宮蓄膿症の疑いが強くなります。

水を大量に飲んで排尿量が多いという、いわゆる「多尿多飲」の症状もあったということです。

飼い主様には、子宮蓄膿症の疑いがあること。診断を確実にするためには、血液検査、腹部エックス線検査が必須で。必要に応じて腹部エコー検査も実施すべきであると説明し。同意を得て、これらの諸検査を行ないました。

やはり子宮蓄膿症でした。

悪いことに、全血球計数検査において、血小板数がかなり減少しているという所見が見られます。採血は普通にスムーズに出来てますから。キャバリア犬ででもない限り血小板数の異常が見られたらおかしいと思わなければなりません。

何がおかしいか?と言えば。子宮蓄膿症や急性フィラリア症、熱中症のような一般状態が厳しく悪くなる全身疾患の際に、血液凝固系が暴走するDIC(播種性血管内凝固)という状態に陥ることがしばしば生じるのです。

子宮蓄膿症の手術の後にDICに陥った症例は。先週に他院で子宮蓄膿症の手術を受けたが、状態がひどく悪くて心配だということで当院を受診されたわんこがそうでして。
一生懸命に治療して。輸血までやったのですが。結果として亡くなってしまったという症例があります。

その他、他院で熱中症の治療をやって、一旦はそこそこまでは回復したものの、経過がダラダラと悪く。結局死亡してしまった子も診ましたが。これもDIC が強く疑われた症例です。

やはり一般状態の悪い全身性疾患を診る際には、常にDICの可能性を疑って、必要な予防策を講じる必要があると思います。

一旦DICに陥ると、治療はかなり困難で。死の転帰を取ることが多いです。

今回の子もDICを継発していることを念頭に、血液凝固系検査とFDPという項目の検査を外注すると共に。手術前の数時間の静脈輸液の際に低分子ヘパリンの持続点滴を行ないました。

手術は普通に行われて。膿が充満した子宮が摘出されました。

摘出した子宮から少量の膿を採取して、細菌培養と薬剤感受性試験を実施し。翌日からの投薬はその結果に基づいて行ないます。

血液凝固系とFDPの検査結果は、それぞれごく軽度ではありますが、正常値から逸脱しているという報告がなされて来ました。

ただ、教科書を開いてみると、DICの診断基準には総て当てはまる感じではありません。強いて言うならば、DICの前段階程度と考えるべき状態なのかも?知れません。

わんこの一般状態は術後かなり改善して。翌日には少しずつではありますが食べるようになり。最初1μl当たり6万まで低下していた血小板数は、手術の翌日には11万に回復し。本日の時点では15万まで回復しました。なお、犬の血小板数の正常値は、1μl当たり17万5000個以上50万個以下です。

血小板数が完全に正常値ではないので、少し不安はあるにしても。一般状態はかなり良い感じですので。
本日は一応試しに帰宅させて、本格的に食べるかどうか?経過を見ることにしました。
飼い主様には、少しでも状態の悪化とか見られたらすぐに連絡して連れて来るようにお伝えしてあります。

このまま無事に回復しますように。

 

犬の唾液腺嚢胞の手術

犬でときたま見る病気ですが。ある日突然咽喉元に大きな塊りが出現することがあります。

その腫瘤を針で突いてみて。その内容が細胞であって、顕微鏡で見てリンパ球だったらリンパ腫という血液系の腫瘍だったりするのですが。

針で突いて採取した内容が、ドロッとしたゼリー状の物質だったら。唾液腺嚢胞という病気です。

唾液腺嚢胞は、唾液腺から口の中に唾液を運ぶ管が損傷した時に、行き場を失った唾液が溜まったものです。

唾液腺を運ぶ管を修復することは、現在の獣医療では不可能とされてまして。唾液腺嚢胞への対処法は、嚢胞の上流にあたる唾液腺をそっくり切除するという手術のみとなります。

今回の子は、4才4ヶ月令になるトイプードルの去勢済み男の子なのですが。通い付けのトリミングサロンが、最近始めたサービスで、歯石を除去して、その後に定期的に歯を掃除するということをされるようになって、程なく咽喉元にブヨブヨとした腫瘤が出来たという症例であります。

絶対そうだとは言い切れませんが。歯の清掃の際に、何か無理な事をされたのかも知れません。

初診時に細い針で腫瘤を突いて内容を精査しますと、粘液様物質が採取されました。念のために細胞診に出しますと、化膿性顎下腺炎という返答が帰って来ました。

そうなると、原因はどうであれ、手術適応ということになります。

普通に術前検査として、院内の血液検査、胸部エックス線検査、心電図検査を実施して。異常が無い事を確かめ。手術に臨みました。

手術当日は、若い犬で一般状態が良好ということで、午前の静脈内輸液は実施せずに。静脈内輸液は術中に実施しました。

午後から麻酔導入を始めます。麻酔前投薬、静脈カテーテルの留置、各種モニターの装着、最新の導入薬アルファキサンで眠らせての気管挿管、静脈輸液が出来ましたら、術野の毛刈りを始めます。

矢印の先が、唾液腺管が閉塞して行き場を失った唾液が溜まっている部分です。

執刀直前の状態です。手術助手が準備を終えて入って来る直前の画像です。

右の下顎の骨の角張った位置の後ろと第一頸椎の突起のやや下側の間を目安に縦に皮膚を切開して、下顎腺を露出して、血管は吸収糸で結紮したり電気メスで焼いたりしながら周囲組織と分離して行きます。

中央の鉗子でつまんだ組織が下顎腺です。

どんどん分離を進めて行って、下顎腺とつながっている舌下腺も一緒に分離してから切断します。

切除した下顎腺と舌下腺です。唾液腺管の一部も含めて切り取っています。

唾液が溜まった袋状の腫瘤は切除しないで、ペンローズドレインという排液管を留置して置きます。

術後は適切な抗生物質を内服させながら経過を診て行って。ペンローズドレインは、術後3日か4日で抜き。抜糸は10日から14日後に行ないます。

この子はもう手術した側に関しては下顎腺嚢胞に悩まされることはありません。

唾液腺嚢胞は、その他頬骨腺や耳下腺という別の唾液腺で生じる可能性がありますが。それはまた別の術式になります。

ではまた。

糸付き縫い針を飲み込んだ猫ちゃん

猫という動物は、とても遊び好きで。特に紐や糸のような物で遊ぶことが大好きです。人間がネコジャラシで遊んでやったり、自分で毛糸玉にじゃれついたりする姿は誠に可愛らしいものです。

しかし、困ったことに猫は、遊んでいるうちにそんな紐や糸を飲み込んでしまうことがあります。

猫の紐状異物誤嚥は、獣医療の中ではかなりクラシックにして重要な問題です。飲み込まれた細い紐や糸が腸管で動けなくなって、腸が切れたりして腹膜炎を生じて死に至る転機を取ることになるのです。

今回の子は、1才少々のスコティッシュフォールドの女の子ちゃんですが。「裁縫用の針を飲み込んだ。」ということで来院されました。

稟告から金属製の針を飲み込んだのは間違いなさそうなのですが。診察台上の猫ちゃん、少し不穏な表情です。


お互いに怪我をしたり、猫ちゃんがショックを起こしたりするのも困りますので。無理に口をこじ開けるのは避けて、エックス線検査を行なうことにしました。

エックス線検査の結果です。腹部や胸部には金属異物は見当たりません。よくよく見ると。頭部の辺りに細長い陰影が見えます。

拡大してみると、こんな感じです。首輪の留め金の上の方に縦に見える細長い直線状の陰影です。

少し強めに鎮静をかけて、無抵抗状態にしてから。口を開けて見ます。

赤い矢印の先が飲み込まれた針です。突き刺さってますね。
鉗子で挟んで取り出しました。

トレイに乗っているのが、取り出した糸付き縫い針です。糸が赤いのは元々の色でして。決して大量に出血したわけではありません。

猫ちゃんは、この後鎮静剤の拮抗薬を使用して、速やかに覚醒しました。

今回は、簡単な処置で異物を取り出すことが出来ましたが。異物の存在する場所によっては開腹手術を必要とする場合もあります。

猫ちゃんの玩具についてはくれぐれも注意して、このような事故を起こさないように。もし万が一異物誤嚥に気がついたならば、速やかに受診されますようお願い致します。

 

 

 

 

 

 

耳疥癬

犬と猫には耳に寄生する耳疥癬という寄生虫がおります。命がどうこうという寄生虫ではありませんが。

耳疥癬に寄生されると、激しい痒みを特徴とする外耳炎になって。対応を誤ると慢性外耳炎に移行し、ずっと外耳炎で苦しむようになる可能性があります。

今回の子は、生後2ヶ月に満たないラブラドール・レトリーバーの子犬です。

ワクチン接種で来院されて、気になる点が無いかどうか?いろいろ訊いているうちに、耳が汚れていて、掃除をしてもまたすぐに汚れるという症状を聴取しました。

さっそく耳の中を点検してみると。黒っぽい耳垢があります。

拡大してみると。

こんな感じです。

その耳垢をスライドグラスに塗り拡げて、顕微鏡で観察すると。

こんな虫が見えました。

動画で見ると。かなりのスピードで走り回る虫です。

YouTube Preview Image

耳疥癬を発見したら。その治療は。まず疥癬の特効薬とも言うべき注射を、7日置きに3回皮下注射します。
ただ、この注射はコリー、シェトランドシープドッグのようなコリー系の犬種には、遺伝子検査でこの薬が大丈夫かどうか?検査をして大丈夫の結果が出ない限り使ってはいけません。

注射を行なったら。耳掃除を実施します。耳用の洗浄液を使って耳道洗浄を行なった後に、炎症を抑える点耳薬を使用します。

耳掃除は最初の頃は毎日した方が良いですが。耳疥癬が注射で死滅して、炎症が治まって来ると、日を開けていっても大丈夫です。

こうしてきちんと治療すれば、耳疥癬は後に障害が残ることなく治ります。

犬猫の外耳炎を発見したら、面倒でも耳垢の顕微鏡検査をまめに行なった方が良いと思います。

耳疥癬は、自然に発生することは無いですから。この子の耳疥癬もペットショップかブリーダーのところで感染したものであると思います。犬を販売するプロの方は、動物取扱業の許可制度が実施されてからはかなりレベルは上昇したように感じていますが。

伝染病や、腸内寄生虫、耳疥癬のような古典的な感染症の管理をきちんとして欲しいと思います。

 

石を食べて重度の貧血?

今回の症例は、もうすぐ10才になるミニチュアダックスフントの避妊済み女の子です。

近くの動物病院の院長先生から電話があって、重度の貧血なのだが、診てくれないか?ということでした。

院長先生自ら連れて来られたわんこを見ると、横になって動きませんし。舌の色は真っ白です。わんこと一緒に持参したデータでは、赤血球容積(PCV)は4.4%と、もう一押しであちらの世界に逝ってしまいそうな数字です。

少ない血液のところを申し訳ないと思いつつ、ちょっとばかり採血して、レーザーフローサイトメトリーで検査をすると共に、血液塗抹標本を作製して、顕微鏡で観察してみます。

血液の再生量の目安になる網状赤血球は存在はしていますが。その数は多いとは言えません。

機械から出て来たデータも、網状赤血球数は増えていないとされています。

こういう貧血を非再生性貧血というのですが。その原因を確定するには基本的に骨髄生検と病理検査が必要になって、結構ハードルが高い病気です。

しかし、診断はともかく、現状のPCV4.4%は早急に対応しないと死んでしまいそうです。

さきほど採血した血液で血液型の判定試験をやって、DEA1.1陽性という結果を得ました。動物病院に私と一緒に出勤しているベルジアン・マリノワのゴーシュの血液型と同じです。ゴーシュから200mlほど採血して輸血を実施しました。

輸血に先だって静脈留置を行なうのですが。血圧がかなり低下している感じで、随分難しかったです。

輸血の後随分気分が良さそうになりましたので。院長先生、とりあえず連れて帰られました。

翌日、お昼の休憩時間に、外出していたら。院長先生から電話が入りまして。「昨日の子の経過観察をしていたら、血便が出始めたので、腹部エックス線検査を行なった。胃や腸に多数の小石が詰まっているので、手術をして摘出してやって欲しい。」という内容でした。

動物病院に戻るから、連れて来るようにとお伝えして。急ぎ帰院しました。

約30分後に、飼い主様がエックス線フィルムと一緒にわんこを連れて来ました。

フィルムをデジカメで撮影しなかったので、最初の画像はここに提示できませんが。石は胃、小腸、直腸と大きく3ヶ所に分かれて存在していました。

昨日の輸血の効果については、きちんと血液検査が出来ていないようなので。こちらで採血してレーザーフローサイトメーターで測定してみたところ、4.4%だった赤血球容積は17.3%にまで回復してました。

エックス線フィルムを眺めていると。お腹を開くような侵襲性の強い処置までしなくても何とかなるか?と感じられます。
最初に直腸の石の塊を、ゴム手袋にゼリーを付けて指を挿入して、下腹部を優しくマッサージしながら1個ずつ掻き出してやったら、ほぼ全部が摘出出来ました。

下の画像が直腸の石ころたちを掻き出した後のエックス線検査の結果です。

胃の中にはそれなりに多くの石がありますが。腸管に存在する石は何とか自力排出が出来そうな感じです。

この時点で、私は、飼い主様に断りを入れると共に、紹介してくれた院長先生に電話をかけて、近くの内視鏡で頑張っている獣医さんに麻酔下で内視鏡により胃内の石ころを取り出してもらう旨了解を取りました。

何でもかんでも自分の動物病院でやるために、不必要な侵襲を動物に与えるというナンセンスなことは避けたいものです。

さて、内視鏡の先生に行ってもらったわんこは。翌朝胃内の石ころは総て摘出出来たということで退院して来ました。

内視鏡の先生の話しでは、胃内の出血がひどくて、大変だったということです。

となると、貧血が石ころによる胃粘膜の損傷で出血が生じたためという可能性も出て来ます。
だったら、今回の処置でこの子は貧血から脱することが出来るかも知れません。

ただ、それだけひどい出血だったら。もしかして石ころ以外の重大な胃の病変を確認出来ていない可能性も、それなりにあるかも知れません。
その場合は、石ころを摘出した後も貧血が回復しない、あるいは進行するということになると思います。

でも、内視鏡の先生、きちんとした方ですから。大丈夫ではないか?とは思っています。

わんこは、その後最初の院長先生の動物病院に帰って、そこで治療を継続しておりますが。経過については、また教えていただくことにはなっております。私も今後の経過に注目して行きたいと思います。

 

免疫介在性血小板減少症(IMT)

今回の子は、10才のミニチュアシュナウザー避妊済みの女の子です。

2週間前にトリミングに行ったところ。トリマーさんに「皮膚に内出血があります。」と言われたとのことで、来院されました。

実はその時の画像を撮影していませんで。実物をお見せできませんが。イメージとしては、インターズーの「犬と猫の治療ガイド」という教科書の挿絵を掲載させてもらいます。

今回のミニシュナちゃんの皮膚の紫斑はここまでひどくはなかったですが。きちんと紫斑ではありました。

皮下に出血が見られる場合。血液が正常に固まってくれないという状態(凝固不全)が原因である可能性がありますから。採血して血液検査を実施したところ。血液を止めるのに必要な、血小板という細胞のかけらのような成分が、1マイクロリットル(1mm立方メートル)あたり1万1千個しかないということが判明しました。正常値は17万5千個から50万個の範囲です。

血液検査機器で血球系の異常が検出された場合に、必ずやらなければならないことは、血液をガラス板に薄く拡げた塗抹標本を作製して、顕微鏡を使って自分の眼でその異常を確認することです。人間も間違いを犯しますが、機械のデータも常に疑ってかかる必要があります。

塗抹標本でも血小板がひどく少ないことが明らかでしたので。血小板数を減らす他の病気が存在しないかどうか?を血液生化学検査、エックス線検査、腹部超音波検査を実施して調べますが、特段の疾病は見つかりません。

それ以外に血小板数が減少する疾患として、DICという血液凝固系の暴走による血栓形成が疑われますので、念のために血液凝固系の検査を外注試験で実施しました。でも、DICを生じさせるような基礎疾患は見当たりませんし、後日返って来たデータは正常でした。

こうして、除外診断により、免疫介在性血小板減少症(IMT)と診断を付けました。今回は骨髄生検まではしなくても良いと判断しました。

さて、それからは治療にかかるわけですが。

こういう自分の免疫機構が自分の身体を間違って攻撃してしまう自己免疫疾患の治療で第一選択薬として使用されるのは、プレドニゾロンというステロイドホルモンですが。これは免疫を抑制する量で使用すると、犬はステロイドに強いと言いながらも、いろいろ問題が生じることがあります。

この子は、最初にプレドニゾロンとサイクロスポリンの2剤併用で治療を開始しましたが。

皮膚の紫斑は治療開始翌日から生じなくなったものの、下痢が生じたり。治療3日目には血小板数が1マイクロリットル当たり2万8千個に回復しつつあるも。肝機能障害が始まりかけて、肝細胞保護剤を併用しなければならなかったり。
免疫機能の抑制が過ぎて、化膿性の皮膚炎が生じたりして。

結局プレドニゾロンは中止して。サイクロスポリンを体重1キロ当たり約千分の5グラム見当で、1日1回の投薬にして様子を見ました。

治療開始後2週間経過した昨日には血小板数も1マイクロリットル当たり19万3千個と正常範囲内まで回復しましたし。皮膚の化膿も治まりつつあります。

軽度の肝障害が生じたのについては、サイクロスポリンと同時に強肝剤を投与することで対応出来ると思います。

今後3ヶ月から4ヶ月の間、サイクロスポリンで治療を継続して、経過が良ければお薬から離脱出来るかどうか?試みてみたいと考えています。

ミニシュナちゃん。無事に治って欲しいです。